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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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フライ・ハイ

ファイセルとフレリヤは海に浮き上がるように一筋に伸びた砂浜の道を歩いていた。王都を背に歩いていると背中越しに花火の音が聞こえた。

これで今日上がった花火は九発。打ち合わせどおり、彼らは教会への潜入を始めていた。

教会の本部、カルティ・ランツァ・ローレンはセント・モルニティア島という小島の上に建設された建築物である。

教会本部に行くにはこの砂浜を歩かねばならないが、潮の満ち引きの関係で夜間はこの道は完全に海に没する。警戒しにくくなる夜間の警備を補う自然の要塞というわけだ。

また、教会自体もかつては籠城に使われた砦で、徹底的に侵入者を阻む作りをしている。

ただ、現在は観光客も入れるくらいで、そこまで厳重な警戒というわけでもない。建物の内部に入るとなると話は別だが。

徐々に教会に接近するにつれ、建物が大きく見えてくる。ザティスの話によれば神姫しんきは皆、小城の高層階に住んでいるのは間違いないという。

たどり着けさえすればアシェリィを探すのは苦労しないはずと彼は言うがそんな簡単にいくものだろうかとファイセルは顎に指を添えて首をかしげた。

その横で亜人の少女が不満を露わにした。

「あ~、なんだよコレ~!! “がーたーべると”とかってヤツ!? 確かにシッポを押さえつけても痛くはないとは言った。でもこれはあんまりじゃないの? おまけにこの胸のサラシ!! 窮屈すぎて苦しいくらいなんだけど!! なんとかなんないかねコレ!!」

ファイセルたちはザティスと別れた後、すぐにフレリヤの変装を強化すべく、マーケットで色々と準備してきた。

教会に侵入するというのだ。ただでさえ彼女は目立つ。流石に帽子だけではすぐにバレてしまうだろう。

その為に帽子に加え、胸を押さえつけるサラシとガーターベルトを用意し、尻尾を片足にくくりつけた。

ズボンはゆったりとしたものを選んだので尻尾が隠れていることは外からではわからないだろう。

「あはは……ちょっとの辛抱だからガマンしてよ……。ホントはお尋ね者の君を連れてくるの自体、自殺行為に近いんだから……」

そうこうしているうちに二人は砂浜を渡り終え、教会の正門にたどり着いた。神殿守護騎士テンプル・ナイトらしい二人が門の左右に立って警備にあたっている。

何やら雑談していたので耳をそばだてると愚痴じみた会話が聞こえた。

「あー、今頃、奉武大祭ほうむたいさいいいとこだろな~。俺も見に行きたかったぜ~。く~っ、昨日の晩のカードゲームで負けなきゃなぁ~。なあオマエ、今年は保守派と革新派、どっちが勝つと思う?」

「最近、革新派伸びてるからな。長いこと優勢だった保守派をひっくり返す勢いだ。もしかすると今年はもしかするかもしれないぞ?」

「えー、俺、手堅く保守派の勝ちに賭けたんだから勝ってもらわにゃ困るぜ!!」

話を聞くにとても聖職者とは思えない会話の内容である。神殿守護騎士はあくまで用心棒であって、厳密には聖職者ではないのかもしれない。

だが、それにしても俗っぽい会話だ。しかもそれを外部の者が近くに居ても平然と口に出している。

よそ者のファイセルから見ても教会が少なからず腐敗しているのがわかった。道理でザティスが彼らを嫌悪するわけである。

彼らを横目に二人は門をくぐり、小城の内部に入った。途中、いくつか扉があったが、外から頑丈に打ち付けられている。

ザティスが言うには警備の余計な手間を省くために、観光客が通りそうな箇所は一通り内部に進入できないようになっているらしかった。

観光客が入れるのは通路をしばらく進んだ先にある行き止まりの中庭までで、それ以外は外観から眺めることしか出来ないという。中庭は円形で建物が周囲をぐるっと覆っている。

中央にはルーンティア教のシンボルであるルーンティアの女神像が置かれている。

この像はかなり大きく、立派なものだ。この像を訪ねることがルーンティア教の聖地巡礼とされている。

一見、侵入箇所が無いように思えるが、唯一直接教会の内部に接している場所がある。中庭の壁にせり出したテラスである。

普段は中庭にも警備兵が配置されているが、奉武大祭では主に普段、それほど仕事の役割のない騎士達が出払う。

ここ、中庭の兵士も普段はヒマをしているのだ。今日はほぼ確実に出払うと予想された。

計算通り、中にはファイセルとフレリヤ以外は誰も居なかった。観光客さえも一人も見かけない。皆、奉武大祭に夢中といったところだろうか。

「これは……きっとザティスが上手くやってくれてるんだな……」

二人が上を見上げるといくつものテラスが非対称にバラバラに壁からせり出している。相当高い所までテラスがあるようだった。

この中からあてずっぽうに彼女を探そうというわけではなく、ある程度だが彼女の位置はわかっていた。

ザティスが言うにはこのテラスは教皇や神姫達が挨拶や演説を行う時に使われるものだという。

その部屋割は決まっていて、一番上が教皇の部屋、そこから第一神姫、第二……とテラスの高さが下がるたびに神姫の序列も下がっていくという決まりがある。

そのため、第七神姫のカロルリーチェは上から八番目のテラスの部屋にいると思われた。ただ、テラスはかなり高いところにある。

一番低いテラスでも三階分くらいの高さはありそうだった。何とかしてテラスへと登り、テラス間を移動する必要がある。

ファイセルはカバンから用意してきたロープを取り出した。何の変哲もないロープだ。

「これ。僕が仕込んできたんだ。シャクトリムシみたいに壁を這って登ることが出来るんだよ。んで、テラスに巻き付いてもらう。垂れ下がってきたロープをつかめばロープが引き上げてくれるんだ。横方向への移動も出来るよ」

彼が解説するとフレリヤはロープを指差しながら不思議そうに首を左右に振った。

「ん? いちいちソレ登ったり、伝ったりするのか?」

その問いにロープに手をかけたままの青年はキョトンとした顔をして少女を見つめ返した。そして少し時間を置いてから首を縦に振った。

「そ、そうだけど……何か?」

次に少女から発せられた一言はファイセルにとって予想もつかないものだった。

「めんどくさっ。あたしがジャンプすればいいんじゃね?」

彼女が何を言っているのかよくわからず、ファイセルはカバンに手をかけたまま、怪訝な顔をして確認を取った。

「ジャンプ……? だって、あのテラス、2、3階くらいの高さがあるよ? フレリヤ、君ってそんなにジャンプ力あるの……?」

戸惑うファイセルにフレリヤは満面の笑みで返した。自信たっぷりといった様子である。

これは確信を含んだ笑いであると相手に感じさせるくらいだった。ところが途中で彼女は困り顔になった。

「ん~飛ぶのはいいけどさ、あたしにはどこにいけばいいのかはわからないや。ファイセルも一緒に来てくれよ!!」

フレリヤはそう言うと突然ファイセルの制服の首をむんずっと掴み上げて片手で持ち上げた。

苦しくないようにそのまますぐにお姫様だっこの姿勢へと移行した。彼は驚きのあまり動くことが出来なかった。

軽い方とは言え、成人に近い男性を片手でひょいと持ち上げたのだ。里での一件や、フレリヤ自身についてまだ知らなかった彼はまさか彼女にここまで力があるとは思わなかった。

そのため、彼は完全に意表を突かれた。

「あ、ベロ噛まないように歯は食いしばってな。あと、びっくりして声あげないようにな~。ほんじゃ、いっくぞーーーー!!」

宣言と同時にフレリヤは宙高くひらりと舞った。とても人を抱えながらとは思えない挙動にさらにファイセルは驚愕した。

そのままテラスの手すりを足場にして縦横無尽に建物を駆け上がり、ぐんぐん高層階に上がっていった。

あっという間に二人は一番高いであろう尖塔のてっぺんまでたどり着いてしまった。高所故に強風が二人を煽る。

彼は特に高所が苦手というわけではなかったが、生身でこの高さまでくると流石に怖気づかずには居られず、下を覗き込む気にはなれなかった。

一方の彼女はこの高さでもケロリとしている。ニヤニヤしながらフレリヤはファイセルを茶化した。

「いっけね~。とびすぎちった。ん? なんだ、ファイセル、震えてんのか~? 大丈夫だよ。しっかりあたしが捕まえててやるからさ!!」

茶化してはいたが、力強くフォローもしてくれる。

ビビっているのがバレれば馬鹿にされるだろうなと思っていた彼だが、基本的にフレリヤは人を馬鹿にしないのだとこのときファイセルは思った。

そして、彼を抱く腕はとても頼りがいがあり、たくましく思えた。

同時に女性らしい柔らかさもあって、思わずファイセルはボーッとしてしまった。だがすぐに意識を集中して、彼女に指示をだした。

「よ、よし!! フレリヤ。下手に見えるテラスまで一旦降りて、そこから数えて八番目の部屋に向かうよ!!」

「了解! じゃあ今度は降りるぞ~!」

彼女が姿勢を変えると同時に遥か下方で窓が割れる音がした。ファイセルは異常事態だと感じ、手のひらを広げてフレリヤに制止の指示を出した。

恐怖を押し殺して中庭の方を覗き込んだが、尖塔の上からでは完全に状況を把握することが出来なかった。

テラスも小さく見え、また上から覗き込む形となったので死角も多い。

しばらくするとエメラルド色の見たことのある鳥が何かを掴んだまま窓から飛び出してきた。

「あれは……アシェリィの幻魔!! きっと、彼女も脱出しようとしてるんだ!! でも途中でテラスでは見かけなかった。フレリヤも僕もテラスを下からしか見ていなかった。きっと入れ違いになってしまったんだ!! 彼女は―――」

ファイセルは焦る心を抑えながらアシェリィの姿を探し、視線を巡らせた。
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