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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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街に溶けゆく

一行は街道沿いのクルカという名の丘陵を登っていた。モリープからライネンテまで向かうにはこの丘陵を越えねばならない。

とはいえ、道は蛇行しているわけでもなく、傾斜も緩やかな為、旅路の大きな障害とはならなかった。

太古から交易路として使われていたらしいだけあってこの道は旅人の利便性をおもんぱかられて拓かれていた。

ファイセルとアシェリィはじわりと額に汗をかいていたが、ザティスとフレリヤは2人分ずつ荷物を背負っているのに涼しい顔をしている。

この二人は前を歩く二人に比べてはるかに体力がある。さらにその体力に魔力を上乗せし、魔力強化している。

その為、その能力を持たない人からは超人的と例えられるほどの身体能力を発揮出来るのだ。一番後ろを歩いていたザティスがフレリヤを後ろから眺めつつ、声をかけた。

「フレリヤ、お前、随分研ぎ澄まされてるな。魔力の無駄も全くねぇ。さぞかし鍛錬を積んだと見えるぜ。学院だとエルダーといい勝負できそうな雰囲気だぜ」

褒めているのかどうかよくわからないと言った顔でフレリヤは振り返った。そして顔をザティスの方に向けた。たぬきのような太くて大きいしっぽがふりふりと揺れる。

「ん~? マリョク? それ美味いのか? 鍛錬を積んだかどうかはわからないけど、誰かから教えを受けたことはあるらしいよ? ま、それもよくわかんないんだけどさ」

少女は満面の笑みを浮かべた。自分より一回り大きく、おそろしく巨大な体躯に反してこの少女の笑顔はあどけない感じで激しいギャップがある。

顔が小顔な事がそれに拍車をかけた。年齢は自分たちとはあまり離れていないだろうが、アシェリィ並に幼い顔つきなので全く年齢の見当がつかなかった。

そうこうしているうちに4人は丘陵の頂上の平地にたどり着いた。まず目に入ったのは大海である。丘からは遮るもののない水平線を臨むことが出来た。

海は真っ青な色をたたえて陽光に照らされてキラキラと輝いていた。その光景に思わずアシェリィが声をあげた。

「わあああぁぁぁぁ…………」

感嘆の一言を思わず口にした彼女はしばらくその景色に惹きつけられた。目に入るのは海だけではない。大きな都市が丘陵の下の平野にあるのが見えた。

そこには大小様々な建物が林立している。上から見ているのにも関わらず、信じられないほど高い塔や建物が目につく。

今までどの街でも見たことのない高さや大きさだ。下から見たらどれだけ大きく見えるのだろうかとワクワクしてくる。

モノとしてでは無いが、これは確実に立派なおトレジャーであると彼女は思った。これだ、まさにこれが自分が冒険譚を読んで想い憧れた冒険、そしてトレジャーである。

今思い返せばここまでの旅路でもいくつもの新しい物を見た。旅に必死で実感が無かったが、きっとそれらもお宝だったのだと同時に確信した。

そう思えたのはアシェリィが大分、旅に慣れてきて余裕が出てきた事の証明でもあった。駆け出しながらも彼女は冒険者イクスプローラーとなっていた。

景色に見惚れる少女にファイセルは声をかけた。そしてなぞるように指を伸ばして丘陵の下を指差した。

「まず、丘の下に見えるあの都市、あれが王都ライネンテさ。一番大きくてピカピカ光ってるのが宮殿。王様とか貴族が住んでいるんだ。そして都市の西、あの岬に立っている尖塔みたいなのがルーンティア教の総本山、”カルティ・ランツァ・ローレン”さ。まぁ僕よりここで育ったザティスのほうが詳しいんだけどね」

その後、ザティスが王都についてレクチャーした。興味津々といった様子でアシェリィもフレリヤも目を輝かせて聞き入っていた。

さすが王都出身なだけあって地理から内部事情などの細かい点まで熟知しているようだった。

「丘を下ればもうすぐだ。さっさと王都へ入ろうぜ。あすこは夜になると入り口の跳ね橋が上がっちまうんだ。他の入り口もあるにゃあるんだが、身分調査とか身体検査とかめんどくせぇしな。まだ陽は高いが、そういうわけでちゃちゃとな」

背中越しにGOサインを出しつつ、帰郷の途に就く青年は前を歩いた。王都につくまでそう時間はかからなかった。

木製の跳ね橋を渡り、城塞の内側に入るとさっそく人並みが見えた。隅から隅まで建物や人がすし詰めになっているかと思うくらいに王都の密度は濃かった。

「わあああぁぁぁ……」

田舎出身の少女はまたもや感嘆の声を上げてポカーンと口を開いた。そして物珍しげな目であちこちキョロキョロと観察し始めた。

目に入る何もかもが新鮮で、真新しいものに見えた。都会に来るのが初めてな無垢な少女にとってそれは当然の反応だった。

「オイオイ……田舎のおのぼりさん丸出しだな。ま、いいけどよ。ところでファイセル、日程的に少し余裕があるんだったな?」

そう問いかけられてファイセルは手帳をパラパラとめくった。彼は旅の初めから時々この手帳になにかつけている。きっと旅のスケジュールや冒険日誌かなにかを記録しているのだろう。

「うん。途中寄り道もあったし、ちょっと遅れてるけどまだ余裕はある。実はね、アシェリィが王都観光を出来るようにスケジュールに組んどいたんだ」

青年は手帳をパタリと閉じて微笑んだ。ザティスもニカッっと歯を見せて笑った。どうやらこの二人は予め王都観光を予定に組んでおいてくれたらしい。

アシェリィはその気遣いに感謝と喜びでいっぱいになった。きっと王都も素通りで抜けていくのだろうと思っていたからだ。

彼女はあふれんばかりの笑顔を浮かべたが、いきなり笑みが止んだ。何かを言わんとするその顔に一行も不思議そうな顔をした。

「私の観光も良いんですが、それよりも先にザティス先輩の里帰りを済まさないと。ご家族と仲直りするって言ってましたよね? 確か、親戚の方が仲裁してくれるとか……」

途端、茶髪の青年はバツが悪そうに荒っぽくガサガサと髪をかいた。顔はかすかに苛立っているように思える。

「かーっ! めんどくせぇ。ウソだよウソ。俺がココに戻ってきたのは親との復縁のためなんかじゃねぇよ。親類から手紙がきたなんてのもウソっぱちウソっぱち。俺がファイセルにくっついて来たのはリーリンカに頼み込まれたからだ。『妹弟子とは言え、女は女。ファイセルが浮気しないように見張っててくれないか』ってな。報酬はコロシアム戦用の魔法薬の開発、提供ってとこだ」

真っ先にその言葉に反応したのはファイセルだった。彼は目をつむり額に手を当て、あちゃーといった様子で、頭を左右に振った。何とも言えないようでそのまましばらく額に手を当てていた。

「まったくリリィは。しょうがないなぁ。そんなに僕、信用がないかな~」

フォローするようにザティスは彼の方をパンパンと強めに叩いた。肩を叩いた方はファイセルに同情の意を示した。ただ、リーリンカの真意を誤解なきように伝えねばと大柄な青年は気を使った。

「いやぁ、逆逆。むしろ愛されてんだよ。愛されすぎ。アイツ、お前が他の女と話してるとオドオドしだすんだぜ? きっとイマイチ自分に自信が持てねぇんだな。だから今回の旅の状況は俺を間に挟まねぇとアイツにとっては絶望的だったんだ。不器用なアイツを大目に見てやれよ」

彼女結構強がりなところがあって普段全くそんな気持ちは口にしない。だがオドオドするリーリンカの姿は容易に想像できる。

全く気にしていなかったが、そんなところで心配をかけているらしかった。

本当は窮屈な束縛と憤ってもいいところだが、なんだか自分にも過失がある気がして彼はそれを許すことにした。

「それじゃまぁしょうがないね。それに、そんな理由でもザティスが来てくれてとても助かってる。きっと僕とアシェリィじゃここまでスムーズに来れなかったと思うんだ」

呆れた顔と笑顔がまぜこぜになったままザティスは豪快に笑った。そう、コイツはそういうやつだったなと今更再確認したように。そしてまた強くファイセルの背中を叩いた。

「おめぇ、ほんとにお人好しだな! ま、そういうとこ嫌いじゃねぇぜ!!」

背中を叩かれたほうは怪訝な顔をして叩かれた箇所をさすった。軽く叩いたつもりなのだろうが、ザティスの張り手はシャレにならない。

振り向くとザティスが人差し指を立てて笑っていた。「聞け皆の衆」とばかりの顔だ。

「そ・れ・に、俺が帰郷したのはそれだけじゃねぇ。ライネンテ利き酒大会に参加してみたくってよぉ~。ココに居たときはまだガキんちょで酒なんて飲めなかったからな。今の俺が酒通としてどこまで通用するのか挑戦してみたくってよ~!」

あまり酒に興味のない彼以外のその場の全員は微妙な反応を見せた。

飲んべえが仲間内にいれば反応はまた変わったのかもしれないが、不運にもこのパーティーで酒を呑み、美味さを知るのは彼しか居なかった。上機嫌の彼にアシェリィが質問を投げかけた。

「え? それじゃ、里帰りはどうするんですか? お父さんと、お母さんと仲直りは……?」

ザティスが不機嫌そうになったのが誰にでもわかった。まるで苦虫を噛み潰したかのように表情が歪む。すぐに彼は吐き捨てるようにぼやいた。

「うるせぇ。あんなクソみてぇな奴ら、知った事か。俺が留年した途端、手のひら返しやがって。何が自慢のウチの子だ。大概にしろってんだよ」

一行は立ち止まったまま話し込んでいたが、彼らの間に一気に険悪な雰囲気が立ち込めた。ファイセルが話を切り上げる方向に進めようとしたが、アシェリィが急に声を上げた。

「おかしいです。おかしいですよ! お父さんとお母さんが居るのに、血の繋がった家族なのに、そんな、そんな他人みたいな言い方なんて、おかしいし、悲しすぎます!!」

彼女は故郷に残してきた父と母の事を思い出しながらザティスに異議を唱えた。手のひらを返したということはきっと昔は仲が良かったはずなのだ。

感情移入し、まるで自分が両親から絶縁されたような気持ちになってアシェリィは気持ちが滅入った。

だからこそ、彼には不仲であることを当たり前としてほしくはなかった。他所様の家の事情に触れるのは無礼だとわかっていた。

それでも、彼女はそのことに関して譲ることが出来なかった。家族が生きているのに不仲なんてそんなに悲しいことはないから。

だが、その異議はバッサリ打ち切られてしまった。

「おめぇに何がわかる!! 親に見捨てられた事がねぇからそんな無責任な事が言えるんだろ!? いいよなぁ、どうせおめぇはさぞかし両親に大事にされてんだろうからな!! てめぇんちはてめぇんち、俺んちは俺んちなんだよ!! すっこんでろ!!」

今まで見たことのないザティスの強烈な物言いや態度にアシェリィは思わずたじろいだ。悲しみと恐怖でその瞳からはポロポロと涙がこぼれ落ちていた。

それと同時に彼女は激しい怒りも覚え、頭に血がのぼった。悲しくて、悔しくて、切なくて。こんなに怒ったのは記憶に無いほどに。

そして彼女は涙をライラマのローブで拭いながらファイセルたちに背を向けて突如、衝動的に走り出した。そのまま涙をこぼしながら駆け抜けていく。

「家族より……家族よりお酒が大事なんですか!? バカ!! ザティス先輩のバカアアアァァァ!!!」

あまりの勢いと剣幕に彼女を呼び止めることは誰にもできなかった。その場が平静を取り戻す頃には彼女はすっかり雑踏の中に消えてしまっていた。

ザティスが家族の踏み込んだ話になると熱くなるのをわかっていたのに制止しきれず、またアシェリィも止められなかったファイセルは自分を悔やんだ。

フレリヤは気まずさからか、借りてきた猫のようになってしまっていた。

火種の中心となったザティスは苛立ちを隠せない様子でパタパタと地面を踏み鳴らしていた。

街の雑踏は激しく、家に帰れぬ青年と叫ぶ少女の言い合いなど全く意に介すこと無く川のように流れていた。
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