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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter3

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腰のホルスターに愛を込めて

 試合当日、ファイセルは覚悟を決めてコロシアムの門をくぐった。かつて存在したとされるとコロッセオをモデルにしたとされる古風で格調高い作りの建造物である。

 規模はかなり大きく、運動場のグラウンドより広い施設である。門をくぐるとすぐにロビーがあった。カウンターにいる受付の女性職員に学生証を見せるとすぐ横のドアがほんのり黄色く光った。

 これが待合室へと繋がる扉である。だが、この扉の先に部屋が直接繋がっているわけではない。個別に用意された部屋へ転送されるのだ。

 リジャントブイルは最新の魔法技術を惜しみなく取り入れるという特徴がある。このワープ可能な扉もその1つだ。

 別にコロシアムならば普通の作りでも問題ないと思われがちだ。だが実際は不正や八百長、使用禁止アイテムの持ち込みなどを防ぐためにクッションを挟む必要がある。

 精密なアイテムを生成するときのクリーンルームのようなものである。また、基本的に部外者が立ち入れないように入場の時点で認証するにもこのシステムは役立っている。

 そのため、コロシアムはワープドアやくぐると瞬時に転送される通路が多い。空間転移、いわゆるワープについては転送先の座標の指定が非常に難しく、普段は滅多に使われない。

 中途半端な知識でこれを試みると亜空間や幻魔界、果ては別次元などに迷い込んで帰ってこれなくなる確率が高い。転送先を厳密に指定せず、適当にワープする事自体は難しくないのだが、失敗時のリスクが高すぎる。

 それでもコロシアムや学院のそこらに転送機能が実装されているのはリジャントブイルに転移魔法のエキスパートが何人も集結しているからである。これだけの人材が揃わなければこの技術の実用化は不可能なのだ。

 例え最先端を行く王都ライネンテでもここまで空間転移を実装できている施設は国の政治の中心であり、王族の住居も兼ねた議会宮殿や国中な様々な事柄を運用する魔法局くらいのものである。

 学院のあるミナレートは魔法分野においては王都の上を行く。魔術師たちのメッカなのでである。

 もちろん他の都市にもそれぞれ長けている部分があり、それぞれ個性的である。ライネンテという国は先進国にふさわしく幅広い技術や産業が発展しているのだ。

 ファイセルが光るドアを開けるとあまり広くない一室に出た。待合室での面会は自由で、エントリーした時点で面会に参加する相手を指定しておける。

 当然ながら部外者は入ってこれない。開けた直後に2人誰かが居るのを確認できた。ファイセルはリーリンカとザティスに来てもらうように頼んでおいたのだ。リーリンカはほぼ押しかけであったが。

 ちなみに面会者はセコンドとしてコロシアムに参加する事も可能だ。もっともあくまで付添人であって、援護やアドバイスは一切禁止されている。

 途中棄権やリタイヤの権利もセコンドには無く、あくまで戦っている当人の闘志やか公式の判断に委ねられる。セコンドの利点は面会者としての事前の打ち合わせと観客席より近くで戦闘を観戦できることくらいである。

 2人の顔を見るとザティスはこれから始まる戦いを見るのが楽しみとばかりににやけていた。ザティスとはガッツリ話し込んだのでもはや言葉は野暮といった感じだった。

 一方の少女、リーリンカも長く綺麗な青い髪が揺らし、自信ありげに微笑んでいた。以前に比べ眼鏡を外した姿にも、お揃いの漆黒のエンゲージチョーカにもすっかり慣れた。彼女はファイセルに激励の言葉をかけた。

「コロシアム狂のザティスがコーチしてくれたんだ。相手は強敵だがこちらも万全の体勢だ。買っても負けても帰郷に影響が出るほどの怪我は負わんだろう。

……今まで勝ってきたんだし、あなたならやれると確信してる。かといってあまり思いつめる必要もない。怪我さえしなければ負けたりリタイヤしても構わないんだからな。ハラハラするから無茶だけはするんじゃないぞ」

 ぶっきらぼうな口調は相変わらずだが、彼女は結婚してから随分丸く、女性らしくなったような気がする。言葉遣いこそ男っぽいが中身はちゃんとした淑女であるし、女の子っぽいところもある。

 そのギャップがたまらないという人もいるようだが、ファイセルにはそこのところはイマイチわからなかった。悪気は無いのだが彼はそんな事を口に出しては男子から妬まれるのだった。

 リーリンカの見た目がかなり良い事もファイセルが嫉妬される理由の一つだった。美人とは少しタイプ違うが、かなり小柄で守ってあげたくなるような小動物的な可愛さがあると言える。

 ただしスタイルには凹凸が全く無く、正直言って板みたいなものである。グラマラスとは程遠い。

 ファイセルと結婚した事や、眼鏡を外した事でクラス内での評価がガラリと変わり、女子の友人も増え、男子にも人気になった。

 本人はそのことを多少煩わしく思っているフシもあるが、交友関係が広がるのはまんざらでもないらしい。

 一応エンゲージ・チョーカーをつけているのだが、チョーカーが主流なのは国内西部のみなので、異性からナンパされる事もたまにあるらしい。彼女の言動や性格からして浮気は無いだろうとファイセルはあまり気にかけていないが。

 何かと妬まれるファイセルだが、彼は断じて嫌われているわけではない。むしろ人気者と言える。

 田舎特有の素朴な雰囲気をもっていて、”地味なイケメン”などと呼ばれているとかいないとか。そのせいかどうか知らないがリーリンカとはお似合いカップルだと思われているらしい。

 性格も人当たりがよく温厚で、よく人から慕われている。人助けをするのも好きなのでミドルに入ってからはエレメンタリィのサブコーチなどを買って出たりしている。

 リーダーシップもあり、エレメンタリィ(初等科)で4年間、チームメイトを引っ張ってきた。チームの実力を競う名誉ある大会、エレメンタリィマッチの4年の部でクラス選抜10チームのうちのベスト4に食い込むという快挙を成し遂げた。

 その成績はミドル(中等科)に進級しても知られており、ミドルでもチームリーダーをやっている。

 ここにいるリーリンカとザティスはエレメンタリィの時のチームメイトだが、4年でそのチームは一旦解散され、ミドルで再編成となる。

 だが、大抵の学生たちはエレメンタリィ時代の交友関係を大事にし、後に繋げていく。現にミドルになった今でもリーリンカ、ザティス、ラーシェ、アイネとはちょくちょく飲み会したりしている。

 ファイセルが身につけた装備類のチェックをしているとリーリンカが腰にかけるホルスターを渡してくれた。ホルスターには細長い試験官が何本かセットしてあった。

 戦闘時に使用する各種ポットなどだ、腰に身につけると中に入った色とりどりのカラフルな液体がユラユラと揺れた。

 リーリンカお手製の応急用薬品セットである。彼女と結婚してからは何かあるたびに魔法薬を調合して持たせてくれる。

 以前もらったバッグにパンパンな薬品類とは違い、これは実戦で邪魔にならずかつ即効性を重視したものとなっている。割と高価な薬だが、素材から調合すれば程々の値段で作ることが出来る。

 最近はすっかり薬品を使った戦法にも慣れ、多少は薬品に関する知識が増えた。あまり肉体エンチャントも呪文も使えないファイセルにとって魔法薬のサポート効果は非常に重要なものとなっている。

「よしっ、これで準備完了だ。じゃあリリィ、ザティス、行ってくるよ!!」

 ファイセルは使い古しの黒に近い紫色をしたライラマのローブを羽織り、2人に背を向けてコロシアム会場に通じる通路へと進んでいった。

 2人は丈の長い羽織るタイプのフード付きローブの裾を揺らしながら決戦へ向かう彼を見送った。
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