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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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M.D.T.Fのやり手

 シーポスの面々は着実に幸せの手紙や呪いの手紙を回収していった。例の切手が貼ってあるのは全てこういった類のチェーンメールだけで、通常の手紙には爆発の元は貼られていなかった。

「よし! 全体の60%を回収完了。いい調子だ!! みんなあとひと踏ん張りだよ!!」

 ウェイストは額に汗を浮かべながらチームメイトを励ました。彼は能力をフルに使っていたので、郵便局前から動かなくてもかなり消耗していた。それを感じたのかポットを少しずつ飲み始めていた。

 アシェリィも限界まで精霊の気配を探っていたので似たようなもので、同じようにポットを飲みながらサーチを続けていた。

 そんな最中、郵便局の細めな通りなぜかウィールネールの引く馬車でパルム鉱の塊が運ばれてきた。なぜこんなものがここに運ばれてくるのだろうか。

 パルム鉱の取引場所は街の郊外にあるというのに。運転手は郵便局の前でパルム鉱石をおろした。

「え~、シリル郵便局シーポスさんへのお届け物だよ~ぉ。確かに渡したからねぇ~。それじゃぁ~!」

 帽子を深く被ったふとっちょの運転手はウィールネールの馬車に飛び乗ると手綱を握って足早にその場を去った。

 それを見てウェイストとアシェリィは顔を見合わせ、首をかしげた。パルム鉱だけでも謎なのに、シーポス宛とはどういうことだろう。

 そう2人が考えているとウェイストがまとめていた爆発元の切手が吸い寄せられるようにパルム鉱へと吸い寄せられていくではないか。すぐに彼は状況判断した。

「しまったッ!! 切手を一箇所にまとめておくのはうかつだったか!! 多分、馬車の主はボーンザ本人だろう。まさかここまで踏み入って来るなんて!!」

 切手はあっという間にパルム鉱に全部張り付いた。ウェイストが剥がそうとしたが、切手はピッタリ張り付いている。アシェリィは周りに事態がバレないように言葉を選んだ。

「恐らく触れた程度では反応しませんが、まずいです!! 精霊の活動が活発化!! あと10分程度で!! でも」

 ウェイストはすぐに反応して指先のコマンダーに命令した。

「動かせるって事!? それなら!! 頼むっ、クラッカスのG・ゲッコーズよ。彼の指先でピョンピョン跳ねるんだ!! 緊急招集の合図!!」

「クラッカス先輩を呼ぶのはいいですが、パルム鉱をどうするんですか!?」

 アシェリィは突然の出来事と爆破が迫り取り乱し気味だったが、ウェイストがそれをなだめた。

「アシェリィ、こういう時こそ落ち着くんだ。まず、この場で爆発が起これば被害はとてつもなく大きくなる。でも方法がないわけじゃない。シリルは丘の上の街だ。爆弾を丘の下にさえ落としてしまえば街への被害は軽減できるかもしれない!!」

それを聞いてアシェリィは想定される爆発の規模からして無茶だと思いつつも、それしか方法はないと割り切ろうとした。その時だった。

「おやおや、随分と無茶な計画だね。もっと落ち着きたまえよ。その爆弾の規模ならばすでにシリルの4分の1を吹き飛ばすパワーを持っている。崖の下に落としたくらいじゃ被害を完全に防ぐことは出来ないよ」

 いつのまにか2人の背後に変わった身なりの男が立っていた。赤茶色のトンガリ帽子を被って腰にレイピアを差したキツネ顔の男だ。

 いつからそこに居たのか、全く気配なく現れたのでウェイストとアシェリィは飛びのくように驚いた。

「何、私は怪しいもんじゃない。M.D.T.Fのパンネ。パンネ・マクドゥルという者さ。話は後だ。君たちを助けに来た。ここじゃ例え起爆を阻止したとしても目立ちすぎる。

話を盗み聞きさせてもらったが、移動できる力のある人がいるなら公園辺りに移動させよう。今頃、私の連れが連絡を受けて公園を立ち入り禁止にしているはずだ。

さすがに崖の下に落す作戦は無茶だな。一応、我々は起爆を停止させるマジックアイテムを持っているんだ。あくまで停止させるだけだから応急処置には過ぎないが。

良かったね。丘犬殿の情報がなかったら私はここに来なかったかもしれない。そこのお弟子さんのお師匠さん、オルバ殿に感謝するんだね」

 そういうと男はトンガリ帽子をクイッと上げて笑ってみせた。この緊急時というのに余裕しゃくしゃくといったところだ。どこからそんな自身が湧いて出るのだろうと聞いていた2人は疑問に思った。

 だが、その人物からは”やり手のオーラ”のようなものが感じられて、2人は初対面にもかかわらず、自然と「この人物になら任せられる」という気持ちにさせられていた。これが俗にいうカリスマというやつだろうか。

「ところでお嬢さん、残り時間は?」

 パンネがそう尋ねてきたのでアシェリィは爆発までのおよその時間を告げた。

「もう10分は切ってます!!」

 その様子を横目で見たキツネ顔の男は郵便局の壁に体を預けながら、どっしりと構えて2人の焦燥感を落ち着けようとした。

「なぁに、まだ焦る段階じゃない。繰り返しになるが気持ちを落ち着けたまえ。第一、もう君たちの仲間はここへ向けて走っているんだろ? 仲間は信じないといけないよ」

 それを聞いたウェイストとアシェリィは我を忘れていた事に気づかされた。こんな切羽詰まった状況は生まれて初めてなのだから、無理はないのだが。

 2人は深呼吸したり、目をつむったりしてリラックスを試みた。一方のパンネという男は離れした雰囲気で壁にゆったりと寄りかかっていた。

 そうこうしているうちに大きな足音が近づいてくる。その場の全員が通りの向こうを見た。大男が人並みかき分けてこちたに走ってきていた。そしてシリル郵便局前で急ブレーキをかけるように止まった。

「押忍、緊急……何すか?」

 あれだけ猛スピードで走ってきたというのに息ひとつ上がっていない。アシェリィはクラッカスの実力を初めて見た。

 そんな彼にウェイストがどこからか持ってきた大きな革のバンドを取り出してきた。そして周りに悟られぬよう、小声で促した。

「いきなりで申し訳ないけど、爆弾化したこの岩を公園まで引っ張っていってほしい。局にこんな物があったんだ。さぁ、皆手伝って!!」

「…………」

 クラッカス以外の3人はバンドをパルム鉱に巻きつけ、クラッカスに繋いでいった。クラッカスはというと文句ひとつも言わずに残りの距離を全力で走り切るためにポットを一気飲みしていた。

「クラッカス、すまない。またもや危険を押し付けるような事になってしまって」

「クラッカス先輩、精霊の状況からしてこの岩は動かした程度では爆発しません。その点は安心してください。ただし、時限式なのでできるだけ早く公園までたどり着く必要があります!!」

 2人の言葉にクラッカスは手を挙げた。そして力強く拳をグッと握ってサインを送った。

 その表情には恐怖が微塵も感じられなかった。蛮勇というわけではなく、確実に成功させてみせるという意思の現れだった。2人は改めて彼のタフガイさを身にしみて感じた。

「よし、良いだろう。行く手の人払いは私がやろう。君たちの出番は終わり……と言いたいところなんだが、爆弾の威力が想像以上に大きい。

これではM.D.T.Fの全員が爆弾阻止の対処に当たることになってしまうだろう。丘犬殿からは『ボーンザの確保はM.D.T.Fが行い、弟子にはやらせないでほしい』と言われたんだが」

 パンネはなんだか申し訳なさ気な態度でこちらを見ている。言わんとすることはなんとなく伝わってくるが……ウェイストとアシェリィは目配せをした。
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