挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

125/168

恐怖のデビルフィッシュ

アシェリィは幻魔との契約を終え、パタンとサモナーズ・ブックを閉じつつ、二人と合流した。

師匠せんせいが幻魔を集める言ってたのはこういうことなんです。この調子で幻魔集めに協力して下さい。じゃあ、行きましょうか。えっと……」

彼女はファイセルのしゃべっていた内容を思い出しているようだが、幻魔との契約で途中で中断されてしまったために思い出せずにいた。

「繰り返すよ。まずはセーシルっていう小都市を目指そう。結構規模が大きくて賑やかな街だからきっと楽しいと思うよ。あとは買い出しとか旅の諸々の準備をする必要もあるしね。もっともあまり高額なマジックアイテムとかは買わないと思うけど……」

それを聞いたザティスは思い出すように言った。

「セーシル……か。確か、南部ラーグ領産の作物や肉なんかが集まる街なんじゃなかったか? ウマいメシが食えるかもしんねぇな。それに、ウマいメシがあるとこにゃウマい酒があるってもんだ。そうだな、あすこはオココ・ビアってビールがだな……」

彼の一言を聞いてファイセルはやれやれといった様子で後頭部を軽く掻いた。

「もー、酔いつぶれるまで呑まないでよ? アシェリィ、実は彼、お酒には目がないんだよ。結構強いんだけど、なにしろ量を飲むからね。悪酔いすることもしばしばだよ。酔っ払ったらまともに相手しなくていいからね」

何かと巻き込まれがちのファイセルは両手を広げて呆れた様子だった。それを聞いたザティスは開き直っておどけた。

「あー、へいへい。すいませんねぇ! でも酒の美味さがわからねぇオコチャマには口をだす筋合いはねーと思うんですけど」

そうわざとらしく肘でファイセルをつつくと彼もザティスをつつき返した。2人ともヘラヘラと笑いながらじゃれあっている。アシェリィにはその光景がとても微笑ましく思え、思わずクスクスと声に出して笑ってしまった。

「あ、ほら、おめぇがちょっかい出すからアシェリィに笑われちまっただろーがよ」

「仕掛けてきたのはそっちでしょ。さ、油を売ってないで行くよ。アシェリィも!」

3人はまるでピクニック気分で街道を進んでいった。もっとも、このあたりは街道を外れなければ獣やモンスターが出ることはない。誰でも安全に通ることの出来る整備された道だった。

ライネンテ中央とは違い、危険な箇所もそれほどはない。ただし、今回の旅においては街道を外れる必要がありそうだった。

アシェリィが幻魔を感知するのは街道近くとは限らない。道を迂回したり、時には危険なエリアに足を踏み入れる必要があるかもしれなかった。

途中、村で一泊しつつセーシルを目指す間にアシェリィは2匹の幻魔との契約に成功した。1匹は湧き水のそばに居た水属性の幻魔である。ホタルのように淡く水色に光って空中を漂っている。

無名下級精霊のため、どんな能力を持っているのかがよくわからなかった。動きに法則性があるようにも思えたが、結局、能力の特定は後回しにした。

もう1匹は街道脇の大きな岩のそばで見つけることが出来た。見た目がただの石ころだったので見逃すところだったが、アシェリィの耳は確かにこの幻魔の声を聴いた。

モゴモゴという小言のような音を立てていた。これはファイセルたちにも視認できた。どうやら誰にでも見える幻魔もそれなりにいるようだ。

サモナーズ・ブックに挟むと確かに幻魔だった。早速呼び出してみるも、これも無名下級
幻魔のため、能力の特定が難しかった。

だが、色々と試していると徐々に能力がわかってきた。この石、”ドンドマ”は握った者の意思を感じ取るらしい。そしてその意思を自分の飛び方に反映させるようだ。

遠くに投げたいと思えば力を込めて投げなくても遠くへ飛んでいくし、狙った木などに当てようとすれば割と正確に目標に当たった。

ただ、所詮はただの石ころなので使いどころに困るという結論に至った。無名下級幻魔はその程度の者達ばかりなのだとファイセルとザティスはサモナーの厳しさを感じた。

街道から少し外れることはあったが、危うげもなく3人はセーシルへとたどり着くことができた。街の入口の大きな門には戦士と龍が戦っている様子を模した立派な像があった。その門をくぐり抜けると街の賑やかな活気が早くも伝わってきた。

「うわ~、すごい人の量! 私、セーシルは初めてなんですが、なんかすごい人だらけですね……」

ボーッと立ち尽くすアシェリィにファイセルは笑いながら声をかけた。

「ははっ。驚くのはまだ早いよ、市場なんかはもっと人がたくさん居て、賑やか……というか、うるさいくらいだよ。あ、はぐれないように気をつけて……えっ……」

ファイセルが注意を促しながら振り返るとそこには団体客の人並みに飲まれていくアシェリィが見え隠れしていた。すかさずザティスと協力して彼女を引き留めようとしたが、こちらにも人の流れが出来ており、もはや近づく事はできなくなっていた。

アシェリィ側からはファイセルが何か叫んで伝えているようだったが、周りはうるさく、また距離も離れていったので声が届くことはなかった。そのまま人並みに揉まれてどこだかわからない場所に移動してしまった。気づくと建物もまばらな郊外まで来てしまったらしい。

先ほどの騒ぎはウソのように人気は少なくなり、完全においてけぼりにされてしまった形だ。不幸にもこの街で地図を買うはずだったので地図も持っておらず、ここが街のどのあたりに位置するのかもわからなかった。思わずアシェリィはオロオロとしだした。そんな彼女の肩に何かヌルヌルしたものが触れた。

「ひッ!!」

驚いて彼女が振り向くとそこには頭がタコに似ていて下半身が老人の姿をした亜人が立っていた。背中には大きな袋を背負っている。

「ううわぁ、デビルフィッシュだ!!」

思わず少女は後ろに飛びのいた。不幸をもたらすとされる悪魔の使いであるタコの姿形に似ていた事が彼女の恐怖心を煽った。相手が見慣れない亜人だったというのもある。そうこうしているうちにタコの亜人は喋り始めた。

「コワガルノ、ムリナイ。ナンブ、アジンスクナイ。ソレニ、ワシ、デビルフィッシュ。キラワレルノ、ムリナイ……」

少し寂しそうな感じだったがどうやらいつもこんな対応をされているような風で、特に変わった反応はせず、タコ足の部分をヒゲのようになぞりながら目を細めた。

「あ、ああ、す、すいません。私、あんまり亜人さんと話す機会がなくって。驚いちゃってほんとごめんなさい」

自分が失礼な態度を取ったのを自覚してアシェリィは謝罪の言葉を亜人にかけて深くお辞儀した。

「ベツニ、カマワナイ。ソレヨリ、モシカシテ、オジョーサン、マイゴ、チガウカ? フツウ、コンナトコロ、タビビト、カンコーキャク、イナイ」

出で立ちからそう判断されたのだろうか。図星を突かれてアシェリィはギクリとした。しばらく戸惑ってもじもじしていたが、大人しく迷っている事情を亜人に伝えてみることにした。それを聞くと亜人はまたタコ足をいじりながら答えた。

「ワシ、コウミエテ、ショーニン。サトデ、コトバシャベレル、ワシダケ。コレカラ、イチバ、イク。ユーメイナ、バショ、チカク、アル。キット、サガシビト、ミツカル」

亜人の話を聞いてアシェリィは喜んだ。不安要素は無いわけではないが、もし土地勘のない自分がこの広い街で人探しをしたら出会えるかどうかわからない。今はこの亜人に頼るしかなかった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ