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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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ハーヴェスト・プリエステス

アシェリィは火の霊体、ポルムスと契約することに成功してサモナーズ・ブックをパタリと閉じた。大きなため息をついて彼女はファイセルとザティスの方を向いた。なんだか戸惑った表情をしている。

「ホントにこれで良かったんでしょうか? 完全に脅しでしたよね……。なんだかちょっぴり可哀想だったかなって」

彼女の不安げな一言にすぐザティスが言葉を返した。

「なぁに、きっとそれもサモナーとしての実力の一つなんだろうよ。それに、あんな小生意気な奴、脅してこき使うくらいで丁度いいんじゃねーの。ま、あの調子じゃどれだけ役立つかわからねぇけどな……」

ファイセルも同意してコクリと頷いた。二人が気を使ってくれたおかげでアシェリィは安堵し、胸に手を当てて深呼吸した。

そして振り向いて畑の方を見つめた。ポルムスを恐れて逃げていた街人や旅人達も再び戻り、畑には人が集まりつつあった。

アルクイモを邪魔する火属性の幻魔はもう存在しないようだが、しばらく待っても一向に彼らが姿を表わすことはなかった。アシェリィは顎に指をそえて何やら考え込んでいた。

「火属性の元は消えましたが、長いこと居ましたからこの近辺の”場の属性”が火属性に傾いてるのかもしれません。もう一度、ランフィーネを呼んでみます」

彼女は再びサモナーズ・ブックを開き、手に握るようにして水色に光る光源を宙に投げた。またもや光源はキラキラと光り、やがて弾けるように空に溶けていった。

しばらくするとポツポツと雨粒が降り出した。そして間もなく本降りになった。すると雨の勢いが増すと同時にアシェリィは前かがみになって膝に手をついた。

「ハァ……ハァ……やっぱりまだ立て続けの召喚は厳しいですね。これじゃ幻魔を二匹以上同時に呼び出すのは無茶ですね。師匠せんせいがそれぐらいは出来るようにしておけっておっしゃってたんですが……」

かがんだ彼女の肩をトントンとファイセルが優しく叩いて励ましの言葉をかけた。

「まぁまぁ、旅の道のりはまだ半分にも到達していないんだから時間はあるよ。焦らずマナのスタミナを鍛えていけばいいよ」

後ろから見ていたザティスはそのやり取りを見てなんとも言えない表情でつぶやいた。

「ふ~ん…………。ま、いいけど。それよりお二人さん、畑の方を見なよ。アルクイモのお出ましみたいだぜ」

彼の呼びかけを聞いてアシェリィとファイセルは畑の方を眺めた。何やらかすかに声のような音がする。

最初は空耳かと思ったが、二人は確かに声がすることを確認した。その場にいる人達もそれを聞いてざわめきだっていた。

「モニョ……モニョモニョ…………」

「ムニョムニョ……ムニョ……ムニョムニョ……」

一同が畑に釘付けになっていると濡れた畑から何かが這い出してくる。長細いサツマイモのような形状の芋が尖った部分から飛び出すように姿を地表に現した。

芋には手足が生えているように見えたが、よく見るとそれは芋から出た芽だった。彼らは2本の脚で走り回っている。

「おお!! アルクイモが”芽覚めた”ぞ!!」

「助かった!! これで酒を作ることが出来る!!」

歓喜、興奮する人々をよそに土から出てきた芋達は次々に月光浴をする草原の方へと駆けて行った。30分もしないうちにすべての芋が大移動をしたようだった。

歩く芋を見届けた3人は満足して宿に帰ろうと踵を返した時だった。街人や村人がアシェリィ達を囲んだ。

「も、もしかしてさっきの雨!! お嬢さん、”雨乞いの巫女”ではないですか?」

「んだ!! ”ハーヴェスト・プリエステス”に違いねぇ!!」

「巫女様、どうかウチの村にも雨を降らせてくだせぇ!!」

近寄る人々達は混乱気味だ。このままだと押し寄せてくる彼らに巻き込まれてしまいそうになった時、ザティスが突然、大きな声を上げた。

「諸君!! 無礼であるぞ!! この巫女様は聖なる地、カルティ・ランツァ・ローレンへの巡礼の途上である!! いかなるものも巫女様の歩みを留めること何人たりともまかりならん!! 道を開けい!!」

響き渡った声を聞いて聴衆はシーンと静まり返った。そして、人垣は切り開かれたように割れて一筋の道が出来た。それはまるで花道のようだった。

旅の3人はその道を歩いてそのままうまく厄介事を避けて街に帰ることに成功した。感心した様子でファイセルがザティスを褒めた。

「すごいねザティス。まるで本当の神殿守護騎士テンプル・ナイトみたいだったよ!! あんな才能が君にあったとはね。意外だなぁ」

アシェリィも同じく関心した様子でザティスに問いかけた。

「ホントです。ザティスさんお知り合いに神殿守護騎士の方がいるんですか?」

二人の視線を受けてザティスはやや煙たそうだったが、事情を説明した。

「この近辺……ライネンテ西部ではな、”ハーヴェスト・プリエステス”……つまり、雨乞いで豊穣をもたらす巫女の信仰が根強い。

そんな奴、めったにこのへんにゃ来ないこともわかってはいても、熱心にこの辺りの連中は巫女を信じているのさ。さっきの名乗り口上も昔見たのを真似ただけだぜ」

ファイセルは興味深そうな顔をして聞いてきた。彼が好奇心全開でなにか尋ねて来る時は大抵説明が面倒なことが多い。

彼のそういうところは少し厄介だなと思いながらザティスも人がいいのでなんだかんだで説明することになるのだが。

「要するに、アシェリィは巫女に間違えられたってこと? めったに来ないって事はたまには巡礼する巫女もいるって事?」

ザティスは小さなため息をついて質問に答えた。

「ああ、そうだよ。さっきのでアシェリィは巫女だと思われただろうな。巡礼する巫女についてだが、そういう奴も居なくはないとは聞いている。巡礼ってよりは視察に近いがな。もっとも、連中は箱入りばかりだから外をウロウロしてる奴は相当物好きなんだよ。にしてもお前、教会については疎いのな。ま、南部出身じゃ仕方ねーか」

ボソリとつぶやきながらザティスは歩き始めた。後ろを振り向いてファイセルとアシェリィにこっちへ来いと手を振ってジェスチャーをした。

先ほどの人混みに巻き込まれるとめんどうだと思ったのだろう。彼は背中を向けて早歩きになった。

3人は早歩きで夜の街の雑踏を抜け、宿屋に到着した。今、下手にウロウロすると畑で一部始終を目撃していた人と遭遇してしまうかもしれない。

もしそうなれば”雨乞いの巫女”として担ぎあげられてしまうだろうと一同は警戒した。

もし本物のハーヴェスト・プリエステスだと思われたら少なくとも一週間は巫女を称える豊穣祭に発展し、街を抜け出せなくなってしまうとザティスは経験談で語った。

いくらこの旅のスケジュールに余裕があるとはいえ、祭りに巻き込まれてしまうのは予定外のロスとなる。ここで迂闊に引っかかるわけには行かなかった。

打ち合わせの結果、今夜は部屋から出ずに待機し、明け方前に街を発って、騒動をやり過ごそうという事になった。ファイセルとザティス、アシェリィはそれぞれ部屋に戻って休むことにした。

ザティスは夜の街を窓から見下ろしながらぼやいた。

「まずいぜ。人の流れが活発になった。こりゃお祭りモードって感じだぜ。早いとこ街を離れてぇところだな……」

一方のファイセルはベッドに横になりながらランタンの明かりでクリエイト・マジカル・クリーチャーの参考書を読んでいた。外の様子が気になっている彼の方を向いて何気なくつぶやいた。

「大丈夫だよ。明け方に出れば見つかることはないって。別に誰かに追い回されてるわけじゃないんだしさ……」

次の瞬間、ドアを激しくノック、いや、激しく殴るような音が聞こえた。

「巫女を騙りし者達!! ここに潜伏しているのはわかっているぞ!! 大人しく部屋からでろ!!」

女性の怒鳴り声がドア越しに聞こえてきた。

「サランサ……乱暴な事は……」

またもやドアが激しく打ち鳴らされた。今にも外から突き破って来そうな勢いである。叩いているのは声を上げている女性であろうか。

「まずい……ズラかるか?!」

「いや、まだアシェリィが残ってる!! 一人だけ残していく訳にはいかないッ!!」


二人は顔を見合わせながら打ち破られそうなドアのほうを見つめた。


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