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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter4

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ガキの喧嘩は両成敗

周囲の気温はかなり高温になったが、とどまることを知らず熱気は加速していく。

そんな中で、アシェリィはなんとか動ける状態を保っていた。

しかし、目を開こうものなら痛いほど熱いし、吸う息は胸を焼いた。

直接イクセントのターゲットにこそなっていないものの、彼女もとばっちりで重症を負うレベルだった。

目を細めながら再度シャルノワーレの様子を見るといつのまにか体をすっぽり覆うような肉厚の葉っぱのシールドを展開していた。

だが相性が悪いのか、盾は既にチリチリと燃え尽き始めている。あれではとてもではないがこれから放たれる呪文には耐えられそうにない。

こんな時、こんな時に強力な水があればとアシェリィは思った。

熱さをこらえながら地べたに置いたカバンからサモナーズ・ブックを引きずり出して、うつ伏せのまま開いた。

「えっと……え”え”っと、ゴホッ、ごふっ。ランフィーネじゃあ力不足だし……。えっと…………あっ!!!!!」

焦りながらペラペラとページをめくる少女は閃いて、最後のほうの頁にある極めて複雑な魔法円のところを開いた。

「アルルちゃんなら……ごほ、もしかしたら…………アルルちゃんなら……」

集中力がかき乱される環境にあったが、修行を積んだ召喚術師の少女はうまい具合にコンセントレートをやってのけた。

ページの魔法円に手をかざすと陣の図形や不可思議な文字が美しい蒼色に輝き始めた。

(アルルちゃん!! アルルちゃん!! 大変なんだ!! このままじゃ、このままじゃエルフの子が死んじゃう!! 助けなきゃ!! お願い、出てきて!!)

その呼びかけに使い魔はすぐに答えた。頭のなかに響くような不思議な、それでいて聞き慣れた声が聞こえてきた。

(おい。言ったはずだぞ。俺はもう”打つ手がない時”に呼び出せって言ったよな? お前、別にこの攻撃じゃ死なねーだろ。お前自身に命の危機はねぇ。それに、どうせこれは模擬戦だ。あすこのエルフの小娘だって安全なとこにテレポートされるだろ)

酷く落ち着き払って、まるで他人事のように呆れたような彼の声がひどくアシェリィの癪に障った。

「ふざけないで!!!! 模擬戦だかなんだか知らないけど、人が死にそうなんだよ!? それを見過ごせっていうの!? そんなの絶対間違ってるッッッ!! あとは私はペンダントの事も気に食わないの!!」

明らかにキレたあるじを前にしてアルルケンは冷静だった。百戦錬磨のリアリストらしい対応だとも言えた。

(まぁ落ち着け。この契約内容じゃ1回しか呼び出せねぇし、本当にまずい時に呼ぶべきだ。そもそもお前の体にかかる負担もどれくらいになるかわからん。こういうのはもっと考えてだな……)

彼の説得は完全に頭に血がのぼったあるじの前では意味をなさなかった。

召喚術の使い手はアルルケンのページを握りこぶしで思いっきり叩きつけて詠唱し、そして”命令”した。

「アルルちゃんのわからずや!! 我が名によって命ずる!! 幻魔アルルケンよ。我が契約においてペンダントを持ち主へと取り戻し、”この戦いを終わらせ”よ!! ブレイク・ザ・レイクズ・シール!!!! ウルトラ・レイク・ブルー!!!! アルルケン!!!!」

ザブーーーーン!!!! ボコボコボコボコ…………

召喚の契約が終えた直後、アシェリィは不思議な感覚に包まれていた。

今まであれだけ熱かったのに、熱を全く感じない。それどころか、目を開けるとそこは水の中だった。

だが、冷たいわけでも、体が濡れるでもない。息も苦しくはない。

そのまま、ゆっくりと彼女は水の底へと沈んでいった。

「やれやれ……。んじまったか……。こいつ、普段はおっとりしてるクセして、ここぞと言う時に爆発して、平気で無鉄砲なことやりやがる。まぁ今に始まったこっちゃねぇか。これを”性分”の一言で片付けるのは酷か。だがそれも課せられた運命。自分で突破するっきゃねぇからな……さて、契約は契約だからな」

様子を見守っていたモニター室は大騒ぎだった。発射推定残り10秒を切って助手たちの悲鳴じみた報告が重なった。

「シャルノワーレ、チョスイツユクサの葉の盾を展開していますが、無理です!! シールドが水分ごと蒸発!! このままでは盾ごと本人も蒸発してしまいます!!」
「まだイクセントの呪文の威力上がります!! 炸裂すれば小さい山を吹き飛ばすレベルの魔法です!!」
「アーシェリー、うつ伏せになったまま動きません!! 直撃は回避できそうですが、熱と衝撃で大ダメージは免れないでしょう!!」
「こんな……こんなのって…………」

ただ一人、ナッガンだけは無言のまま腕を組んで、どっしりと画面を見つめていた。発射3秒前まで待つと宣言したまま、彼は一言も発さなかった。

残りあと7秒といったところだろうか。アシェリィの傍らに3m前後はあろうかという美しくやや青みがかった青灰色の大狼が出現していたのだ。

「…………来たか。シャルノワーレの転移はいつでも出来るようにしておけ」

「破壊呪文、止まりません!! 発射まで3、2、1!!」

教授助手のカウントダウンが終わり、ついにイクセントの掌から火球が打ち出された。

それを止めるものは誰もいない。そう皆が思った次の刹那、咆哮が廃墟にこだました。

「ガアアアアアアアアアアアアァァァッッッーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

プロミネンスのように荒ぶる火球にアルルケンが口から放った透き通る清い水の珠が飛んできてぶつかったのだ。

高熱源体とそれを鎮静する水のぶつかり合いで軽い水蒸気爆発が起こった。

本来ならこの程度では済まずにあたり一面が吹き飛ぶはずだが、うまく水側が勢いをいなして爆発を最小規模に抑えたようだった。

あたりは小爆発で大きく振動した。そして行き場を無くした水分がザーザーと音を立ててあたりに土砂降り雨のように降り注いだ。

「助かり……ましたの?」

シャルノワーレは立膝を着いて崩れかけの葉っぱ越しに相手の方を見た。どうやら火傷はまだ行動可能な程度にしか負っていないらしい。

彼女は現実味離れた威力にボーッとていた。それにまだ何が起こったのかいまいち把握しきれていなかった。

直後、腰にわずかな違和感を感じた。ペンダントを入れたはずの革袋が無くなっていたのである。

辺りを見渡してもどこにもない。他の袋は腰から下がったままなので、あれだけ無くなるとは考えにくいのだが。

ふと顔を上げると大きな狼が目の前に居た。これだけ大きいのに全く気配を感じ取ることができなかった。

よく見ると狼は口に革袋を咥えていた。

「お嬢さんよ。泥棒はよくねぇよなぁ? ほらよ。あんたの革袋と中身の種は返すぜ。俺は誰かさんみたいに盗みなんてしねぇんでな。ただし、ペンダントはもらっていく。これはアンタのもんじゃねぇよなぁ?」

そう言うと彼は革袋だけを投げてこちらによこした。

最初はただただ圧倒されるばかりだったが、命がけで獲ったペンダントを奪われたことにエルフの少女は無性に腹が立ってきていた。

次に狼は丁寧に口にアクセサリーを咥えたまま、精根尽き果てた様子で立ち尽くすイクセントの目の前に立った。

「ほれ。こんな大事なもん、無くすんじゃねぇぞ。おっと、わかってるとは思うが、感極まって握ったりするなよ? ペシャンコになっちまう」

アルルケンは優しく少年の両手に大切な大切なペンダントを渡した。

「あ……あ、ありがとう…………」

ペンダントの持ち主はびっくりしていたが、手元に大事なものが戻ると柔らかにそれを包んで胸の前にあて、瞳を閉じた。

大狼はペタペタともと来た方角へ戻って、イクセントとシャルノワーレの間に立った。

「さて、これで一件落着……といいたいところなんだがな、残念ながら俺が受けた契約は”戦いを終わらせよ”って内容だ。残念ながらマスターはおねんねなんでな。”どうやって”戦いを終わらせるかの裁量は俺に委ねられてるってわけだ」

二人の視線を受けつつ、それに答えながらアルルケンは続けた。

「ペンダントの件は解決したし、これで平和的解決だな。戦いはおひらきだ」

その言葉に対し、二人が次の反応をする前に立て続けに彼は言い放った。

「……とでも言うかと思ったか!? こンの馬鹿どもが!!」

思わずこの態度の豹変にその場は驚きに包まれた。

「あのなぁ、おめぇらはいいかもしんねーが、俺はすげーアタマに来てんだぜ。あるじは好き勝手言い放題のまんまノビてるしよ。せっかく貴重なマナを使って喚び出されたのに何にもしないまま帰るってのも契約に反するしな。よって、俺はお前らを二人揃って……”半殺しにして戦闘不能”にすることにする。完全に八つ当たりだが、ふざけんなよなマジで……」

声を荒げはしないものの、静かな口調の中からハッキリとした憤怒と敵意がピリピリと感じられた。

イクセントとシャルノワーレはこのプレッシャーで我に返った。

いつまでもボーッとしていたら”殺られる”と肌で感じ取ったからである。

「おめぇら覚悟しろ。歯ァ食いしばれ。ガキの喧嘩は両成敗だ……」

蒼い狼は牙をむき出しにしながらそう告げた


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