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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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流石に空は飛べないけれど

アシェリィは契約を終えるとなんとも言えない高揚感に包まれていた。下級無名幻魔の時は感じなかった感覚である。ふと我に返ると思わずポツリと口に出した。

「あ……この子は……ヒスピス……ヒスピスっていうのね……」

彼女にはまたもやその幻魔の性質や能力が自ずと手に取るように分かった。どうやら風属性、鳥属性の幻魔のようである。能力を感じ取った彼女は本を開いて早速ヒスピスを召喚した。

「サモン・スカイブルー・ヒスピス!!」

サモナーズ・ブックの1ページがキラキラと蒼い色に輝くと鳥の姿をした幻魔が再び姿を現した。先程は戦闘していたからよく見えなかったものの、美しい蒼色の羽をした鳥だ。

大きさはカラスより一回り大きい程度で、よく見ると足が3本生えていた。ファイセルはそれを見てつぶやいた。

「へぇ……伝説上の鳥類、ヤタガラスに似ているね。それにしても綺麗な鳥だなぁ」

そんな感想を聞きつつアシェリィは腕をさしだした。するとヒスピスは彼女の腕にとまった。幻魔の爪は鋭く、直接腕にとまらせたら怪我をするのではないかとファイセルとザティスは思ったが、彼女は痛そうな素振りを見せない。

「実は幻魔って基本的にはマスターに害を与えられないようになってるんです。契約した幻魔は一応、マスターに逆らうことも出来ません」

ファイセルもザティスも興味深そうに頷いていたが、ザティスがもう少し突っ込んだ点について質問した。

「で、そのヒスピス……とやらに出来る事はなんなんだ?」

そう聞かれるとアシェリィは腕の上の鳥型幻魔を見つめた。彼か彼女かはわからないが、第一印象とは異なり、つぶらな瞳が可愛らしかった。

「そうですね……。まず、今まで私の出来なかった遠距離攻撃がこの子によって出来ます。さっき私たちを襲ったようにモンスターにけしかけるんです。あとは隠された能力もあるようです。私は風属性の幻魔との契約数が少ないので、まだ力が開放できないんですよ。だからまだ何か秘めている……かも」

ファイセルは好奇心全開で別の質問をしてきた。

「鳥だし、空とか飛べないの? ほら、ぶらさがってとかさ」

アシェリィはなんだか恥ずかしそうな仕草をしながらファイセルのほうをちらちらと見た。

「さっき、ツタで捕まえたじゃないですか。あの時、私は宙に浮きませんでしたよね? つまり、私を宙に引っ張り上げる力はないんです。わ、私がもうちょっと……その、スリムならあるいは……」

乙女の悩みを無視してファイセルは冷静に分析した。

「そうかぁ。そうだよね。あの調子じゃいくら君が細くなっても空をとぶのはムリだと思うよ」

だが出来ないと言われれば人間ムキになるもので、アシェリィは飛べるかどうか挑戦してみる気になった。

「えっと、腕を真っ直ぐ上にかざして、上にヒスピスをとまらせて、足を手で掴む!! それっ!!はばたいてヒスピス!!」

鳥の幻魔はバサバサと羽ばたいたが、ほんの僅かしか宙に浮いていない。さらにムキになってアシェリィは全力でマナを注いだ。

「ええーい!! サモニング・バーストッ!!」

彼女がそう叫ぶとヒスピスは限界まで羽ばたいて更に宙に浮かぼうとした。すると驚くべき事にアシェリィの体は浮き上がり、ザティスの腰の高さくらいまで浮き上がった。だが、30秒も持たないうちに限界に達したヒスピスは煙を上げて消え、バテた彼女は地面に落ちて尻もちをついた。

「はぁ、はぁ……いっててて……。こ、こんなもんです。どうでしょう?」

ファイセルとザティスは思わず苦笑いしながら尻もちのついたままの彼女の腕を2人で引っ張りあげた。

「さて、行こうか。目標通過点のティアランまではまだ距離があるよ。この調子で幻魔を集めながら進んでいこう!」

ファイセルが皆を励ましたがザティスはその言葉を聞くと何かに反応して心ここにあらずといった様子だ。どうしたのだろうかと他の2人が思っているとひとりごとのようにつぶやいた。

「ティアランつったら歩く芋の酒、アルクイモ・ジンが有名だな。なかなか行く機会のねぇ街だから楽しみだぜ」

彼は行く先行く先で地酒を飲むことを楽しみにしている。というか酒のためだけに旅をしていると言っても過言ではないのかもしれない。そんなザティスを見てアシェリィは複雑なな表情を浮かべた。

「ザティスさん、街と酒をリンクさせてるんですね……」

意外な方向からの指摘にザティスは思わず恥ずかしく思った。取り繕うようにアシェリィに向けて否定の意を示した。

「そんなこたぁない! 誤解だ、誤解。あくまで酒はお・ま・け。おまけだよ。そんな酒乱みたいな目で見てもらいたかねぇな」

「ふ~ん、おまけ……ねぇ……」

そうファイセルは呆れたように言うと森の中を街道の方向へ向けて歩き出した。それについていくようにアシェリィも後をついていった。
「へいへい。なんでもお見通しです。か。おーい、待てよ」

3人はそう長い時間かけることなく、街道に戻ることが出来た。

一行がシリルを旅立ってから十数日が経過した。まだ道のりは長く、行程の半分も進んでいなかった。彼らは亀竜の月の頭に旅だった。目標のリジャントブイル魔法学院の入試の日付は翌月の首長蛙の月の15日である。この日までにミナレートまで到着しないとその年度での合格は不可能となる。

セーシルを発った彼らは順調に旅を続けて街道を北西へと北上していた。このあたりまで来るとラーグ領を抜けつつあった。ライネンテの西部はケント領と呼ばれ、春と夏の気候がごちゃまぜにやってくるという変則的な季節の性質を持つ。次の目標の大きな街、ティアランを間近にして運悪く一行は猛暑日に遭遇してしまった。

「うわ~……あっついです~。ジリジリと太陽が街道をてらして……。蒸し風呂みたいですね」

「前の村で服を買っておいてよかった。防御力は無いに等しいけど、こんな暑さの中、制服やローブなんか着てられないよ……」

ファイセル達は新しく買った夏着を着て、背中に今までの装備品を背負って歩いていた。上半身は半袖で、下は制服のズボンと言った出で立ちだ。ザティスも同じである。アシェリィも半袖に着替え、短めのスカートと脚もショートブーツのみにして身軽にし、暑さ対策をした。

「あ~、日焼け止めの薬をぬらないと……肌がヒリヒリしちゃいますよ……」

アシェリィは肩掛けカバンから薬品を取り出して塗りながら汗をかきかき街道を歩いた。彼女もあまりの暑さに相当まいっている様子だった。そんな中、一人だけピンピンしている男が居た。

「いやぁ~、やっぱあちぃ日はいいぜ~!! やっぱこうでなきゃな!! ミナレートを思い出すな? ファイセルさんよ!」

この暑い中、ザティスは機嫌良さそうにファイセルに声をかけた。一方のファイセルもアシェリィ同様、この暑さがこたえているようで、滝のように流れ出る汗を腕で拭いながら彼の相手をした。

「まったく、あくまでミナレートは人が快適に過ごせる気温なんだよ? こんなに暑くならないでしょ……。これじゃ40℃近くあるんじゃない? 」

ファイセルは消え入りそうな声をそうぼやいたまま無言で街道を歩き始めた。アシェリィも肩を落としながらとぼとぼとその後をついていった。その様を見てザティスは檄をいれつつ注意喚起した。

「おい、お前ら元気出せよ。そんなにへばってるといざという時に対処できないぜ? 今は軽装なんだし、気を抜いたままでいると大怪我しかねねぇんだからな」

強烈な太陽は街道を歩く者に等しく降り注ぎ、そこにいる皆が自分たちと同じように陽に当てられながら暑い街道を歩んでいる。ウィールネール馬車といえども日陰ではあっても涼しいとはいえなかった。

「はぁ……はぁ……村を発ってから随分経つね。ティアランまでは休まず行けば夕方くらいには着く予定さ。だからあと半日の辛抱だよ……」

汗をだらだら垂らしながらファイセルが振り向きざまに言った。足取りはしっかりしているが、息は上がり、肩も重そうだ。アシェリィは皮肉ぶった愚痴を言った。

「はぁ……夕立でも降ってくれれば良いんですけどね……雲ひとつないですね……」

そうつぶやいた彼女は突然立ち止まった。残りの2人も思わず立ち止まった。
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