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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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泣きぼくろのエグザミネイシヨン

首長蛙の月の15日の正午過ぎ、リジャントブイル魔法学院一日目の試験が終了した。

答案用紙が回収されると、帰り道のテレポートの扉から受験生たちが帰っていく。

入ってすぐ、受験番号別に扉をくぐって講堂へテレポートされたので、校内を見る機会は全くなかった。

もっとも、学院側としてはセキュリティ面の手間を省くのにこれくらいが都合がいいのかもしれない。

アシェリィは筆記試験を終えたそのままの足でホテル・アーナンテにまっすぐ帰った。

202号室の扉に赤い刻印のついた手をかざすとロックが開いた音がした。中に入るとサプレ夫妻がくつろいでいた。

試験終わりの少女を確認すると二人揃って声をかけた。

「おかえり、試験はどうだった?」

「おお、帰ったか。で、試験は?」

二人が筆記試験の首尾を確認するとアシェリィはうつむいた。夫妻は嫌な予感がしたのか思わず顔を見合わせた。

そうしているうちに本人が重い口を開いた。

「なんていうか、こう、望みがないって程、無茶苦茶ダメだったわけではないんです。ただ……やはり全く解けない問題も少なくなくて。良くて6割ってところですね……」

彼女は情けなく、そして申し訳なく思っていた。リーリンカまで付き合わせて必死で勉強したのに結果が思わしくなかった事を。

何の反応もないので恐る恐るアシェリィは顔を上げた。するとサプレ夫妻は笑っていた。

「な~んだ。5~6割なら実技次第で十分合格可能な範囲だよ。むしろ、D判定からこの短期間でよくやったと思うよ。あ、ちなみに気休めじゃないからね。本気で合格、狙っていけるよ」

「全くだ。落ち込むことはないぞ。いや、落ち込んでいる暇はないぞ。早速、三人で明日の面接に向けての対策を練ろう。我々は召喚術サモニングには疎いが、手伝えることはあるはずだ」

うつむいていた少女は自責の念から開放されて、大きく安堵のため息をついた。

思わず涙がこぼれそうになったが、まだ試験は終わっていない。涙をこらえて顔を上げ、夫妻に向けて笑い返した。

翌朝、アシェリィは昨日と同じように受験生たちの波にのって学院へと向かった。

今日は学科別にテレポートの扉が異なるらしい。長蛇の列が出来ている学科もあればそれほどまででもない学科もある。

召喚術学科サモナーズ・クラスの列は事前情報通り、他の学科に比べて並んでいる人数が少ないようだ。

とはいえ、前にも後ろにもかなりの人数が並んでいる。まだ早いのにざっと見50人はいるだろう。

ソワソワしているうちにあっという間に自分の番が来てしまった。大きく息を吸い込み、面接室へとテレポートした。

テレポート先は教授室のようだった。以前入ったボルカ先生の部屋と似たような作りになっている。

そこには大きな教授用の机とイスに座る男性と、受験生が座るためのイスとコップの置いてある小さなテーブルが用意されていた。

「こんにちは。初めまして。私は召喚術学科の教授、フラリアーノ・Rレージ・ノルクスです。どうぞ、そこに腰掛けてください」

アシェリィはイスに向けて歩きつつ、気持ちを落ち着けるために教授の見てくれを観察し始めた。歳はかなり若いように見える。

髪は艶のある美しい黒髪で、顔はにこやかで穏やかな笑みを浮かべている。細目なのか、瞳を開いている様子があまり見られない。

口調や仕草からとても物腰の柔らかで紳士的な人物に思えた。

髪は男性にしては長く、前髪は目にかかっていた。耳も隠れており、この調子なら襟足もかなり長いだろう。

だが、手入れされているのか野暮ったい感じはせず、むしろ小綺麗な印象を受けた。それと左右に泣きぼくろがあった。両方あるのは珍しい。

体格はやや細めで手足はスラッと長い。座っているので背の丈はわからなかった。

特徴的なのはその服装だ。真っ黒なスーツにオシャレな柄物のオレンジ色のネクタイをしている。

ライネンテではスーツは普段着としては一般的ではない。地域差はあるが、冠婚葬祭で着るところがわずかにある程度でほとんど見かけないのだ。

フォーマルなシーンやドレスコードのある場所では、男性では短めの丈の黒いローブ、女性ではドレスまたは同じく短めの丈の白いローブが用いられるのが一般的だ。

物珍しいスーツに気を取られていると、フラリアーノ教授が声をかけてきた。

「私の顔になにかついているのですか? それともスーツ姿が珍しいのでしょうか? まぁどちらでもいいのですけれどね。さて、面接を始めましょうか。ああ、そうですね。もし、喉が渇くようでしたらそのテーブルの上のコップの水を飲んでください。さて、では……」

フラリアーノは受験時に提出した志望動機や自己PRなどの書類を取り出してパラパラと整理し始めた。

その直後だった。彼の隣に突如、謎のモンスターが出現した。いかにも小悪魔といった感じで黒い体に角が二本、尻尾の先にはトゲがついている。

大きさは人の頭ほどあるだろうか。そのモンスターが語りかけてきた。

(おい、聞こえるか。聞こえるよな? いいか、お前の手元にあるコップの中の水をこいつに向けてぶっかけろ!!)

「!?」

脳に響いてくるような声である。これは幻魔だ。間違いない。一方の教授は明らかに視界に入っているはずなのにこの幻魔を無視している。

幻魔ならば見えているはずなのだが、どうして無視しているのだろうか。

(お前バッカだなぁ。俺がえないヤツはその時点で不合格なんだよ。つまり、俺はコイツに指示されてるってわけだ。だから遠慮なくやれ!!)

アシェリィはあたふたしたが、小悪魔の言っていることが嘘だとも思えなかったので思い切ってコップの中の水を教授めがけてぶちまけた。

「えいッ!!」

すると煽って来た幻魔は宙に舞った水をすべて吸い込んで飲み干してしまった。その様子を確認するとフラリアーノはつぶやいた。

「ふむ。幻魔可視能力はクリア……。悪魔からの誘惑に関しては減点ですね。ああいう場合は安易に行動を決めず、幻魔を疑ってかかってください。悪質な幻魔から自分を守ることも大切ですよ」

彼は手元の書類に目を落としながら小悪魔を引っ込めた。やはりあれは教授が契約していた幻魔だったらしい。

「さて、面談に入りましょう。アーシェリィー・クレメンツさん、15歳。アルマ村から……。随分遠くから来られているのですね。サブクラスは召喚術希望、専攻はトレジャー・ハンター志望ですか。相性としては……悪くはないですね。特技はマナボードですか。召喚術師サモナーの弱点を補う事ができそうですね」

自己紹介文を結構長々と書いた気がするのだが、書類内容にはほとんど触れなかった。流し読みといった感じである。

ファイセルたちに事前に聞いていたとはいえ、真面目に書いたPR文がさらりと読み流されるのは少し悲しく思った。

それを知ってか知らずかフラリアーノ教授は書類を片手でひらひら振りながら説明した。

「ご存知かもしれませんが、我が校は実力主義でしてね。実際のところ、志望動機や書類の出来はそこまで重要ではありません。さて、次は性向値アライメントを見てみましょうか。この召喚術師サモナー向けのしおりであるアライメントチェッカーをサモナーズ・ブックに挟んでみてください。”マナの色”を読んで判定してくれます」

教授はアシェリィの座るイスまでやってきて、栞を手渡した。カバンからサモナーズ・ブックを取り出して渡された白い栞を挟んでみた。

すると栞は濃い赤色に変化した。これがどういった意味を示すのかわからず思わず教授の顔色をうかがった。

「アライメントはその人の行動理念をおおまかに判別するものです。秩序を重んじるロウフル、中庸ちゅうようを貫くニュートラル、混沌を好むカオスの3種があります。あなたはそのうちのカオスのようです。トレジャー・ハントや冒険イクスプロールはまさにカオスの人柄が好む要素ですからね」

アシェリィのそばに立っている教授が手を差し出してきたのでアシェリィは栞を抜き取って彼に返した。

「これが合否に関係するのかという顔をしていますね。……あくまで参考要素の一つに過ぎません。ただ、極度のロウフルやカオスを示す者には注意が必要なのですよ。危険な思想を持っていたり、洗脳されている、あるいは犯罪、違法行為が常態化している者であったりするのです。このアライメントチェッカーはそういった危険人物の除外に使っているのですよ。ちなみにあなたは常識の範囲内におさまっていますので余計な心配は無用ですからね。さて、ではいよいよサモナーズ・ブックを拝見致しましょうか……」

コツコツと革靴の音を立てて彼はアシェリィのそばに来た。背の丈は並の男性といったところだろうか。

そしてサモナーズ・ブックを受け取るとまた革靴の音を立ててフラリアーノは教授机に戻って、イスに座ってサモナーズ・ブックを開いた。

パラパラとめくりながら注意点を述べる。

「師匠から聞いていると思いますが、サモナーズ・ブックは敵対する可能性のある召喚術師サモナーに読まれてはなりません。本から幻魔の具体的な能力まで特定するのは困難ですが、属性の偏りなどは識別可能ですからね。それに研究家ならば読解出来る者も居ます。ですから、基本的には人に見せないことですね」

教授は目線を左右に移しつつサモナーズ・ブックを見つめている。時折、手をかざしたり、なぞったりしていた。

時折、本のページがほのかに光ったり、輝いたりしていた。

どこかでこの仕草を見たことがあると思ったら師匠せんせいとよく似ている。教授もそうやって本を解読しているのだろうか。

「ふむ。水属性と樹木、森林属性の幻魔が多いですね。あなた、人から穏やかで優しいとか、協調性があるとか言われませんか?」

何を急に聞いてくるのかのと思えば今度は性格の話である。なんだか試験っぽくなくてアシェリィは拍子抜けした。

「ああ、いや、契約している幻魔の属性の傾向で性格診断すると結構当たるのですよ。水属性は優しさ、協調性。樹木属性は穏やかさや純朴さといった感じです。ほんの一例ですが炎は熱血。石は根気が強い。風は気まぐれ。氷はクールで、雷は好戦的などなどです。性格が一致する幻魔のほうが意思疎通しやすいからでしょうね」

言われてみれば自分の幻魔にはアクやクセの強いやりにくい幻魔が少ない気もする。選り好んでこうなったわけではないので、やはり自身と似た性格の幻魔が集まってくるものなのだろうか。

「それと、あなたの場合、契約している幻魔のタイプが多種に渡るのもポイントですね。カオスゆえの幅の広さといいますか。それにこれだけの幻魔は長旅をしないと回収できないはずです。貴重で魔力の強い幻魔も居ますし、よくここまで頑張りましたね。特にアンデッドは珍しいのでその力を大切にしていってほしいものです」

ずっとニコニコしているので笑っているのかどうかわからないが、フラリアーノ教授はなんだか満足げだった。

ここまでは掴みどころのない実技試験だったが、苦労して長旅をしてきたことを汲み取ってもらえた。

アシェリィは一時ではあるが今までやってきた事が報われ、救われた気分になった。

笑顔の教授はサモナーズ・ブックを片手に立ち上がり、こちらにむけて歩きながらつぶやいた。

「幻魔に好かれ、信頼される召喚術師サモナーは優れた術者です。その関係を忘れないように」

そして本を閉じて片手に持つと、イスに座っているアシェリィのところまで来て手渡してくれた。

「ただ、気をつけねばならないことがあります。あなたは一つだけ飛び抜けて高度な幻魔と契約していますね。異常なまでの完成度のオリジナル幻魔……これは本当にいざというときにしかんではいけません。わかりましたね?」

彼は笑ってはいるが、今までと違って明らかな威圧感を感じる。アルルケンの事に関して言っているのだろうか。

遊幻ゆうげんのク……いや、創雲そううんのオルバ……ですか。いい師を持ちましたね。あ、師匠は採点基準に入りませんからそこのところは期待しないでくださいね」

こうしてアシェリィの二日間に渡る試験は終わった。あとは結果発表を待つのみである。

肝心の面接・実技は減点こそあったものの、それなりには評価されたので手応えはあった。

やれるだけはやったのであとは時の運に任せるしか無い。

そう割り切って彼女は開放感を目一杯味わいつつ、帰り道のルーネス通りの空気を満喫するのだった。
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