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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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殴り込み! リーネ記念奉武大祭

リーネ記念奉武大祭きねんほうむたいさいの花火が音を立てて上がった。さっきから何度か花火が上げられ、その音は武を奉るカルティ・ランツァ・ローレンにも届いているはずだった。

あまり知られていないがこの花火は決まった時間に打ち上げられる。音さえ聞き取れれば試合のおおよその進行具合が把握できるというわけだ。

これを目安にファイセルたちはアシェリィ奪還作戦を開始する事になっている。

花火の回数的にまだ大祭の序盤である。まだ彼らは潜入していないだろうとザティスは目線をちらりと教会本部に目をやった。

ここで出来る限り自分が対戦相手を引き付ければそれだけ彼らの侵入は容易になる。茶髪の青年は試合会場に視線を戻した。

対戦相手は確か―――サランサと言っただろうか。試合開始前から早くもいきり立っているようで、ヘルム越しでも敵意を感じられる。

ザティスの性格からしてこういう頭に血がのぼった相手は非常にやりやすかった。

奉武大祭のレベルはよくわからないが、とりあえずこの相手には回復薬の類は使わないと決めた。

ファイセルから預かっている薬入りのメディスン・ホルスターが腰からぶら下がっていたが、それをマントの下に隠した。

再び青年が舞台に目をやるとすぐに戦いのゴングが打ち鳴らされた。まるで柵の中から解き放たれた猛牛のように彼女は槍を突き出し突進を仕掛けてきた。

「いざッ!! 尋・常・に・ッ!!」

槍の一突きはかなり高速だったが、槍の先端が届く前にザティスの詠唱が完了した。

「リフレックス・エン・アジリティ・バースト!! ツインレイズ・イクシード・ソニッ!!」

サランサの凄みのある一撃をザティスは上半身の動きだけでかわした。だがそれだけでは終わらず、彼女は連続突きを目にも留まらぬ速さで繰り出した。

とても重そうな槍を扱っているとは思えない機敏な突きだ。観客たちはこの連続突きにも驚いたが、相対する青年の動きにも驚嘆した。

「そらそらそらそらそらそらああああァァァッ!!」

彼は無言で槍の連撃を立て続けに回避した。しかも足の位置は全く変わらない。

胴をひねったり、反ったりの動作だけで完璧にこの猛襲を避けきったのである。突きを繰り出しながらサランサは怒号を上げた。

「貴様ーーーッ!! 逃げるのかこの卑怯者めーーーーッ!!」

「パシンッ―――」

彼女が叫んだ直後、槍の動きがピタリと止まった。ザティスが槍の先端を手で挟んで受け止め、槍の一撃を素手で止めたのだった。この反応には驚かずには居られなかったらしく、彼女は槍ごと飛び退いた。

「あ~あ。なにが奉武大祭だよ。肝心の神殿守護騎士テンプル・ナイト様がそのザマじゃさぞかしリーネ様も失望してるだろうよ。シャンテもつくづく人を見る目がねぇな。こんなへっぽこ騎士を近衛兵にするなんてな。上が無能なら下もこんなもんなんかね?」

内心、シャンテには申し訳ないと思いつつもザティスはわざとらしく相手を挑発した。

燃え盛っている炎に更に油瓶を投げ込むように次々とザティスは挑発の言葉を浴びせた。特にシャンテの分に関しては罵りにも近いほどで余念が無かった。

当然、サランサがこれほどの狼藉を見逃すはずがなかった。

彼の思い通りにますます怒りの念を強くし、文字通り火山が爆発するかのごとく憤怒した。こうなってしまえばもうザティスのペースである。

突っ込んでくるサランサの攻撃を側転やバク転でアクロバティックに避けたり、眉間ギリギリの所で槍を止めたり、突いてきた槍の上に立ったり逆立ちしたりとやりたい放題で相手を圧倒した。

観客席は突然現れた”殴り込み”に沸きに沸いた。今回の大祭でここまで神殿守護騎士をコケにしたのは彼が初めてだったのだから無理もない。

神前試合とは思えない荒々しい雰囲気に会場全体が包まれた。

教会の関係者達は声を荒げてサランサを叱咤激励し、一般市民は予選の鬱憤もあってか、ザティスに精一杯声援を送った。

それを観戦していた彼の旧友達は唖然としてただただ驚くばかりだった。

「ウソだろ………………なんだよあの速さ…………」
「え~……アレで留年したってマジ? あたし、ドン引きなんだけど……」
「こ、こりゃおもしれぇ!! お、俺、クラスの連中、連れてくるわ!!」

試合会場では一方的な戦いが続いていた。ひたすらザティスが煽って、サランサが突っ込んで、それをいなすの繰り返しである。

ザティスはケンカ慣れしているので煽りのテクニックは一流である。とくに彼女のように真面目一直線なカタブツタイプは怒らせるとどうしても攻撃が単調になってくる。

反面、パワーが上がったりもするのだが、攻撃を喰らわなければ問題ない。彼はしばしばこうやって相手を挑発して激昂させる作戦をとる。

故に彼はこういう真面目タイプ、その中でも特に怒りの沸点が低い相手を得意としている。よっぽど戦力差がない限りはうまい具合に手のひらの上で転がすことが出来るからだ。

それに加え、戦ってみればサランサが格下である事はすぐにわかった。勢いに実力がついてきていないのが動きの節々から感じ取ることが出来る。

防戦一方の戦いが続いていたが、観客席の空気が変わってきた。歓声の中にヤジが混ざるようになってきたのだ。

きっといつまでもザティスが避けてばかりいるのが面白くないのだろう。そろそろ攻めに転じる潮時であると彼は判断してまともに彼女に向き合った。

「はぁ……はぁ……貴様ッーーー!! さんざん馬鹿にしくさってーーーーッ!!」

「怒んのは勝手だが、いちいち口に出して叫ぶのはどうかとな。頭ユルく見えんぜ?」

彼が今まで攻撃を仕掛けなかったのには理由がある。神殿守護騎士テンプル・ナイトの支給装備一式はどれも高度にエンチャント(魔法強化)された装備である。

それだけではなく、教会十八番のブレッシング(祝福加工)も施されているのだ。

この装備は物理、魔法防御ともに非常に高い水準でまとまっている。だが、その分、高価でこれだけの代物を普通に買うのは物好きな大金持ちでもなければ不可能である。

それが当たり前に支給されているのだ。破格の待遇であるといえるだろう。

相手の守りが強固なのは戦う前からわかっていたが、いざ相手にするとどうしたものかと彼は少し悩んだ。言うまでもなく正面からぶつかっていくのは愚策以外の何物でもない。

有効な手立てがないわけでは無いが、一度使った策は次には使えない。どの手段からオープンにしていくかという問題だった。

「ほんじゃま、あんたにゃ悪いが一番子供だましっぽいのでいくぜ!!」

「ハンッ!! この鎧、お前には貫けまい!! 今度こそ!! せやぁーーーッ!!」

ザティスは慣れた手つきで槍をまたもや両手で挟んで受け止めた。両手に軽く力を込めながらサランサに一言告げつつ詠唱した。

「またそれかよ!! 悔しかったら腕を磨いて出直してくるんだな!! もらったッ!! エレクトーロー・ミープ!!」

次の瞬間、バチバチと音を立てて雷撃が彼女の槍を伝って流れた。電流は舐めるように彼女の全身を巡った。露出している部分のみならず、体を伝って鎧の内側まで入り込んでいく。バチバチと激しい音を立てて彼女はショートした。

「ぐぐっ、おの……わたしは……だ……まけな……」

そのまま彼女は煙を上げながら直立したまま気絶した。その根性にザティスは敬意を払い、彼女を横たえて救護班が来るのを待った。

会場もあまりの幕引きにあっけにとられたが、すぐにこの乱入者への歓声で溢れかえった。

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