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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter1:群青の群像

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復帰を祝うは守銭奴と鉤爪

 ファイセルは村から出てしばらく街道を南に歩いた。ここまで来れば光源魔法を使っても騒ぎになることはないだろうと呪文を詠唱した。都会では珍しくもなんともない呪文だが、この辺りでは目立ちすぎる。

「太陽が眠りし時、目覚めるは月の輝き、そして我が言霊が3つ目の輝きとなりて闇を照らす!! プチ・イルミン!!」

 光の球がファイセルの頭上で青白く光った。ランプより明るく、照らす範囲も広い。ファイセルの使える数少ない呪文の一つだ。

(野宿をするか、夜通しで歩くか。ここらへんはきっと野良ゾンビとかスケルトンが出る可能性がある。うう……気味が悪いし、連中には会いたくないなぁ。野宿は止めだ。確かリーリンカのカバンに聖水があったはず……)

 ファイセルは聖水のことを思い出して、リーリンカのカバンを覗いた。もう大部分の薬品は使ってしまい、カバンはだいぶ軽くなっていた。

 聖水を取り出したのはいいものの、ファイセルはアイネのように聖水を器用に扱う事ができず、擬態香水の時のように頭から直に被った。

 冬季に近づいた冷え込みの中、頭から聖水を被ったので一気に体が冷えてしまった。

(聖水は蒸発しないのね……まぁ、歩いてれば体が温まるだろう……)

 ファイセルは続けて夜道をとぼとぼ歩き出した。ふとビンの水が枯れていることに気づく。

(そうか……復活にも水分を消費するのか。待てよ、もしかしてマナの回復薬を補充すれば休眠の時間が縮まるかもしれないぞ)

 ファイセルは歩きながらリーリンカのカバンからマナ回復剤を出してビンに移し入れた。緑色の魔力回復溶液でビンが満ちる。

(これでよし。今度こそ次の村でリーネが元通りになるまで待機しよう)

 ファイセルはヨーグの森周辺の水源を諦め、ケルクから半日程度歩いて着くパルパの村に明け方になって無事たどり着いた。

 プチ・イルミンで魔力を消耗し、夜の街道を気を張りながらあるいて来たので、かなりくたびれていた。宿屋らしき建物のドアの金具を掴み、ノックする。

「おやぁ? こんな早朝にどなたですかな?」

 宿屋の主人がドアから顔を出す。

「早朝失礼します。旅の者です。夜道を歩いてきました。泊めていただきたいのですが」

 眉毛の太い紳士がファイセルを迎え入れる。

「それはそれは。ご苦労さまです。1泊4500シエールですが、よろしいですか?」

 ファイセルは前の宿が前の宿だっただけに、主人の応対や宿賃などに安心した。どっと疲れが出て、代金を支払いすぐに部屋に案内してもらった。

 これから夜明けというところだったが、時間を無視してベッドに身を投げるようにして倒れこみ、そのまま眠ってしまった。

 次に起きたのは昼ごろ、宿屋の主が昼食を告げに来た時だった。ファイセルは起き上がろうとしたが頭痛と倦怠感がひどく、フラフラしてしまった。

「こ……これは……カゼか……」

 宿屋の主のノックが続く。

「お客さん? 大丈夫ですか?」

 心配する主人に聞こえるくらいの大きめな声で自分の状況を説明した。

「ゴホッ……カゼをひいてしまったようなのですが、薬をいただけますか? ゴホゴホ……他の方に感染ると困るので食堂へはいけません……」

 さすがにリーリンカのカバンにはカゼ薬は入っていなかった。扉の向こうの主人は事情を察したようで、すぐにマスクをして飲み薬と緑粥を作って持ってきてくれた。

 手厚い面倒見に感謝しながら、昼食を取って薬を飲み、真昼だったが再び眠りについた。

 幸い、風邪は軽かったようで、夜になるとだいぶ症状が治まってきて頭痛や寒気がしなくなっていた。

(寒いのに聖水を頭から被ったのがマズかったのかなぁ……かといって拭いてたとしたら効果が減っちゃうしなぁ。おかげでアンデッドには会わなかったわけだし)

 ファイセルはなんだかとっても情けない気分になったが、仕方なかったと割り切り、再び休んだ。

 夜、水を飲みに起きるとリーネのビンが空になっている。あれだけマナ回復液を入れたのにあっという間に消耗してしまったようだった。再び水をビン一杯に汲んで、そのまま眠った。

 水を消耗するたびにビンに補給することを繰り返してパルの村についてから2日、リーネが姿を消してから3日目の夜にビンの中の水に反応があった。

「ふぇ~~。もう眠ったままかとおもいましたよ~」

 それほど日数は経っていないのだが、ひどく懐かしく感じるこの声。紛れも無くリーネだ。水の中から透明で水色な少女の妖精が姿を現した。

「あ~、良かった。心配したんだよ? ずいぶん時間がかかったね」

 ファイセルは安堵の表情で微笑んだ。

「これでも早いほうだと思います。途中で注いでくださった緑の液体がなければあと2日は目覚めなかったでしょう。なんだかとっても苦くて毒かと思いましたが……」

 一応、リーリンカの薬は効いたらしい。何事も試して見るものである。それにしても魔力不足でバテた時にうっかり飲まなくてよかったとファイセルは心から思った。

「それで、ヨーグの森は無事抜けられたんですか?」

 ファイセルは首を縦に振った。

「でも、色々あって、村を移動せざるを得なくてね。ケルクからパルパまでは素通りで来ちゃったんだよ」

 リーネは笑顔で答えた。

「まぁ、この距離間の移動ならばわざわざ水質チェックに戻る必要はありません。早速また明日からチェックを再開しましょう!!」

 ファイセルは相棒の復活を喜び、リーネが眠っている間のことを夜遅くまで話し込んだ。

 翌、裏赤山猫の月の13日の朝にカウンターで宿の主人に3泊分の代金を渡した。

「すっかり元気になられたようで何よりです。旅のご無事をお祈りしています」

 宿屋の主人はニッコリ笑ってファイセルを送り出してくれた。やっぱり旅の宿というのはこうでなくてはと痛感したファイセルだった。

 村を出るときにリーネはファイセルが大きめの袋を持っているのに気付いたようだった。袋からはジャラジャラ音がしている。

「お金ですか……でもそんな小銭ばっかりで何に使うんですか?」

 ファイセルは宿を去る際に両替えしてもらった小銭の袋を高めに引き上げて言った。

「この一帯の森にはね、キツネみたいな顔をした『ツネッギィ』ってモンスターが住んでるんだ。木の上に住んでて、生意気な事に人間のお金を欲しがるんだよ」

 ファイセルは樹上を指さしながら解説した。

「で、そいつは武装して旅人を脅してお金を奪うわけ。この森に土地勘のない人は有り金を巻き上げられちゃったりするね。でもね、こうやって細かいコインをたくさん用意しておいて、ばら撒きながら歩けばアイツらお金に夢中になって危害を加えてこないんだよ。もちろん袋の中身は全部1シエール硬貨だけどね」

 ファイセルは意地悪そうに笑いながら袋をジャラジャラと振った。

「結構頭のいいモンスターで、偵察役やブレインとか役割分担をしながら貴金属や光り物を狙ってるんだ。武器を個性にしてるらしくて剣を持っている奴もいれば、弓や斧、鎌とかで武装してる奴もいるね」

 パルパの村から出てしばらくして歩くとまた街道は森林に覆われた。

「ウヒヒヒヒ!!」「イィエーーーイ!!」「ケタケタケタケタ……」

 不気味な鳴き声がが頭上から響く。ファイセルは頭上を見上げた。

「ほら、変な鳴き声が聞こえるだろ? あれがツネッギィ。多分、今頃は偵察役が僕らを観察してて、土地感があるかどうか探っているんだと思う。何にも知らなさそうな旅人だけを狙って、強そうな人とか、ツネッギィを警戒してる人は襲わないんだ。本当にずる賢い奴らだよ。僕らはよそ者の旅人扱いだろうからこのままだと脅しに降ってくるね」

 すかさずファイセルは手に持っていた袋に手を突っ込んで1シエール硬貨をばらまき始めた。

「まぁ3000シエール分あるから足りるでしょ」

 ファイセルがチャリチャリと小銭を撒き始めるとリーネが不思議そうに聞いた。

「そんなたくさんの硬貨を両替しててよく宿屋さんの小銭がなくなりませんねぇ?」

 撒いてからしばらく歩いて距離が離れると木の上から何体か毛むくじゃらで腰みのの様なものをまとったモンスターが降ってきた。ケタケタと笑いながら一心不乱にコインを拾っている。

「それがね、こいつら人間に化けるのもうまくて、近所の村で拾ったコインを使っていっちょ前に買い物なんかするんだよ。だからこうやって撒いたお金は最終的に近所の村に流れていくんだ。変な話だけど、モンスターもお金を持ってくればお客さんだからね。無下に追い払うことはできないんだよ。持ちつ持たれつってとこかな。だからここら辺の村は今までの旅人から巻き上げた小銭で溢れてるわけ。撒いたこのお金も村に帰るのさ」

 リーネはツネッギィを観察しているようだった。見てくれや色はキツネに似ているのだが、二本足で立ち、耳が大きく目はギョロっと飛び出していて、血走っている。

 話の通り、各々で異なった武器で武装していた。脇見をしていたリーネだが、水源を感じたようでそれを伝えてきた。

「あ、この近くに水源がありますよ。街道から少し外れたところです」

 ファイセルは地図を取り出しながら位置確認をした。

「げっ、荒れ地の真ん中じゃないか。モンスターに遭遇しそうだなぁ」

 ファイセルたちは一度、ツネッギィの森を抜け、街道から外れた荒れ地に移動した。辺り一面草一本も生えない不毛の地だ。枯れ木だけが物悲しく立っている。

 ファイセルは一旦マントを脱いでから制服の上着を脱ぎ、肩からかけてブーメランを背後のベルトから抜いた。

「そんなに広い荒れ地じゃないな。水源は……こっちかな」

 歩き始めると上空からの視線を感じた。地面には大きな鳥のような影が落ちている。すぐに影の主が地面を撫でるように背後から滑空してきた。

 とりあえずファイセルは横っ飛びしてこれをかわす。その正体は翼を広げたら大人二人分はあろうかという大鷲だった。

「グレッグ・イーグルか!!」

 ターゲットを見つけたファイセルはブーメランのリューンをカバーを外さず投げつけた。

(旋回姿勢に入った時を狙ってイーグルの翼を狙え!!)

リューンは素早く上昇するイーグルに回転しながら追いついていく。イーグルが高度を上げて旋回し始めるとさらにリューンが距離を詰めていった。

 小回りでははるかにこちらが有利だ。すぐにリューンはイーグルをとらえ、翼に直撃した。片方の翼の節が折れたイーグルはバランスを崩し、グルグル回りながら向こうの森のなかに墜落していった。

 リューンが弧を描いて戻ってくる。ファイセルがキャッチの構えをとると手にすっぽり収まるような形で戻ってきた。

「ふぅ、直撃を喰らわなくてよかった。あれじゃ捕まったら空中旅行でそのまま巣送りだよ……」

 勘で横っ飛びした割にはうまく回避ができてファイセルは安心した。ザティスやラーシェならば呪文や精神力を研ぎ澄ませる事で飛んでくる方向を察知し、地上で迎撃することができるのだが、残念ながらファイセルには反射神経や行動スピードを上げる系統の魔法は使えない。

「結構遠くまでリューンさんの制御は効くんですね」

 リーネが疑問に思ってそう尋ねた。

「うん。結構遠距離までコントロール可能だよ。言うまでもなく普通のブーメランより遠くへ飛んでいくし、呼べば障害物とか避けて確実に戻ってくるからね。さすがに森の中とかは限度があるけど」

 そうこう話しているうちに水源に着くと何人か人が居た。ファイセルはなぜこんなところに人が居るのだろうと疑問に思いながらも話を聞こうと歩み寄っていった。
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