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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter4

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危険なサンドイッチ

緊迫したやり取りが続く中、モニター室はそれとはまた別の意味で混乱していた。

「先程から計器のミスかと思い、何度もチェックしているのですがやはりアーシェリィー・クレメンツの意識、呼吸の反応が全くありません!! それどころか、心臓も止まっている模様!! 狼の幻魔を召喚した直後からこの調子です!! バイタルサイン、ヌル!! ただちに収容する必要があります!!」

慌てふためく教師補佐たちにナッガンは迅速な指示をした。

「あれは……噂に聞く……。落ち着け。召喚術サモニング担当の教授をここへ呼べ。今すぐにだ。アーシェリィーもすぐに回収だ。もっとも、おそらくこうなってしまった以上、いつ回収しても大差は無いだろうがな……」

それを聞くと補佐の一人が座席から立ち上がって専門の教授を呼びに部屋の外へと駆け出していった。

「アーシェリィー、治療室に収容しました。なお、空間を隔てていても召喚した幻魔はいまだ健在です!! 契約した分のマナが切れるか、本人が満足しない限り、幻魔は消えないのではないでしょうか……?」

それを聞いたクラス担任は目を細めてモニターを見た。画面には青灰色の大きな狼と、片腕を突き出す少年と、うつ伏せのエルフが映っていた。

「そこは専門家に任せよう。アーシェリィーを回収した以上、我々のやるべきことはあとの戦いを最期まで見届けることだ。まだ終わっては居ない。あと数回、衝突があるはずだ」

付き添いの女性は気づいた。彼が渋い顔をしていることを。自分の手が及ばない事に不甲斐なさを感じているといった感じだ。

同時に明らかに割り切れない事が起こっているといった表情である。彼女は無性に嫌な予感がして、ナッガンに伝えた。

「先生、私、アーシェリィーの様子を見に行ってきます!!」

そう告げて彼女はモニター室を出ていった。再び一同の視線が仮想空間内の廃墟へと戻った。

イクセントはシャルノワーレの足の裏にガーデニング用の呪文でアクセスし、ブリザードで不随になった彼女の半身を修復していた。

霜にやられた植物を再生させる要領で壊死した部分を回復させていく。

指先をピンと伸ばしたまま、手首をクルクルと微調整しながら回してエルフの体内を進むようにして治癒を続けた。

「くっ……余計なマネをっ……!!」

せっかく助けているというのに、相手の露骨に拒絶する声が少年の耳にハッキリ入った。

もっとも、完全に体をいじくりまわしているような行為なのでそういった意味で拒絶されるのも無理はないのだが。

(僕だってお前なんか助けたくもない!! でも、僕一人じゃとてもじゃないけどこの蒼い狼には敵わない!! それならこいつの気を分散させる"的"が一つでもあったほうがいいからやっているッ!!)

少年もいつのまにか彼女のように嫌悪感に満ちた表情へと変わっていた。

その時、治療していたイクセントの指がピタリと止まった。そして、指先がかすかに引っ張られているような感覚に見舞われた。

やがて指先が誰かに引っ張られるように動き出した。

(くっ!? スペルハッキング!! 呪文が、ハックされている!!)

そう言うと同時に彼は思いっきり腕を振り抜いて発動している黒いツタの呪文を自分から切り離した。

一瞬、自分とエルフの少女がシンクロした。異種間でのシンクロだったので抵抗が大きく、イクセントは強いめまいがした。

そして眉間に指を当てつつうつむいた。ほんの少し、シャルノワーレの思考が流れ込んできた。

(あいつ……僕の呪文を奪い取ってもう自分で組織を修復している……。おまけにアレを利用してしかけるつもりだな……。ならば、狼の気を、逸らすッ!!)

目をつむって頭を思いっきり左右に振り記憶の残り香を吹き飛ばすと、丸腰の少年はポケットからこっそりコインを取り出した。

それを手に掴んだまま自分と、エルフの少女の間に位置するアルルケンに悟られないように背中に回した。

(行け……大地と鉱物のエレメンタルをかき乱しながら進め!! メトロ・チューニー・トゥープッッッ!!)

イクセントは軽くサソリの描かれたコインを握ってエンチャントするとそれを地面に落とした。コインは無音のまま、硬い廃墟の路面に吸い込まれていった。

そのまま、コインは猛スピードで背を向ける狼めがけて向かっていった。

狙われたアルルケンはというと、復活しつつあるエルフの少女を手持ち無沙汰に眺めていたが、ピクピクと耳だけが反応した。

出来る限り静かに、気づかれないように奇襲を仕掛けたはずだったが、接近する前に相手に察知されたようで少年は舌打ちした。

(チッ!! そう簡単にはいかないかッ!!)

狼はエルフの少女を視界に捉えながらまたもや耳をパタパタとさせ、そして自分の足元に目線を移した。

(ほぉ……。マナ不足を占術用のコインで補ってくるか。魔術用でなく、あえて占術コイン、しかもスコルピオとはなかなかいぶし銀なチョイスだぜ。俺の耳を持ってしてもかすかな音しか聞こえねぇ。やる気になりゃ並みの人間相手ならまず気づかれねぇで暗殺可能だ。かなりの完成度だぜこれは)

アルルケンは嬉しそうに尻尾を振って地中に潜む物の動きを聴覚を交えて洞察し始めた。

カリ……カリカリ……カリカリカリカリカリ………………

(地面を掘って進んでやがるな。ただ、闇雲に掘っているわけじゃねぇ。硬貨で直接襲撃をかける事も出来るはずだが、そういった様子でもねぇ。ということは……)

カリカリカリカリ……カリカリカリカリ……カリカリカリ……

大きな狼はその場で少年の方へ振り向き、シャルノワーレに背を向けた。

そして耳をそばだたせつつ、地中の硬貨の動きを目で追った。まるで本体が見えているかのようだ。

一方のシャルノワーレはイクセントからぶんどった黒いツルを自分の支配下に置き、あれこれ命令を出していた。

(ああ!! この感触、気持ち悪っ!! 腰のとこまで来たわね。あと少し上まで修復なさい!! あの小賢しい獣に気づかれないように……絶対にあいつは討ちますわ!! 体の中心からお腹に移動して、そしてああして、こうして……うぐぐぐぐ…………)

アルルケンはチラリと少年の方を一瞥してしたり顔を見せた。

(どうやって察知してんだって顔だな。小僧、こういうのはな、マナの反応だけ追うんだぜ……魔法円の構築完了まで3・2・1……)

気づけばアルルケンの地下でコインが術式らしき文様を刻んでいたのだ。それが終点に達するまであと数秒といったところだった。

(くっ!! 完全に読まれている!! だけどッ!! 憤怒の鉱輝こうきッ!! テール・ラント・フューリィ!!)

コインの主は詠唱しながら背中の後ろで指同士をかるく弾いた、

その刹那、キラキラと輝く鉱石の塊が無数に地上に隆起した。その勢いと衝撃で地面は地震のように少しの間、揺れた。

広めの範囲に鉱石は突き出した。どれも先端は尖っていて、日光を浴びてキラキラと金属の輝きを見せていた。

(ほれ来やがった!!)

案の定、狼は身軽にジャンプし、この攻撃を軽やかにかわした。

彼がジャンプした直後、シャルノワーレはうつ伏せの腕を跳ね除けて起き上がり、片足立ちの姿勢を取った。

手には体に侵入していた黒いツタを腹部から抽出して硬化した枝が握られている。

そして美しい水色の長髪をかき乱すとそこから一本、毛髪を抜き取った。

その毛に魔力を込めると枝にくくりつけて思いっきり張った。すると即席の弓が完成した。

「見てくれは悪いけれど、これでも立派な弓でしてよ!! 獣風情を仕留めるには十分すぎるくらいですわ!!」

彼女は片手で弓を構えつつ、開いたほうの手で背中の矢立に入った矢に触れて3本の残りがあることを確認した。

この組立は流れるように素早く行われた。故に、ターゲットがまだ滞空しているうちに発射可能な状態になった。

すかさず矢を抜いて袋から種を取り出し仕込み、構えた。

シャルノワーレが狙いを定めている時にイクセントに動きがあった。

その事に早く気づいた弓の射手は発射姿勢を一旦解いて、出方をうかがっていた。

そして再び弓を引き絞り直して今度こそ確実に命中させられるタイミングを見計らった。

少年の方は初撃が回避されるのはある程度覚悟していて、その上でさらなる追撃をかけたのだ。

(かわされた!! だがこれならッ!! 常勝の証ッ!! ヴァンクーラー・オベリスクッ!!!!)

グッっと拳を握って力を込めた。すると、キラキラ光る鉱石の群れの中から一箇所だけピンポイントに先の尖った部位がせり上がった。

まるで針のようなそれは狼の腹を下から貫かんと急激に天高く伸びた。

(二段構えか!! そう来ると思ったぜ!!)

これを先んじて予測していた獣の幻魔は尻尾を思いっきり振って反動を付け、空中で体をうまい具合によじった。

シュッッッ!!

脇腹のほんの数センチ横を上昇するオベリスクがかすめていった。

彼は体勢を大きく横に傾けてこの攻撃を狙い通りに回避したのだった。

「良い攻撃だ!! だが俺にゃあ当たんねぇぜ!!」

だが、攻撃はそれで終わらなかった。エルフの少女はアルルケンの無理な姿勢変更を見逃さなかった。

呪文を避けはしたが、流石にあそこまで崩れた体勢から狙撃が回避出来るとは思えない。それも、ただの狙撃ではない。

「喰らいなさいっ!! 文字通り、蜂の巣にして差し上げますわ!!!! アウェイキング!! ハニカーム・マローネ!!!」

ビシュンビシュンビシュンッッ!!!

彼女は一発の矢を放つと、横にローリングしながら立ち位置を変えた。

そして更に連続で二、三発目と続けて矢を放った。それぞれ絶妙に角度に差をつけて相手が避けにくいように仕組んだ。

すぐに矢の先についた種が空中で発芽した。種から実った栗の無数のトゲが空中の獣の幻魔を一斉に襲った。

まるで意志を持つかのようにそれらは一直線に彼を穴ボコだらけにしようと突撃していく。

苛烈な弾幕の如きトゲの軌跡に今度こそ勝利を確信して少女は人差し指を天に掲げてガッツポーズを取った。
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