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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter1:群青の群像

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対屍部隊編成

 ――裏赤山猫の月の10日の朝7時過ぎ。アイネはカーテンを引いて窓を開け、朝のすがすがしい空気を吸い込んでいた。二階の窓から学院のある浮島が遠くに見える。

 アイネは毎朝こうやってゆったりと浮島と海を遠くに眺めるのが習慣で、この景色がお気に入りだった。アイネの実家はルーネス通りからは少し遠い、閑静な住宅街にある。

 窓枠に手をかけていると手元に何かいるのが見えた。目を凝らすとピンクのカエルが窓枠の上に張り付いている。もしや、誰かの使い魔ではないかとなんとなく思った。

「アイネ・クラヴェール。リジャントブイル魔術学院から緊急招集です。ヒーラーとして課外活動が課されています。至急学院に向かい、掲示板で内容を確認してください。ケロッ!!」

 カエルはすぐに破裂して跡形もなくなった。緊急招集はなんだろうとのんびり考えながら、着替えて特に急ぐでもなく、モッチ麦のパンと黄ブタのハムを家族と団らんしながら食べて家を出た。

 普通、アイネの家の位置から学院までは急げば15分程度で着くがアイネの場合、スローペースなせいで、30分近くかかってしまうこともままある。今日もそんな感じで学院に着いたのは8時半頃だった。

「え~っと、掲示板になんて書いてあるかしら? 下記のヒーラー専攻の学生はミーティングルームに集合?」

 確かに自分の名前が掲示されていた。掲示板の指示に従ってミーティングルームに入ると普通の教室サイズの部屋に30人ほど人が集まっている。椅子に座っている人もいれば立っている人もいる。

 エレメンタリィだけではなく、ミドル、エルダーからも数人来ている。エルダーまでもが参加するという事はなにやら大事が起こっているのではないかとアイネはぼんやり考えた。

 各学年が揃っていて青に緑、赤と色合いが豊かだななどと考えていると腰ほどまである長い黒髪の男性教師が壇上に立った。

「私は今回の課外活動を担当、指導する教師、スヴェインだ。よろしく頼む。え~、早速だが新聞を読んでた者ならわかるかもしれないが、南のトーベ国の鉱山で昨日、大規模な落盤事故があってな。事故当時、鉱山で働いていた500人以上が行方不明者だ。死者200名以上という情報も上がってきている」

 スヴェインが手元の資料を元に情報を発表していくとミーティングルームがどよめいた。

「知っての通り、トーベ国は我が国の友好国だ。国内の人手だけでは救出活動が困難という救助依頼の連絡が王都に入っていて、ライネンテはそれに応じて軍隊を派遣して援助するそうだ。それに我々リジャントブイルの学生も加わることとなった。これが今回、諸君らに課される課外活動の内容だ」

 緊急招集でしかも危険な鉱山での活動とあって多くの生徒が不安を口にしだした。その様子を見かねてスヴェインは手を叩いて私語を止めた。

「ほらほら、落ち着け。なんのためのエルダーだ。お前らもう少し先輩を信頼しろ。チームに1人は必ずエルダーの生徒を入れてバックアップさせるから実習気分で任務を遂行する気でいなさい。私も引率として着いていくわけだし。まぁサポート側なのであまり腕っぷしは期待しないでほしいのだが」

 スヴェインはなんだか申し訳なさそうにエルダー達に生徒を頼むように目配せした。アイネはまた教室を見渡した。7人程度エルダーがいるから普段のチームと同じ5人構成の5チーム編成になるのだろうか。

 見る限りは全員が全員ヒーラー専門というわけでは無いようで武器を持っている生徒も混ざっている。目配せを終え、エルダー達からの合点の視線を受けスヴェインが真剣な顔つきになる。本題に移るといったところか。

「君らの任務は行方不明者の救出やけが人の治療だけじゃない。大量に人が死んだという事は強力なアンデッドが発生して坑道内をウロウロしている可能性が高い。だからトーベだけでは対処できんのだ。正直、鉱山崩落の危険性よりむしろアンデッドの危険性の方がずっと高い。だから出来る限りただのヒーラーでは無く、対アンデットを得意とする生徒を集めたのだ」

スヴェインは教室を見渡して満足げにそう言った。

「一応、我が国軍も協力してくれるが、基本的にはけが人の搬出やマギ・マインによる脱出口の確保や埋もれた箇所の解放のみだ。アンデッドの対処に関しては我々が全て請け負うことになっている。一騎当千とまではいかんが、ここまで計算して練度の高い特殊部隊が組めるのはウチくらいしかないからな」

 スヴェインは映写機を使ってボードに鉱山の図を写しながら説明を続ける。

「坑道への進入路は十数か所ある。1チーム3人の7チーム編成の少数部隊でこの進入路を手分けて探索する。坑道は狭いから大人数だとかえってやりににくくなるからな。最下層のあたりにまだ大勢人が取り残されているとの情報がある。とりあえずは最下層をめざし、坑道を下ったり、昇降機などがあれば適宜それを使ってくれ。地表から浅いところは国軍にまかせて、諸君らは下層側から脱出経路を切り開いていってほしい。ではチーム分けを発表する


 クラス全体がスヴェインの指示通り動きだし、チーム編成が完了していく。アイネ達のチームはエルダー、ミドル、エレメンタリィの三学年で構成された。他のチームも同じ編成のようだった。

「命を預ける仲間だ。自己紹介をしっかりして互いの能力を把握しあい、チームとして最高のパフォーマンスが発揮出来るようにしてくれ。では、30分後、学院裏の浜辺から学院のワイバーンを使って一気にトーヴェまで向かう。各自準備を怠らないように!!」

 生徒全員が返事をして、ミーティングは解散となった。

「初めましてッス。今回リーダーを務めさせていただくエルダー2年目のアンナベリー・リーゼスッス。よろしくお願いするッス!!」

 暗いえんじ色をした制服に身を包んだ背の低い少女がペコリとお辞儀をしてきた。腰ほどまである桃色の美しい髪が垂れる。背中には身の丈の半分以上あるかという大剣を背負っていた。

それにしてもかなり身長が低い。リーリンカと同じくらいで140cmちょいといったところだろうか。おまけに髪の長さまで似ている。

 ひどく幼く見えるが、よくよく考えればエルダー2年という事でエレメンタリィ4年、ミドル3年を修めなければ進級できない学年だ。

と言う事は最低年齢の14歳で入学して留年なしでも22歳になっている計算になる。最初は思わず少女だと思ったが立派な大人の女性である。だが背も小さいし、童顔だし、どっからどう見ても年下にしか見えない。

「あ……あの、本当にエルダー2年さんなんですか……」

 思わずアイネは聞いてしまった。

「みんなから同じようにいわれるッス。個人的にその点は若干コンプレックスでもあるので突っ込まないでやってほしいッス……」

 微妙な空気になってしまったが、すぐにアンナベリーが立て直した。

「で、見て分かる通り、得意なのは大剣での接近戦ッス。こう見えてもスタミナには自信があるッスので相手の攻撃を一手に引き受けて頑張るッス!! 私がみんなを守るので、安心してついて来てほしいッス!! 一応ルーンティア教のチャーチガーディアンも務めさせてもらってるので、アンデッドもどんと来いッス!!」

アンナベリーは指出しグローブをギュウギュウいわせながらはめ直し、ニコリと笑った。頼りになるようなセリフだが、見てくれからは正直とても戦えるようには思えない。

 ただ、リジャントブイルにはこういう見た目と実力のギャップが激しい生徒がゴロゴロいるのできっと腕が立つのだろうなとアイネはぼんやり思った。

「では私も自己紹介を。ミドル2年目のリルチェ・ティンバーです」

 深緑の制服の上から白いローブを羽織った女生徒が前に出る。背中に長弓を背負っていて、矢立から矢が覗いた。

 身長はアイネと同じくらいで身長の低いアンナベリーを挟む形となる。黒髪のショートカットでクール系の印象を受けた。

「ここにいる皆さん方と同じく、エレメンタリィ、ミドルと治療系の魔法を勉強してきました。中でも解毒系の呪文が得意です。弓はミドルに入ってからですが、それなりに使いこなせるようになりました。ただのゾンビくらいなら聖属性にエンチャントした弓で一撃で浄化できます。今回は前衛のアンナベリーさんが居るので安定して戦えると思います」

 アンナベリーがそれに応じ、首を縦に振る。最後に残ったアイネが自己紹介を始めた。

「私はエレメンタリィ4年目のアイネ・クラヴェールです。私もルーンティア教徒ですので治癒魔法とは別に対アンデッドの心得があります。お二方のようにまだ攻撃系のスキルがない為、守っていただく形になると思いますが足手まといにならないように頑張ります!!」

 アイネが頭を深く下げて一礼するとチームメイト達が微笑んで迎え入れた。

「ん~、にしてもみんな女の子ッスねぇ。集まったのは男女半々くらいだったんッスけどね。なんか女子会みたいッスね……」

 アンナベリーが冗談を言って空気を和ませる。

「さて、おちゃらけも程々にして、戦闘の作戦とか、フォーメーション、立ち回りの打ち合わせを出発するまでに練るッス。ここで手を抜くと後で痛い目をみかねないッスからね」

 三人は基本的な位置取り、緊急時の対応などを話し合い、時間ギリギリまでお互いがベストを尽くせる戦い方をシミューレートした。

 予定の時間が来たので、校舎裏の海岸に着陸している巨大な翼竜、ワイバーンの大きなゴンドラに学生たちと引率のスヴェインが乗り込んでトーベを目指し、離陸した。

 アイネがリジャントブイルを旅立った後の昼時、ファイセルはケルクに到着していた。案の定、荷を積んだウィールネールが3匹ほど止まっている。

 明らかに村の規模に似つかわしくない人通りの多さだ。ヨーグの森から先に南下できず、森を通り抜ける手段の無い商人や旅人が足止めを食らっているのだろう。

 とりあえず村の小さな銀行に寄り、もらった50万シエールを預けて手持ちを20万シエールにまで減らした。銀行を出ると商人数人が銀行の出口で待っていた。

「おい、そこの兄さん」

 キャラバンのリーダー格らしき商人から声をかけられた。

「あんたその制服、北の学院の学生さんだろ? 今日の朝、通りがかった3人組の冒険者にアテラサウルスを倒してくれるように金を払って頼んだが戻って来んのだ。まさか餌食になってしまったのではないだろうかと不安に思っている。様子を見に行きたくても我々では怖くて森に入れんのだ。そこで、学院生の腕を見込んで様子を見てきてくれるよう頼みたい。うちのキャラバンで報酬は出す。どうだ? やれそうか?」

 ケルクまで南下してもリジャントブイルの学生と認知されているのかと少し驚いたが、よくよく考えればこの商人たちも自分と同じくミナレート周辺から南下してきた者が多いはずだ。それなら一目でリジャントブイル関係者だと思われるのも合点がいく。

 商人数人は一度に財布を取り出し、お金を出すような素振りを見せたが、とりあえずそれを止める。

「僕も南下する予定でしたし、とりあえず様子を見てきます。僕が森から無事に帰ったらそのお金はもらう事にしますよ」

 今回も命がかかっているというのに、意識しての事かどうかわからないが無欲な人と言うのはつくづく損をするものだなぁとリーネは思ったようだった。

 ファイセルもこういうところは師匠譲りなのかもしれないと自分でも思いながら森の入り口に立った。話を聞きつけた商人やら旅人が様子を見に来てガヤガヤ騒いでいた。

「おい、あんな小僧一人で行かせて大丈夫なのかよ。誰かついてってやれよ」
「やだよ。お前が行けよ。俺ぁまだ死にたくねぇ」

 商人が不安がって文句をたれる旅人たちに言った。

「お前らリジャントブイル魔術学院を知らんのか? あの制服、彼はそこの生徒さんだぞ? そんじょそこらの冒険者と一緒にしたら大間違いだ。きっとこの状況を打開してくれるだろう」

 それを背中越しに聞いてファイセルは随分買い被られたもんだなと思ったが、頼られている以上はそれに答えるのが筋だと思いながら森へ入って行った。
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