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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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ドキドキ♡ ライネンテ恋の大三角形

 ラーシェはなにやら複雑な面持ちで闘技場のファイセルに目をやった。

「ねー、アイネさー、アタシ、前にファイセル君もザティスも好みのタイプだけど決定打に欠けるっていってアプローチしなかったじゃん?」

 それを聞いたおっとりやでグラマラスな少女、アイネが答えた。彼女もファイセルと同じ班で4年過ごしている。

 治癒魔法の専門家だ。メインの治癒術以外にサブクラスで悩んでいた彼女だったが、結局、シンギング・クラスに入った。

 シンギングはは歌うことによって様々なマナに働きかけ、その音が届く範囲に影響をおよぼす魔法だ。

 彼女はその中でも特にレクイエム(鎮魂歌)が得意で、歌声の届く範囲なら下位のアンデッドの動きを鈍くすることが出来るというものである。

 近頃、彼女はその特技を活かし、中央部や西部の荒れ地に積極的に実習に行き、アンデット鎮圧をしているらしい。

 なんでもカルティ・ランツアァ・ローレンの神姫、ワールーンドゥ・ティアミス・レ・ランツァローレンはレクイエムでアンデッドを蒸発させられるらしい。

 だが彼女はカルティ。ランツアァ・ローレン内で純粋培養された無垢な少女だ。どんな間違いがあろうとアンデッドの居る場所になど側近が近寄らせないだろう。

「あれ、ラーシェさんそんな事言いましたっけ……。でもなんで今そんな事を?」

 その問いにラーシェはローブに包まれた少年を見つめた。

「わたしさ、本音を言うとね、後悔してるんだ。ファイセル君頼りないとこあったじゃない。でもさ、結婚して守るものが出来てから見違えるように男らしくなったんだよね。

背中は大きく見えるようになったし、首筋の細さとかそういうやや軟弱な雰囲気が無くなってさ。正直、ああなるとわかっていたら告白してたかななんて」

 それを聞いたアイネは当然だとばかりに口元に手を当ててニッコリ笑った。

「あ~、それわかります。もし私も声をかけてもらったらあるいは。でも、こんな事は口が裂けても表に出してはいけません。リーリンカさんに毒殺されてしまいますよ。割と高確率で」

「だから後悔してんだって。はーッ!! なんで20年も生きてて恋人が出来んかな~!!」

「うふふ……なんででしょうね~?」

2人はそんな会話を交わしながら闘技場を眺めた。

 そこうしているとネイリュアが再びマイクで耳が痛くなるほどのハイトーンボイスで元気よく喋り出した。

 ここからが本番といったところか。本来、闘技場の魔法障壁がなければ気絶者が続出するレベルである。のっけからいきなり遠慮がない。相手を容赦なく気絶させるつもりまんまんといったところだ。

 ファイセルはすぐさま耳を塞いでうずくまってしまった。やはり耳を塞いだ程度ではこの高音に耐えることは出来ないらしい。

「え~、も~終わりぃ? つまんなぁ~い。まだメンバーの紹介してないじゃんよぉ~。せめて紹介が終わってから気絶してよね♪」

 そうネイリュアが言うと観客席にマイクが移った。観客席には実況と解説の2人と、教師たちが4人座っていた。

 基本的に闘技場はいつもこの構成だ。だが今日はそれ以外に2人の人影が見える。誰だろうか。

 後ろの教師陣達は、その場で賭け金の倍率オッズを決めたり、情報を収集して生徒の能力開発に役立てたりしている。

 闘技場で強いのはどこでも通用する人材でなく、専門性に長けた生徒であることが多い。安定性が高いと思われる生徒ほど、結果を出せなかったりする。

それが闘技場の面白みの1つでもある。”やってみないとわからない”のだ。

「え~、え~、それでは、他の2人のアイドルさん達の紹介です。まずは王都ライネンテにある最高学府、アイロニア学院からやってきました。ソル・ヴィレイさんです!!」

 そう実況がアナウンスるとスクリーンが闘技場からアナウンス席に移った。青いショートの髪型で、眼鏡をした少女がマイクを持った。

 服装は白のセーラー服に、黄色のスカーフ、青い丈の短いスカートに黒いソックスを履いて茶色のロファーといった出で立ちだ。

 顔はとても整っている。目も大きいし、鼻も高い。まゆも綺麗でその姿が映しだされた途端、闘技場は「お~~~~」というなんとも言えない声でうめつくされた。

「さっき紹介してもらったソルだけど。私、あんまアイドルとか興味ないのよね。だってアイドルなんて所詮河原乞食でしょ? 

でもなんだか知らないけれど、そんな職業にも生産性や利益、安定性みたいなものも存在するらしいわ。

私はそんなの信じないんだけど、あなた達がどーしてもやってくれっていうならリサーチという形で付き合ってあげなくもないわ」

 それを聞いた観衆達は地響きが起こりそうなくらいヒートアップした。その反応を見て、ソルは思わずしかめっ面をした。

 普通のアイドルがファンに向けてそんな表情をすれば”塩対応”と言われても仕方がないが、彼女の場合は特殊で、そのトゲトゲしさがウリである。

「うわっ……アンタたち、きっも……」

 ソルが嫌悪感を露わにしたままそう言い放つとまたもや観衆が大きく揺れた。飛び交う声援はまるで観客席自体が左右に揺れるようだ。三色の制服が美しく入り乱れた。

 ソルはマイクを隣に立っていた少女に渡した。どうやらもう一人のメンバーのようだった。

 赤い髪の毛をして、非常に豊満な体型の少女だ。アイネといい勝負である。着ている服は趣味なのかゴスロリファッションだった。その様子がスクリーンに拡大されると実況が彼女の紹介に移った。

「さて、最後のアイドルさんの紹介です。今度は東部の職人養成学校「バンダガ学院」からやってきたリーピィー・パンネさんです!!」

 実況者がそう告げると先ほどの喧騒が嘘のように観客席は静まった。するとリーピィーが口を開いた。

「えー、わたし~、ばんだがのガッコーでぇ、あいてむくりえいととかぁ、あいてむえんちゃんととかやってますぅ~。

ぃぃあいてむができたときなんかはもうサイコーにテンションageageっていうか~。ブキとかボウグとかにソウルこめるのたのしいっていうか~。だから、みんなもあいてむくりえいとしようじゃん?

ばんだがはいいとこだよ~。とぅぶだからってばかにされがちだけど、くりえいとテクはあたしらのほうがうえだかんね。んじゃま、よろしく~」

 彼女はそうゆっくりと話し終えるとマイクをアナウンサーに戻して観客席に向けて手のひらをヒラヒラと振った。

 話しかたにはクセがあるが、人の良さがひしひしと伝わってきた。だが、非常にマイペースな語りで肝心のアイドルデビューに関する抱負は全くしていなかった。

 観客たちも彼女のペースに呑まれ、あれだけ騒いでいたのに彼女が話し終わると静まった。まったり癒やされた観客たちを再びネイリュアが煽った。

「ほらほらどした~? 声援が き こ え な い ~~!!」

 一瞬で観客席は再煮沸された。彼女はここぞとばかりに媚びたポーズをとってマイクに向かって叫びに近い名乗りを上げた。

「このアイドルユニットにはテーマがあります!! もうみんなわかってると思うけど。

知のアイロニア学院からソルちゃん、業のバンダガ学院からリィーピィーちゃん、そして武のリジャントブイル学院からはわたし、ネイリュアがアイドルに立候補しました。

そう、わたしたち三人の共通点は全員がライネンテの現役学院生ってとこでーす!!」

 ネイリュアは手加減しているのかさきほどほど大声を出していなかった。ファイセルは顎に手をそえてなにやら考え事していた。

 きっとこんなアイドルユニットよく考えついたなと思っているに違いないとネイリュアは自慢げだ。

「さーて、このユニットの名前は~……」

その場の皆がゴクリと息を呑んで発表の時を待った。ネイリュアは絶妙に引っ張って彼らを焦らした。

「ユニット名は”ドキドキ♡ ライネンテ恋の大三角形”で~す!! アイロニア、バンダガ、リジャントブイルの位置を結ぶと三角形になるからでーす!! み・ん・な~覚えてネ!!」

それを聞いていたラーシェとアイネは周りの生徒が立ち上がりながるのを横目に座ったままスクリーンを見ていた。

「ねぇ、あのネーミングセンスどう?」

「無いですね……」

2人は顔を見合わせてそうつぶやくと再び会場に目をやった。
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