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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter1:群青の群像

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創雲を継ぐ者達

 オルバは渋い表情で顔をしかめながら"奥の手"を語り始めた。

「い~や、方法がないわけではない。私がいつも雲を打ち出している風属性の幻魔に頼んで、雲の弾丸、クラウド・バレッタの中に包まれて生身のまま一気にロンカ・ロンカ近郊まで飛んで行く方法だよ。一応、私も飛竜ドレークに似たような幻魔を呼ぶことができるけど、さすがにロンカ・ロンカまではコントロールが届かないんだ」

 生身のままと聞いてファイセルに衝撃が走った。オルバは俯きがちに続ける。

「そういうわけでクラウド・バレッタをロンカ・ロンカまで届くように打ち出すにはかなり強烈な力を加えなければならない。これが一番大きな問題だね。いくら雲の壁に守られているからとはいえ、保証できるのは発射時の緩衝、上空での保温と風よけ、呼吸の確保くらいだ。実際にはドラゴン並みのスピードを出して生身で飛んでいるわけだし、とても大きな負荷がかかる」

 ファイセルは思わず固唾を飲んで話に聞き入った。

「無事に着地出来るかもわからない。着地の方法も幾つかプランはあるけど、どれも危険なものばかりだ。現地についた時、君が動けるような状態を保てるかは全くの未知数。さすがに人間を打ち出した試しはないからね。それに君は肉体エンチャントも、治癒魔法も使えないというのが厳しいところだ。万が一の場合に命を落としかねない」

 オルバは軽くため息をついた。普通なら怖気づくところだが、すぐにファイセルは答えを出した。

「それでも……それでも可能性があるなら僕は行きます!! リーリンカのほうがよっぽど辛い思いをしているのだから!!」

 その勇ましい表情からはかつて優柔不断だった頃の彼の面影は消えていた。これにはオルバも感心したようで、また一つ今回の旅でたくましく成長したのだなと弟子の成長を再確認した。

「いいだろう。 君ならやれると私は信じているよ。君を涙をのんでロンカ・ロンカへ必ず送り出してみせよう。で、いつ行くんだい?」

 ファイセルは紙幣やらコインやらを一番大きな布袋に詰めながら笑顔を返した。

「もちろん!! 今すぐに決まってるじゃないですか!!」

 笑顔を見せつつも不安な感情を抱いているのはオルバからみてもリーネから見ても明らかだったが、それでも彼は覚悟を決めているようだった。

「待ちなさい。私が君にリーネを送った時に用事があると言ったのを覚えているかね?」

 ファイセルはしばし手を止めて思い出したがすっかり忘れていた。

「いえ、すいません。覚えていませんでした。用事とは……?」

オルバは木をくりぬいて作った窓の外から外を見た。森の木々の間から湖の湖面がキラキラ光って見える。

「ここにくる途中に場違いな女の子がいなかったかい? 女の子にしては珍しく釣りなんかしてる娘がさ」

 ファイセルはすぐに察しがついたようで、オルバに聞き返した。

「あの娘がどうかしたんですか? リーネに敏感に反応してましたけど」

 オルバは振り向きざまにファイセルに向けて指を差した。

「そう、そうなんだよ~。彼女は見かけによらず意外と無茶をやる娘でね。お転婆やって私の肝をヒヤヒヤさせているんだよ。誰かが見てないと危なっかしくてね~。何か事故でも起らないうちに弟子として迎え入れようと思うんだけど」

 ファイセルは意外な顔をしてツッコミを入れた。

「師匠が自分から弟子を取るなんていうのは珍しいですね。そういうの、めんどくさいんじゃなかったんですか?」

 オルバはやれやれといった顔をしながらまた窓の外を眺めた。

「まぁ後学の育成は何かと人の役に立つもんだと君を見て思ったからね。できる限りのことをやるのが筋ってもんだろう。私の師匠なんか私に代役が務まるとわかったら湖をほったらかして、どこかへ行ってしまったよ。『余生を面白おかしく生きるヴァカンスの始まりだ!!』とか言ってね。全く無責任な爺さんさ」

 すぐにリーネが口を挟んだ。

「マスター、彼女はあなたに会いたがっていましたよ。そのためにコパカ?コバガ……」

 オルバとファイセルが息ピッタリに同時に答えた。

『コパガヴァーナ』

「そう! それです。マスターに会うために釣り上げるとか言ってましたよ? 釣り上げられなくても早く会いに行ってあげればいいんじゃないですか?」

 オルバは木々の間から覗く湖面に反射する光に目を細めながらリーネの問いに返した。

「う~んそうだね~。まぁあれは根性だめしみたいなもんだから。あれを釣り上げられないくらいではその先の困難を乗り越えられないと思うんだよね……それに、釣りに熱中しているうちはいきなり冒険とかしないだろうからね」

 それを聞いていたファイセルは自分の時も含めて内心、師匠がコパガヴァーナを食べたいだけなのではないかと勘ぐってしまったが、オルバの言うことにも一理あると考え、黙っていた。

「ああ、それで本題だ。きっと彼女は私の手に余ってリジャントブイルに入学することになる。その時、彼女をミナレートまで連れて行ってやってくれないかと頼みたかったんだよ。まぁまだしばらく先だけどね」

 ファイセルは弟子が増えそうな件に続いてまた驚かされたが、彼女がよっぽど優秀なのだろうと思いこれを引き受けることにした。

「いいですよ。でもドラゴンバッケージ便を使えば護衛は必要ないんじゃ……?」

 オルバは伸びをしながら眠たげにあくびをし、首を左右に振ってコキコキと鳴らした。先ほどまでファイセルを送り出す計画で緊迫していたかと思えばすぐにこの有り様である。

 ファイセルはもう慣れているからなんとも思わないが、他人が見たらなんと間の抜けた緊張感のない人間だと思うだろう。

 だが、こういったマイペースな部分は誰にでも真似できるものではなく、師匠の強さの所以であるとファイセルは勝手に思っている。オルバは振り向いてこちらに歩いてきて椅子に座り、解説し始めた。

「各地に住む動物、モンスター、精霊、悪魔、天使とかそこらへんの自然界に溶け込んでいる幻魔を集めながら旅をしないと契約できる数が少なくてね。”幻魔は足で集めろ”なんて格言もあるくらいだ。さすがに勉強だけして試験に望んだら落ちるからね。知っての通りリジャントブイルは実技優先だから。試験に備えて使役できる幻魔は一匹でも多いほうがいいのさ」

 なるほどとファイセルが相打ちを打とうとしたとき、何かフサフサしたものが窓の外から首を突っ込んでくる。

「アルルケン、アルルケンじゃないか!!」

 思わずファイセルは椅子から立ち上がり窓際に駆け寄った。窓から首を突っ込んできたのは体長3mはあろうかという青灰色の狼だった。

「お前が帰ってきたのにすぐに旅立つってんで見送りにきてやったんだよ。全く、慌ただしいヤツだな」

 アルルケンと呼ばれた狼は呆れたようにファイセルに喋りかけた。このアルルケンもオルバの使い魔である。

 一見すると強面で狼の姿をしたモンスターのようにも見えるが、人語を解し周辺の住人たちにはポカプエルの丘周辺を守護する“丘犬様”として親しまれている。

 オルバの使い魔であることも知られていて、基本的に人前には出ないオルバと住人を繋ぐパイプ役でもある。

「わざわざ見送りに来てくれたんだね。こいつぅ~」

 ファイセルがアルルケンの顔に抱きついて毛並みを撫でるとアルルケンは視線を逸らしたが、まんざらでも無さそうだった。

「オレが乗せて行ってやれる場所なら良かったんだが、さすがに空は飛べん。すまんな。無事を祈ってるぜ。じゃ、オレはそろそ……んっ、窓枠から首が抜けん」

 オルバとファイセルはそれを見て思わず吹き出して大笑いしだした。リーネもつられて笑い出す。緊迫していたファイセルもさすがにこれには笑いをこらえられなかった。一気にその場が明るさを取り戻した。

「オルバとリーネ様はかまわねぇがおめえは笑うんじゃねぇよ。ぬぐっ……」

 ファイセルはアルルケンの鼻頭に体を当てて体当たりする形で押し出したが、思いの外すっぽりハマってしまっていて、抜ける気配がない。

「まぁ、それは後でいいや。そういうわけでファイセル君、そういう頼みがあるわけだから、君が無事に帰ってきてくれないと困るんだ。健闘を祈るよ。それはそうとちょっとこっちへ来てよ」

 オルバが手招きするのでアルルケンをひとまず放置して、オルバの方へと向かった。

「君、一度街に顔を出してから実家に寄らずにここに来ただろ? なんか街の話を聞いてるとそんな雰囲気だね」

 オルバはカップの中のお茶を指さした。水属性の通信用精霊チャットピクシーを介して、お茶同士をリンクさせて、村人の会話を聞き取っているのだ。

 青みを帯びたお茶、アザリ茶が存在している家や場所の会話が聞こえてくる。

「なんか盗み聞きしてるようで悪い気もするが、別に誰々さんがどうこうという話を聞いても直接私が当人に会ったり、情報を漏らしたりするわけじゃないからね。今となっては別世界の話を聞いてるように錯覚しているよ。まぁやや怪しい自己正当化だが、何か異常やその兆候があれば対処してるわけだし多少は大目に見て欲しいね」

 アザリ茶は南部では頻繁に飲まれているお茶なので、色々な場所や家庭と繋がっているようだった。特に今は昼時なので、そここの家庭でアザリ茶が淹れられている。

 いくつもの家庭の会話をザッピングするとどこの家でも神童についての話題で持ちきりだった。

「さて、さすがに実家に挨拶もなしに出かけていくのは考えものだ。危険な旅になるし、しっかり家族には挨拶しておいた方がいい。きっと君が直接帰ってくるだろうと思っているだろう。期待を裏切ってしまうのはなんだが、挨拶しないよりはマシだろう。君のご家族の声がしたら声をかけてくれたまえ」

 オルバは淡く青く透き通ったアザリ茶が並々と注がれたカップに集中した。

「あの神童が帰ってきたって? 今年で学院何年…………」
「今日のおかずははピンクワームの甘煮ですよ」
「あたし、しんどうさんってみたことないんだぁ~。みてみたかったなぁ~」
「最近アルマ村で風魔法の使い手が噂になって……」
「あら、少し紫がかってきたわね~、そろそろ染め時かしらね」

 オルバはあまりにも多い会話からファイセルの家を見つけるのは困難だと判断して聞き取りをやめた。

「あ、そうだ。水道を介してリーネを君の実家の住所に送れば問題ないな。無駄な時間を食ってしまった」

 オルバは地図を広げてファイセルに実家を指差すように促した。ファイセルが指をさすとオルバはリーネのビンを持ち上げて自分の家の水道の蛇口にビンの中の水面をつけた。

 ズズズと音を上げながら、リーネが水道に進入していく。ある程度、水かさが減ったのを確認してオルバはビンをテーブルの上に戻した。

「こうやって君と通信してたんだよ。反応があればビンの液体でリーネと繋がって会話ができるんだよ」

 二人はリーネがファイセルの家に到達するのを待った。しばらくして手応えがあった。ビンの水面に波紋が広がる。すかさずオルバが声をかけ始めた。

「あ、あ~あ~。聞こえますか。私はオルバ・クレケンティノスの使いの者です。私の声が聞こえますか?」

 少しの間、静寂が部屋を包んだ。次の瞬間、応答があった。
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