挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter1:群青の群像

30/164

狂犬は狼を夢見て

 試合開始の掛け声がかかると同時に素早くアンナベリーが抜刀した。大剣を扱っているとは思えない軽い動きだ。それと同時にザティスが詠唱省略で魔法をかける。

「リフレックス・アジリティ・ツインエクステンドッ!!」

 唱えきった直後にアンナベリーが大剣を振りかぶって切りかかってきた。一気に距離をつめられる。

 ザティスには魔法のおかげでこの斬撃がややゆっくりに見えた。体も素早く反応し、斜め切りを体を縦にずらしてかわした。

「おおおおおおおっと!! ザティス選手、無駄のない回避ステップだ!! すかさず大剣の横薙ぎ攻撃ーーーーーーッ!!」

 ザティスは激しい大剣の連撃を無駄のない動きでひらりひらりとかわしていく。

「へっ、バレン先生に比べりゃこの程度の速度、なんてことはねぇ」

 とりあえずザティスは回避に専念して相手の出方をうかがった。

「ザティス選手、避ける避けるーーーーー!!」

「えー、ザティス選手の運動性能はすばらしいのですが、バレン先生との試合のようにどうも防戦一方になりがちです。今回もアンナベリー選手に有効打を与えることができるかまだわかりません!!」

 何回か回避しているとアンナベリーがぐらりと姿勢を崩して隙を見せた。ザティスはそれを見逃さず、飛び退いてから近距離魔法で攻撃をかけようとしたが、ザティスが着地した瞬間にアンナベリーが想像以上のスピードで体勢を立て直した。

「しまった!! フェイントか!!」

 アンナベリーは大剣をおもいっきりコロシアムの地面に向けて振り下ろし、地面に切っ先を叩きつけて振りぬいた。

「もらったっ!! ランドスマッシャー!!」

地面から土煙があがり、尖った岩が物凄いスピードで隆起していく。さらに割れた地面から飛び出した大量の小石や岩のつぶてがザティスめがけて高速で飛んできた。さすがにこれを回避するのは無理がある。

「ショックアブソーブ・アンチソイル!! マジックレジストブースト!! トリプル・デヴェロプ!!」

 呪文を唱えながら土煙と飛び交う石の嵐の中にザティスは消えた。

「あーーーーーっと!! これは強力な土属性攻撃!! 大ダメージ必至だーーー!!」
「土煙でよく見えませんね。ザティス選手は無事でしょうか?」

 アンナベリーはすぐに高めの位置で剣を構え直し、追撃の構えで煙が引くのを待った。

「げほっ、ゴホッ……レイピッド……オウンヒール・セカンドッ!! リリーブ・ペイン!!」

 煙が引くと半分くらい攻撃を食らったザティスの姿が浮かび上がってきた。手を腹部に添えて吐血している。口からは血が滴っていた。

「ザティス選手、直撃を受けたものの耐えたーーーーーーーー!!」
「しかしあの様子からするとだいぶダメージを負っているようです。特に内臓をやられていますね」

 ザティスの姿を目視したアンナベリーは突き攻撃から再び連撃に入った。まるで踊るように重い大剣を振り回している。

 呪文で痛覚をごまかしながらザティスはギリギリで斬撃をかわしていく。今度はもう余裕が無さそうで、歯を食いしばりながら一撃一撃を避けていた。

「てめぇ……わざと軽めに振ってやがんな!」

 ザティスは間一髪の回避を続けながらアンナベリーが全力で攻撃していない事に気づいた。

「い~や? 別に手を抜いているわけじゃないッスよ? スタミナには自信があるので、君が先にバテるのを待ってるッスよ。これも作戦のうちってやつッス」

 そうこうしてザティスが攻撃を避けているうちに即効性のあるオウンヒールが効いてきて徐々に動きにキレが戻ってくる。

「やっぱ手抜きじゃねぇか。ナメやがって。最初から本気でやらなかった事、後悔させてやるぜ!!」

 ザティスは軽く憤りつつ、後ろに飛び退いてすかさず呪文を唱えた。

「リフレクター・ライトシェ!!」

 ザティスの掌から放たれたいくつかの光のかけらが2人の周りの空中で反射してアンナベリーを襲う。

「おっと、近距離巻き込み型の貫通性光弾、リフレクター・ライトシェだーーーー!!」
「これは自分を中心に光弾を発生させ、反射しながら対象を襲うので軌道が読みにくく、かなり有効な奇襲攻撃です。ただし、自分を中心に展開するので自分も光弾を弾くか、避けるかしないとダメージを受けてしまいます。中~近距離の攻撃魔法ですね」

 ザティスは慣れた様子で背後から飛んできた光弾を慣れた様子で背中に目があるかのようにかわした。上空から飛んでくる光弾もかわす。

 一方のアンナベリーも幅の広い大剣を盾のように駆使して前方や後方から迫り来る光弾を弾いてかき消した。

「さすがエルダーの剣士!! 特にエンチャントもかけずに光弾を防いでいるーーーーーッ!!」
「アンナベリー選手、常時強化タイプのようです。これはザティス選手、ノーダメージとは想定外かもしれません!!」

 ザティスは光弾をよけながら指と腕で印を組み始めた。同時に呪文を唱える。

「幾千のたゆたう水の女神の眷属よ、我の声を聞き、そして答え、汝の本来あるべき姿を取り戻せ。荒れ狂い猛る濁流の如き螺旋の姿を!!」

 アンナベリーは水属性の攻撃呪文が来ると踏んで、素早く大剣の平たい部分をシールドのように構えて攻撃に備えた。

「これは何でしょう? 印をかけて呪文を強化しているようにも思えますが……」

 ザティスは詠唱を終えると更に印を組み続けた。

「かかったな!! 詠唱の方は囮だ。狙いはこっちだぜ!! 呪印、ウエポン・バインドッ!!」

 ザティスが印の仕上げに両手をパンッっと合わせてグッっと指を組んで握ると、アンナベリーの大剣が彼女の体に吸い付くようにピタッと張り付いた。

「おおおお!! 詠唱の方はダミーで、印の方が狙っていた呪文だったーーーー!!」
「ウエポン・バインド。対象の持つ武器を相手の体に貼り付けてしまうという呪い系の呪文ですね。ザティス選手、多彩な魔法を使い、魅せてくれます!!」

 アンナベリーは力づくで大剣を剥がそうとしたが、胸から胴体にかけてガッチリくっつき、おまけに両腕も大剣を持ったまま押さえつけられて身動きがとれない。

「どうしたどうした!! チャーチ・ガーディアンなんだろ? 解呪はお手のもんじゃないのか? まぁ複雑にぐちゃぐちゃな術式で組んだからそう簡単には外れねーぜ。かけた俺にも解呪不可能だ」

 ザティスが挑発し、相手のペースを乱す。アンナベリーは解呪を試みてコンセントレートしようとしたが、ザティスが呪文ですかさず妨害した。

「時間差発動!! ウォルタ・クイックサンド・ウォルタ!!」

 水色の渦巻き模様の陣ががザティスの足元に出現した。アンナベリーが蟻地獄のようにそれに引き込まれ、ザティスとの距離が一直線に縮まっていく。

「時間差発動魔法です。ちゃっかりさきほどの囮の方の魔法も発動条件を満たしていたようですね。この呪文は相手を引き込む能力があります。ザティス選手、自分を中心とした呪文が得意ですね~」

 どんどん渦巻きの中心にアンナベリーは引きこまれ、拳が届く距離まで近づいた。

「レディに暴力をふるうのは気が引けるが、まぁこれはさっきのお返してお互い様だなッ!!」

 しっかりアンナベリーの接近に備えて構えていたザティスがしゃがんでがら空きの脚部に足払いをかけた。体格差が大きく、背の高いザティスの蹴りはうまい具合に直撃した。

 モロに足払いをくらったアンナベリーはバランスを崩し、背中から地面に転がったが、うまく受け身をとって跳ね上がり距離を少し空けた。今のアンナベリーは両手に重い枷をかけられている状態で戦っているようなものだった。

 だがいくら動きを制限したからとはいえ、盾のように大剣が張り付いているので正面からはダメージが通らない。

「アディショナル・ルール、ヴォルテックトレントッ!!」

 ザティスはそう唱えながら足元の陣を足先で擦って何やら書き足した。すると直線上にアンナベリーを引き寄せていた流れがザティスを中心としてグルグルと激しく回転する流れに変わった。

「あーーーっと!! 追加変化詠唱で呪文の構成を変えてきました!! アンナベリー選手、流れから抜け出すことが出来ずに回る回る~~~~!! まるで蟻地獄だ~~!! これではさすがに解呪に集中できないのではないでしょうか!!」

 形勢がザティスに傾いてきた様を見て観客席は沸きに沸いた。ラーシェも思わず応援する拳に力が入る。

(……アイツ、今回もアクセラレイトの一発屋かと思ってたけど意外とやるじゃん!!)

 ラーシェとは真逆の方向に座っていたが、アイネもアンナベリーの出場を聞いてコロシアムに応援に来ていた。だが、どちらを応援していいのかわからなくなり、まごまごしながら観戦していた。

「ああっ、まさか相手がザティスさんだったなんて……どちらを応援したらいいのでしょうか」

 コロシアムではアンナベリーがザティスに弄ばれるように回転する力を持った陣の上で踊らされている。

「目は回るし、背中も見せざるをえないだろ。まだまだだぜ!! クリムゾン・リーブズ・ダーツ レイピッドファイア!!」

 ザティスが腕を上げて指先を構えると無数の先端の尖った枯れ葉が高速で打ち出された。小さい葉ではあるが、かなりの連射速度でアンナベリーに枯れ葉の刺が襲いかかる。

 大剣がくっついている正面側では枯れ葉は弾かれたが、隙の出来た背中の方にはザクザクと刺さっていく。

 ザティスは休みなく攻撃を浴びせたが、あまり手応えがない。すかさずアンナベリーがジャンプして大剣を地面に向けた姿勢で飛び込んだ。

「クラッシュ・スタンプッス!!」

 強烈な一撃を地面に喰らわせてその反動でアンナベリーが宙高く舞った。宙返りで体勢を立て直し、そのまま剣を前面にしたまま胴体ごとザティスに体当りしてくる。

 ザティスはすばやく陣を収束させ、攻撃をまた鮮やかに避けた。そのまま地面を擦りながら一直線にアンナベリーは突進し、コロシアムの壁に激突して土煙を上げた。

「おっと、アンナベリー選手、一方的な攻撃から力技で脱した~~~!! かなり枯れ葉のダーツがヒットしたようだが、ダメージを感じさせない動き!!」

 距離が空いて魔法が届かなかったので、ザティスは追撃を加える事ができずにアンナベリーが起き上がってくるのを構えて待った。

「これでもチャーチ・ガーディアンの端くれ。舐めてもらっては困るッスね……」

 土煙から立ち上がったアンナベリーの胸から解呪に成功したのか大剣が外れていた。彼女は大剣を片手に肩をぐるぐると回しながら立ち上がった。ザティスはその様子を見て口笛を吹いて茶化した。

「さっきの葉っぱ、痛かったけどあの程度では私を沈めることは出来ないッス」

 アンナベリーは素早く構えて突きを放ちながら突っ込んできた。明らかにさっきより速い。

 ザティスはぐっと腰を落とし、足を踏み込んで微動だにしない。

「おおお!? ザティス選手、このままでは鋭い突きの一撃を食らってしまうぞ!! 何か策があるのかーーーーッ!?」

 水色に光る陣はもはや消え去って、アンナベリーの勢いを妨害する要素は全くなかった。さきほどとは逆に今度はアンナベリーがザティスへの距離を一気に詰めていく。

 この突進速度ではもはや回避出来そうにない。すかさずザティスは陸上競技のクラウチング・スタートのような姿勢をとった。

「ストレングス・バースト!! フレイムプラス!! ツインレイズ!!」

 アンナベリーの切っ先はしゃがんだザティスへと補正をかけ、確実に捕らえた。

 次の瞬間、ザティスはクラウチングの姿勢からアンナベリー向けて走りだし、腕をX型に交差させ、全身から発火して突進をかけた。ザティスは炎をまとうと同時に爆発的に加速した。

「喰らえ!! 灼熱の走炎!! プロミネンス・ドライブレイドッ!!」

 ザティスはゴウゴウと轟音を上げながら突っ込んでいく。両者とも退かず、勢いが衰える様子がない。

「まさかの捨て身カウンターだーーーーーっ!! 大剣を避ける気が全くない!! アンナベリー選手も防御姿勢を取らない!! これはお互い仕留める気でいるーーーー!!」
「この技は一直線にしか進めないという欠点を持っていますが、ここまで相手の懐に入ってしまえば回避はほぼ不可能!! いくらタフなアンナベリー選手でもどうなるかわかりません!! しかし、大剣も確実にザティス選手を捕らえている!! ザティス選手、かなり不利です!!」

 接触まで大股であと数歩、大剣の切っ先は目前に迫るが、剣を突き出しているアンナベリーとはまだ少し距離がある。

 このままではアンナベリーの勢いに自分の勢いが加わって大剣と衝突し、串刺しになって間違いなくKOだ。ザティスは大きく息を吸って次の一手の呪文を唱えた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ