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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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目の下のクマが消えなくて

神殿守護騎士テンプル・ナイト相手にザティスの快進撃は続いた。

一戦目のサランサを下し、続いてニ回戦、三回戦と立て続けに対戦相手を舞台に沈めていった。

もっと早い段階で持ち合わせの魔法薬を使うことになるかと思った。だが、運がよかったのか強敵に当たらず、三回戦を終えた時点で魔法薬は三本全て温存できていた。

奉武大祭は32名によるトーナメント式で行われている。ザティスは今のところ4回戦まで進んでおり、次に勝てば決勝進出となる。

ここまで神殿守護騎士以外で残っている選手は彼しかおらず、計画通り会場の注目を一身に集めていた。

一般客も神殿守護騎士もヒートアップしてヤジが飛び交っている。これでいて神事であるというのだからお笑い草である。

大祭も盛り上がりがピークになりつつあった。三回戦を終え、一息つくザティスの頭上で九回目の花火が打ち上がった。

この九回目が合図となっており、何か問題が起こっていなければファイセルたちが教会に立ち入っているはずである。上手くやれよと彼は念じ、試合会場に目を落とした。

どっかりと選手用の休憩席に座ってうなだれた。さすがに節約とは言え、鈍痛を抱えたままでの実戦は身に応える。

今までの戦闘で直撃こそ無かったものの、小さな傷を数えたらキリがなかった。痛む傷をさすりながらザティスはつぶやいた。

「そろそろ盛り上がりか……。マジな話、問題は次だな。次の戦い次第で大祭の盛り上がりは大きく変わる。騎士共を釘付けに出来るか否かが。それにいくら練度の低い神殿守護騎士とは言え、ここまで上がってくると流石に強敵に当たるはずだ。こっからだぜ……」

渋い顔をして会場を見ていると後ろから誰かから呼ばれた。どうせさっきの旧友が絡んできたのだろうと渋い顔をしたまま振り向いた。

するとそこには思った通りさっき悪態をついていた太めの青年が立っていた。だがさっきとは表情が打って変わってなんだか目を輝かせている。

「おいザティス!! 見てたぜ!! 学校中の奴ら、それだけじゃない。お前の親父とお袋も騒ぎを知って見に来てるぜ!! ここまで来たんだから優勝しろよな!! んじゃ!!」

全く身勝手なものである。まるで自分の手柄と言わんばかりに得意げな顔をして太めの旧友は走っていった。ザティスは思わず片手で額を覆った。

「あンの馬鹿が……。余計なことしやがって……。親父にお袋だって? ケッ……何を今更。見せモンじゃねーんだぞ。 あーーーー!! 全くほんとにどいつも――――」

ザティスは突如、喋りかけていた言葉をぶった切って沈黙した。そして額を覆った手のひらの内側で大きく目を見開いた。

何者からの強い視線を感じる。視線と同時に捻り潰されるような強烈なプレッシャーも感じられた。額を覆っている手のひらがふるふると震えた。

(何だ……!? さっきから俺にガンくれてる奴が居やがる。だがどこから見られてんのか全くわかんねぇ。何だ……この禍々しい殺気みてぇなのは……。息が詰まりそうだぜ)

彼が額から手を退けて視線を上げると謎の圧迫感はふっと無くなった。いつのまにか額が汗でじっとりと湿っている。

大して暑くもないのに汗が頬を滴り落ちた。我に返った彼はすぐさま腰のメディスン・ホルスターから体力と傷に効く魔法薬を取り出した。

試験管の中で黄金色の液体がキラキラと光っている。コルクを開けると彼はその薬液を躊躇せずに一気飲みした。

飲み終えると次はマナの回復を早める薬も一気飲みした。思わずとったとっさの判断だった。

そして飲み終わると口元を荒っぽく袖で拭って大きく深呼吸をした。さきほど感じ取った危機感が彼にそうさせたのかもしれない。

それにしてもさすが魔法薬科優等生お手製の薬である。一本目はジュースのように甘く、かつ柔らかい喉越しで飽きのこない味だ。

二本目は柑橘類のようなサッパリとした酸味が効いている。

これだ。やはり魔法薬というのはいくらでも飲めるようなこういうものでなくっては。そうザティスは強く、強く思った。

じわり、じわりと効果が現れ始めた。体中の傷が癒え始め、消耗していたマナが回復してきた。

体にのしかかっていた鈍痛も引いていき、ベストに近い状態まで短時間で持っていくことが出来た。

これで残りの魔法薬は即効タイプの体力回復剤のみとなった。戦闘中に使うとすればこれが最後の一本となる。これは本来、リーリンカがファイセルを心配して持たせた魔法薬である。

思わず遠慮なしに飲んでしまったが、あとになっていささか気が引けてきた。ファイセルの了承があったとはいえ、これは愛妻弁当を勝手に食べるような行為である。

まさかこんな事に使われているとは彼女は思いもしないだろうが、今は背に腹は変えられなかった。

更に、荷物の中の小袋から小さなカラフルな宝石を2つ3つ取り出した。瞬時にマナを回復できる使い捨てのマジックアイテム、マナ・サプライ・ジェムである。

質はそこまで高くないが、そこそこ高価なものである。この大祭でこれを使う気は全く無かった。しかし、ザティスの戦いの直感はこれをケチらず使うことを選んだ。

学院のコロシアムで数え切れないほどの格上とぶつかってきた彼にはわかっていた。相対するだけでここまでプレッシャーを与えてくる相手は一筋縄ではいかないという事が。

様子見というにしては敵意がこちらに向いていたように思う。おそらく、視線の主に当たるのは次だろう。

武者震いと恐怖から来る震えが入り交ざる。相手との戦力差に恐怖で震えるというのは危機管理という面では正しい。

だが、格上に立ち向かうには邪魔な感覚である。ザティスはこの類の恐怖に打ち克つが得意だった。そのため、相手がどれだけ格上でも向っていくことが出来る。彼の大きな強みの一つだった。

「それではッ!! 次の対戦の選手、舞台中央へ!!」

その呼び声を聞いてザティスは控え席から堂々と立ち上がった。首を左右に振ってゴキゴキと音を鳴らす。

同時に腕を振りながら手のひらを開いたり閉じたりして感触を確かめた。確かな手応えがあり、コンディションは悪くないように思えた。

これならば強敵相手でもすぐにダウンさせられるということはないだろう。

舞台の中央に歩いていくと、向かい側から対戦相手が舞台に上がってきた。相手と目があった瞬間、ザティスはまたもや激しいプレッシャーに気圧された。

長い桃色の髪を優雅に振りながら相手も一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。

近づくに連れさらに相手の容姿がはっきりしてきた。身の丈はかなり小さく、アシェリィよりもかなり小柄で幼い少女のような体格をしていた。

明るいピンクの髪でカチューシャを編み、後ろ髪は丁寧に編まれて美しく垂れていた。とてもおしとやかな印象を受ける少女だ。体のサイズに不釣り合いなほどの巨大な剣を背中に背負っている。

「あらあら。こんなところで貴方にお会いするなんて。お久しぶりですわ……。ちょうど昨日も貴方のことを夢に見ておりましたのよ?」

格上との戦いに慣れているザティスだったが、近距離で向かい合ってみると軽口の一言も口から出せないほどに緊張していた。

相手はまだ抜刀していないのにまるで首筋に刃を当てられているような切迫感である。

「あら~? まさかわたくしのこと、忘れたとはおっしゃいませんわよね? わたくし、貴方に負けて以来、毎日貴方の夢を見ますのよ。ほら、ごらんになって。この目の下のクマを。まだ嫁入り前だというのに、このクマが消えませんの? 誰のせいかしらね……ウフフ……」

ザティスは恐る恐る目線を移動させ、相手の顔を見た。トロ~ンと恍惚としたような瞳、そしてその下の紫色の大きなクマ。

毒々しい紫に近い色のルージュの塗られた唇。彼女の顔を見て彼はもしやと思った。

「あ、あんた……もしかして前に学院のインビテーション・マッチでやりあった……名前は……」

しばらくその場は異様な空気で沈黙に包まれた。彼が黙り込んでいるのを見ると少女はとても残念だと言った様子で肩をすくめた。

「あら、わたくしの名前、覚えていらっしゃらないの? わたくしばアンナベリー。アンナベリー・リーゼスですのよ。わたくしは覚えてましたのに。ザティス・ザティス・ザ・テ・ィ・ス・さ・ん……うふふふ……」

ザティスは相手から放たれる得も言われぬ粘着質のオーラで後ろに飛び退いた。今までの相手とは桁外れの戦力差を感じた。

彼はかつて戦ったときのアンナベリーのことを振り返っていたが、雰囲気が変わりすぎで本人と認識するのに時間がかかった。

~~ッスが口癖のボーイッシュで明るい女性だったと記憶しているが、目の前の女性はおしとやかな喋り方、女性らしい髪型、立ち振舞。そしてどこか病んでいて毒々しい印象。まるで別人だった。

「わたくし、学院を卒業した後、適性を買われて浄化人ピューリファーとして活動していましたの。ザティスさんはその後、お元気ですか? うふふ……」

それを聞いてザティスは納得した。浄化人ピューリファーとは神殿守護騎士テンプル・ナイトの中でもアンデッドを殲滅することに特化した役割である。聖職に属してはいるのだが、どこか薄暗い印象のある役職である。

いくらアンデットとは言えもとは人間である場合もある。アンデットを狩るものは人を斬るのと変わらないとも言える。

そのため、手練の浄化人は人斬りと同じような雰囲気を醸し出していることが多いと聞く。アンナベリーの殺気に似た気配はまさにそれだった。

「あら、さきほどから言葉少なでいらっしゃいますが、お気分は大丈夫ですか? それとも感動的再会に言葉も出ないとか。あらあら冗談が過ぎましたわね……うふふ……では、よろしくお願いしますわ。いい試合にしましょう」

アンナベリーはそういうとニタリと怪しげに笑った。一方のザティスは両手で頬を叩いて首を思いっきり左右に振り、まとわりつくオーラを振り払った。

「OGの胸を借りる、か。へへへ……こいつぁおもしれぇ戦いになりそうだぜ。どうかお手柔らかに頼むぜ先輩!!」

再度、二人は見合って握手をかわした。またもやビリビリとした殺気を今度は至近距離で感じることが出来た。

どこまでやれるかはわからないが、やってみなければわからない。ザティスは恐怖を弾き飛ばすように戦いの構えをとった。

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