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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter4

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ふゆむしなつくさ

シャルノワーレが殺人メイスによる襲撃を仕掛ける少し前のことだった。

彼女は二発の強烈なパンチを腹部と顔面に受けてボロ雑巾のように地面を擦りながら激しく転がっていた。

腰の大きなメイスが重りとなって派手に四肢を振り回されて体を打ちつけながら長い距離をふっとばされていく。

荒い路面がまるですりおろし器のように働いて彼女の体は傷だらけになっていった。

やがて勢いが止まるとエルフの少女は体を投げ出すように仰向けになった。ぐったりと体を横たえ、微動だにもしなかった。

それを別室でモニターしていた教師補佐の一人が報告した。

「シャルノワーレ、外殻、内核共にかなりのダメージを受けています。今はまだ致命傷とまではいきませんが、このまま処置を施さないとやがて命に関わります。KO判定で収容しますか?」

それを聞いていたナッガンは状況を眺めながら首を横に振った。

「いや、まだだ。よく見ろ。あれはまだ闘う意志を秘めている者の瞳だ。もう少し様子を見る」

傷だらけの少女はぼんやりと宙を眺めた。やや曇りがちの空に、壊れて何の看板だかわからなくなった大きな残骸が吊り下げてあるのが目に入った。

「こ、こんなわけのわからない場所で力尽きるなんて……、ありえない。ありえない。ありえません……。ありえませんわッ!!」

彼女は力を振り絞って右腕を持ち上げた。手は自分の透明感のある浅葱色の液体でベッタリ濡れていた。

出血、というか相当量の体液が流出してしまっているようだった。

痛みをこらえながら持ち上げた右手を腰のメイスに添えて目をつむった。そして大きく深呼吸をして精神を集中させた。

―――神は例え罪人であろうと正直者には寛容であらせられる。だがなぁ、貴様のように真実を明かさない者には必ず神罰がくだるのだッ!!!―――

ボグシャアァァッッッ!!!!

―――ほぉ、仲間を売るのか。とんだ売女だな。お前が救いを求め、そうやってどれだけ吐いたところで、貴様の罪が覆って誅伐されないなどということはありえんのだ。お前は仲間を売ったのだからな!!!―――

グシャアアアッッッ!!!

WEPウェップメトリー、つまり武器の記憶を読み取ったシャルノワーレは目をゆっくり開いた。少しずつ全身の傷が癒えてきていた。

(R.I.P……レリーフ・イン・ピース……平穏でおおいなる救済!!)

みるみる傷は塞がり、体液も再び体に満ちてくるのを感じる。どんどん力が戻ってくるのを実感できた。

おそらく、あのカブトムシザリガニが追撃にやってくるだろう。ゆっくりしている暇はないと息を吹き返したエルフは腕を突っぱねて反動をつけて跳ね起きした。

そして素早く殺人メイスを握って曲がり角の壁の陰に張り付いた。

(それにしてもこのメイスのメモリーはいつ見ても反吐が出ますわ!! どこが撲救ぼくきゅうなのかしら!! ただの拷問好きのサディストでしてよ!!)

そうこうしているうちにズシリズシリと重々しい足音が迫ってくるのがわかった。このままなら出会い頭にメイスで相手をぶん殴れるはずだ。

ガリッツと交差すると同時にシャルノワーレは思いっきり殺人メイスを振り抜いた。

「クリーーーーンヒットォォォォォ!!!!! いただきましたわーーーーーーーッッッ!!!!」

勝利を確信した雄叫びとともに禍々しく、ゴツゴツしたメイスが相手の頭部めがけてスイングされた。

メリッ、メリメリッ!! メキャアァァッッ!!!!

その一撃は確かに直撃し、金属をたたき潰すような鈍い音がした。

これに手応えを感じてメイスの主は笑みを浮かべ、軽く拳を握ってガッツポーズをとった。

直撃を食らった甲虫ザリガニはゆらりとのけぞったかと思うと、そのまま仰向けに倒れ込んでしまった。

ズシンッ!!

エルフの少女は水色にキラキラ輝く長髪をかきあげて、メイスを腰のホルダーにおさめた。そして自分の唇を親指で触って滴る体液を拭った。

「ふぅ。よくもわたくしの顔に狼藉を働いてくれましたわね。貴方がその不細工なお顔に報いを受けるのは然るべき事でしてよ。それにわたくし、たしかに言ったはずですの。このメイスは元は教会関係者のもの。治癒魔法も使えましてよ。あのくらいのパンチなら短時間での治癒が可能ですのよ!! あらあら、貴方は卑しい亜人ですから、言葉が伝わってなかったのかしら!! オーッホッホッホッッ!!!!」

いかにもお嬢様といった高笑いが廃墟にこだました。彼女は満足げな表情で勝利の余韻に浸りながら倒れた怪人の様子を覗き込んだ。

ツノは健在だが、人間のおでこと顔面にあたるであろう部分が大きく陥没していた。この生物の構造はよくわからないが、致命傷を与えた感触はあった。

ついでに頭の天辺から尾っぽの先までの各部位を観察しつつどれくらい損傷しているかを確認した。

よく見ると強固なのは背中だけでなく、腹の部分も頑丈そうな殻で覆われている。

腹部は甲羅に覆われていないように見えたがしっかりガードされている。これでは攻撃は通らないだろう。

怖いもの見たさで彼女はガリッツの体の構造を近くで観察した。

「ふ~ん……体の作りはムシに近いんですのね。それにヒドイ臭いですわ。ドブ臭い。いきものが腐ったような臭いがしますわ……」

更に見ていくと全身のあちこちにひっかき傷やへこみがあったので既に他の班員と交戦しているものと思われた。

だが、その割には素早い動きだった。まるでさほどダメージを受けていないかのような……

シャルノワーレがつま先立ちで深く覗き込んだその時だった。

ビシュウウウッッッ!!!

KOしたはずのガリッツがハサミをパカッっと開いて突如ビームを発射したのだ。

「ひッッッ!!!」

急な出来事だったが、覗き込んだ少女は素早くのけぞったのでなんとかその攻撃をかわした。

彼女はすぐに臨戦態勢をとって仰向けのままの怪物に向き合った。

「ありえない……ありえないですわ!! あれだけ思いっきり殴り飛ばしたのにびくともしてないですって!? あー、もう、しつこい殿方……いや、しつこいムシは嫌われますのよ!!」

その罵声と共にガリッツは羽を羽ばたかせて瞬時に立ち上がった。そしてまたもや両手の真っ赤なハサミを突き出した。

レーザーが来ると少女は美しくとんがった耳をピクピクとそばだたせた。

あの速さの光線を受けたらとてもではないが回避することは出来ない。

彼女は焦燥感と恐怖に駆られたが、うまく押し込めて次の策を練った。

感情に支配されそうになっても、それを押し殺して動けるというのは優れた戦闘センスという他なかった。

化物亜人は真っ赤なハサミの位置を微調整してこちらを狙っているようだった。おそらく次は弱い部位を確実に狙い撃ちしてくる。

狙いを定めている隙に素早くシャルノワーレはいくつかある腰に下げた革の小袋の一つに手を突っ込んだ。

そして何かを無造作につまみ上げるとそれをギュッと握って足元に落とした。。

それとほぼ同時に熱線のレーザービームがドブ臭い生物から発射された。

一直線にエルフの少女めがけて飛んでいったが、ほんの少し彼女の速さが上回った。

「これで十分!!! 目覚めよ!! ゴブリン・ビーンズ!!」

地面に落ちた”豆”が急激に成長し、種を目覚めさせた者を下からグイーッと押し上げたのだ。

メイスの重さも含めると彼女の体は相当重かったが、とても植物の力とは思えない勢いで地上高くまで上昇した。

「よっと!!……ですのよ!!」

伸びた細い豆の木からシャルノワーレは先程、目についていた看板に飛び移った。

看板部が壊れてはいるが、骨組みはしっかり残っているし厚みもある安定した足場だ。

一方のガリッツはどうしたことか、光線を彼女めがけて撃ってこない。

その様子を見た少女はしてやったりと笑みをうかべた。

「さっき見ましたけど、貴方、体の構造的に上を向くことが出来ないのがバレバレですわ!!! だから、上方向には光線を放てなくって!? なんとまぁ惨めですわね!!!!」

これは図星だったのか、足元の怪人はツノと触覚をヒクヒクさせているだけで攻撃をしかけてこない。

おそらく高いところへ飛行することも出来ないのだろう。

攻撃をやり過ごすことは出来たが、少女は苛立っていた。

「あーーーもう!!!! 種を解き放つシード・アウェイカーまで使ってしまいましたわ!!!! こんなに能力を使ってしまうなんて!!! 本当に屈辱的ですわ!!! こんな連中相手に!!! もう、ほんっっっっとに調子が狂いますわ!!!!」

弓術の使い手はお得意の大きな弓を背中から外して怒り混じりに足元のモンスターを狙った。

矢を構える前にまたもや革の小袋から種をいくつか取り出した。

「外からがダメなら内側からですのよ!!!!」

そういいつつ片目を閉じて狙いを定めたエルフは早業で弓を4~5発連射した。

飛んでいった矢は見事に全弾命中した。甲羅に弾かれることもなく、スッっと全てが刺さった。

だが、怪虫はびくともしない。装甲が薄そうなところを狙ったが、この程度ではまだダメージが少ないらしい。

矢が刺さったまま、ターゲットは看板の下をウロウロして攻撃のチャンスをうかがっている。

シャルノワーレも看板の上でしばらく様子を見ていたが、戦況はそうしないうちに動いた。

ガリッツの動きが徐々に緩慢になってきた。いつも鈍い動きをしているが、さらにそれが遅くなっていった。

しばらくするとピタリと止まって全く動かなくなってしまった。

「オーッホッホッホッ!!!! ムシには空気を取り入れる気門という器官がありますのよ。貴方の気門は他のムシより遥かに大きくて良い的でしたわ。もっとも、気門を射ただけではダメージはわずか。そこでこのパラジット・ミストルトゥーの種を矢の先につけて差し上げましたわ!!!!」

動かなくなったカブトムシザリガニの体からは白くて双葉の小さな芽がびっしりと無数に生え始めていた。

「この寄生する宿り木を気門から侵入させましたの。いくら頑丈でも内部のエネルギーを吸収されたらひとたまりもないようですわね!!!! まるで冬虫夏草のようですわ。オーッホッホッホッッッ!!!!」

そのまま怪物は完全に活動を停止し、動かなくなった。今度こそ勝利を確信した少女は高笑いしながら看板を降り、意気揚々とその場を後にした。
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