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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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亜人(ヒト)は見かけによらず

アシェリィはタコの亜人の教えてくれた探し人の場所を聞いて驚いた。初対面の人、しかも恐ろしい見た目の亜人に頼り切るのはなんとも言えない気分だったが、彼女には他の選択肢がなかった。

「ほ、本当ですか!? できれば近くまで連れて行って欲しいんですけど。お礼も出しますので……。あ、ところでお名前は?」

今頃になって相手の名前を知らなかった事を思い出し、アシェリィは名前を聞いた。聞いた後に自分から名乗らないのは失礼だと思って彼女は先に名乗った。

「私はアーシェリー。アーシェリー・クレメンツです。よろしくお願いします」

「ワシ、ナマエ、ゾヨゾヨ。ヨロシク、タノム。デハ、イチバ、ムカウ」

お互いに挨拶するとゾヨゾヨはまがった腰で歩き出した。老人のような姿勢だが、割と体力はあるらしく、足早に街中を抜けていった。

「オジョーサン、カンコーキャクか?」

「いえ、一応旅人です。やっぱり観光客に見えますか?」

そう聞き返すと老人は歩きつつ振り向きざまに言った。

「オジョーサン、タビビト、ミエナイ。ドコマデイクカ?」

そんな他愛のない話をしながら2人は街中を歩いて行った。するとまた先程のように人の波ができ始めていた。これに飲み込まれるとまた迷ってしまう。

アシェリィがそんな危機感を抱いているとゾヨゾヨが自分の足を掴むように指示を出してきた。

アシェリィは足に触るのは気が向かなかったが背に腹は変えられないと彼の触手を握った。案の定、触手はヌルっとしていて、彼には悪いが気持ち悪かった。

ヌルヌルネバネバを離さないようにしっかりと後ろについて彼女は街中を抜けた。人波が減ることはなかったが、やがて路地ではなく、開けた広場に出た。

「ココ。イチバ。イチバ、イッカク、リュウゴロシ、センシ、ゾウ、アル。アソコ、マチアワセ、バショ。ヨク、ヒトアツマル。サガシビト、イルカ?」

アシェリィは像の周辺を見回したが、ファイセルとザティスの姿はなかった。

「いませんね……」

残念そうにうなだれる彼女を見て亜人は励ますように声をかけた。

「アキラメル、マダハヤイ。シバラク、ココ、マツ、イイ。ワシ、ショーバイ、ハジメル。イッショ、スワテル、イイ」

ゾヨゾヨは像が見える位置で背中に背負っていた荷物を広げた。くるんでいた布を地面に敷き、品物を並べ始めた。見たことのない薬草や果物、不思議な工芸品、謎の薬が並べられていく。しばらくするとこじんまりとした露店が完成した。

「サ、ココ、スワル、イイ」

ゾヨゾヨはそう言ってあぐらをかき、どっかりと布の上に座り込んだ。アシェリィも声をかけられたので、少しかしこまって座らせてもらった。商売を始めてしばらくすると隣で露天商を開いていた中年の男性がこちらに声をかけてきた。

「よう、タコ頭のじいさん。今日の調子はどうでえ? なんだ、若いネーチャンなんか連れて。看板娘かい?」

中年の男性は親しげな様子だった。この見た目や亜人ということもあってからか、ゾヨゾヨは周囲にあまりよく思われてないのではないかと勝手にアシェリィは思い込んでいたが、どうやらこの市場ではそれなりに有名らしい。

通りがかった同業者達が次々と彼にに笑顔で挨拶したり物々交換していく。客足もまずまずで、常連客らしき人も見受けられた。

なんだか勝手に気味悪がられていると思っていたアシェリィは良心の呵責に苛まれ、難しい表情を浮かべて曇った顔色を浮かべた。するとゾヨゾヨが声をかけてきた。

「ドーシタ、オジョーサン、ハラ、ヘッタカ? モウ、ヒル。コレ、タベル、イイ」

彼は並んでいる商品からイガイガした赤みがかったオレンジ色の果物を差し出してきた。とても皮を向かずに食べられる気がしなかったが、彼はそのままかじるような身振りを見せてきた。

「コレ、”セーク”ノミ。トテモ、アマイ、ウマイ」

促されたのでアシェリィはその実を一思いにかじった。すると信じられない程の甘みを感じた。だが、クセはなく爽やかな甘味でとても食べやすかった。イガイガしている部分も思ったより柔らかく、見た目に反してとっつきやすい果物だと言えた。

「コレモ、タベル、イイ」

彼は懐から葉っぱの包みをとりだしてアシェリィに渡してきた。これは明らかに売り物ではなく、彼のお昼ご飯のはずだ。アシェリィは遠慮がちに断ろうとしたが、ゾヨゾヨは彼女の手のひらに包みをポンと置いた。彼女はその好意に甘える事にして深くお辞儀をして包みを開いた。

どんな珍妙な品が出てくるのかと少しドキドキしたが、実際に包みを開くと食べ慣れた草団子が中には入っていた。口に入れるとお母さんがよく作ってくれた味とそっくりだった。

まだ大して故郷から離れてないのに、彼女は迷子になってしまったこともあってなんだかもう帰れないほど遠くへ来てしまったような気持ちになった。

だが、自分を鼓舞するようにアシェリィは独り言をつぶやいた。

「いけない。本格的な旅はまだこれからなんだから。こんなところでしょげてちゃいけないよね」

優れない顔色をしている彼女の気持ちを汲みとってか、タコの亜人は気を紛らわせるように別の話題を振った。

「トコロデ、オジョーサン、フシギ。”セーレイサマ”、ニオイ、スル。ワシ、サト、イズミ、タクサン、アル。オジョーサン、イズミ、ニオイ、スル」

草団子を頂きながらその言葉を耳にしたアシェリィはもしやと思って肩掛けカバンからサモナーズ・ブックを取り出し、湖のほとりで契約した水の精霊のページに手のひらをかざした。するとふわふわと精霊が水色に淡く光った。

「オオ、”セーレイサマ”。オジョーサン、セーレイサマ、トモダチ、トモダチ。ワシラ、トモダチ」

ゾヨゾヨはまるで女性が後ろ髪をいじるような仕草で触手をふわりとかきあげた。すると触手の下からアシェリィが呼び出したのと同じ精霊が数体舞い上がった。アシェリィはこれを見て唖然としてとして思わず口を開けた。

「チイサイ、セーレイサマ、カワキ、イヤス。アツマル、アメ、フラス。アメ、キズ、ドク、イヤス」

試しにアシェリィは精霊を吸い込んでみた。それと同時に喉の渇きが潤うのを感じた。これがこの幻魔の特性なのだろうか。話によれば集まることで別の能力が発現するらしい。

精霊達の動きを観察していると一箇所に集まり始めた。それを見ていたゾヨゾヨは頭をぶるぶると振るい、触手に蓄えていたらしい精霊を放出した。

小さな無数の妖精が集まってやがてこぶし大ほどの塊になると精霊達は水色に輝きつつ、宙をただよった。不思議な光に道行く人々は足を止めた。

アシェリィはすかさずサモナーズ・ブックで優しくその精霊を挟んだ。その瞬間、彼女の思考に精霊が呼びかけてきた。何か具体的な言葉をかけてきたわけではないが、その幻魔の性質が手に取るように分かった。

「……ランフィーネ……。治癒と解毒の雨、ヒーリン・レインを降らせる幻魔……。あぁ、そっかぁ……無名下級じゃない幻魔は契約するとこんな感じになるんだ……」

契約を済ませるとアシェリィは体に力が満ちるのを感じた。自分の体のマナに幻魔の力が加わるような感覚だ。下級幻魔でこれほどなのだから、高等な幻魔と契約したらどれだけパワーアップするのか想像もつかなかった。もっとも、オルバからは契約によって授かる力はあくまで底上げに過ぎないと説明は受けていたのだが。
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