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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter1:群青の群像

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木漏れ日の中を往く

 ファイセルはリーリンカの家族との親睦を深め、すっかり家族として受け入れられていた。ただ、当の本人たちの関係に大した進展は無かった。長いことリーリンカと2人っきりで過ごす時間はあったものの、蓋を開けてみれば2人とも奥手で決め手に欠けた。

 それでもお互いに夫婦であるという自覚は徐々に芽生えつつあった。もっともファイセルは既に一線を越えてしまったと思い込んでいるので、リーリンカ以上に意識している面があったのだが。

 裏亀竜の月の1日、2人は南部へ出発することになった。リーリンカの両親達が出発する2人を見送りに来ていた。

「ファイセル君、娘を本当にありがとう。そしてよろしく頼むよ」
「2人とも、また近いうちに帰って来なさいね。ファイセル君にとってもここはもう実家のようなものなのだから」

 リーリンカの友人達も旅立ちを知って駆けつけていた。嬉し泣きしながら声を掛け合っていた。

 結婚相手が富豪でも何でも無かったことについては驚かれていたが、それでも彼女の学友のボーイフレンドと聞くと、皆一様に祝福していた。皆に見送られ、2人はロンカ・ロンカを旅立ち、最寄りのドラゴンバッケージ便のある街へ向けて歩き出した。

「なぁファイセル、私は南部に行った事がないがどんなところなんだ?」
「ロンカ・ロンカほど暑くなくて、年中春みたいな気候かな。あと穀倉地帯だから食料が豊富で、地味においしい料理が多いところも特徴だと思う。ここよりも森が豊かで、森林浴が気持ちいいよ」

 リーリンカはウキウキした様子で語りかけてきた。

「ふふっ。これが新婚旅行って事になるんだな」

 ファイセルはなんとも言えないといった顔で頭を軽く掻きながら答える。

「とは言っても僕にとってはただの帰郷だしな~」

 そう答えるとすぐにリーリンカにつっつかれた。

「全く気の利かないやつだ。こういうときは『そうだね~』とか答えるべきじゃないのか?」
「そ、そうだね~」
「よしよし!!」

 勝手な態度で別れを決めたリーリンカに会ったら真っ先にお灸をすえてやろうと決めていたファイセルだったが、逆にすっかりリーリンカのペースに飲まれて、もはやどうでも良くなってそれはうやむやになってしまっていた。

 そして早くも尻に敷かれている感が否めない。リーリンカの肩からはファイセルから返してもらったバックがかかって揺れていた。少し先を歩いていたリーリンカが振り向きざまにつぶやいた。

 メガネからアイレンズに変えた素顔のままの瞳で上目づかいで見つめてくる。

「な、なぁ……手、つないでもいいかな……?」

 2人は互いに少し恥ずかしがりながら、仲睦まじく恋人つなぎで手をつないで森の街道を歩いて行くのだった。
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