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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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昔の自分を見ているようで

資金を使いきったことでファイセルはアシェリィの手持ち金がいくらぐらいなのか疑問に思った。一応確認してしておこうと彼女に質問した。

「そういえばアシェリィ、念のため聞いておくけど、貯金を含めての所持金はどれくらい? 僕は今、20万シエールくらいあるよ。あ、あとザティスは?」

突然の問いにザティスはなんだか気まずそうな態度で目線を逸らした。ファイセルが予想していた悪い予想は的中した。

「また闘技場で負けたんだね……僕の試合じゃセコンドだったから賭けられなかったわけだし……。どうせギリギリの旅費しか残ってないんでしょ。いい加減その浪費癖というか度の過ぎたギャンブル好きはなんとかしたほうがいいと思うよ」

ファイセルの説教もそこそこにザティスは手を頭の後で組んで口笛を吹いてその場をやり過ごした。実際は全然やり過ごせていなかったのだが。

「まったく……」

一方のアシェリィは銀行のキャッシュカードの裏面を指先で軽くこすった。すると預金金額が浮き上がって表示された。これは登録した本人にしか表示することの出来ない残金確認システムだ。カードにはおよそ25万シエールと表示されていた。

「だいたい25万シエールですね。郵便局でのお給料が結構高かったのでこんなにたまってるんだと思います」

アシェリィが預金額を報告するとファイセルは満足そうに頷いた。

「よし。なら金銭面には心配ないと思うよ。無駄遣いしすぎなければ問題なくミナレートまで到着できると思う。まぁ欲を言って良いマジックアイテムなんかを買っちゃうとすぐに無くなっちゃうんだけどね……。さて、準備も出来たしとりあえず今日はこの街で泊まろう。少し時間をくっちゃったけど、日程にこのくらいの余裕はあるからね」

ファイセルは笑顔でアシェリィをフォローすると彼女とザティスを引き連れて市場を出て、地図を見ながら宿屋や飲み屋などが林立する繁華街にやってきた。歩いていると後ろからザティスが地図を覗き込んできた。

「何々、トッピーオ通り……ねぇ。ふ~ん、結構いい雰囲気の飲み街じゃねーの。ここいらの地酒つったら……オココ麦から作られるオココ・ビアだったっけな。色は黒目の褐色。苦味はあるが、後味はほんのり甘い。古酒なんだがそこそこウマかった気がするぜ。原産地で飲んでみるってのもオツなもんだな」

それを小耳に挟んだファイセルは聞き捨てならぬとザティスの方を振り向いた。

「ちょっとちょっと。まだアシェリィはお酒飲める歳じゃないんだからコテコテの飲み屋はNGだよ。飲めるとこもあるんだから大衆食堂で我慢してよ。もし酒場に飲みに行くなら一人で行ってくれるかな」

彼の指摘を聞いてザティスは調子を崩されたようで頭を掻きながら首をコキコキと傾けた。同時に何か考え込んでいるようだったが、すぐに反応があった。

「あ~、わかったわかった。流石にそこまで協調性が無いわけじゃねぇよ。ツレがいるのにわざわざ一人で酒飲みっつーのも面白くねぇからな。いいぜ。そこらへんの食堂で手を打とうじゃねぇの」

ザティスは腕を組んで多少不満の色を浮かべたが、やがて高い位置からアシェリィを見下ろして含み笑いを浮かべた。それは年下をからかうような態度にも思えたが、彼からは悪意を感じなかったのでアシェリィはあまり深読みせず気にかけないことにした。

宿屋を二部屋取った一行は夜の街へと繰り出した。日の暮れたトッピーオ通りは旅行く人に飲み客が混ざり、歓楽街じみた雰囲気になっていた。

人気も増えていて、もしここではぐれれば非常に厄介だ。もっとも、今は宿を緊急時の集合場所にしているためにさきほどのような事態には陥らなさそうだったが。

それでもまたはぐれては困ると念には念を入れ、アシェリィはファイセルのローブの裾をつかんで街を回ることにした。

その脇でザティスは酒場を吟味していた。昼間は目立たなかったが、少し通りから入った場所にはあちこちで酒場が景気よさ気に営業していた。きっと各々の店の常連が一杯飲みに来ているのだろう。

そんな事をふと考えているザティスは冷たい視線を感じた。案の定、視線の元はファイセルだった。おそらく酒場を舐めるように見ていたのを咎める気なのだろう。それを脇目で見たザティスはやれやれとばかりに手をひらひらと振って酒場で飲むつもりが無いことを示した。

結局3人は通りに面した2階建ての大衆食堂”コッペルン亭”で食事をとることにした。大きな扉を開けて中に入ると夕食時とあってか、多くの客でフロアは賑わっていた。

酒場が多い通りの中だが、食堂とあってか客層は広く、子供から老人までやってきていた。一行は空いているテーブルが無いかとフロアを見回した。

ちょうど食事を終えて席を立った客達がいたので彼らが立ち去った後に座った。男性の店員がすぐやってきて忙しげにテーブルの上の食器を手早く片付けた。そしてメニューを3人に手渡した。

「お客さん、旅の人? そのローブからすると南から来たんだね。セーシルに来たんならやっぱりオココ・ビアかな。おつまみにサラリー・イモムシの揚げ物とかもいいよ。岩塩を食べるイモムシで、ミネラル豊富なんだ。おっとお嬢さんには甘くてほんのり酸っぱいヒタヒタの樹液なんかがいいね。それじゃ、注文決まったら呼んでね」

男性店員はフランクな態度でそう接客するとまた忙しげに他の客の注文を取りに店の奥に消えていった。3人はメニューを見ながらわいわいと何を頼むか決め始めた。

「そうだな……俺ぁやっぱりオココ・ビアとさっき店員が言ってたイモムシの揚げ物を頼むわ。主菜は……そうさなぁ……少し呑んでから考えるとするぜ。お前らは?」

「僕は……そうだな。タカトビウサギ・ベーコンのラパン・塩パスタに、ヒタヒタの樹液かな。アシェリィは?」

「私もこのヒタヒタの樹液を……あとは8種の木の実たっぷり、ナッツ・ナッツ・パーティ・ピラフですかね」

メニューが決まるとザティスはすぐに店員に声をかけて呼んだ。混雑していながらも店員は返事をすぐに返し、こちらにやってきた。

オーダーを取るとまた忙しげに店の奥へ消えていった。そう時間が経たないうちに三人分の料理は運ばれてきた。黒目の褐色のビールが目の前に置かれるとザティスはジョッキを握った。

「んじゃま、旅の無事を願って景気付けに乾杯といくか。多少出鼻をくじかれた感はあるが、何、気にすることはねぇ。旅なんてこんなもんだ。アシェリィは後にひきずるんじゃねぇぞ。乾杯~!!」

大柄な青年の仕切りの元、3人はジョッキとグラスをぶつけあって乾杯を交わした。一口二口と飲んで落ち着くとファイセルが隣に座っているザティスへ疑問を投げかけた。

「でもさ、どうして急に帰郷しようと思ったんだい? ご両親とは不仲で帰る故郷がないって口癖みたいに言ってたじゃないか」

ビールを人飲みした彼はジョッキをテーブルに置くとそれに対する答えを返した。

「ああ、お前にゃ言ってなかったな。実は実家から手紙が届いてな。どうも親戚一同は俺と親父とおふくろが絶縁状態にあるのは行き過ぎだと思ってるらしくてな。そこんとこなんとかならねぇかって話が来たんだよ」

それを脇目で見ていたアシェリィが少し怪訝そうな顔をして会話に加わった。

「……ザティスさん、親御さんと仲がよろしくないんですか?」

アシェリィのどこか悲哀じみた表情を見てザティスは調子を崩された。これは家族仲が円満な者がそうでない者へ向ける哀れみの目である。

こればかりはどうもやりにくいと彼は思った。素直な疑問だけに余計にだった。だがこの類のやりとりはもう何度繰り返したかわからないほどだったのでドライにその疑問に答えた。

「俺な、リジャントブイル、3年留年してんだよ。そりゃあ受かった時の親父、おふくろの喜びっぷりたら無かったぜ。でもな、留年を重ねるうちに見放されちまってな。そういうわけで今は絶縁状態ってワケだ。今頃、地元じゃ面汚しに近い扱いらしいぜ? まったくひっでぇ話だよな。ま、俺はこのままでもよかったんだが、あちらさんの好意をムダにするのも何だしな。帰郷してみようって事になったって話だ」

それを聞いたアシェリィは真剣な表情でザティスのほうを向き直って激励した。

「ご両親と仲直り、出来ると良いですね!! 私、応援してますから!! 家族の仲が悪いなんて、そんなの、そんなの悲しすぎるから……」

彼女にどんな過去や背景があるのかザティスにはわからなかったが、アシェリィはとても両親想いで、両親も彼女を想っている様子がひしひしと伝わってきた。”昔は俺もこうだったかもな”とザティスは己の過去を振り返り、軽く鼻頭をこすった。

「おっと、シケた話はこれくらいにしようぜ。メシがまずくなっちまう。ファイセル、待たせちまったな」

「いや、いいよ」

話に熱中しているといつのまにか料理がテーブルに運ばれてきていた。おいしそうな匂いが空腹感を刺激する。話もそこそこに3人は明日以降の旅に備えておいしい料理に舌鼓をうった。
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