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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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私にしか視えないモノ

アシェリィが帰宅すると父バルドーレと母アキネが出迎えてくれた。まさか彼女がオルバの修行を受けることになるとは一家のうち誰も予想できなかった。

それ以前に形は人と異なれどマナを使えるようになるとも思っていなかった。

学校に通っていた頃は両親もしょっちゅう彼女を心配したが、オルバのもとで修行するようになってからは少し早くはあるものの子供の自立を喜んだ。

家業のローブ作りも働き手が1人減って大変にはなった。だが時々帰ってきては楽しそうに報告してくれる娘の頑張る姿に背中を押され、夫妻もそれに報いようと努力していた。

父や母に会ってみるとさすがに心配している感は否めなかった。しかし、旅に出るのは娘の悲願であることを痛いほど知っていた夫妻は彼女を送り出す決意を決めたようにも思えた。その夜は寂しさを紛らわすかのようにご馳走を家族で囲んで次はいつとも知れぬ団欒を楽しんだ。

その夜、窓ガラスに何かがぶつかる音でアシェリィは目を覚ました。もしやと思い、ベッドから身を起こして窓の外を見ると月明かりに照らされて人影が浮かび上がった。

思わず窓を開けて、外の草むらに足をつけて立っている人物に歩み寄った。それは彼女の予想通り、未だ名前も知らぬ冒険家のお姉さんだった。アシェリィが近づくと彼女は不敵な笑みを浮かべて声をかけてきた。

「冒険に出るんだって? 面白そうじゃん。ようやくこの窮屈な思いから開放される……」

「ど、どうしてそれを……?」

アシェリィの問いを無視してお姉さんは語りだした。

「そんなのどうでもいいって。それより、冒険の匂いってやつ? なんでこんなにワクワクするのかね。あたしもついていっちゃおうか!!……なんてね。でも貴女が旅に出てもそう遠くないうちにまた会える気がする。だって一人ぼっちは寂しいから……」

そうつぶやいた後、彼女は背中越しに手を振りながら足早にその場を離れた。アシェリィはあまり深く彼女に関して考えることはなかったが、彼女に関しては不明な点や不思議な事が多すぎる。まるでどこかの秘密主義者のように身の上はおろか、名前さえ人に伝えることがないのもおかしな点である。

だがミステリアス故の魅力というのだろうか。その素性のわからないところが彼女の興味をより引きつけた。向こうが語らないのだから無理に詮索するのも野暮ではないかというアシェリィの考えも彼女が深く追求しない理由でもあった。

てっきり別れの挨拶を言いにお姉さんが来たのかと思ったのだが、どうやらあの調子ではそのつもりは無さそうであるとアシェリィは思った。だが、旅についてくるというわけでもないだろうし、お姉さんの煮え切らない反応にモヤモヤとしたものを感じた。

気づくと朝になっていた。昨晩の出来事がまるで夢のように感じた。現実と夢の境のような感覚である。お姉さんと出会うときはたいていこうだ。いつも気づいた時には次の日の朝になっている。夢のなかの出来事なのではないかと思うこともあったが、お姉さんから受け取った物が翌日以降に残っていたこともあるし、たしかに現実なはずではある。

アシェリィは考えもそこそこに手早く準備をして出発した。玄関先で父と母と深く抱擁しあい、互いの健勝を祈って別れを告げた。そして彼女はマナボードで久しぶりの通学路を駆けて行った。少しして村の広場に差し掛かるとアルマ村の住人達が手を降って送り出してくれた。近所のおじさんおばさん、町長にそして学校の皆がだ。

気づくとアシェリィは手で瞳を拭っていた。希望に満ちた挑戦への始まりに涙は似合わないとおもいっきり袖であふれる涙を拭いきって彼女は林道を駆けて行った。シリルにつくと今度はシリルの街人が見送りをしてくれた。師匠せんせいの姿は無いが、C-POSシーポスの面々達はいる。

山ごもりをしていたので気付かなかったが既にアシェリィのシリルでの知名度はかなり高くなっていたらしい。久方ぶりのオルバの弟子となれば否が応でも期待感は高まる。どんな少女が旅立つのだろうと街中の人たちが村の出口に集まっていた。

その人達もアシェリィが見えると歓声を上げて手を振ったり、声を上げたりした。もっと珍しい物を見に来るような態度かと思ったが、どうやら大多数が彼女を応援してくれている様子だった。

そんな喧騒はさておき、村の出口ではファイセルとザティスが待っていた。2人に笑顔で朝の挨拶をすると2人は頷いて街道を先に歩き始めた。たくさんの人の期待を背負ってアシェリィはリジャントブイルへの一歩を踏み出した。

徒歩が基本なので、アシェリィはボードを紐で繋いて背中に背負った。ボロい板を背負った姿は少し目立ったが、愛用の品であるし彼女は気にしなかった。

一行は森の街道を揃って歩き始めた。少し後を歩くアシェリィに向けてファイセルが振り向きながら話し始めた。

「えーっとだね、アシェリィはセーシルって聞いたことあるよね? この近辺ではドラゴンバッケージ便のある一番近い街さ。南部ラーグ領では一番大きい小都市なんだ。まずはそこを目指そう。歩いて3~4日ってとこかな。途中小さな村に……」

その時だった、今後の計画を説明するファイセルの言葉を突如遮ってアシェリィは唇に指を当ててシーッと沈黙を促すジェスチャーをした。

「ちょっと待って下さい。あそこの木に何かゆらゆらとぶらさがってませんか? ロープみたいなものが……」

ファイセルとザティスは彼女の見つめる森のほうを眺めたが、それらしいものは見つからなかった。だが、彼女はじっと森の方を見つめている。彼女の姿勢を見るにそれは見間違いや、幻覚といった様子では無いようだった。戸惑う2人を横目にアシェリィが小声でつぶやいた。

「お二人共、”えない”んですね? じゃあこれは……!!」

アシェリィはポツリと言うと一本の木に向けてソロリ、ソロリとゆっくり、足音を殺して歩き始めた。その様子を見ていたファイセルとザティスは顔を見合わせた。

「おい、ファイセル、こいつぁ……」

「静かに!! アシェリィにはきっと幻魔が見えてるんだ。見守るしか無い」

2人が沈黙を守り、彼女を見守っているとやがてアシェリィが辞典のような厚い本を開いているのが確認できた。思わず見ている方は息を呑んだ。しばらくするとアシェリィが嬉しそうにこちらへ戻ってきた。

「やりました!! 契約成功です!! ……まぁツタを引っ張りこんだだけなんですけど。試しに呼び出してみますね。えっと、我が呼びかけに応じよ!! ”ラーダ”……かな?」

彼女がそうサモナーズ・ブックに手をかざして呼びかけるとフサフサの青々とした藻の塊のような幻魔が飛び出してきた。今度はファイセルとザティスにも視認することができた。2人は思わず感嘆の声を上げた。

「へー!! これが幻魔の契約かぁ!!」
「不思議なモンだぜ。全く見えなかったのによ。で、こいつにゃ何が出来んだ?」

その質問にアシェリィは困惑した様子だった。そして小難しい顔をしながらザティスの方を見た。

「えーっとですねぇ、それが、無名低級の幻魔って喋れない事が多いので挙動や特徴などから出来ることや適性を読み取る必要があるんです。結局効果のわからない幻魔もいるとか。あ、でもこの子はツタで遊んでるのを手繰り寄せたのできっとツタをどうにかできるはず。それっ!!」

彼女が指をさしながら掛け声をかけるとラーダは口から一本のツタを吐き出した。吐き出したツタは素早く木にグルグルと巻き付いた。

「ホッ。こんな感じですかね。どれだけ強度があるのか試してみないとなんともいえませんが、ターゲットの拘束やぶらさがりに使えるかもしれません」

アシェリィは解説しながらラーダの吐いたツタを握ってギュウギュウ引っ張っている。見た目はどこにでもありそうなツタだが、彼女が力を込めて引っ張っても切れる気配がない。あきらかに頑丈なのがわかった。

「ラーダ、戻って」

能力を確認すると彼女は幻魔に向けて声をかけた。するとフサフサした藻は森に溶けるようにかき消えていった。パタンとサモナーズ・ブックを閉じた彼女は満足気にファイセルとザティスをの方を見て微笑んだ。
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