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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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迷いなき背中

意識を取り戻したフレリヤはファイセルたちに色々と問いかけてきた。里の外の者という事で、里の者よりは自分について詳しいと思ったからだろう。

一方、尋ねられた側は何から説明したものかと考え込んでいた。その結果、とりあえず説明できるところは出来る限りしていこうという事になった。

一行を代表してファイセルが彼女との問答に臨むことになった。

「えっと……まずは僕らの名前から。僕はファイセル。こっちはザティス。女の子の方はアーシェリィーって言うんだ。よろしくね。早速、質問の君の名前だけど……。確かに君の本当の名はフレリヤではないね。本当の名前がある。賞金首……そう、君が賞金首になったときに名前が公表されてたはず。でも残念ながら僕たちはそのときの名前を覚えていないんだ」

それを聞いたフレリヤは片手で頭を抱えだした。心なしか苦しそうにしているように見えたのでファイセルは彼女を気遣った。

「大丈夫? もしかして頭が痛むのかい? もしかしたら無理に思い出そうとすると辛いかもしれない。ここは―――」

ファイセルがそう言いかけると彼女は手で抱えたままの頭を左右に振ってから顔を上げた。そして旅の一行の方を見つめながら思い出すようにつぶやいた。

「パ……フィー……、”パルフィー” あたしを狙いに来た男はあたしをそう呼んでいた。じっちゃんも里のみんなもあいつらに……。なんとか仇はうったけど、じっちゃんたちを助けることはできなかった」

彼女の言葉にその場は静まり返った。重苦しい雰囲気になりそうだったが、その前に彼女自身がその沈黙を破った。

「で、あたしは何をやらかして賞金首なんかになってしまったんだ? 思い当たる節は全く無い。いや、覚えていないだけかもしれない。でも自分が賞金首なんて……あたしは……あたしはなんだか怖くて。そりゃ気のせいだったら良かったさ。でも、たしかにあたしは人を―――」

それを聞いてファイセル達は奇妙な感覚に襲われた。あの時の賞金首がこんな形で目の前に現れ、しかも自分についた賞金に怯えているというのである。

もっと賞金首というのは肝が座っていて図太くふてぶてしいものだと思っていただけに余計である。言葉を選びながら、ファイセルは彼女の記憶を探ってみることにした。

「まず、君は人殺しの罪で賞金首になっているわけじゃない。だから大量殺人鬼とかではないよ。そこは安心して。ただ、君は珍しい亜人としても手配されている。今後も君を狙ったり、捕まえようとする人はいるかもしれない」

不安げに縮こまっていた彼女は青年の説明を聞くと大きくため息をついた。そして彼らの方を向いた。

殺人鬼ではないという点に安心したからか、少し表情が柔らかくなったのがわかった。だが、追われている身には変わりがないわけで、予断を許さないと言った様子だった。

「続けるよ。”ウルラディール家”って覚えているかな?」

ウルラディールという一言で彼女は大きく耳をパタパタと動かした。何とも言えないといったような顔で口が半開きになった。

このリアクションにファイセルは確信を持った。手応えを感じたのでそのまま話を続けた。

「今、外国のノットラントって島国のウルラディール家ってとこでゴタゴタがあってね、次期当主だった女の子が国外に逃げてるんだ。それで、その女の子の付き人として君も指名手配されてるんだ……。どう? 何か思い出したかい?」

フレリヤはというとなんだか深刻な表情をしていた。やはり思い当たりがありそうな反応である。しばらく沈黙した後、彼女は遠くを見つめ、口を開いた。

「誰か、誰かを護らなきゃいけないって強く思ってたのは覚えてるよ。だからきっとそのジキトーシュの女の子ってのがあたしが護りたかった人なのかもしれない。ウルラディール家ってのは何となく覚えてる。でもさ、肝心のその女の子の名前や見た目は思い出せないんだな……」

彼女は自分の右手のひらを見て、ゆっくりそれを握った。またゆっくり開くとその手を握った。まるで記憶の感触を探っているかのようである。

だが駄目だったようで、目をつむったまま、首を横に降った。

「遅かれ早かれその女の子のことはわかるはずだよ。彼女も賞金首だからね。その気になれば名前や見た目を調べるのは難しくないさ」

ファイセルはそう告げるとザティスとアシェリィの方を見た。三人はフレリヤをどうするかについてこの数日で話し合ってきたが、出来るものなら保護してリジャントブイルへ連れていきたいという意見で一致していた。

また彼女を狙ってハンターや賞金稼ぎが来ないとも限らないし、里を危機に追いやってしまった原因となれば彼女はもう里に居場所はないだろうと考えてのことだった。確認のために振り向いたファイセルに二人は頷いた。

「僕らと来ればウルラディールの事はわかるはず。ただ……突然現れて会ったばかりの僕達を信用してくれっていうのは難しいかもしれないね。でも少なくとも僕らは君を賞金首扱いするつもりも、突き出すつもりもないよ。恩を着せようってわけでもないし、何か対価が欲しいわけでもない。強いて本音を言うなら珍しい亜人を保護したいってとこかな。ともかく、悪いようにはしないと約束するよ」

黙って聞いていたウィムル婦人だったがこの勧誘には流石に驚いたのか、声を上げた。

「ちょ、ちょっと待っておくれ!! 確かにあなたたちには良くしてもらった。フレリヤを悪いようにするとは思えない。でも、この子は私の家族なんだよ!? 今更別れるなんて……そんな……そんな……」

消え入るような声を背にフレリヤはファイセルたちを見つめ直した。そして、落ち着いた様子で彼らに語りかけた。

「おばさん……ありがとう。それだけ聞ければ十分だ。あたしは……あたしは行くよ。やらなきゃ。あたしのやりたかったことを……。それに、もう里の皆には迷惑をかけたくない。本当は償いとかしなきゃなんだろうけど、今のあたしは何をやっても疫病神な気がするよ。いつまでもここにいる訳にはいかない」

亜人の少女はあやふやにしていた掌を再びグッっと握り、力を込めた。その力んだ拳からは彼女の力強い意志のようなものが感じられた。

拳を見つめていた彼女に向けて部屋の隅にいた少女が悲痛な叫びを上げた。

「ねえちゃん、行かないで!! ねえちゃんは悪くない!! ほら、ウィースも!! わかってるんでしょ!? ねえちゃんは何も悪くないってこと!!」

袖を引っ張られた双子の男の子の方は顔を伏せながらつぶやいた。その片手はこわばって強く握られていた。

「わかってる……。ねえちゃんはねえちゃんだ。でも、オレ、どうしてもこわくってさ。なんていっていいかわからない」

そのやり取りを見ていたパルフィーはベッドの上から半身を起こしたまま、前かがみになって二人を見つめた。彼らの方を向くと優しい眼差しを向けながら謝りだした。

「リィス……ウィース……。二人には怖い思いをさせて悪かったよ。ウィースがあたしの事を避けて怖がるのも無理もない。こんなのが同じ家に居たらおちおち眠れもしないだろ? それに事あるごとにあの日のことを思い出すだろう。やっぱり、あたしは出ていくべきだと思う」

「フレリヤ……」

「ねえちゃん……」

「…………」

話が一段落すると、フレリヤは目をつむってゆっくり首を左右に振った。

大きな仕草ではなかったが、彼女なりにこの家や里と決別したのがその場の皆に伝わっていた。彼女は目を開くとファイセルたちの方を見つめた。

「ファイセル……だっけ? どのみち今のあたしが頼れるのはあんたらしか居ない。あたしを里の外へ連れて行ってくれ。何はともあれウルラディールについての情報がほしい。もしかしたら何か思い出すかもしれないし。出来ることならば以前のあたしの事を知ってる人を探してみたいってのもある。まだ色々ひっかかるところだらけなんだ」

その返事を聞いてファイセルたち一行は頷いて彼女の決断を歓迎した。再びファイセルが代表して彼女と握手した。それと同時に彼は彼女に問いかけた。

「呼び名はどうしようか……。パルフィーは指名手配されてる名前だから出来れば使いたくないなぁ。なら今までと変わらずフレリヤでどうかな?」

フレリヤという呼び名を聞いた彼女は何か思うところがあったのか、思わず苦笑いを浮かべた。そして視線を窓の外へ移しながら気持ちを語った。

「”フレリヤ”か。それを聞くとじっちゃんの事を思い出さずにはいられないんだ。じっちゃんのつけてくれた名前だから。でもさ、出来ればあたしだってあの日のことは忘れたい。それでもそう呼ばれるって事はじっちゃんが『勝手に忘れるのは許さないぞ』って言ってるのかもな。いいよ。あたしは今日からフレリヤって名乗ることにする。前の名前も大事だけど、今はこれでいい。そんな気がする……」

話がまとまってファイセルたちは長老の家へ戻って再び旅をするべく、しっかりとした準備をし始めた。家を後にしてウィムル婦人の家の前に行くとフレリヤが小さな荷物を指から下げて待っていた。

ふっきれた様子で笑顔を浮かべ、こちらに手を振っている。この無邪気で明るい性格が本来の彼女なのかもしれないと一行は思った。

「いや~、薬をもらったって話は聞いてたんだけど、想像以上に効き目がすごくてさ。あんな傷でも塞がっちゃうのな。まだ痛むには痛むけど、歩いたり普段の動作には問題ないよ。包帯もすぐ取れると思う」

ファイセルは頷くと制服上着をめくって腰のホルスターの薬を見せた。ホルスターに収まった試験管には色鮮やかな薬品が入っており、日光に反射してキラキラと光っていた。

「まだ追加の分の薬もあるから、無理な動きをしなければ完治するまでにそんなに時間はかからないはずだよ。幸い、君の負った傷も致命傷になるものは無かったみたいだし。大丈夫さ。完治するまでは僕らも無理せずゆっくり歩くから」

薬を確認するとフレリヤはウィムル宅に背を向けて歩き始めた。それに着いていく形でファイセルたちも里に背を向けた。里を離れゆくフレリヤは背中越しにウィムル婦人達に手を振った。

「じゃあ行くとするか! ウィムルおばさん。あたしが出ていったくらいで気を落とさないでくれよ。もともとは転がり込んだ厄介者だったんだからさ。ウィースにリィスもお母さんの言うことを聞いていい子にしてるんだぞ。じゃないと賞金首だからな!」

歩き始めた旅人たちは背中で女性と少女の嗚咽を聞いた。誰もがその声に後髪を引かれたが、先頭を歩くフレリヤは全く歩みを止める様子を見せなかった。

この先、彼女を待つ現実が希望に満ちたものなのか、絶望に満ちたものなのか誰にも分からない。それでも迷いのないその背中にアシェリィ達は心なしか勇気づけられたのであった。
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