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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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朱に染まった手

次の日の朝、普段聞き慣れない荒々しい声を聞いたフレリヤは耳をピクピクとさせてベッドから起き上がった。

普段、里の中でいざこざが起こることなど無い。これはただ事ではないと、彼女は耳をそばだてた。

「お~い、爺さん、悪ぃこた言わねぇ。”パルマーの樹”へ案内しちゃもらえねぇかな? 俺らもあんま手荒なこたぁしたくねぇんだ」

「……申し訳ありませんがこんなに大人数を樹までご案内することは出来ません。それに、あなた方が持っているのは木こりの道具ではないですか? まさかとは思いますが……」

「うるせぇ!! 大人しく従わねぇと痛い目みるつってんだ!!」

誰かが地面に転がるような音が聞こえた。うめき声を上げたのは長老だった。

「長老になんて事を!! お前たち、悪ふざけにも度が過ぎるぞ!!」

男性が非難する声を上げているのがわかる。だがまたもや人が転がる音がした。どうやら彼も押し倒されたらしい。

「あ、痛い目つったけど、別に死んでもらってもかまわねぇぜ? まずはそこの生きのいい兄ちゃんとかどうだ?」

「ぐっ!!」

外で何が起こっているのか音だけでは完全に把握することは出来ないが、明らかに異常事態が発生しているのはすぐにわかった。続けて荒い声の男が喋った。

「それと、この里に耳と尻尾の生えた女の亜人のガキがいるだろ? そいつにも会いてぇんだが。どうやらまだ姿はみえねぇようだな? え? どうなんだ長老さんよ」

「知らん。この里にはそんなものはおらん!!」

長老は絞り出すような声で抵抗する態度を示した。

「死にてぇかつってんだよ!!」

男の怒号と同時に人を蹴る鈍い打撃音が聞こえた。

「ごほっ、げほっ、げほっ!!」

「じっちゃん!!」

フレリヤは思わずそう叫んで家の出口から外に出ようとした。すると誰かが彼女を呼び止めた。双子兄妹の兄、ウィースだ。どうやら裏口からこっそり入ってきたらしい。

「ねぇちゃん、変な人達がきてるから絶対外に出ちゃダメだってかあちゃんが言ってた。何があっても身を隠しているようにって。だからボクも今から隠れるよ。ねぇちゃんはクローゼットの中に隠れて!! 早く!!」

「くそっ!!」

突然のことにフレリヤは焦ったが、とにかく隠れねばと思って両開きのクローゼットを開けて、前かがみになって中に入った。体格のせいでクローゼットはギュウギュウだったが、なんとか収まりきった。

フレリヤはクローゼットの中から引き続き聞き耳を立てた。多少聞こえにくくはなったが、まだ外の音を拾うのには支障がなかった。彼女の聴力のなせるだった。

「よーし、いいぜ。そいつらをパルマーの樹まで案内してけよ? 貴重なプラント・トレジャーだ。闇市場では800万シエールは固いらしいぜ。へっへっへ。おっと、逆らってみろ。里の連中がどうなるか」

「わかった。案内する。だから里だけは……」

「聞き分けの良いヤツは嫌いじゃねぇぜ。おら行け」

数人がまとまって歩いて行く足音を拾うことが出来た。どうやら里に突如現れた集団はパルマーの樹を切って売るつもりらしい。

全員で樹に向ったのではなく、かなりの人数が里の広場をたむろしているのもわかった。残りはきっと自分を探しているのだろうとフレリヤの鼓動は高まった。

「従ってもらったのに残念なお知らせなんだがよ、お前ら一人でも生かしとくと樹の事を憲兵とかにチクる可能性あるだろ? だから全員死んでもらうことにするわ。おい! おめぇら、亜人の女以外一人残らず殺れ。女子供にも容赦するな。行け!!」

「!!!!」

一度に大人数が雄叫びを上げながら様々な方向へ走っていく足音が聞こえる。するとすぐに広場に集まっていた里の男たちの悲鳴が聞こえた。

その声を聞くに、容赦なく相手は村人を惨殺しているようだった。少しして女性の悲鳴も聞こえた。きっと隠れていたのが見つかったのだろう。このままではここが見つかるのも時間の問題だ。

フレリヤは恐怖に震えた。手を組んで祈るように目をつむって見つからないことを祈った。ウィースとリィスはうまく隠れただろうか?

彼らは体が小さいから隠れる場所はたくさんある。普段からかくれんぼでも見つからないのでなんとかなるのではと思えた。

それより自分である。こんな真っ先に開けられそうなクローゼットに隠れている事に対する不安感は尋常ではなかった。

ベッドの下に隠れれば体がはみ出すし、何より尻尾を隠すのが難しい。そうなると確かにここしかなかったが、あまりにも心もとなかった。

そうこうしているうちに入り口の扉を叩きつけるように開けて、誰かが入ってきた。フレリヤはクローゼットの隙間から外を覗いた。

ガラの悪そうな男が短剣を片手に部屋中の様子を窺っている。その顔は殺気に満ちていて、興奮している様子だった。

「お~い、どこだぁ!? 隠れてないで出てこいよ~。大人しく出てくれば命だけは助けてやるぜ~?」

そう言いながら男は隠れている者を探しつつ、家の中をあさり始めた。こうなってしまうともう見つかるのは秒読みであるとクローゼットの中の少女は覚悟した。

だが、みすみす刺されるわけにはいかないと、組んでいた手をほどいて身構えた。もしかして開けたとたんにふいうちで突き飛ばせば逃げ出せるかもしれないと思ったのだ。

彼女は大きくツバを飲み、爆発しそうな心臓の鼓動を押さえつけて歯を食いしばった。

「ここだな!?」

部屋を荒らしていた男はついにクローゼットを両開きに開けた。緊張のあまりタイミングを見誤り、フレリヤは姿を見られてしまった。

だが、男は驚きのあまり、後ろに飛び退いた。少女と伝えられていたのにこれほど大きな体をしていれば驚くのも無理はない。

次の刹那、フレリヤは勢いをつけてクローゼットから両手を付き出して突き飛ばしを放った。だが男とは距離が出来ていて、うまい具合には当てることが出来なかった。

更に、姿勢を崩してしまい、片手を前に突き出す形で前のめりにつんのめってしまった。彼女はもう駄目だと絶望しかかったときだった。

ズボシュッッッ!!

鈍い音が家中に響いた。フレリヤは目をぎゅっとつむっていたが、刺される気配がない。どうしたのかと目を恐る恐る開けると、彼女が突き出した片手が男の腹を貫いていた。

「な、な、なんなんだこれはよ……」

男はあまりの事態に茫然自失として黙り込んだ。一方のフレリヤは真っ赤に染まっていく自分の腕を見て同じような反応を示した。

「え……何? どうなってるの……これ……」

だんだん状況を把握してきたのか、男は呆然としているフレリヤの腕をぐっと力を込めて掴んだ。

「痛っ、痛、いっ、いって。抜け、早く、ごふっ、抜け……」

急に強い力で握られて彼女は必死で抵抗した。男の腕を振り払おうと自分の腕を強く振った。すると腕は男の脇腹を引きちぎって宙を斬った。

立て続けにわけのわからない出来事が起こってフレリヤは完全に混乱した。

「が、ぐ……」

目の前の男はバランスを失ってまるで枝を折ったかのように分断されて床に転がった。今まで生きていたものが肉塊になる様を間近でみた彼女は自分の腕を見つめた。鮮血に染まった手のひらを開いたり握ったりして、感覚を確かめた。

「あ……あたしが、あたしが殺したのか……?」

さきほどまで酷く混乱していた彼女だったが、そう経たないうちに頭が冷えてきた。自分でもなぜこんなに落ち着いているのかわからない。

まるで今まで当たり前のように人を殺めてきたかのようだった。

「うっ…………はぁ、はぁ…………。……………………」

フレリヤはおもむろに立ち上がると家の玄関のドアを開けて外に出た。双子は恐れおののいて制止の声をかける事が出来なかった。

里の広場には惨たらしい光景が広がっていた。多くの里の人が殺されて、地面に転がり、大量の血で広場は真っ赤に染まっていた。立ち尽くす彼女に残った男たちの目線が刺さった。

「おお!! 出てきやがった!! おめぇのタレコミ、マジだったんだな!! 例の賞金首の亜人、いるじゃねぇか!! こりゃ大儲けだぜ!! いいか、てめぇら、生け捕りにしろ!! 殺すんじゃねぇぞ!!」

優しくしてくれた長老、里の皆はもの言わぬ屍となった。

フレリヤは拳を握りしめた。激しい怒りが彼女を包んだ。こんなに怒ったのは記憶にない。いまだかつて無い怒りが彼女を復讐に駆り立てた。

「おまえらぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!!」

まず、手始めに彼女は家のそばに居た男に駆け寄り、両腕で腹部めがけて掌底を打ち込んだ。打ち込まれた側はおびただしい量の血を吐きながら木に激突してぐちゃぐちゃの肉塊と化した。

さらに近くに居た男めがけて目にも留まらぬ速さで走り寄り、ハイキックを首めがけて振り抜いた。蹴られた首はスッパリと斬れ、男の頭が宙高く舞い上がった。

そうしているうちに隙を突かれ、後ろから羽交い締めにされてしまった。前方からも敵が迫ってくる。剣で切りつけられるかどうかといった絶妙の間合いで彼女はサマーソルトキックを放った。

勢いをつけて蹴り上げたので羽交い締めにしていた者の両腕は根本からちぎれて吹き飛んだ。前方の男はサマーソルトの直撃を受けて股から頭のてっぺんまで真っ二つになり、左右に崩れ落ちた。

そのまま勢いを殺さずにバク転に持ち込み、今度は腕のもげた男を頭の天辺から股まで一刀両断にした。彼女の周りには原型を留めない骸が無残に散らばっていた。

瞬く間にでフレリヤは4人の息の根を止めた。こんな家業をやっているくらいである。腕には自信がある者の集まりだったようだが、彼女はそれを一瞬で粉砕した。

残るのはリーダー格の男と、なぜか一人だけ離れたところから静観しているキツネ顔の男だけだ。

「ほ、ほら!! お、お、お、おおめぇもいけよ!! 早く行けよ!! ぶっ殺されてぇか!?」

「フン。お前みたいな愚図に指図はうけねぇよ。あばよ」

キツネ顔の男は歩み寄ってくると突然リーダー格の男の胸を手刀で貫いた。まるで、フレリヤがやったように。刺された男は一声も上げず絶命した。

「あのさ、オレ様、お前に用があって来たんだよ。いや、来てやっただな。見つけるのに苦労はしなかったが、こんな辺鄙な場所にいるとはな。手を焼かせやがって」

男は腕を振り抜いて血を払った後、わざとらしく肩をすくめた。

「いけねェなぁ。感情に身をまかせちゃよ。玄のジジイは教えてくれなかったのか」

「…………お前が……お前が情報を流さなければこんなことにはッ!!」

里に不吉な風が吹き、木々が嘆くような音を立てて揺れた。二人の間にもまた、不穏な風が吹き抜けていた。
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