挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

104/184

まるで沸騰石の無いフラスコだ

 ファイセルは闘技場の戦場に出てみて雰囲気に唖然とした。想像以上に観客が多く、ほぼ満員である。

 普段このレベルの試合にどれだけの観戦者がいるのか彼にはわからなかったが、それでも人が多いのがわかった。

 今まで経験してきた数の数倍はいそうである。群青、深緑、真紅の制服が色とりどりに揺れて観客席はカラフルだった。

 どうやらファイセルは先に入場したようで、戦場には誰も居なかった。コロシアムの戦場と一口に言っても、実際にはいくつかの仮想空間が用意されている。

 一番シンプルなものは円形で砂地で特に凹凸がない伝説の古代コロッセオをモデルに作られたものである。

 他に森、砂漠、雪原、館、廃都市、洞窟、空中、水中などありとあらゆるフィールドが存在する。

 色々とフィールドがある中でも水中や空中は適正の無い生徒では留まることさえ困難なため、自ずと精鋭が集まってハイレベルな戦いが繰り広げられることが多く、人気のフィールドである。

 また、あらゆる魔法が反射する鉱石で出来た反魔晶窟などもランダム性が高く、見ている側にとっては面白い。戦う側にとってはやりにくいことこの上ないのだが。

 単なる実力勝負なら割と予想は立てやすいが、このフィールドのシステムが絡んでくるとなると話は別だ。

 実力差がある程度あってもそれをひっくり返す手はいくらでもある。それが闘技場での賭けに対する面白さと、奥深さに大きく影響を与えている。

 どのフィールドになるかはそのマッチングによりけりで、大体勝負が拮抗されるものが選ばれる傾向にある。何かの公式試合や教員が生徒を選ぶインヴィテーションマッチでは通常のコロシアムが選ばれる。

 高度な事ができるのもワープ機能と同じく、高位の専門知識を持つ魔術師達が複数人で管理、運営しているからである。

 一室分程度の仮想空間を作る程度の技術は国の数カ所にあるが、ここまで多種多様な仮想空間が作り出せるのはリジャントブイルのみである。

 こんな技術があれば誰でも驚くところだが、残念ながらこの闘技場には現役学院生しか入場許可がない。入場口の時点で学生証による認証が行われているからだ。

 学生証だけなら入れるかといえばそんなことはなく、入学時に学生証の持ち主と学生証の結びつけが行われる。

 個人によってマナの特質は全く違い、同じものは存在しない。この特性の事を”マナの色”と呼ぶ。

 これは物体などにも存在するので、GPSのような機能を実装したい場合、人や物を特定するのに役立つ。

 技術的にはライネンテ国内のあちこちで使われているが、一般市民が自らのマナの色を意識したり、物のマナの色を意識することはない。それを気にするのは魔術師くらいのものである。

 ともかく、学生証は本人以外は使えないということである。だが、リジャントブイルは自由な校風で融通が効く。

 もし、学生証を持っていなかったとしてもマナの色を読んで貰えば学院生である事を証明することが出来る。

 なのでその気になれば一般的な商店はともかく、公的な機関やミナレート内の商店を学生証なしに利用することも可能だ。

 ファイセルがぼんやりしながら観客席を見つめているとアナウンサー席から声がし始めた。

 闘技場の実況者達は皆、闘技場実況、解説部という部活に所属しており様々な状況を解説したり盛り上げたりする事に長けている。コロシアムからバイト代も出ているらしく、気合の入った部活動である。

 今日の担当は実況のバズと解説のエストのようだ。この2人のコンビは一番人気が高く、実力もある部活のトップである。

 故に、公式試合、各種行事、人気の試合などを担当することが多い。特別な行事でないのに2人が出てくるということは相当人気、または大々的にアピールしたい一戦であることは疑いようがなかった。

「えー、えー、マイクのテスト中。どうも、実況のバズ・ケーティです。」

「ゴホ、ゴホン。皆さんこんにちは。解説のエスト・ジュレです」

 2人がマイクテストをすると会場は大歓声につつまれた。

「えー、皆さん、ご存知かと思いますが、今日は! 何と! あの学院の美少女インビゴレイター、ネイリュア・フリュスちゃんから重大発表があります!! 何でしょうかね!? ボクはドキドキが止まりませんよ!!」

「えー、ではネイリュアさんの入場です」

 向かい側の入り口から高い位置でサイドアップの髪型で美しい金髪をした少女が出てきた。

 薄着の真っ赤なチアリーディングを着て、短めのスカートに黒のニーハイソックスという出で立ちだ。

 そこまでなら普通のチアリーダーだが、指先から肘まですっぽり覆う頑丈そうな小手を身に着けていた。そして両手にはボンボンをもっていた。マイクを受け取ると元気な高い透き通るような声で呼びかけた。

「イェーイ!! 皆~元気してるぅ~!?」

 彼女がそう一言問いかけると観客席は狂喜を帯びているのではと思えるほど盛り上がった。まだ試合開始前にこんな調子である。

 ファイセルは盛り上がりをよそに「最初っからそんなテンション高くて試合終了までバテないのだろうか」と何となく考えていた。

 これではまるで立ち見のライブ会場である。ネイリュアは続けた。

「今回のぉ、重要発表なんだけどぉ、なんと、わたしアイドルデビューしちゃいます!! ソロじゃなくてトリオのアイドルユニットのリーダーを務める事になりましたぁ!! うわーい!! 今日は他の2人にも来てもらってるんで、自己紹介してもらおっかな~!!」

 闘技場の観客席からは会場の選手などをアップで見る事の出来るスクリーンが用意してある。そこにネイリュア、そしてファイセルの姿が写っていた。

 ネイリュアの出で立ちに対し、ファイセルは頭にはフードを深くかぶり、不審者のような出で立ちだ。それを見て観戦者達は彼に全く魅力を感じなかった。

 観客席ではエレメンタリィの時に同じチームだったラーシェとアイネが2人並んで観戦していた。

 リングサイドで観戦しても良かったのだが、あまり大人数でおしかけるのもいかがなものかということになり、2人は観客席から応援することになった。

 美人が2人並んでいたが、フリュネに夢中だからか見向きもされていなかった。

 パンチやキックといった格闘技を得意とする勝ち気な少女ラーシェは不満そうに愚痴った。彼女はファイセルと同じチームの一員だ。面倒見の良く明るい性格で後輩に格闘術を教えている。

 性別関係なく、後輩からの信頼は厚く、先生並に頼りにされている。彼女は技術も達者だが、それ以上に”教える”事が上手いトレーナー向きの人材なのである。

 彼女を落とそうと狙っている男子は100人以上はいるが、その異常なまでの理想の高さ故に、生まれてから未だに一度も彼氏ができたことがない。

 格闘術の流派はいくつかあるが、リジャントブイルではパンチやキックを主軸とした「サルバ流」と投技中心の「アンテコア流」、

そして「柔道」なども割とメジャーであったりする。ラーシェは格闘を基本とするサルバ流の使い手である。

 格闘と言ってもこの世界では筋力トレーニングを一切しない。彼女の修行方法はメディテーション(瞑想)が中心だ。

 なぜならこの世界での格闘技の強者は肉体の強さには一切関係ない。小さな子どもが大男を投げ飛ばすことも珍しくない。それを可能にしているのが”肉体エンチャント”である。

 マナの力を身体の部位に集中させ、極力な瞬発力を放ったり、体を硬化させたり、反射神経が大幅に上昇するのだ。

 そのため、この世界では男女の社会進出度は対等である。格闘家をしている女性もいれば建設現場や鉱山で働く女性も当たり前だ。

 逆に男性だったとしても女性の就く仕事につくのは当たり前である。一切そういったしがらみはなく、ジェンダーフリーなのだ。老若男女関係なく、マナの素質と特性、適正によって個性や職業がが決まる。

 そんなラーシェだったが、なんだか憂鬱そうな目線をファイセルに送っているのにアイネは気づいた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ