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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter4

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良い素材で出来たクセもアクもコクも強い料理

召喚術師サモナーが長い眠りから目覚めたのはちょうど休日だった。

故にナッガンやフラリアーノが彼女の元へすぐに駆けつけることが出来たのだ。

空いた時間に、自分を見守ってくれていた先輩……ラーシェという女性と話す機会があった。

直接面識はなかったが、どこかで聞いたことある名前で気にはなっていた。

思い出せずにモヤモヤしていると、向こうから声をかけてきた。

「ファイセル君や、リーリンカから話は聞いているよ。あなたがファイセル君が迎えに行った妹弟子のアーシェリィー……アシェリィだよね? まさか、君の班のセミメンターになるとは思っても見なかったよ。奇遇だね!!」

言われて思い出した。ファイセルの思い出話の中にエレメンタリィ(初等科)時代の班員の名前がちょくちょく出ていた。

確かファイセル、リーリンカ、ザティスにアイネ、そしてラーシェの五人組だったはずである。

どうやら目の前に居る女性がそのラーシェ本人らしい。

これが彼女との初対面だったが、共通の知人のおかげで話題には事欠かず、あっという間に二人は打ち解けた。

その日はコンディションチェックに費やし、いよいよ翌日からアシェリィはクラスに合流することとなった。

次の日、二人はエレメンタリィ(初等科)一年生の第1クラスの扉の前に立っていた。

教室に入るのはこれが初めてではないが、なにしろ一ヶ月も抜けていたのだ。

クラスメイト達の反応が気にならない訳がない。二の足を踏む一年生の肩を先輩がポンと叩いた。

「大丈夫。みんな暖かく迎えてくれるって! それに、私もついてるからさ。さ、いこう!」

セミメンターである彼女の励ましを受けたアシェリィだったが、緊張を隠せないようで、やや引きつった笑顔でそれに答えた。

アシェリィはクラスの扉を開け、胸を張って堂々と教壇の上にのぼった。

並んで歩き、横に立ったラーシェから見ると明らかにカチンコチンな足取りであったが。

教卓に手をついていたナッガンは彼女がそばにくると無愛想な表情のまま、クラスメイト達に隣の少女について紹介を始めた。

ひらりと掌を広げて一同の視線を誘導しつつ口を開く。

「皆、知っているかとは思うが、彼女が約一ヶ月の間、仮想空間を幻魔で破壊し尽くした召喚術師サモナーだ。遅刻魔のルーキー、アーシェリィー・クレメンツ……。おっと、こいつは温厚に見えてキレると先の件のように何をしでかすかわからん。重々注意するように」

いくら班員より優位に立つ必要があるからとは言え、戦闘狂バトルマニアや凶暴な性格という設定には無理があった。

そこで落とし所として「キレると怖い」という”設定”をつけようということになった。

これならば無理してキャラを演じなくとも、クセとアクの強い班員達への強力な抑止力になりうると思われたからだ。

クラスメイト達とすでに室内で待機していた四人のセミメンターの視線が刺さるように感じる。

しばしの沈黙にアシェリィは緊張しきって飲むつばが無いほど喉を枯らした。

だが、彼女を待っていたのは思いがけないリアクションだった。

パチパチ……パチパチパチパチ―――

教室は瞬く間に大きな拍手に包まれた。各々が褒め讃える声を上げ、指笛を吹いている者も居た。

遅れてきた猛者の登場に皆がヒートアップしたのである。

腕っ節の強い生徒が揃う傾向のあるここでは、戦いの武勇伝によって自ずと評価され、好感を抱かれる風潮があった。

当の本人は驚きと困惑で唖然とし、小さく口を開け、眉をひそめた。

騒ぎが止む様子が無かったので、それに区切りをつけるようにナッガンは教卓にドンと軽く音を立てて両手をついた。

「さて、今朝のHRホームルームはこんなところだ。一限目の準備を始めるように。それと、アーシェリィーの5班は改めて互いに自己紹介をしておけ。解散」

教壇の上の少女は胸に手を当てて大きく息を吐いた。

もっと避けられ、よそよそしくされると覚悟していたが、そんなことも無さそうで内心ホッとしていたのだ。一部を除いては。

先を行くラーシェの後をついて、窓際へ行くと一年1組5班の面々が机を一列にして並んでいた。

「えーっと、確認しておくよ。先頭からフォリオ君、その後ろがガリッツ君、次がイクセント君、そしてシャルノワーレさん、最後の空席がアシェリィの席ね。じゃあみんな集まって。もう一度、軽く自己紹介やろっか」

ラーシェはニコニコしながら班員達に声をかけた。フォリオとガリッツが椅子から立ってこちらへとやってきた。

だが、後の二人は机についたままだった。先輩が見かねて手招きをするも、二人は微動だにしなかった。

「じゃあ、こっちから行こうか。ね? アシェリィ……」

そう促されてアシェリィが一歩踏み出すと時が動き出したかのように二人に反応があった。

「うッ!!」

「ひっ!!」

イクセントとシャルノワーレが後ずさったのである。よくよく顔を観察してみると二人とも顔面蒼白で、やつれたような顔をしている。

話を聞くからにはアルルケンの封印を破ってから20日程度経過しているはずだったが、未だにその恐怖が拭えていないのが一目瞭然だった。

ここで無理に近づくのは無神経かなとアシェリィは思い、その場で掌を胸にかざして、まずは自分から名乗りを上げた。

「わたしはアーシェリィー・クレメンツ。知っての通り、召喚術サモニングが出来ます。仲が良くてチームワークの良い班を目指してやっていきたいと思うので、よろしくお願いします!!」

そう言ってペコリと頭を下げた。丁寧に挨拶をして頭を上げても二人の警戒姿勢は解かれなかった。

まるで怯える野良猫のような態度である。これで大丈夫なのだろうかと懸念しながらも他の班員の話を聞いた。

「ぼぼっ、ぼぼぼぼくは、フォリオ。フォリオ・フォリオです。ああ、あああと少しで部活のぼぼっ、募集がはじまるのでここっ、このコルトルネーと一緒にふふふ、ふ、フライト・クラブに、もももうしこむつもりです」

そう言うと彼は片手に持ったホウキを軽く掲げた。ホウキのほうが大きいくらいで彼自身は酷く小さかった。

アシェリィの身長からすると下を向くほどである。

しかし、恐ろしく高速で飛行する様を目撃していたのでただの少年でないのは間違いなかった。

フォリオのとなりからズイっとせり出すように巨体の亜人が割って入ってきた。

ガリッツだ。いつみても珍妙な外見をしている。彼に関してはもうカブトムシザリガニとしか形容が出来ない。

ドブ臭い臭いをあたりに撒き散らしながら大きな真っ赤なハサミを噛み合わせ、ギリギリと歯ぎしりするように音を立てていた。

あまりの悪臭に思わず班長の顔は歪んだ。

ギリ……ギリギリ……ギリギリギリ……バチッ、パチンパチン……

時折、バチンバチンとハサミを開いたり閉じたりしている。

それを見てラーシェは困った顔を浮かべつつ、凹凸のあるゴツゴツした甲羅に軽くピタピタと触れた。

不気味さや悪臭もなんのそのと言った風だ。

「う~ん、彼に関してはなに考えてるか全然わかんないんだよね。悪い子じゃないと思うんだけどなぁ……。あ、通訳用のチャットピクシーの準備はアシェリィ担当だから、よろしくね。だからこの子、この班なの。評価点も追加されるから、出来るだけ早めに挑戦してみて」

これは全くの初耳で、戸惑わざるを得なかった。だがチャットピクシーに心あたりがないわけではない。

それにはとりあえず頷いて、承諾の意を示した。

次に、アシェリィ達はイクセントの方を向いた。依然として用心深くこちらをうかがっていたが、身構えたまま喋り始めた。

「僕はイクセント。イクセント・ハルシオーネだ。お前の蒼い狼には随分世話になった……。正直、もう二度とお目にかかりたくはない……」

そうつぶやいて彼はうつむいた。するとすかさずシャルノワーレがそれを小馬鹿にした。

「な、なんですの? 貴男、あの程度の事でおびえてらして!? まぁー、なんとお情けのない殿方だこと!! オーーーーッホッホッホッホ!!!!」

「ええい、うるさいぞ!! この木偶の坊ッ!!」

「なんですって!? ムッキーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

イクセントは腰の剣に手をやり、シャルノワーレはいつのまにかの早業で弓を構えて引き絞っていた。

まさに一触即発で、教室の一角は緊迫感に包まれた。

それでも場数を踏んだセミメンターは冷静だった。混乱すること無くアシェリィの耳元へ何やら指示を出したのだ。

指示を受けた少女は怒りの表情を浮かべ、声を荒げた。

「ご、ご……ごちゃごちゃうるさいぞ!! しし、静かにしろッ!!」

アシェリィがそう叫ぶと言い合いをしていた二人はまるで魔法で跳ね飛ばされたかのように武器を手放して後ずさった。

「ぐッ!!」

「うっ!!」

今度は勢い余って二人揃ったまま、教室の隅まで後退していった。そこで怯えるようにして震えている。

まるでアシェリィの背後にアルルケンがいるかのような反応の仕方である。よっぽど封印呪文シーリング・スペルが効いたらしい。

この出来事によって怒ったフリをして、怒鳴るだけで二人を牽制することが出来るということが明らかになってしまった。

班長としては都合が良いことこの上ないが、やられる身になるとたまったものではないはずだ。

「はぁ……。じゃ、最後にシャルノワーレさん。自己紹介を……」

ラーシェの何気ない一言を聞き捨てならないとばかりに彼女は跳ね起きて抗議を始めた。

「まーっ!! 全く、何度言ったら分かりますの!? 庶民にはわたくしの名前の高貴さがおわかりにならなくって? わたくしの名前は一切省略しないでいただきたいわ。 いい? わたくしは『シャルノワーレ・ノワレ・ヒュンゼータインズ・H.G.T・ウィンタルスマー・クランヴェリエンズ・ネストイアレ・AoL・シュラム・デュ・ランカグローリーエ―――』」

その後も彼女は名前を言い続けたが、一分たっても名前が終わることはなかった。そう、たしか初対面のときもこうだった気がする。

このままだとキリがない。アシェリィは妥協点を探った。

「シャルノワーレさん、じゃダメなのかな?」

エルフの少女は名前の言うのを止め、威圧感と恐怖を感じながらもそれを打ち破って反論を続けた。

「ですからっ!! どこか一部だけを省略するという認識がそもそも間違っていまして―――」

これはめんどくさいことになりそうだ。というか今までどうやって対処していたのだろうか。

実はこれに対しての解決策もナッガンやラーシェと事前に打ち合わせ済みだった。

本人の同意に関係なく、名前の頭の方にある聞き取りやすく、覚えやすい部分を勝手に呼び名として決定してしまおうという事になっていた。

もちろんこれもアルルケンの強権を振りかざす行為なので、アシェリィはあまり気乗りしなかったが。

「あー、もう一度、名前を聞かせてもらってもいいかな?」

再び尋ねてみるとシャルノワーレは美しいトンガリ耳をピクピクと動かした。

そして、得意気に制服越しからでもわかる豊満な胸を張った。

腰まで伸びてキラキラと光っている水色の髪を優雅にかき乱しつつ、満足気に笑みを浮かべた。

「まぁ。貴女、殊勝な心がけですわね。もう一度言いますわよ? わたくしはシャルノワーレ・ノワレ・ヒュンゼー―――」

まだ名前を言っている途中だったが、班のリーダーは独断で愛称として使いやすそうな区切りを聞き取った。

そしてすぐに長々と続くであろう呪文のような名乗りをぶった切って宣言した。

「あ、そこまででいいよ。あなたの呼び名は”ノワレ”にします。異論は認めないからね」

おそらく猛烈な反発がくるだろうと予測されたが、それどころか暖簾のれんに腕押しといったところだ。

どうしたことかとよくエルフの少女を観察すると、顔を真っ赤にして口に手を当てている。

彼女らしくもなく、なんだかもじもじしていて急にしおらしくなってしまった。

「えっ……ええっ!? あ、あなた……ほ、本気でして?」

何について本気かと問われているのかわからず、リーダーは首をかしげた。

「ん~……呼び名の決定については本気だけど、何か問題でも?」

特に語気を強めず、いつもの調子で声をかけてみた。

すると彼女はますます顔を赤くにしたまま、両手を握って上下に振って必死に訴えた。

「そっ、その呼び方はっ、わたくしへの求婚の意を示す呼び名でしてよっ!!! ににっ、人間だから知らなかっただけですわよね!? ごごごっ、誤解するようなマネはやめてくださる!?」

普段は高飛車で荒っぽいところが目立つが、こういうところは初々しい少女そのものである。意外な一面が垣間見えた。

エルフの名前の呼び方のルールはよくわからないが、ともかくこの呼び名はあらぬ誤解を彼女に与えているらしい。

決めなおそうかとアシェリィが考えていると壁際に寄りかかって腕を組んでいたイクセントが不敵にニヤリとしつつ皮肉ぶった。

「よろしくな。ノ・ワ・レ」

またもや衝突に発展するかと思えたが、その直後にフォリオが空気を読まずに口を開いた。

「ののっのの、ノワレさんだね? よよよ、よろしくお願いします…………」

言葉こそなかったが、ガリッツも何か言いたげにハサミ同士をぶつけて打ち鳴らした。

「バン・バン・バン!!! バン・バン・バン!!!!」

明らかにノ・ワ・レのリズムである。

「っっ!!!……くうううぅぅぅぅぅぅーーー!!!!! わかってはいるのです!! わかっては!! でも、でもこんなことってっ!!」

肝心の呼ばれた本人はアヒル座りでへたり込んでしまった。

顔も耳も著しく紅潮し、まるでのぼせ上がっているようだった。

湯気でも立ち上がりそうである。この見てくれながら滅茶苦茶ウブなようだ。

班のリーダーは実感こそないものの、乙女心にズケズケと踏み入るらしい呼び名に少し抵抗を覚えた。

思わずナッガンやラーシェの方を振り返ったが二人とも首を勢い良く縦に振っていた。二人は押し切っても問題ないと判断したようである。

こんな跳ねっ返りの性格だ。おそらく、しおらしく恥じらいがあるくらいでちょうどいいと思っているのだろう。

気乗りはしなかったが、アシェリィはへたり込む少女に追い打ちをかけた。

「そ……それじゃあ、よろしくね。ノワレ……」

エルフの少女は潤んだ瞳で見つめ返してきた。なんだか変な空気になったので頬を掻きつつ、目をそらした。

覚悟していたつもりだが、なんだかとんでもない班のリーダーになってしまったのではないだろうか。

かくして、アシェリィのパーティーは大海の荒波に漕ぎ出すようにして一歩目を踏み出した。

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