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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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カノジョ~、お茶とかどう?

アルクイモの現状を聞いた3人はおいしい夕食を囲みながらあれこれ話し合った。

「ほぉ~、この辺りだともうブシカブトムシが採れるんだな。硬くて歯ごたえがあるが、このフライは絶品だな。んで、どうする?」

テーブルの向かい側でファイセルとアシェリィがそれぞれの料理を口に運びながら素振りをしていた。食堂などで座るときは大抵、ザティスの向かい側に二人揃ってならんで座っていた。彼の体が大きいためどうしても隣に座ると窮屈になってしまうからだ。そんな大柄な青年に細身の青年が答えた。

「ん~、アルクイモのウォッチングスポットは草原だって言ってたね。さっきの女の子の話を聞くに、”芽覚めてない”って言ってた。ってことは大移動のルート上ではアルクイモは確認されてないはずだよ」

アシェリィは顎に手を添えながら何やら考えていた。ファイセルと隣り合って座ると仕草がそっくりである。きっと師匠譲りなのだろうなとザティスは思ったが、一緒に修行していたわけでもないのに似すぎているなと彼は気になった。

「どうしたんですかザティスさん、なんだか深刻な顔をして…」

突然の指摘に彼は少しの間、沈黙したがすぐになんでもないと返事を返した。

「あ、いや、アルクイモについて考えてんだよ。それより、アシェリィはなんか言いたいことがあったんじゃねーのか?」

ザティスに聞き返されたアシェリィは深く頷いて一同の顔を見ながら喋り出した。

「やっぱり、アルクイモの埋まってる畑に原因があるんじゃないかと思います。草原は後にして、畑の方に行ってみませんか?」

アシェリィの提案にファイセルもザティスも同意して頷いた。3人は食事を終えて、食休みをするとティアランの東の畑へと移動した。夜だというのに畑には多くの人が集まっていた。ウォッチングポイントで何も見られなかったのだろうか、こちらの畑なら何かしら見えると思ったのかもしれない。何の変哲もない畑だったが、アシェリィは虚空をじっと見つめていた。

「やっぱりだ。お二人にはえないのかもしれませんが、小さな火の精霊が畑の上に無数に漂ってるんです。アルクイモは植物属性。火とは相性がすごく悪いんです。地上に彼らが居ると怖がって出て来られないのかもしれません」

彼女はそう言うとサモナーズ・ブックを取り出した。どうやら何かを召喚する気らしい。火の精霊ということで同行していた二人はどの幻魔を呼び出すか予想がついていた。

「大活躍だね……今回もお願い!! 我らに降りたるは優しき慈愛の雨!! ランフィーーーネッ!!」

アシェリィは握った手のひらからボールを頭上に投げるように水色の光源を投げつけた。弾けるようにそれが散るとすぐにポツポツと水滴が落ちてきた。間もなく雨の勢いは一気に増し、ザーザーと音を立てて畑に降り注いだ。

「これなら!!」

彼女は火の精霊を追い払うのに成功したと確信したが様子がおかしい。火の精霊が一箇所に集まり始めた。するとあっという間に合体して1つの火の玉になった。そして雨の勢いに負けること無く小爆発を起こした。

「うわぁ!!」

「うおっ!!」

同時にファイセルやザティス、周りの人々が驚きの声を上げた。閃光を放ったので多くの人が腕や手のひらで光を遮った。どうやら集合した事でサモナー以外にも見える可視幻魔に変化したようだった。光が収まると火球の居た場所にランプのように淡く赤色に光る脚のない幽霊のようなものが出現していた。

「ハーイお嬢さん元気~? 随分なご挨拶だね~。チミ、オイラが雨嫌いなの、知ってるっしょ? ほ~れ。雨なんて吹き飛ばしちゃうもんね」

突然の呼びかけにその場は戸惑い、しばしの間、誰も言葉を発さなかった。そうこうしているうちに幽霊は脚のあるはずの箇所に生えている尻尾を撫でながら再度語りかけてきた。

「ヘ~イ、聞こえてる? いくらなんでもシカトってのはないんじゃない? もしかして、オイラが視えないのかな?」

二度目の声掛けでその場の人たちは状況を理解し始めたらしく、それぞれ異なった反応をした。幻魔はおろか、モンスターさえあまり見ない街の人達は激しく混乱しだした。大声をあげる者もいれば逃げるものもいた。勇気ある者や物好き、そしてアシェリィ達だけがその場に残った。

「ヘイヘイ、イヤだねぇ~。失礼しちゃうね。人を化物みたいにさ~」

アシェリィ達は話にあえて応じず、対応策を内輪の会話で練った。ファイセルは口のそばに手のひらを立てて会話している素振りを隠しつつ話した。

「……バケモノじゃなくてなんだってのさ。しかしこれまた今までの幻魔と随分違うね。こんなに喋る幻魔、リーネくらいしか知らないよ……」

ザティスも流石に困惑したのか、しかめっ面をしたまま身をかがめ、話の輪に加わった。

「ホントだぜ。なんだありゃ。今んとこ敵意はねーみてぇだが、拍子抜けしちまうな」

アシェリィも二人の顔を見ながらこそこそ語った。

「幻魔って言っても皆、凶暴というわけでは無いんです。特に、よく喋るタイプの幻魔は。そして、人語が堪能である場合、”ネゴシエーション(交渉)”で契約することも出来るみたいなんです。今は敵意が無いみたいなので交渉を試してみます。初めてなのでうまく行かなかったらその時は頼みます。ランフィーネを吹き飛ばせるってことはそれと同等の力はあるはずですので……」

解説に了解した二人はアイコンタクトでやりとりし、アシェリィと幻魔との”交渉”が始まった。

「ヘ~イお嬢さん、かわいこちゃんですね~。お名前はなんていうのかな?」

相手のペースに飲まれてはいけないとアシェリィは緊張して心臓の鼓動が高まっていた。だが残念ながらアシェリィはあまり交渉術が得意ではなかった。生まれて交渉と呼べるほどのことをしたのは数回あるかないか程度だったので無理も無かった。

「わ、私は……」

「あ、名乗るときは自分からってね。オイラはポルムスってんだ。イゴ、ヨロシクお願いね~」

いつまでもドキドキしていては駆け引きが不利になってしまうと思い、アシェリィは一旦落ち着くために大きく深呼吸をしてから話しかけた。

「私はアシェリィ。アーシェリー・クレメンツって言います。よろしくお願いしますね」

彼女が名乗るとポルムスは舐めるようにこちらを観察し始めた。

「う~ん、カタい、カタいよ。もっとリラックスリラックス。あ~、あと悪いね、男連中には用がないんだよ。オイラはアシェリィちゃんに用があるんだ。ねぇ~、お茶でも飲みにいこうよ~。そんな湿気った本なんか置いてさぁ。オイラ、そういうシケっぽいの、苦手なんだよね~」

アシェリィは手に持っているサモナーズ・ブックをちらりと見た。どうやら彼女が水属性の幻魔と多く契約していることを気にしているらしい。

「森の匂いもするねー。あいつらクソザコだから。オイラの炎にかかればちょちょいのちょいだよ。だから早くその本を置いてこっちに来なよ~。いいとこ知ってんだぁ。後悔しないデートになること請け合いだからさ~」

樹木属性と相性が良いのも見ぬかれているらしい。サモナーズ・ブックを覗いているというよりはアシェリィから出る属性を感じ取っているようだ。立て続けにポルムスの一方的なナンパは続いた。どうしたものかとアシェリィは対応に困っていた。だがふと師匠せんせいの言っていたある言葉を思い出した。

師匠せんせいは交渉において穏便なやり方がすべてではないって強調してたっけ。時に大胆に。場合によっては……)

ナンパ地獄を打ち破るため、アシェリィは攻めの姿勢に出た。急に険しい表情に顔色が変わり、ピシリと言いつけるように喋った。

「私……しつこい男の人は大ッ嫌い。あなた、酷く目障りだわ。私の水幻魔達ならいつでもあなたなんか消しくずにできるのよ? 自分の置かれてる態度、わかってる?」

彼女は普段、絶対にしないような非常に冷酷な表情を浮かべてポルムスを脅しにかかった。これにはファイセルとザティスはとても驚いて度肝を抜かれた。あの温厚なアシェリィがここまで怒るとは思ってもなかったからだ。

「オ……オイラを脅す気なのか!? じょ、嬢ちゃんいい度胸してるぜ。オイラはこう見えても火属性界隈では名の通ってる……」

火の幻魔の話を遮って更にアシェリィは慈悲無く畳み掛けた。人には裏の顔があるとはよく言うが、これがアシェリィの本性なのではないかと残りの二人はなんとなく思った。

「聞こえなかった? 消しくずにしてやるって言ってるのよ。消滅したくなかったら私の下僕になりなさい。いいわね、これが最後のチャンスよ。もう確認はとらないから。さっさと答えなさい。5……4……3……」

容赦無いカウントダウンが始まったが、ポルムスは動揺し、臆しながらもそれでも譲れないといった態度で反抗してきた。

「ど、どどどどうせ、さっきのアメフラシがいいとこなんだろ!? オオオ、オイラを脅そうなんて368年早いね!! 喰らえ!! ピカピカフラーッシュ!!」

ポルムスはそう叫ぶと激しく光を放って点滅した。高速でチカチカと光っており、まともに目視したら目がつぶれそうだ。目をつぶっても瞳が熱くなるほど強烈な光源だ。

「へ、へへへ~ん。どうだ。ニンゲンなんて所詮こんなも……」

アシェリィは目をつむったままサモナーズ・ブックを開き、光る幽霊にページを向けてアルルケンとの契約ページを開いた。するとすぐに幽霊は点滅をやめて急に怯えだした。

「う……うわぁぁぁ!! やめろ~!! やめてくれ~!! そんな深い海の底みたいな色をしたモノを見せるんじゃない!! 本当に消しくずになっちゃうよ!! うわああああぁぁぁ!!」

光の点滅が止まったため、全員の視界は確保された。ポルムスを見るとせわしなく飛び回り激しく狼狽している。完全に我を失っており、もはや戦意喪失していた。そんな彼にアシェリィはウィンクしながら誘いをかけてみた。

「ポルムスくん、消しくずになんかしないから、私と一緒に来てくれない?」

それを聞いた彼にはもはや選択肢が残されていなかった。交渉というより脅迫そのものだったが、なんとか彼の答えを引き出すことが出来た。

「うわああああぁぁ!! わかった、わかったからさっさとそのページを閉じてくれ~!!」

「よし!! 契約成立!!」

アシェリィガサモナーズ・ブックを閉じると同時に火の幽霊は姿を消した。
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