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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter4

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風の滝に抗う魚

シャルノワーレとガリッツの激しい衝突を密かに観察していた者が居た。アシェリィである。

彼女は師匠であるオルバから教えてもらっていた召喚術師サモナーの集団戦における戦法を思い出していた。

―――いいかい、アシェリィ。確かに召喚術師はむやみに正面切って戦わずに、隠れながら漁夫の利を狙うのがセオリーだ。でも相手が全滅するまで隠れていればいいかというとそうではない。もし、最後に残った一人の実力が高かったりすると、むこうが疲弊していても勝てないことがある。そこでだね―――

「出来るだけ他の人の戦いを観察して、様子をうかがって、最善と思われるタイミングで、戦いに乱入……かぁ。ベストなタイミングって言っても。師匠せんせいは簡単には言ってくれるけどうまくいくかなぁ……」

アシェリィは難しそうな課題に直面してどうしたものかと無意識に頭を掻いた。

サモナーの少女はカブトムシザリガニの化物に襲撃された時に樹液の涙を流すむせびのマリヴェルを喚び出した。

ホウキの少年は速すぎて追いかけるどころではなかったが、ガリッツの足の速さなら余裕で追跡出来ると思えた。

だが、あまり近すぎると発見されてしまう。そこで、不死属性の骸骨犬、バルクも喚び出し樹液の臭いを探らせて距離を保ったまま亜人を追跡したのである。

生身の体は朽ちていても、犬としての機能は健在なのだ。

その結果、彼(?)がイクセントとシャルノワーレと立て続けに交戦するのを目撃することとなった。

化物亜人と、エルフのお嬢様の戦いは高い廃墟の屋上に伏せながら覗き込むようにして見ていた。

石に擬態するコロロッカの能力は廃墟の街と非常に相性がよく、激しく動き回らなければ肌を覆って気配を押し殺すことが出来た。

さすがにシャルノワーレが一気に昇ってきた時はまずいと思ったが、看板止まりで屋上までは来なかったので見つからずにすんだ。

なんとか計画通りに戦況と班員の実力の一部を見ることが出来たというわけである。

しかし、どちらの戦いも恐ろしくハイレベルで、まともにやりあったら勝てないとアシェリィは確信した。

少なくとも今の実力では師匠の教え通りに奇襲をかけ、引っ掻き回して勝利をかっさらうしかない。

優勝にこだわるわけではないが、やるからには勝ちたいし、負けて痛い思いをするのは嫌だなと彼女は思っていた。

そうこうしているうちに、とんがり耳の少女が看板から飛び降りるのが見えた。

再び屋上のふちから下を覗くと彼女は不機嫌そうに喋った。

「あーあ!! もうッ!!! もう記憶メモリー色褪いろあせてきてしまいましたわ!!!! こんなもの、もう使い物にならなくってよ!!!!」

そう言うと彼女は不意に腰のホルダーを外してメイスを地面に投げ捨てた。

ズシンと音を立ててメイスは地面にめり込んだ。よくあれだけ重いものをよく持ち運んでいたものだ。

とはいえ、今までの身のこなしを見るからに装備しているうちはあまり重量が関係ないようにも思えたが。

それにしてもこのシャルノワーレという少女は独り言の多い人物だなと思えた。クセなのだろうか。

まるで考えていることがそのまま口に出ている感じである。あまりにペラペラしゃべるのでメイスの効果やシードアウェイカーの能力についてもわかってしまった。

なんだか損な性格だなと思いつつ、今度は対象を変えてアシェリィは石のウロコが剥げないようにソロリソロリと後をつけた。

廃墟の階段を慎重かつ素早く降りた。建物の脇には直立不動で完全停止ししている甲虫ザリガニの躰があった。

びっしりと白い双葉の小さな芽が生えている。まるで本で読んだ冬虫夏草だななどとそれを横目に捉えつつ、その場を後にした。

(えっと……私が一番最初に見つかっちゃったのはフォリオ君、そして次にみつかっちゃったのはガリッツ君、そのガリッツ君に攻撃を仕掛けたイクセント君……そしてさっきの戦いで見たシャルノワーレさん……。確実にKOされたのはガリッツ君だけだから、まだ4人残っているのかな……)

あれこれ考えを巡らせていると、目の前に高い見張り台のある廃墟がある事に気づいた。

通常の建造物の一部として塔のような見張り台がついた造りとなっている。そこは視界がよく、支柱以外には障害物が無かった。狙撃にうってつけのポイントである。

大きな弓を背負った少女はその廃屋へと入っていった。この塔は遠くからでも視認することが出来たので、さっきから彼女はここを目指していたのだろう。

さすがに同じ場所に登るとこちらの存在がバレてしまう。アシェリィは辺りを見渡して少し離れた高い建造物を見つけた。

そして素早く外付けの階段を駆け上がるとその建物の屋上の塀の裏に隠れた。

まだ擬態効果は続いているので、他の方向から見られてもすぐには発見されないはずだ。

しばらくの間、チラリ、チラリと屋上の塀の陰から覗いていると動きがあった。

見張り台の上の少女が弓を構え始めたのである。だが、誰を狙っているのかわからない。慌てて辺りを見回すとちょうど自分と彼女の間の中間の路地に誰か歩いていた。

群青色の髪、白いシャツに学生服のズボン、腰には剣をさしている。先程、甲虫亜人に剣技と呪文をおみまいしたイクセントだ。

気配を殺して塔の上から獲物を狙う狩人の視線には全く気づいていないようである。

彼は塔とアシェリィのいる建物の間の通りをとぼとぼと歩いていた。

このままの進路でいくと、塔に背を向ける形となる。そうなれば狙いを定め矢を真後ろから食らうことになる。

傍観者は迫るその時を手に汗握り、固唾を呑んで動向をうかがった。

数分もしないうちにイクセントは通りを横切って、完全に無防備な背を晒した。

一方のシャルノワーレはすでに狙いを定めて弓を引き絞り、今にも発射するといったところだった。

ビシュッ!!

弓のつるの跳ねる小さな音が微かに聞こえた。放たれた矢は猛スピードで丸腰の少年めがけて襲いかかった。

これは脳天直撃ルートだ。思わずアシェリィは目を背けそうになったが、彼は常識ではありえないの反応を見せた。

矢をすんでのところで軽く横っ飛びして回避したのだ。背中に目でもついているのだろうかとさえ思えた。

アシェリィはあまりの驚きで思わずあんぐりと口を開けた。それはシャルノワーレも同じで、少しの間、動揺しているようだった。

攻撃を受けたイクセントはキョロキョロと周りの様子をうかがってどこから撃たれたのか探りはじめた。

まだ位置が特定されないうちにエルフの射手は容赦ない追撃の矢を数発打ち込んだ。

さきほどのガリッツの戦いの射撃精密度なら絶対に彼の体を複数の矢が貫いている……はずだった。

何とその少年は軽くステップを踏みながら全ての矢をかわし、さらに器用に少しずつ方向転換してを塔の上のスナイパーを正面に捉えた。

イクセントは眉を潜めて矢の発射源を睨んだ。

「ふん…………陰湿なマネをしてくれる……」

素早く剣を抜くのが離れた二人からでも確認できたが、この距離で剣を抜いたところでどうなるのかと二人とも思った。

直後、彼は剣をその場で大きく振った。

「絶空・蒼鋭断ッ!!(ぜっくう・そうえいだん)」

次の瞬間、見張り台の上部が斜めにズルズルと滑り落ち始めた。

見た目からするとかなり堅牢な鉱石で出来ているようだったが、なんとそれを離れた位置から一刀両断したのだ。

塔のてっぺんが崩れ落ちるかどうかといったタイミングでイクセントは追撃の一手を打った。

剣を持たない方の左腕を天高く突き上げたのである。

「風登りのますの如き衝風しょうふうを今ッ!! ウィーニディ・トリュイト・アップドラフトッッッ!!!!」

彼は握っていた手をパッっと開いた。すると今度は斬撃波が形を変えて見張り台の下に回り込み、無数の気弾となって一気に上昇した。

目に存在が見えるほどの強いマナの気弾がシャルノワーレのいるはずの塔を真下から襲撃した。

ガキンガキンと鉱石が砕ける音がこだました。まるで生物の群れが舞い上がるように建造物全体を激しく殴りつけていく。

もし、こんな攻撃が直撃したら骨は当然折れるし、内臓にも著しいダメージを受けるだろう。

いや、相手やあたりどころが悪ければ絶命する可能性もある。

アシェリィは初めて見る高度な攻撃呪文の強烈とプレッシャーに恐怖を覚え、その場にしゃがみこんでしまった。

気弾の群れは塔の上部を破片にしてそのまま巻き上げていく。見張り台が元あった高さからぐんぐん上昇していった。

粉々に瓦解する塔を見上げながらイクセントはゆっくりと剣を鞘におさめた。
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