挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter2:Bloody tears & Rising smile

55/161

百年経ってもなお咲き誇る内戦の華

「ヒィーッヒッヒッヒッヒ!! ようこそウルラディールのお嬢様!! 泥人形とのおままごとは楽しいかねェ!?」

――パルフィー達が戦いを一段落させた頃、サユキ達は丘のてっぺんに到着していた。

 アレンダと二人で見通しのいい場所で胸を地面につけて匍匐の姿勢で地面に伏せた。周囲には彼女らを探している武器を持った泥人形達がうろついていた。

 泥人形とは言ってもうまく人間に化けており、見た目だけならば山賊にさほど見劣りしない。さすが泥儡のアーヴェンジェというだけはある。

 いざ倒そうとすればおそらく人を殺しているような感覚に見舞われるだろう。

 だがレイシェルとパルフィーの事だからその辺りは憂慮する必要がないだろうとサユキは思った。

 確かに人間の姿をしているが、生命体の発するマナとは明らかに異なった雰囲気を放っており、どれが泥人形なのかサユキにはすぐにわかった。

 サユキは目をつむって集中しながら丁寧に向かいの峠にある気配を探った。

(この丘には生身の山賊は来ていない。峠の山賊も大部分はお嬢様達が蹴散らしたようね……。もはやさほど強力な気配は感じない。ドール・エンハンサーズといっても所詮はアーヴェンジェの名に惹かれた烏合の衆だったというわけかしら。あとはどこかに潜んでいるはずのボスのみだわ。アレンダ!!)
(はい!!)

 アレンダは遠距離を観察できるマギ・テレスコープを覗きながら返事をした。遠距離が見えるだけでなく、サユキのようにマナの気配を可視化できる優れものだ。

 モードを切り替えると望遠モードとサーモグラフィの様にマナの強弱を可視化できるマナグラフィ・モードに切り替えられる。

(サユキ様、感じ取れていますか? アーヴェンジェの姿をした泥人形がお嬢様の側に出現しました。恐らく、お嬢様を煽っておびき出す作戦なのでは……?)
(これはまずいかもしれないわ……もし、アーヴェンジェが姿を現すような事があれば私が狙撃するつもりだったのだけれど、こちらにも泥人形が来ているし、別働隊が居ると判断されているでしょうね。きっと私達個別の情報も流れているだろうから、迂闊に出てくるとは思えない。そう上手くはいかないわね)

 二人はそれぞれの方法で偵察を続けたが、アーヴェンジェの居場所を掴むことは出来なかった。

 だが、偵察するうち狙撃手が少し上の地点からレイシェル達を狙っているのを見つけたサユキはすぐに射撃体勢に入り、敵のスナイパー2人の脳天を立て続けかつ正確に撃ちぬいた。感触からすると生身の人間だったようだ。

(妙ですね……さきほど、お嬢様が吹き飛ばしたのは一段上の弓兵たちでした。狙撃手も中腹にいました。普通はもっと峠の頂上に近い所に位置取ったほうが有利だと思うのですが、なぜか山頂付近には敵がいないんです。泥人形も山頂付近には展開していません)
(……ホントね。なんでかしらねッ!!)

 サユキはスナイパーに次いで、潜んでいたアサシンのカモフラージュを見破って急所を撃ちぬいた。

 その後もレイシェルの起こした旋風の取りこぼしを確実に一人一人仕留めていった。7人目を片付けた時、パルフィーから連絡が入った。

(こっちは援護のおかげもあってもう泥人形が湧いてるだけだよ。だけどアーヴェンジェ本体を見つけ出さないことには半永久的に続く持久戦を強いられることになるね。危険は伴うけど、相手の誘いに乗ってみるってのもアリかなとは思う)

 イヤリングから聞こえるパルフィーのささやきながらの提案を聞いてサユキはやれやれとばかりに深いため息をついて、レイシェルの方を見た。

 不機嫌そうに胸を張って手を腰に当て、泥人形との間で今にも啖呵の切り合いに発展しそうな雰囲気である。

(ハァ、後はもうどのみちお嬢様がまんまと挑発にのって突っ込んでいく展開しか想像できないわ。くれぐれもお嬢様がダメージを受けないように気を使ってあげて頂戴)
(まぁいつもの展開だわな……。お嬢に心配はいらないっしょ。むしろ跡形もなくアーヴェンジェを吹き飛ばして首が取れない事態になりそうなのが気がかりだよ。逆に加減するよう釘を差したほうがいいくらいじゃないの……)

 パルフィーも呆れたような様子だった。通常ならば、敵の煽りに釣られて突っ込んでいく味方がいるとすれば、敵の術中に嵌らないように止めるのが筋だ。

 しかしどのみちスタンド・プレイに走って制御不能になるレイシェルを止めても無駄だと2人はわかりきっていた。

 たとえそれが初の対外実戦であってもだ。彼女が攻め気である以上、こういった展開は避けられない。

 サユキが再び耳を澄ますとイヤリング越しに老婆の声が聴こえた。

「ヒッヒッ!! 私の首を取りに来たんじゃろ!? おんしらみたいな小便臭い小娘共に首を狙われるとは私もなめられたもんじゃのう!! これでも第三次ノットラント内戦の華のうちの一人に数えられるというのにな!!」

 レイシェルは言いたいことはそれだけかといわんばかりに表情を歪めながら思いっきり片腕を振りぬいて泥人形をこき下ろした。

「なーにが”内戦の華”よ。もう100年も前の話じゃない。このモウロクババア!!」

 いかにも魔女といったような細長い鉤鼻をした老婆の姿をした傀儡は怒りで醜悪な顔をあらわにした。100年前、戦の華と呼ばれた美しい少女の面影は微塵も残っていなかった。

「ふざるんじゃないよクソガキ!! 内戦は100年前の話だが、アタシは100年絶えずに戦い続けてきた現役さね!! つまり、100年のキャリアがあるのさ!! 昨日一昨日に生まれたようなお前に何が出来るって云うンだい!!」

 それを聞いたレイシェルは恐れを知らぬといった様子で堂々と正面を向き、アーヴェンジェの姿の傀儡を見据えた。

 そしてゆっくり人差し指を上げながらビシッっと傀儡の方を指さしながら宣言した。

「そのムダに長いキャリア、いえ人生をこの私が今日で終わりにしてやるっていうのよ!!」
(あれ……挑発にひっかかってなくないか……)(あら? 相手が挑発に乗せられてる……?)

 そのやりとりを聞いてきてパルフィーとサユキは意外な展開に少し戸惑った。アーヴェンジェは百戦錬磨という割には冷静を欠くのに早く、なぜだか怒りの沸点が低かった。

 挑発してレイシェルをおびき出そうとしていたようだが、レイシェルのあまりの小賢しさに、逆に我を忘れ始めていた。

(サユキ様、これは以前、アーヴェンジェに関して調べていた時の情報なのですが……)

 アレンダが耳打ちするようにサユキの耳元で囁いた。

(アーヴェンジェは老後、美貌を失い、酷く醜くなった容姿を非常に気にしていたようです。そのため年頃の少女、特に美少女相手には腹いせをするように容赦が無かったといいます。真偽は定かではありませんが、美女の生き血をすすっていたという噂もあるほどです。そんな彼女が華麗に戦うお嬢様やパルフィーの姿を見た後に生意気な言葉を吐かれたとあらば……)

 サユキはなんとも言えないといった表情を浮かべ、その話にどう反応しようか困っていたようだったが思ったままの事をボソリとつぶやいた。

(女のジェラシーって、怖いものね……)
(ん!! サユキ様。動きが有りました!! マナグラフィーで観察すると魔力を持った地下水源が山の山頂に吸い上げられていきます!! 多分、あれは一粒一粒の水滴で地面を削りながら撹拌して、泥を練っているのでしょう!! それが山頂に一気に集結していきます!! おそらく、巨大な泥の巨人、マッディ・ゴーレムを生成していると思われます!! 山頂が手薄だったのはこういう事だったんですね……)

 サユキはアレンダの期待以上の分析力の高さに満足そうによくやったと微笑みを送った。そしてすぐにイヤリングに向けてささやきはじめた。

(パルフィー、そっちでは確認できないかもしれないけれど、恐らく間もないうちに峠の中腹以上の山頂付近が丸々ヒュージ・マッディ・ゴーレムに変化するわ。お嬢様に警戒するように伝えて頂戴!!)
(あいよ~)

 サユキからの情報を受け取ったパルフィーはクセの様に頭の後ろで手を組みながら山頂を眺めつつ、レイシェルに伝えた。

「なぁお嬢、山頂がでっかい泥人形で出来てるらしいから用心しろって」
「!?」

 それを聞いてアーヴェンジェが戸惑った。2人に聞こえないくらいの声量だったが、おもわず口から動揺の言葉を漏らした。

「なんで……なんで仕込みがバレてるんだい……!? こいつを使うのは今回が初めてなのに……」

 レイシェルはパルフィーの情報を聞いて無言のまま山頂を見上げた。視界には特に異変はなく、マッディ・ゴーレムが居る様子はない。

 彼女がパルフィーの方を振り返ろうとした時だった。雨が降ってきたような感触を肌に感じて露出している手を見ると泥が垂れていた。

 地面も何かの影で黒く染まっている。頭上になにか光を遮るものが現れたのを感じた。

 徐々に影は大きくなり、地上に近づいてくるのがはっきりとわかった。ピチョピチョと泥が滴り落ちてくる。

サユキたちの丘側から見ると、山の側面から泥の腕が生え、中腹一帯を押しつぶさんとその腕が振り下ろされる様子が観察できた。

 腕はかなり太く、レイシェルが横っ飛びで避けるのはギリギリといったところだ。

 パルフィーもこのままでは巻き込まれそうだったが、しゃがんで次の動作を構えている事から、突破できそうに思えた。

 次の瞬間、回避の構えをとっていたレイシェルにかかっていた影の幅が一気に広く、太くなった。マッディ・ゴーレムが手を開いたのである。

 峠の道をすっぽりと影が覆った。腕だけでも峠道いっぱいに広がっているのにさすがに手を大きく開かれてはレイシェルがステップでこの押しつぶしを回避するのはほぼ不可能だ。

 思わず、それを遠目に見ていたサユキとアレンダは焦った。

(しまった!! お嬢様!!)(あぁ!! これは避けきれません!!)

 泥の魔女の傀儡は勝利を確信してグッっと拳を握り、狂気じみた満面の笑みを浮かべて叫びながら、腕を叩きつけるように振り下ろした。

「ヒャハッ!! ヒャハハッ!! アァァッハッハッハァ!! もう遅いよォ!! 峠道をここまで登ってきた時点でもう勝負はついてんのサ!! たとえ手の内がバレていたところで避けられなきゃしょうがないねェ!! ウルラディールのクソガキめ!! 泥の圧力で全身の骨を砕かれながら息もできずにもがき苦しんでお死にィィィィィ!!」

 傀儡の動きと連動するように巨大な泥の腕が峠道めがけて思いっきり振り下ろされた。

 パルフィーは意外と冷静でレイシェルに構うこと無く、自分の現状突破に専念した。

 脚技の構えをしながらポツリとレイシェルの言い放った言葉を誰に言うでもなく口にした。

「これくらい避けてもらわないと困る。こんな呪文に巻き込まれて死ぬなら所詮その程度の実力。どのみち死ぬ運命……か」

 うつむきがちにそう口にした直後、パルフィーは腕を曲げて地面に手を付けた。

 そのまま逆立ちの姿勢を取った後、しなやかなバネのように地面を腕の力で思いっきり跳ね除けてその勢いで脚からマッディ・ゴーレムに向かって突っ込んでいった。

「晩昇襲ッ!!(ばんしょうしゅう)」

「ドボッ」っという鈍い音を立てながらパルフィーはゴーレムの腕を見事貫通し、宙高く舞った。

 姿勢を整えてすぐに空中からレイシェルの様子を窺った。

 泥巨人の腕に潰された老婆の姿をした傀儡は巨人と一体化して辺りに一帯に響くような低い唸るような声をあげていた。

「ヒャーーーーアッツハッハッハァッ!! この手応え、勝負あったネェ!! 呆気無い。じつーに呆気無い!! 東部トップの武家とはいえ、餓鬼は所詮、餓鬼ってとこかね!! それでも私の名が上がって、生ける伝説に近づいたことに変わりはないよ!!」

 マッディ・ゴーレムは確かにレイシェルをその掌で押しつぶしていた。レイシェルが回避した気配もなく、彼女の姿をどこにも認めることは出来なかった。

 自分も避ける身だったパルフィーからすれば無事かどうかは不明だったが、向かいの丘から見ていたサユキとアレンダには避けようとしたまま押し潰されてしまった彼女の姿がはっきり見えていた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ