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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

112/169

O:シリル・マイン・スウィープ

 影はC-POSシーポスという単語を聞いて、しばらくの間考えているようだったがやはり知らなかったようだった。

「いえ、存じあげておりませんが……」

 それを聞いたアシェリィは影にある提案をしてみた。

「非正規職員ですが、シリルの街の郵便物の集配達をしてるグループなんです。私はそこで長いこと働かせてもらってました。彼らなら郵便物の流れを熟知しているはずです。

本当は皆を危険に晒したくはないんですが、彼らは彼らで師匠せんせいの弟子になってもおかしくはない実力の持ち主達なんです。

きっと街のピンチだって伝えたら力を貸してくれるはず。私もそちらに向かいますので、C-POSに招集をかけてくださるようお願いします!!」

 彼女はそう伝えて影の返答を待った。影はなにやら考え込んでいるようでしばらく無音が続いた。そして思い口を開くようにポツリと言った。

「し、しかし……これは遊びごとではないのですよ? 死と隣りあわせの問題です。貴女の判断でその人達が皆、死んでしまうのかもしれないのですよ?」

 アシェリィはそれを聞いてすぐに答えを返した。

「それは……。……彼らに頼むのはやめます。でも私は一人でもやりますからね!! 師匠が命を張るのに弟子が逃げていいわけないじゃないですか!! でも私だって、これでもオルバ師匠せんせいの弟子なんですよ!?」

 それを聞いていたオルバは小声でつぶやいた。

「いや~、別に逃げてもいいんじゃないかなぁ~……」

 アシェリィの耳にその小言が入ったのか、彼女はムスッとした表情でオルバを見返してきた。

 この子は危険に頭を突っ込んでいくフシがあるというのはすでにオルバの知る所だった。今回も普通なら恐れおののくところを自ら突っ込んで行くというではないか。

 彼女の場合、単純に未熟だというのもあるのだが、蛮勇と勇敢さを履き違えているフシは否めない。

「ハァ……君がそう言うなら仕方ないな。アルルケンをサポートにつけるから郵爆のは頼むよ。シーポスのメンバーに協力してもらおうか。アルルケンがついていれば最悪の事態は回避できるだろうし」

 オルバがそう言うとアシェリィはふてくされた表情からひきしまった表情に変わった。

 実力が伴えば勇ましいのだろうが、オルバに言わせれば正直、彼女はまだひよっこ中のひよっこ、いや、生まれるかどうかといった卵に過ぎなかった。

 冒険したがりで一時も目が離せない弟子である。こういう面を含めると彼女をリジャントブイルに送り出すのはまだ早い気もしたが、荒波に揉まれなければわからないこともあるとオルバは割り切っていた。そうこうしているうちに彼女が不思議そうに聞き返してきた。

「えっ、師匠もモルポソと戦うんですよね? アルルちゃんが居なくていいんですか? 私、アルルちゃんが主力だとばかり思っていたんですが……」

 オルバは帽子を深く被ってから肩をすくめた。

「あ~、別に私の戦力ってアルルケンだけじゃないからね。そりゃ確かにアルルケンは頼りになるけれど、呼び出せるのは彼だけじゃないから。ま、君はあまり見たこと無いからわかんないのも無理ないんだけどね」

 彼は自ら実力をひけらかしたり、自分の能力や、過去の出来事、思い出などをほとんど人に語ることがない。弟子のファイセルやアシェリィに対しても同様で、徹底した秘密主義を貫いている。

 こうして森に隠居しているくらいなのだから、そういった変わったところがあってもおかしくはないが、それにしても度が過ぎるほどだ。

 アシェリィはなんどか詮索しようかと思ったことがある。だが本人が言わないのだから、無理に聞き出すのは失礼に当たるだろうと結局、一度も詳しい話を聞いたことはなかった。

 やがてそれが当然のようになっていくとまるでそれがタブーの話題のような扱いになっていき、弟子とはいえその点に触れる気が起きなくなるのだ。そんな事をアシェリィが考えているとオルバが付け加えた。

「シーポスのメンバーや活動は私も知ってるし。確かに彼らならボーンザの爆弾を捕まえることができるかもしれない。

だけど、そこの人が言っているように、今回は命をかけた戦いになる。君や、シーポスの面々が大怪我を負ったり、死んでしまうのはなんとしても避けねばならない。

ダメだと判断したら何よりも自分の命を優先すること……と伝えておくれ。いいね?」

アシェリィは覚悟を決めてゆっくり、深く頷いた。その様子をどこからうかがっているのかはわからないが、影が声をかけてきた。

「話はまとまりましたかな? 現状を再確認しましょう。まず、斬宴のモルポソはオルバ殿が一対一で勝負するということで。

一方、郵爆のボーンザはM.D.T.Fのメンバー3名及び、シリル郵便局のメンバー、そしてシーポスという方々にアシェリィ様を加えて押さえつけます。

ボーンザは爆破テロの分野では名が知れていますが、さほど戦闘力はありません。位置さえ掴めれば並みの使い手でも食い止められるかと」

 オルバはあごひげをいじりながら黙って聞いている。一方のアシェリィも指で顎をさすって考えている様子だった。

 2人は全く意識していないが、影から見れば2人のその息の揃った仕草はまるで親子のようだった。

「続けます……。今はモルポソもボーンザも表立った動きはしていませんし、オルバ殿への果たし状も送られていないはずです。

この後、ボーンザが爆弾を育て始めてからが問題なのです。ここまでの対応からするとお恥ずかしながらM.D.T.F三名では爆発を回収しきれず、被害がすくなからず発生してしまうと予測されます。

オルバ殿にこの件を伝えた後、シリルの街中に避難警報を出す予定……だったのですが、オルバ殿とそのお弟子さん、そのお知り合いが全面的に協力してくれるとなると話は変わってきます。当然、当局としてはいらぬ騒動は起こしたくありません」

 影は申し訳無さそうな声で語った。本来、影役は本来、感情を表に出すべきではない。

 しかし今回はあまりにもオルバ頼りの作戦になってしまった事に後ろ髪を引っ張られているのだろう。

「よってこれを関係者以外極秘裏として”オペレーション・シリル・マイン・スウィープ”と名づけます。

ミッションの開始は私がこの場を離れた時点から始まります。まずはボーンザが爆弾の火力を集め始めるはずです。ある程度集まったらオルバ殿の元へなんらかの方法でモルポソがアプローチしてくるはずです。

奴は”サシ”を好む傾向にありますのでどこかへ呼び出されるでしょう。そこで奴を討って頂きます。……なお、モルポソの生死は問いません」

 影は相変わらず顔を出さないままだったが、オルバ、アシェリィ、そして影の間に連帯感が生まれていた。たとえ姿は見せずとも、シリルを救いたいという気持ちは共通していたからだ。

「わかった。ありがとう。君も危なくなったら逃げるんだよ」

「はっ、わたくしめには有り余るありがたきお言葉。お二人もどうかご武運を」

 ザワザワと森が風に揺られた。まるでこれから起こる波乱を感じ取っているかのように、彼らはザワザワと大きな音を立てた。気づけばもう影は居ないようだ。命をかけた作戦が始まろうとしていた。

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