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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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さびれた海岸線の小道にて

ファイセルとアシェリィを抱えたフレリヤは木漏れ日差す森の中を、街道の方に向けて走り抜けていった。

今まで歩いてきた街道は警備が厳重だったのでその道を横切り、更に木立の間を抜け人気の少ない海岸線の道までたどり着いた。

砂浜沿いの道は街道と呼べるほど大きなものではなく、海岸線に沿って伸びる小道といった感じだった。

この小道にたどり着く頃にはアシェリィのマナも大分回復し、自分で歩けるまでになっていた。

大分予定の道からそれたので、休憩と今後の道筋の決定を兼ねて、三人は砂浜の脇の少し盛り上がった芝生の上に腰掛けてあれこれと話していた。

「いや~、びっくりしました。向こうからいきなり契約を提案してくるなんて。先生がこういうこともあるからって言ってたのに……不用心ですね。私……」

軽くうつむいた彼女をファイセルがニッコリ笑みを浮かべながら励ました。

「なぁに、結果オーライだよ。多少の失敗は誰だってするものさ。次に生かそう」

それを聞いていたフレリヤも八重歯を見せつつ脳天気な様子で笑った。

「そーだぞ? あたしなんかやったらめったらしくじってその度に怒られてたような気がするよ。でも”あの時ああしていれば”って後悔はたいていムダだったりするんだよ。ファイセルの言うとおり、先のことを考えなきゃな」

そう言って巨躯の少女は耳をパタパタさせた。猫のような耳は直接は見えないが、耳を振ると帽子がピョコピョコ動くので動いているのが外からでもわかった。

フレリヤらしくない哲学じみた発言に他の二人は若干面食らった。

少しの沈黙の後、仕切り直すようにアシェリィがフェンルーについて振り返った。

「新しく契約出来たのは”フェンルゥ”という雷属性の幻魔です。これがまた、どうして未熟者の私と契約してくれたのかわからないくらい位の高い幻魔みたいです。きっとフレリヤちゃんが祠を修復してくれたのがよっぽど嬉しかったんでしょうね」

緑髪の少女は長いポニーテールを揺らしてサモナーズ・ブックをパラパラとめくった。

ファイセルとフレリヤが後ろから覗き込むが、見たこともない文字や不思議な図形、紋様で記されており、全く解読できない。

幻魔間に共通言語は存在せず、それぞれ契約時に使われる文字は異なる。

文字に限らず、図形や記号、紋様などが織り交ぜてあるものも多い。逆に文字がない場合もあったりするのだが。

とはいえ、それらを全て理解する必要はなく、契約をした証拠としてそれが現物として存在すれば召喚は可能である。

もちろんその言語体系や文字を研究する学問もあり、それによって契約内容のおおまかな読解は可能だ。

だが、実際に召喚してみるとその時に自ずとだいたいの契約内容がわかるようになっている。

一見すると読解できているように見えてもアシェリィ自身はサモナーズ・ブックの三分の一も訳することが出来ていない。

もっとも、契約書が直接読めないのは彼女に限ったことではなく、他の多数のサモナーもそうなのだが。

ただ、アルルケンのように完全なオリジナル幻魔を作り出すとなると話は別だ。幻魔界に通用するような言語構成、図形や紋様を自ら編み出す必要がある。

その難易度は見るからに明らかで、大きな青灰色の狼のページは複雑な魔法円や種類の異なる複数の言語があちこちに刻み込まれてあった。

何か見本があるならまだしも、オリジナルというだけあって新たな幻魔を構成するには既存の体系を利用することは出来ない。

つまり、この難読で複雑怪奇な魔法円は全てオルバの頭の中から湧いて出たアイディアと試行錯誤、そして知恵の結晶だといえる。

アシェリィはこのページを見るたびに目を引かれ、時に心惹かれるように完成度の高い系術とも言える契約書を見つめることもあった。

オリジナル幻魔が生み出せてサモナーとしてはようやく一人前と呼ばれるらしいが、それはオルバの生み出す幻魔とは比べ物にならないほど単純で簡素な魔法円にすぎない。

アルルケンのページをなぞりながら少女は軽く苦笑いを浮かべながらポツリと口にした。

「フェンルゥは確かに強力な幻魔なのですが、雷ですから水属性との相性が悪くてですね。アルルちゃんが壁になってくれなかったら他の非力な水幻魔達が怯えて出てこなくなってしまったでしょう。他にも関係が決裂すると契約書同士で干渉が起こったりしてしまうので、サモナーはそこらへんの仲裁役をやる必要もあるんです。サモナーとして成長していくたびにこの仕事は大変になるって師匠はぼやいてましたね……」

ファイセルは顎に指を添えて興味深そうに頷いていたが、フレリヤはというとなんとも言えない様子で後頭部を掻いていた。

彼女にとっては完全な専門外であるし、無理もなかった。そんな彼女だったが、興味は示しているようでアシェリィに問いかけた。

「で、”ふぇんるぅ”ってのは何が出来るんだ? さっき見た時は手から雷の棒みたいなの出てたけど、ふぇんるぅってのは剣の精霊? なのか?」

背中越しに話しかけてきたフレリヤを振りかえりつつ、アシェリィは首を横に振った。

「いいえ。そういうわけじゃないみたいなんです。あれはあくまで一つの形に過ぎなくって。多分、意思疎通が進めば電撃を飛ばしたりして呪文みたいな使い方も出来るんじゃないかと思います。フェンルゥの姿についてですが、契約に必死でよくわからなかったです。ただ、女性の人格のようで。たまたまなんでしょうけど、私のブックには女性型が多めな気がしますね。きっと力を制御出来るようになればどんな姿なのか見られるかと」

彼女の解説を聞くとファイセルとフレリヤは盛り上がった。

刃にしたり、電撃を飛ばしたりと魔法使いじみた能力をアシェリィが得たことに思わず胸躍ったのだった。彼らはザティスとは違い、攻撃呪文を全く使えない。

そのためからか、アシェリィは羨望にも似た眼差しを二人から感じた。だがそれにやましさは全く無く、素直な賞賛から来るものだった。人のことなのにまるで自分の事の様に喜んでくれる。

彼女はそんな仲間たちが好きだった。もちろんザティスのことも忘れては居ない。ぱたんと本を閉じるとアシェリィは振り向いて声をかけた。

「さぁ、行きましょうか。私、学院は見たことも行ったこともないけど、なんとなく、なんとなく少しずつ近づいてるって感じるんです。さ、二人とも行きましょう!!」

サモナーズ・ブックをカバンにしまった少女はパンパンと服についた砂を払って立ち上がった。

目の前には青い水平線と波打つ砂浜、それに沿うように砂利の敷かれた小道が続いていた。

小道はそれなりに安定しており、砂浜ほど歩きにくいわけではなかった。

ただ、ところどころ大波で削られたような形跡もあり、整備が行き届いているとは言い難かった。

三人が歩き出した直後だった。突然後ろから誰かが声をかけてきた。

ここには人気もなかったし、気配も全くしなかったはずだ。にも関わらず、声をかけられて一行は思わずドッキリとした。

「そこの君たち、ちょっと立ち止まって来れ給え。教会から人探しを依頼されていてね。もしかしたら人の少ないこちらにいるのではないかと私は踏んだのだが……どうかな?」

まだ後ろを振り向いていないので姿は定かではないが、落ち着いた声のトーンで紳士的な言葉遣いをする男性のようだ。

ここにくるまで小走りも挟んでいたはずだが、どうやらいつの間にか後を密かにつけられていたらしい。その人物は更に続けた。

「ふむ……。その艶のある深緑の髪、背丈……。カロルリーチェ様のように思える。しかし、身につけているのは……確かリジャントブイルのエレメンタリィの制服。ふむ……」

どうやらカロルリーチェを追っているようだ。神殿守護騎士か国防軍だろうか。

めんどうなのでこのまま振り切ろうかとファイセルたちは思っていたが、今までの警備兵とは違った威圧感のようなものを感じて一歩を踏み出せずに居た。

「そこの三人。申し訳ないが、少し時間をいただけないかな。とある人物と君たちがよく似ていてね。今まで何回か引っかかっているだろうから心当たりがあるだろうが、私個人としてはそちらの帽子をかぶった大きな女性も気になってね。さぁ、後ろを振り向いて来れ給え」

まずいことになった。声の主はカロルリーチェに似たアシェリィだけでなく、フレリヤも気にしているらしい。

カロルリーチェだけなら他人の空似でやり過ごせるかもしれないが、フレリヤに関しては色々と規格外すぎてそっくりさんというものは多分、居ないだろう。

ウルラディール家の指名手配はあちこちの国に出回っており、超高額の賞金がかけられている。

あくまでその依頼主はウルラディール家となっており、厳密には国家的な指名手配とは言えないのだが、賞金の額が額だけに事実上、国家指名手配並みの扱いだ。

この人物が神殿守護騎士であろうと、国防軍兵士であろうと、賞金稼ぎであろうとフレリヤを捕まえる事に利益がある。見つかるのはなんとしても避けたかった。

強行突破も考えられなくはなかったが、相手の実力を予測するにリスキーすぎた。無言のプレッシャーがその場を包む。

「聞こえているのだろう? 私も手荒なマネはしたくないんでね。なに、疑わしい点が何もなければすぐに済むだろう。さ、こちらを向いて、顔を見せてくれないかね……」

ファイセルはアシェリィとフレリヤにチラリとアイサインをやると無言のまま頷いた。相手は一人、万が一の場合は逃走を試みるという合図だった。

アシェリィは緊迫感のあまりつばを飲み込んだ。ファイセルも嫌な汗をかいた。何も考えていないのはフレリヤくらいのものである。

そして三人は揃って声のする方を振り向いた。
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