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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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流血の応酬

 ネイリュアの方向を見失ったファイセルは無防備な姿勢で直立したまま目をつむった。

「おぉぉっと!! ファイセル選手、まさかのノーガードだぁ~~~~!! ネイリュア選手を挑発してきたか~~~!?」

「……いえ、ファイセル選手は過去の対戦で挑発行為をしたことは一度もありません。何か策があってのことだとおもいます」

 実況や解説の声は一部を覗いて闘技場の試合会場には届かない。聞こえるのはただ観客の声援やら怒号やらそのあたりである。

 ファイセルは騒がしい中、目をつむって精神統一しているように思えた。数秒後、止まった時が動き出すかのように試合が流れ始めた。

 頭上から気配がする。ネイリュアがボンボンをつきだしてきりもみで突っ込んでくるのがわかった。

 これをまともに喰らったら一撃で大怪我KO不可避だ。だがファイセルは慌てず、数を数えていた。

「3……2……」

「よくも私の顔にドロをぬってくれたわね!! 血の花を咲かすといいわ!!」

 ネイリュアはものすごいスピードで落ちてくる。どうやら壁をキックした後、上空に舞い上がり、重力を味方につけて突っ込んできたらしい。

 見ている側からすれば石壁から土煙があがってから十秒あるかないかのの素早い切り返しだった。それに対してファイセルは防御もせず丸腰で、まるで自殺志願者のようだった。

「ソードスピリッツ・ジャストリベリオン!! クレイジー・ブレイダーズ・ソウル!! ザルザ!!」

 ファイセルがそう詠唱すると同時に制服のズボンの内側から剣が素早く抜かれ、鞘と刃がこすれる「ガラガラン」という音が響いた。

 ズボンの内側に普通の丈の剣「ザルザ」を隠しておいたのである。鞘から抜けたザルザはファイセルが触れずとも動き出し、宙に舞った。

 目標がいまいち定まらない様子でメッタ斬りしている。だが、ネイリュアをターゲットにしているのは誰の目にもわかった。ザルザは獲物を求めて彼女に襲いかかった。

「こんなおんぼろ剣!!」

 ザルザとネイリュアはファイセルの頭上数メートルで衝突した。彼女はボンボンをつきだして頭から強襲をかけてきた。

 なんとかザルザはそんな彼女の落下を妨害して、軌道をずらすことに成功した。弾かれたネイリュアは着地して素早く切り返し、またもやファイセルに接近戦を挑んだ。

「ラウンド・アン・ラウンド・ブレード・カップオブフィー!!」

 ファイセルもそれに対抗してザルザを柄を軸として高速回転させてシールドとして機能させた。

 ネイリュアは脇腹からかなりの出血があり、なりふり構っていられなくなったようで、ザルザを無視して前傾姿勢で突っ込んできた。

「せぇやぁっ!!」

 彼女がボンボンの連撃を繰り出すとザルザはしばらく持ちこたえた。だが、彼女の全力ラッシュには敵わず、弾き飛ばされて闘技会場の隅の地面にグサリっと深く刺さってしまった。あれでは誰かが引きぬかねば使えそうにない。

 ファイセルは一瞬のスキをついてズタボロになった深緑の制服を脱ぎ捨て、群青色の制服を羽織った。

 それとほぼ同時にネイリュアのボンボンと脚技のラッシュが来た。またもやファイセルはすぐにズタボロになった。身体のあちこちに切り傷が出来て、血が滴り落ちる。

「あぁ~っとファイセル選手!! 一通り能力を使ってしまいました!! おまけにこの状況!! 万事休すだぁぁ~~~~っ!!」

「え~、ネイリュア選手、見事な攻撃。それに対してファイセル選手。ここが正念場というところですが、ここから切り返すのはかなり難しいのではないでしょうか?」

 会場は再び始まった時と同じような声援でうめつくされた。誰もがネイリュアの勝利を確信した。

 だがファイセルのチームメイト達は彼に”賭けて”いた。単にお金を賭けるという意味もあった。

 だがそれだけではなく、彼の練る作戦は毎回面白く、そして突飛だった。その作戦のたびにメンバー全員は彼に賭けてきた。

 今回もそうであって、彼はいくら不利な状況からもどんでん返しを決めてくれそうな不思議な雰囲気を持っていた。

 カリスマやセンスといえるほどではないが、それでも彼がすんなり丸呑みにされないことをチームメイト達は知っていた。

「ん~!! ファイセル選手、体のバランスが崩れてよろけ始めました。足元にも血だまりができている!! 意識が遠のいている模様!! KO秒読みか~~~!?」

 ネイリュアは満面笑みを浮かべながらファイセルをなぶった。そして観客に聞こえないように囁いた。

「ふふん、どう? 早くリタイアしないと大怪我よ? 何が『泥沼試合で大怪我にしたくない』よ。大怪我してるのあなただけじゃない」

 ファイセルは交差した腕から顔を覗かせてネイリュアの顔を見た。

「……ザティスの言ってた……とおりだな……。どこが“インビゴレイター”なんだ。……魅惑の“テンプテイター”でもない。……さながらバーサーカーだね……」

「こんのっ!! 減らず口をっ!!」

ネイリュアはそう叫びながらボンボンを振り上げてトドメのラッシュの構えをとった。

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