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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter4

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無差別無慈悲のT3D

廃墟中に大気を揺らすような人外の叫び声が轟いた。耳にしただけでその声の主が只者では無いことが伝わってきた。

アルルケンとイクセントは同じ方向を向き、直線上から聞こえてきた咆哮に身構えた。

その号哭ごうこくが終わるかどうかといったところだった。目にも止まらぬ速さでとある廃墟の屋根をド派手にぶち破って”それ”は正体を現した。

「グギャアアアアアアアアアアアッッッ!!!! グシャアアアアアァァァ!!!!!」

猛スピードで双頭のドラゴンが滞空している大狼に奇襲をしかけたのである。

地上の少年から見るとまるで二本の細い糸が規則的に絡み合うように、精密な軌跡を描いているのが見えた。

すぐに彼は舞い上がった怪物を観察し始めた。

遠目から見ても龍族であるという事がわかったが、眼の前に居るのはスタンダードなドラゴンとは随分と形状が異なった。

まず目に入ったのはツノだ。頭の何倍もの大きさのノットラント・ヘラジカのような鋭く巨大な二本のツノが生えていた。

あれだけツノが大きいと邪魔になりそうだが、2つの頭は絡み合いながらも常に腹部側を向かい合わせにするポジションを保っていた。

そのため、鋭利な部分は自然と外側になり、互いに先端が当たらないよううまく回っていた。

それにしてもあれだけグルグル回っていて目は回らないのだろうか。更に目線を胴の方へと移す。

ずっしりとした胴体は無く、龍というよりはまるで宙を舞う蛇のようである。ドレイクに似た体の造りだ。

一応、腕はついているが小さくて飾りのようなもので、脚は細い胴と一体化していた。

尻尾の方まで目線を移動させると先端は合流して一本の尻尾となっていた。

体の色は茶色く、まるで木の幹のようなウロコが体表にあるのが確認できた。

イクセントがひとまずの観察を終える頃には既に青灰色の狼と茶色い龍が互いの間合いに入っていた。

「……ぶつかる!!」

おそらく狼の幻魔は何かしらの対策をとるつもりなのだろう。だからか、いつのまにか熱湯の雨は止んでいた。

丸腰の少年は張り詰めた緊迫感を維持したまま物陰に隠れつつ上空を見上げた。

先程まで回転してモップのようになっていたアルルケンは雄叫び聞いたとたん、ピタッっとスピンを止めた。

「…………来やがったな!!」

人間が瞬くほどのわずかな間にその龍が目の前に迫ってきていた。

それを目視するでもなく、気配で捕らえた彼は逆さまになった状態で上空めがけて思いっきり水流を吐き出した。

その水流が強力な推進力となり、宙に浮いていた大狼は一気に大地へと降り立った。

背を地に向けたままかなりのスピードで地表に接近したが、彼はクルッっと器用に体勢を立て直して叩きつけられること無く、見事に四本足で着地した。

そして上を見上げて攻撃を空振った相手の様子を見ていた。

「空中戦も出来ねぇ事はねぇが、どっちかといえば俺は地上戦のほうが向いてるんでね。おたく、空中戦が得意みてぇだし無理に空でりあうこたねぇからな……」

そうつぶやきつつ、アルルケンは廃墟の地面を踏み鳴らして確かな感触を確認した。

その出会い頭の衝突を目撃したモニター室は静まり返ったが、我に返ったように情報解析が行われ始めた。

「あれは……ツイン・ツイステッド・ツリー・ドラゴン!! 通称、T3Dティー・スリー・ディーです!! 名の通り、樹木属性のドラゴンです。双頭の蛇がねじれるような形をしていますが、精神は一つなので互いにからまったり、衝突することはありません。そのコンビネーションを活かした攻撃が強烈です。また、噛まれたりツノで突かれると体の養分を吸われてカラカラになってしまいます!!」

画面を見上げるナッガンは華麗に天を舞う双頭の龍を凝視しつつ険しい顔つきをした。

「ふむ。ドラゴンの中ではお世辞にも位が高いとはいえないが、腐ってもドラゴンはドラゴン。相応の力は持っているだろう。それはそうと、あれはシャルノワーレなのだろう? 姿は大きく違えど、波長は変わらん。変身のアプローチが気になる。分析は?」

教授に尋ねられた補佐たちはすぐに分析結果をまとめてそれに答えた。

「はい。いわゆる変身術メタモーフォージスの一種かと思われますが、彼女自身の力で変態したわけではなく、木の実のような見た目のT3Dの卵を飲み込んで体内に宿らせて姿を変えているものかと……」

一同が直前に見た何かを飲み込む行為はまさにそれだったのだ。補佐は続けた。

「通常ならそんなことをすれば内部から臓物を食い破られて即死です。しかし彼女の場合はノーブル・ハイ・エルフですからドラゴンにとって大切な宿主と認識されて、相利共生関係になっているのかもしれません。ですからおそらくは不可逆変態ではありません」

報告を耳にしつつ、担任教授は眉間のシワをすこし緩めた。そして腰に手を当てて姿勢を崩し、思わずこもった力を抜いた。

「そうか。ならいい。生半可な使い手が変身術メタモーフォージスを使うと元の姿に戻るのに苦労するからな。聞くからに今回のケースは問題ないだろう。おそらく元の形は保持されている。もっとも、すっかり理性は失っているようだが……」

モニターの中では目標を失った龍がまるで糸を紡ぐような美しいラインを描いていたが、その軌道は滅茶苦茶だった。

再びその場の人間は龍に見入った。そんな中、ナッガンは一人、瞳を閉じて少しだけ物思いにふけった。

(俺はフェアリー・テイル……おとぎ話の類は信じぬほうだが、エルフの姫君が人里に姿現す時、厄災来たれりという話を海外で何度か聞いたことがある。杞憂に終わればいいのだが……)

まぶたをゆっくりと開くと彼は再びバトル・ロイヤルの立会人へと戻った。

攻撃を大きく外したT3ドラゴンは二頭が混じり合うような動きを見せつつ、すぐに向き直った。

そしてちゃんと狙いを定めるでもなく、すぐさま急降下した。そのまま、廃墟の建物をなぎ倒しながらアルルケンに喰らいついた。

ドラゴンの一つの頭の大きさはアルルケンの半分といったところだ。

だが、その双頭が互いに螺旋を描くような動きで迫りくるのである。

おまけに巨大なツノが計4本も伸びている。かなりの広範囲を巻き込んでの襲撃だった。

ドゴオオオォォォッッッ!!!! ガガガガガガ!!!!! ゴリゴリゴリゴリッッッ!!!!

万物をなぎ払いながら、木龍は蒼い大狼めがけて突進した。

T3Dの2つの頭は一糸乱れぬ動きでまるで駆動する豪華客船のスクリューのようになっていた。

回転する巨体がブゥンブゥンと鈍い風音を立てて目の前に広がった。

それに対し、アルルケンは迅速な対応を迫られることとなった。

(こりゃ巻き込まれたらミンチだぜ。それに、この感じだと当たれば体の水分を吸われる。部分的に体を凍らせばガードは可能だが、避けるにこしたことはねぇな。デカいツノのせいか、重心が横に偏ってんな……。それならッ!!)

「よっと!!」

青灰色の狼はふわっと羽根が生えたように軽やかにジャンプし、周囲を無差別かつ無慈悲に巻き込む突進をかわした。

それだけでなく、空中でひねり回転をくわえつつ上空から猛烈なブリザードを吹き付けたのだ。

吹雪は木龍の頭を上から押さえつけるようにクリーンヒットし、直撃を受けた双頭は地面に叩きつけられて大地を揺らした。

「グガガアアアアアアアアアアアアッッッ!!!! キシャアアアアアアアアアアァァァッッッ!!!」

頭同士のバランスが崩れ、互いのポジションはぐちゃぐちゃになった。

それでもなお地面を擦りながら勢いを止めずにT3Dはまた天高く上昇した。

まっすぐ垂直に上昇することによって昇りきる頃には既に元の綺麗なフォームへと戻っていた。

「チッ。コンディションの復帰が早ぇ。しかも表皮が厚くて冷気が通らん。表皮さえ突破できれば他の植物と同じく、容易くしおれるだろうが風穴を開けるのがちっとばかし骨だな……」

激しく打ち付けてそれなりにダメージが通ったように思えたが、何事も無かったかのようにドラゴンはまたもや地上の狼に狙いを定めた。

イクセントは少し離れた地点で慎重に戦いの状況を把握しようとしていた。

廃墟の向こうで激しい激突音と、建造物が壊れる音がする。

それに伴って激しい土煙があがった。ドラゴンが襲撃をかけるたびに小さな地震のような揺れが発生した。

暴れる桁外れの怪物達を目撃したイクセントは物陰から思い切り顔をしかめた。

「あのドラゴンはあいつが変身したのか!? それにしてもなんて無茶な戦い方だ!! 邪魔なものは手当たり次第に蹴散らすつもりらしい。見た限りあの二匹の攻撃を避け続けるのはどう考えても無理だ。不用意に近づくのは得策じゃない!!」

気づくと手が震えている。少年は激しい焦燥感に苛まれていた。

ここまで強力な相手が、しかも二匹も居るという状況下に置かれたのは初めてだったからだ。

シャルノワーレと同じく、自分を遥かに超える存在というのを認めたくないという気持ちが彼をかき乱した。

(くそっ!! 落ち着け!! 落ち着くんだ!! 感情的になったり、焦ったりして暴発するのは悪いクセだってさんざ指摘されたじゃないか!! そんな戦い方じゃ必ず命を落とすとも言われた!! 現に今回の戦いでも既にやらかしているし!!)

頭の中を目まぐるしく様々な事がよぎったが、小さな魔法使グリモアラーはうつむいてそっと瞳を閉じた。

そして、服ごしに取り戻したペンダントに優しく手を当てた。

彼はいつからか不安になったり、焦るとこうして気持ちを静めるようになっていた。

「……はは。笑っておくれよ。僕はいつもこうだ。何もあの頃と変わってやしない。それでも……それでも……生きている以上、立ち向かわなきゃいけないよね……」

ズシン!! ドドドドドド!!!!! ズガアアァァァァン!!!!

どうやら二匹が本格的な交戦状態に突入したらしい。

イクセントは大きく数回の深呼吸を終えると、今までが嘘のように凛として化物が跋扈ばっこする戦場に立った。
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