挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter1:群青の群像

20/169

亡者の嘆きに誘われ

 やがて坑道は広い空間に繋がった。光源魔法で暗い鉱山の一室が明るく照らされていた。大勢の遭難者や負傷者が見て取れる。

「アンナベリーか。今、負傷者の手当てをしてるところだ。最下層の生存者は約80名、半数以上が怪我をしている。スヴェイン先生にはもう伝えた。お前のチームにもヒーラーが居るだろう。治療を手伝ってくれ」

 眼鏡でエルダーの制服を着た男子生徒がそういうとアイネとリルチェはすぐに怪我人の元に駆け寄って治療を始めた。9人居る学院生のうち6人程度が負傷者の手当てに当たっている。

「とりあえず、私たちが下ってきた道は鎮圧したッス。そろそろ国軍に救助を要請する頃合いッスかね」

 エルダー達三人は今後の方針について話し合っていた。アイネとリルチェはタッグを組んで重症者の手当てに当たっていた。

「全員を治療していたらマナが足りん!! 治療班はトリアージして瀕死の者から助けるように!!」

 エルダーの生徒からの指示が飛ぶ。アイネ達は重症者と軽傷者をわけて治療を再開した。

「ああぁ……もう一度、お天道様が拝みたかったぜ……」

 崩落で傷を受けたらしき重症の男性がそういいながら息を引き取った。ほとんど手遅れの者もおり、何人かは治療の甲斐なく命を落としていった。

 アンデッドにならないように聖水を振りかけて迷える魂に祈りをささげる。しばらく必死の治療は続き、生き残った重傷者が全員危機を免れたころだった。急に自分たちの居る一室が地震のようにグラグラと揺れ始めた。

「落盤か!? 伏せろー!!」

 誰かが叫ぶ。一同は混乱しながらもうずくまって落盤に備えたが、すぐに揺れは治まった。落盤はしていなかったようだが、揺れが治まると同時にドシャっという音と共に入口付近に泥のようなものが落下してきた。

 落下してきた泥の中から茶色い固形物がうごめいて見え隠れする。謎の茶色い塊はすぐに何かを形どるように立ち上がり始めた。

「こ……これは!! まさか、スカルドラゴンか!!」

 眼鏡の男子生徒が呆然としながらつぶやいた。

「いや、大きさからするとレッサーッスね。でも、厄介な敵には変わりないッス」

 アンナベリーがとても厳しい顔をして立ち上がった物体を見つめた。降ってきたのはどうやらドラゴンの化石だったらしい。

 それが亡者の魂に惹かれて生前のように動き出したしたのだ。背丈はざっと2m半ばで、入口を塞ぐ形で立っている。体が馴染まないのか、動きが鈍い。

「全員集合ッ!! 迎撃の計画を立てるぞッ!!」

 全体の指揮を任されていた眼鏡の青年が招集をかけた。すぐにアンナベリーが口を挟む。

「私の経験上、スカルドラゴンの攻撃力はとても高いッス。近接武器を使っている人もいるみたいッスが、よほどの耐久力が無いとあっという間に殺されるッス。吐いてくるブレスも強力で長い射程があるので離れていてもそれにも要注意ッス」

 アンナベリーは一呼吸おいて、気分をおちつけてから話を続ける。

「で、結局この場で接近戦を仕掛けて盾になれるのは残念ながら私しかいないッス。だから今すぐ、私にみんなの出来る限りのエンチャント系呪文を唱えてほしいッス!!」

 それを聞いてすぐさま生徒たちは各々の強化魔法をアンナベリーにかけていく。彼女自身もさきほどの対屍エンチャント、ソードベネディクションを大剣にかけなおす。

「アンナベリー、お前ひとりに危険を押しつけてしまうようで済まない」

 エルダーの2人の表情が曇る。

「なーに水臭い事言ってるッスか!! いくら強敵とはいえ、学院生が9人も集まればなんとかなるッスよ!! それに私も皆お陰でいつもより高い能力を発揮できそうッス!! リジャントブイル魂、見せつけてやるッスよ!!」

 その激励を聞いて、学院生たちは絶望から抜け出し、恐怖と興奮の狭間で奮い立っているようだった。

「それじゃあ行くッスよ!!」

 アンナベリーが強く床を蹴り、抜刀しながらレッサースカルドラゴンとの距離を詰める。

「いいな!! 弓や魔法などの攻撃が出来るものは中衛を、特に攻撃方法を持たない者は後方からアンナベリーを治癒するんだ!! 各員配置につけ!!」

 メンバー達は統率のとれたフォーメーションをすぐに組み上げた。今日チームを始めて組んだとは思えない手際の良さだ。運よくスカルドラゴンの動きが本格化しないうちに戦闘準備が整った。

 アンナベリーが接近して一太刀を浴びせようとした時、完全にスカルドラゴンに”魂”が宿った。

「ゴアアアアアアアアアアア!!!!」

 激しい咆哮が激しく大気を振動させる。パラパラと天井から砂や小石が落ちてきた。あまりの迫力にアンナベリーはつい守りの姿勢に入ってしまった。

 鋭く、強烈な爪の斬撃を大剣で受ける。押さえつけていない方の爪が彼女に襲い掛かるが、体をよじってすんでのところでかわす。

 その時にアンナベリーがバランスを崩したのをスカルドラゴンは見逃さなかった。思いっきり空気を吸い、炎を吐き出す。今度ばかりは完全な回避が出来ない。

「熱いッスね!! これは耐炎エンチャントなかったら大やけどッス!!」

 数秒の間、ブレスに耐えた後、バックステップで距離を取る。このままではジワジワ壁際に追いやられ、チームメイトや遭難者が巻き込まれかねない。

 ここで踏ん張らねばと思い、突きの体勢でスカルドラゴンめがけて突っ込む。

「グゴゴ……ゴアアアア!!」

 スカルドラゴンは大剣を両手で受け止めたが、勢いよく突進されたため、後ろに押されながら後ずさりした。

「今だ!! 中衛は攻撃を集中!!」

 後ろから指示する声が聞こえたのでアンナベリーは剣を横に振り切りながらサイドステップでスカルドラゴンの正面から避けた。飛び退きざまの横振りでドラゴンのアバラが数本折れる。

 正面が開いた後、各々のメンバーが中距離攻撃から攻撃を繰り返す。リルチェも中衛班に加わっていた。弓からエンチャントした矢を放つが、スカルドラゴンには弾かれてしまっていた。

 他の術者の炎や光系の呪文はある程度ダメージを与えられているように見えたが、決定打を与えるには至っていないようだった。

 再びスカルドラゴンが大きく息を吸ったので、アンナベリーは大剣を盾にするようにして灼熱のブレスを防ぐ。

 後衛から治癒呪文を受けてはいるものの、距離が離れすぎていて、受けるダメージの方が多い状態だった。今まで物理攻撃は殆ど防いできたアンナベリーだったが、ここにきて疲労の色は隠せない。

 ブレスが途絶えて隙が出来たので攻撃に転じようとしたが、それはスカルドラゴンのフェイントでここぞとばかりに振り上げられた鋭い爪がアンナベリーの横腹に直撃した。

「ぐっ!!」

 地面に大剣を突き立てながら右の方へ地面をこすりながら吹き飛ばされていく。痛みをこらえながらアンナベリーがすぐに立ち上がり、自己治癒魔法をかける。

「ルーンティアの女神よ。我が身から乖離しようとする魂をこの身にに引きとめたまえ。肉体の救済もまた我の望むところ。即ち生ける者にとっての魂と肉体の繋がり!! オウンヒール・ベータ!!」

 アンナベリーは傷が癒えるのを待たず、臆すことなく再びスカルドラゴンの横っ腹に向けて突撃していく。相手もそれにすぐ気づき、アンナベリーのの方を向いて大剣を受け止めた。

「横からなら幾分か防御が薄い!! 一気に畳み掛けろ!!」

 再びエルダーの生徒から指示が飛ぶ。アンナベリーが再び正面から避けたので中衛は攻撃を集中し始めた。さすがに正面で無ければ矢も弾けないようで、リルチェの聖属性の弓もかなりダメージを与えているようだった。

 だが、アンナベリーの蓄積ダメージもかなり大きく、もはや攻撃を仕掛ける力は残っていないようだ。打ち合うのがやっとといったところだった。

(このままではアンナベリーさんが死んでしまう!! なんとかならないの!?)

 アイネは思わず中衛の位置まで前に出てきた。他の後衛2名もそれに続く。

「お前ら……無茶をしてくれる!! よし、後衛は引き続き中衛の位置まで前進してアンナベリーを援護しろ!!」

 眼鏡をかけたエルダーの男子生徒が手を振って援護を促した。少し回復速度が上がったためか、アンナベリーの動きに機敏さが戻り始めていく。

 だが、中衛の位置はいつスカルドラゴンのブレスが届いてもおかしくはない距離だ。前に出てきた後衛がそれをくいらったら一溜まりもない。そんな危険を冒してでもアンナベリーを救おうと皆が必死だった。

 ある程度ターゲットに近づいたのを確認したアイネは一旦治癒詠唱をやめ、聖水を取り出して祈り始めた。

「不浄なる常闇に生きる者よ。汝の居るべき場所は本当にそこなのか。我はそなたらに光の道を示す者也。光の旅路に伸びる道へ我が誘おう。 セイクリッドミスト!!」

 聖水からキラキラと青色に輝く霧が吹きだして、洞窟内を包んだ。朝の高原のようなすがすがしい空気が満ちていく。その霧に当てられてスカルドラゴンの動きがわずかに鈍くなった。

 援護に回っていた学院生達はその様子を見てハッっとしたかのように続けてセイクリッドミストを唱えた。

「よし、でかしたぞ!! この速度なら魔法が当てられる!!」

 エルダーの男子学生がすぐに詠唱を始めた。

「今、地の底より我に呼応し現れる業火の炎よ!!巻き上がり、我に仇なす敵をその熱き抱擁に深く抱け!! フレイム・ジェイル!!」

 地割れが起こり、炎の輪がいくつか地中から吹き出してスカルドラゴンの自由を奪い、締め付けた。

 動けなくなったスカルドラゴンに向けてアンナベリーの渾身の斬撃が当たり、片腕を切り落とした。そのまま素早く脚を切り落とす。

「ガアアアアアアア!! グゴアアアアア!!」

 もはやバランスの保てなくなったスカルドラゴンが体勢を崩しながら激しく咆哮する。それにつられて多数のゾンビやスケルトンなどの亡者たちが取り巻きのように地中から姿を現した。

 だが、聖なる霧のおかげで動きが鈍い。こちらはエルダー1名とミドルで対処が可能だった。スカルドラゴンも暴れてはいるが、弱点の炎で包まれているため、身動きが取れない。

 アンナベリーはとどめを刺すなら今だと思っていた。だが、うかつに頭を残すと頭だけが分離して飛び回りながらブレスを吐くという最悪の事態に陥りかねない。

 アンナベリーは最後の一撃に向けて縛られたスカルドラゴンに力を振り絞って大剣での連撃を浴びせた。鮮やかな乱れ切りにあちこちの部位の骨がはじけ飛ぶ。

 最後に思いっきりジャンプし、宙返りしながら大剣の平たい部分を下にして思いっきりスカルドラゴンの頭を殴りつけた。

「クラッシュ・スタンプッス!!」

 打撃攻撃をモロに頭部に食らったスカルドラゴンは頭を粉砕され、全身の力が抜けたようにバラバラと崩れ、土に還っていった。

「や……やったッスか。あちちち……。盾役を買ってでたのはよかったッスが、正直、死ぬかと思ったッス……スカルドラゴンは戦い方を見学しただけだったッスからね。レッサーだから良かったものの、普通のスカルドラゴンだったらおそらく全滅だったッス」

 アンナベリーは大剣にしがみつくように片膝をついた。治療班がすぐに駆け寄って治療を始める。

 アイネが見る限りでは幸い重症には至らなかったが、骨折数か所、中度の火傷を負っているようだった。学院では敵なしのはずのエルダーがこれだけ追い詰められているのを初めて見た。

「まったくどいつもこいつも無茶しやがって……。スヴェイン先生、最深部でレッサースカルドラゴンと交戦しました。辛くもアンナベリー他8名の活躍により、これを撃退。道中のアンデッドも撃退しておきましたので国軍に遭難者の救助を要請するようお願いします」

 眼鏡の男子がジェムに事の顛末を報告する。大人数で治療したこともあってアンナベリーは間もなく回復した。思わずアイネとリルチェがアンナベリーに涙を浮かべながら抱き着く。

「私、私! 先輩が死んじゃうんじゃないかと思いました!! あの時前に出ておいて本当に良かった……」
「私も!! いくらなんでも無理しすぎですよ……。私がもう少しうまく狙えていれば……」

 アンナベリーは後輩二人の背を抱きながら笑った。

「そんな簡単に死ぬようじゃこんな危ないポジションやってないッスよ。それより二人ともナイスアシストでしたッス。アイネちゃんもリルチェちゃんも!! 2人と皆が私を救ってくれたんッスよ」

 女子生徒たちは皆、もらい泣きしていた。男子が通信していたジェムからスヴェイン先生の声が聞こえる。

「諸君、災難だったが、良く乗り越えてくれた。しばらくしたら国軍が遭難者を救出しにそこへ到着するはずだ。それまでに負傷者の回復に努めてくれ」

 スヴェインも緊張が解けたかのように冷静にそう伝えた。

 その後、アイネ達は負傷者の治療を続け、最終的に鉱山最深部から約70名の救出に成功した。

 当初、500人と見られていた行方不明者の内、350人程度は国軍または学院生に発見、救助され、最悪の見込みであった死者200名の事態は免れる事となった。

 日没が近づいたため、アンデッドが強力になる夜間の捜索活動は中止された。翌日以降にいまだ行方不明の150人を少しずつ発見していく捜索に移る事となった。

 その日の夜は学院生たちは鉱山の外にある鉱員小屋に雑魚寝し、翌朝の捜索に向けてしばしの休息をとった。

 アイネは天井を見ながら今日のアンナベリーの戦いっぷりや、頼れる姿を思い出し、強い憧れを感じていた。

「大剣とかいいかもしれないなぁ……」

 独り言を小さくつぶやいて瞳を閉じた。

 一方、急に召集された各々のメンバーの家には例のピンクのカエルの姿をした使い魔が出現し『泊りがけの課外活動になる』と伝えて回っていた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ