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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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運命の邂逅

里の亜人の少女、フレリヤとキツネ顔で頬がこけ気味な黒髪の男は距離をとって対峙していた。フレリヤは数人を屠った拳から禍々しい殺気を放っている。

一方の男はというと全く戦意を見せずに何やら語りかけてきた。

「まぁ、そう慌てなさんな。ようやくサシで殺り合えるんだからよ。いくら”賞金首”と言えども、狩りゃあ名が知れちまう。あいにく俺様は目立つのが嫌いでねェ。夜のカラスのような生き方が性に合ってんのよ。これで俺様があんたを殺れば誰があんたを狩ったのかは誰にもわからねェ。だからわざわざこんな愚図共とつるんだワケだ。反吐が出るぜ」

フレリヤは耳をパタパタと振って相手の言葉に耳を傾けた。そして、憎しみに満ちた表情から一転して疑問の表情へと顔色を変えた。

「賞金首? あんた今、賞金首って……も、もしかしてあたしの事か……?」

男はその反応に違和感を感じたようで、アテが外れた様子だった。呆れたように無造作に後頭部を荒っぽく掻いた。

「あん? この場で生きてるのはあんたしかいねェだろ。……まぁいい。そんなのは俺様にゃ関係ねェ。少しばかり話をしようじゃねェか。その形……間違いねェ。”月日輪廻げつじつりんね”って言えばわかるか?」

フレリヤは自分でも気づかないうちにいつの間にか格闘の構えをしている事に気づいた。

片腕は相手に向けるように突き出し、片方の腕は指先を下にして胴のそばに引きつけていた。どちらも掌を相手に向け、大きく脚を開いて腰を落とす姿勢をとっていた。

「げつじつ……? 知らない!! あたしはそんなの知らないッ!!」

それを聞いた男はまたもや頭を掻いて首を横に振った。話が噛み合わない事に気づいたのか、彼は彼女に問いただし始めた。

「おいおい。知らないって? あんたのそれが月日輪廻げつじつりんねだよ。ゲンジジイに教わったんじゃねェのかよ? その戦い方を教えてくれたジジイが居ただろ?」

亜人の少女は戦いの構えを維持したまま戸惑いの表情を浮かべた。

こんな拳術を誰かに教わった覚えもないし、”ゲンジジイ”とやらにも全く心当たりがない。思わず彼女は男に聞き返した。

「あたしは”ゲンジジイ”なんて知らない。……あんた……この技の……いや、あたしの事、何か知ってるのか?」

男は指で頬を掻きながら目を細め、フレリヤをまじまじと眺めた。そして舐めるように観察しながら彼女の周りを回るようにゆっくり歩き始めた。

ぐるりと周りを巡っているとわかっていても、なぜだか彼女には男の気配を感じ取ることが出来なかった。

「半分知ってるが、半分は知らねェ。誤解なく言えばあんたのこたァ直接は知らねェ。だが赤の他人ってわけでもねェ。わかるか? これ以上の問答は野暮ってもんだ。続きが聞きたきゃ拳で語りなァ」

男は彼女の周りを一周してから正面に戻った。それと同時に男は彼女と同じ姿勢をとった。そして猛スピードで突っ込んで来た。急な襲撃だったが、フレリヤはうまく反応して迎え撃つように中段蹴りを放った。

「んんッ? ジジイに教わらなかったのか? 月日輪廻に殺気はご法度だってなァ。 そんなに殺気立ってちゃ拳が鈍るぜ。 おーっと名乗るのを忘れてたな。俺ァ月日輪廻の4番目の弟子、ハナブサだ。まァ俺の名前もあんたの名前もどーだっていいんだがなッ」

ハナブサは蹴りを手刀で止めた。まるで刃物同士で切り合うようにギリギリと手刀は音を上げた。そして空いている方の右足でフレリヤの脇腹めがけて蹴りを繰り出した。

素早く彼女は脚を退いてを立て直し、飛んできた蹴りを腕で止めた。今度は棍棒同士をぶつけ合うような鈍い衝撃が二人の間に響いた。

「ジジイを知ろうが知るまいがかまわん。俺としちゃァあんたが身につけてる”奥義”を盗んであんたを殺りゃあそれで終いだ。まさか大事な事を忘れちゃねェだろうなァ。月日輪廻の弟子は互いに殺し合う運命さだめにあるって事をな。 お前にも何となくわかっただろう? 俺様が近づいてくるのがよォ」

フレリヤはこの男に出会ってから酷く心がざわついていた。昨日感じた違和感はこの男のせいだったのかと彼の発言で疑惑は確信に変わった。

そうだとすれば自分は本当に月日輪廻とやらの使い手ということになるが、”奥義”というものがなんだかわからない。そもそも自分がどうやって戦っているのかさえ頭では理解できていなかった。

「わからない!! あたしは誰なんだ!! 賞金首って、奥義って何なんだ!! あんたは―――」

思わず彼女は戦いの構えを解いた。同時にハナブサも戦いの手を止め、彼女に自分の知っている情報をちらほらと話し始めた。

「まさかあんた、記憶が……それじゃ奥義も忘れちまってるってことか? かーっ、めんどくせぇな。仕方ねェ。冥土の土産に聞いておけ。あんたはノットラントで指名手配されてる大罪人で賞金首だ。名前は”パルフィー”。どうだ、何か思い出したか?」

「パ……パル、パルフィー……。ノ……ノット……ラント……うっ……」

それを聞いたフレリヤは頭を抱え始めた。頭が割れるような頭痛がする。何かを思い出しそうだったが、結局あいまいな感覚だけ残って痛みは引いていった。

思い出したいことは何一つ思い出せなかった。ハナブサは様子をうかがっていたが彼女のリアクションを見て見切りをつけた。

「ま、こんな事話しても意味ねェか。俺様としたことが、ヤキが回ったぜ。相手に情けをかけるとはな。ま、妹弟子って事で多少は愛着があるのかもしれねェな……。だ、が、例えあんた自身が”奥義”を覚えて無くてもその体が覚えてるハズだ。体に聞いてみりゃわかる。いいな? くれぐれもすぐ死ぬんじゃねぇぞ? その醜い殺意をむき出しにしたままじゃあっという間に死ぬ。月日輪廻の極意は”無殺意の殺意”だ」

ハナブサは流派の構えをとった。フレリヤは殺意こそ全く感じなかったが、本気で自分を殺そうとする気迫のようなものを彼から感じ取った。さっきと同じ姿勢で戦いに挑んでいけば負けは必至と彼女も悟った。

「まだ……まだあたしには……やり残したことがある。なんだかわからないけど、やりのこした事があるんだ!! こんなところでは死ねない!! 死んでたまるもんかッ!!」

彼女は地面を擦るように脚を広げてゆっくりと月日輪廻の構えを取った。そのまま体が無意識に演武を始めた。

その美しく、整った形や所作に思わずキツネ顔の男は見とれた。彼自身も知らない形も多く混ざっていたのだ。無理もなかった。

「……おっと、意外と早く見られたな。それがあんたの奥義、”演武”だな? 師匠が死んでも自分だけで拳術を磨いていけるようにって末弟への計らいか。確かに見させてもらった。俺様の奥義は……もうわかってるだろう。俺様は拳が斬撃、脚が衝撃の特性を持っている。本来の月日輪廻げつじつりんねとは逆……これぞ昼夜逆転ちゅうやぎゃくてんだ」

フレリヤは話を聞いてなんとなく自分の拳術の特性を思い出しつつあった。他の記憶は忘れてしまってもハナブサの言うように体は覚えているものだ

。彼女は直感と演武をすり合わせてわずかに手応えを感じていた。未だにわからない事だらけだが、少なくとも目の前の男にみすみす殺されるわけにはいかない。

「うああああああああああッッッーーーーー!!」

フレリヤは猛スピードで踏み出してハナブサの胴めがけて片腕の掌底を放った。一方のハナブサは膝を上げて腹部をカバーした。

掌底と脚は接触し、衝撃が生まれてそれが互いの体に響いた。そして二人の間に鐘を突いたような鈍い振動がずしりとかかった。

「ちっ、なんて馬鹿力だ!! 一種の才能だなこれは。だが、まだ殺意が丸出しだ。甘い甘い!! 一日千襲いちじつせんしゅう!!」

ハナブサは空いている両手を使い、高速で手刀の突きを放った。掌底を打ち込んでいたフレリヤはこれをガードできず、上半身に無数の切り傷を負った。血が彼女の肌から滴り落ちる。

「ふ~ん。致命傷は外してくる……か。ふ~ん、デカい割に反射神経はいいんだな。いや、伊達に月日輪廻げつじつりんねの使い手やってないってとこか」

ハナブサは攻撃の手を弱めず、連続で手刀の突きを放った。もし、ちょっとでも回避に失敗すれば彼の刺突が心臓を貫くだろう。

フレリヤはその技を食らうことによって、体のそこから何かが湧き上がるのを感じた。こんな時にワクワクするのは自分でもおかしいと思いつつ、彼女の感情は加速していった。

「―――――!!」

フレリヤは素早く掌底を引っ込めてバックステップして相手と距離をとったあと、つま先で突くように何度も連続蹴りをし始めた。それがハナブサの技と衝突し、金属同士がぶつかるように火花が散った。

針宵嵐しんしょうらんか!! ちっ!! なんて図体してやがるんだ。手刀が懐まで届かねェ!! なら突っぱねてやるぜ!! 震宵嵐しんしょうらん!!」

彼もフレリヤに対抗するように連続蹴りを繰り出した。貫通と打撃の相性が悪いらしく、ハナブサの蹴りは彼女のつま先蹴りをうまく弾いた。

相手の蹴りが次々と決まり、彼女の脚部にはダメージが蓄積していった。徐々に劣勢になっていく彼女をみて男はぼやくように言った。

「ま、経験の差ってとこだろうな。それにまだ殺気が抜け切らねェ。もう少しホネのある奴だと思ったんだがなァ。だが安心しな。兄弟子は俺様がみんな殺る。そして月日輪廻げつじつりんねの次期継承者は俺様になるってわけだ。ククク……」

男は蹴りを思いっきり振り切って間合いを空けた。亜人の少女は上半身に無数の切り傷を、脚部に多数のアザを負っていた。戦いは終始、男の優勢でフレリヤに勝ち目はなさそうだった。
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