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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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食卓の上の戦場

アシェリィ達は地図を頼りに街道に行き着こうと森の中を突っ切っていた。今いる位置が地図からはわからなかった。

しかし、里へ来る途中の道で遭難しかけたわけだし戻っても大して変わらないだろうと考えてのことだ。

方角さえ合っていればいつかは大きな街道にぶつかるはずだった。

小鳥がさえずり、木漏れ日の差し込む森の中、草をかき分けながら4人は進んでいた。不安げな表情でアシェリィはつぶやいた。

「う~ん……なかなか街道にたどり着けませんね。昨日は野宿でしたし」

一方のファイセルは余裕があるようだった。実際、ここまで来れば森を抜けるのはそれほど時間がかからないだろうと思ったからだ。

「仕方がないよ。いくら街道へのショートカットを通ってるからと言って、街道まではまだ距離があるからね。でも多分今日の夜は野宿しなくてすむと思うよ。それはそうと、フレリヤ、傷は大丈夫かい?」

彼は後ろをついてくる亜人の少女に声をかけた。少女はいまいちといった様子で腹部をさすった。

「おかげさまで傷の方はすっかり良くなったんだけど、お腹が空いたなぁ……。今日も野宿だときびしいかもしれない」

細身の青年は振り向きながら汗を拭って小休止した。他の三人の様子を見て各々のコンディションを確認した。

「そうか。何とかして日暮れまでには森を抜けよう。ザティスは大丈夫?」

大柄な青年はファイセルとアシェリィの荷物の一部を肩代わりして背負っていた。

肉体強化が得意でない二人が旅の荷物を全部背負っているとバテてしまい、いざという時に動けないからだ。

「まぁな。随分増えたが、こんくらいの荷物持ち、なんてこたねぇな。俺はいけるぜ。早く森を抜けちまおう」

ザティスとファイセルの提案に一同は頷きあった。疲れてしまわない程度に歩みを早め、森の中を歩き続けた。

急いだだけあって、彼らは夕方には大きな街道に合流することが出来た。今まで全く人気が無かったが、街道はちらほらと人が行き来していた。

突如として脇の林から出てきたファイセル達に旅人達は驚いたような顔をしたが、歩みを止める者もそこそこに彼らはそれぞれの旅路へと戻った。

ファイセルは手元の魔紙ましの地図を覗き込んで現在地を確認した。

「ここは……ここからならモリープの街が最寄りだね。モリープの隣街はもう王都ライネンテだよ。これでようやく旅の道のりの半分を超えたことになるね。ライネンテについたらそこから海岸線沿いに北東に街道を行けばミナレートに着くよ」

一行はそのまま順調に街道を進み、日が暮れる頃にはモリープの街の入口に着いた。

ライネンテを目指しているであろう旅人や商人たちで街の入口は賑わっていた。それを見てザティスは注意を促した。

「モリープは結構デカくて人口や人通り、物流の多い街だ。くれぐれもはぐれたりしないようにな。あと、スリにも気をつける事」

それを聞いてフレリヤがなんだか不安げな表情を見せた。そわそわとして落ち着かないようだ。思わずアシェリィが声をかけた。

「フレリヤ? どうしたの? なにか気になることでもあるの?」

問いかけにフレリヤは首を縦に振った。

「あ、ああ……。あたし、ホウコウオンチってやつなのか、こういうゴチャゴチャしたとこだと迷っちゃいそうだなって……」

彼女は至って真面目だったが、意外な弱点にアシェリィ達は苦笑いを浮かべた。

どのみち彼女のように頭一つ、いや二つ以上人より飛び抜けて背が高ければこちらが見失うことはないだろうと思えた。

だが、すぐに問題点に気づいたファイセルが小声で語りかけた。

「いや、まずいよ。フレリヤが目立ちすぎる。いくら手配から時間が経ってるとは言え。あの耳に身長だとバレてもおかしくない。なんとか対策を考えないとな……。とりあえず、迷子にならないように街中ではアシェリィが手を繋いで歩いてよ」

アシェリィは頷いてフレリヤの手を取った。とても大きな手だったが、形は女性のそれであって指はしなやかで美しかった。

手を握ったとき、アシェリィは少しドキドキしたが温かい手に包まれて心あたたまる気がした。

優しさのようなものも感じられて、彼女が賞金首で追われている人物だとは思えなくなっていた。

「アシェリィ、また迷子になるんじゃねぇぞ? 二人揃って迷子になったらめんどくせぇからな」

アシェリィはその言葉に頬を膨らませ、むくれた。そしてムキになったのか言い訳じみた反論をザティスに返してきた。

「も、もう旅をしてから随分経つんです!! あの頃とは違うんです!!」

大柄な青年は彼女を見下ろしてニヤリと笑った。いかにも小馬鹿にしているといった感じでからかった。

そのまま後頭部で手を組み、背中を向けてモリープの街中へと歩きだしていった。

「あっ、ザティス先輩!! ちょっと!!」

「やれやれ……」

アシェリィとフレリヤが迷子にならないよう、ファイセルは後ろからついていくことにした。ザティスの言うとおり、王都に近いと言うだけあってモリープは賑やかな街だった。

露店や市場は夕時でも営業しているし、宿屋や食堂が何件も軒を連ねていた。先を歩くザティスがある露店の前で立ち止まっていた。

「まずはその耳を隠さねぇとな。帽子の露天商だ。どんな帽子がいいだろうかな。こんなのとかどうだ?」

ザティスはある帽子を手にとってフレリヤに渡した。ザティスが選んだのはつばの大きい白目の色をした麦わら帽子だった。

「えぇ~……似合わないな~。ザティス、ウケねらいでしょ?」

彼は心外だとばかりに大きく目を見開いて、ガサガサと後頭部を掻いた。

「そうかぁ? 似合うと思うんだけどな~……」

ファイセルは肩をすくめて目をつむり、大きくため息をついた。そして目を開くとフレリヤの頭の上にちょこんと乗った麦わら帽子を指差した。

「この白い色合い、逆に目立つよ。しかもこの帽子に限って言えば婦人向けじゃない。そうだな……これとかどうだろうか?」

ファイセルは暗めのマゼンダ色のつば広帽子を選んで、フレリヤに手渡した。

受け取った彼女はその帽子を頭にかぶってみた。耳がすっぽり隠れ、頭だけ見ればおしゃれな婦人のように見えた。

「ん~、ちょっと年相応じゃ無くねぇか?」

「……言われてみれば。アシェリィはどう思う?」

「ん~、思うところは色々ありますが、いつまでも悩んでいても仕方がないし、ファイセル先輩のでいいんじゃないですかね?」

アシェリィの判定を聞いて思わずファイセルは小さくガッツポーズした。一方のザティスは聞こえないくらい小さな音で舌打ちして、頬を軽く掻いた。ザティスはグレる間もなく話題を転換した。

「さて、帽子は見つかったし、夕飯だな。ここんとこまともなもん食ってなかったからな。ガッツリ食おうぜ!! モリープの地酒はアルナ・パンテだな。ジャルルモっていう虫の蜜から作られる酒だぜ」

彼の酒談義を聞いてか聞かぬか、一行は手頃な大衆食堂を見つけて中に入った。2階建てでかなり大きな食堂だ。

メインの通りに位置しているだけあって、中はかなり賑わっている。店に入ると明るい茶髪のウェイトレスが元気よく声をかけてきた。

「いらっしゃいませー!! 食堂、”王都おうとのおうとなり”でーす。四名様ですね。そこの席におすわりくださーい。メニューが決まったらまた呼んでくださいね~」

ファイセルはわかりにくいダジャレに思わず立ち尽くした。

「おうとのお隣……? 寒っ」

ザティスも同じく店先で立ち尽くしてしまった。

「ああ……。こんな頭のユルそうな食堂は初め……」

「ぷくく……おうとの……おうとなり……ぷくくく……」

冷める二人の横でアシェリィが笑いをこらえている。思わずザティスはファイセルの肩に腕をかけて内緒話を始めた。

(おい……アシェリィってあんなキャラだったか……?)

ファイセルも困惑した様子で首を横に振って否定の意を示した。

(いや、あんなふうに爆笑するのは滅多に無いよ。……もしかして寒いギャグに弱いのかもしれないね……)

一行はアシェリィの意外な一面を見つつ、雑談もそこそこに席に座った。席に座るとフレリヤが気まずそうに重い口を開いた。

「あのさ……あたし、お金持ってないんだけど―――」

そう言いかけた彼女に向けてファイセルは掌を向けて、心配しないようにとジェスチャーを送った。するとフレリヤは満面の笑みを浮かべてペコペコとお辞儀をした。

「フレリヤの分は僕が出すよ。遠慮しないで食べて。じゃあ僕はあんかけ黒ミミズ麺と、ウィルカのジュースと……」

「俺はとりあえずアルナ・パルテとミズウミカブトムシの姿揚げ、ゴマバッタの唐揚げで」

「私は……このモリープ・カレー。それと青グレープの果汁を」

「じゃあ、あたしは―――」

フレリヤが食べ始めると食卓は戦場と化した。もの凄い勢いで彼女が皿の料理を平らげていくのである。これには他の三人はただただ驚くだけしなかった。

厨房が悲鳴を上げるのにそう時間はかからなかった。店全体のオーダーの殆どがフレリヤに集中しているといってもいいくらいに彼女はオーダーし続け、そして食べ続けた。

突然の出来事に誰もが唖然とし、ファイセルたちでさえ制止する事ができなかった。

やがて、他の客に料理が提供できなくなる事態に陥り、王都のおうとなり食堂は貸し切りになってしまった。

貸し切りになってからもしばらくフレリヤの時間は続き、店の食材という食材を食べきって、食堂は閉店時間を前にして閉店してしまった。

店の出口まで追いやられ、店長らしき人物が声をかけてきた。

「すいません、お客様方、誠にご勝手なお願いではございますが、以降、この店舗への出入りを禁止させていただきます。ご利用ありがとうございました」

食堂のドアは拒絶するかのようにバタンと閉じられた。

「トホホ……大衆食堂なのに食費16万シエールなんて……。僕の旅費の半分以上ふっとんじゃったよ……」

財布を悲しげに覗くファイセルを背に、フレリヤは腹部をさすった。

「う~ん。久しぶりに食った食った。でもまだ腹6分目くらいかな。みんなもまだお腹すいてるよな? 二軒目行こうよ!! 遠慮しなくていいなんて、ファイセルはほんと良い奴だな~!!」

結局、その晩のうちにファイセルの旅費は尽きてしまった。

こんな人物の食費をまともに払っていたらキリが無いと一行は悟り、保存食であるライネンテの海軍レーションを買い込む事となった。

結果として異国の土地にやってきてもフレリヤは海軍レーションを食べる羽目になるのだった。
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