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楽土創世のグリモア 作者:しらたぬき

Chapter1:群青の群像

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老練の目利き アンティーク・ショップ・ボッカ

 朝5時にミナレートを出発して早朝に海竜の涙と遭遇し、そのまま歩く事3時間。ミナレートから寄り道せずまっすぐ歩いて南下すれば4時間、ウィールネール便を使えば2時間半のあたりにカルツはある。

 白い建物の街並みが印象的な街だ。建物には強度を上げるため、パルム鉱という白い鉱物が混ぜてあり、これが日に反射して白くきれいに光る理由である。

 パルム鉱はライネンテの数か所の鉱山で採掘されている。ファイセルの故郷、シリルの街並みも白い壁の建物が多く、パルム鉱を使っている家が多い。

 建物の見た目や作り自体は似ているのだが、街の規模がシリルとは段違いで全く異なった印象を受ける。

「ここはね、街の中心にある噴水を中心とした広場に市場があるんだ。カルツ・バザールって言うんだけどね。そこでウロコをオークションで出してみよう。ハァ、にしてもちょっと疲れたななぁ。休憩にするよ」

 ファイセルはあまり肉体エンチャントを得意としないので4時間歩けばかなりくたびれる。ラーシェように肉体エンチャントができれば、4時間強行軍くらいは造作もない。

彼女ならばバテることなくカルツを通り過ぎて行くだろう。それどころか、やる気になればウィールネールと同じくらいの速度で走れそうでもある。

 ザティスが”酔狂な帰宅手段”と指摘したのはファイセルの肉体エンチャントが心もとないのを考慮した上での発言だったわけだ。

「う~ん、ウロコが売れるまでに時間がかからないといいんだけどな。できれば今日の内に次の村にたどり着いておきたいんだけど、水質チェックしながらだと難しいかなぁ」

 ファイセルは顎に手を添えて考えながらカルツ・バザールへ向かっていった。ミナレートの通りとはまた違った喧騒に徐々に包まれる。

 道行く人々が物珍しげに腰のビンの中でキラキラ揺れるアクアマリン色の水を見ながらすれ違っていく。

「あ、リーネ。ただでさえ目立ってるのにこれ以上目立っても何だからカルツに居る間は幻魔界に戻るといいよ。まだ色々と整理しきってないんでしょ?」

 リーネは水に溶けたまま喋った。

「もうですね~、部屋が贈り物だらけでですね~、寝る場所もないんですよ。少しの間、向こうを整理してきますね。また用事を再開するようだったらビンを三回ノックしてください」

 リーネは忙しげに水に溶け込んでいった。

 そうこうしているうちにファイセルはカルツ・バザールについていた。食料品を中心に雑貨が売っている。さすがにここではマジックアイテムの品ぞろえはいまいちのようだが。

 案内役のお姉さんに話しかける。

「あの~、鑑定屋さんってどこにありますか?」

 お姉さんは市場の奥の方を指差した。

「カルツ・バザールを横切ってあちらの軒下にタルが置いてある店がそうです」
「ありがとうございます」

 ファイセルはそういいながら500シエールのチップをお姉さんに渡して人波を避けながらバザールを横切った。屋台からおいしそうな匂いがする。

(そういえば、まだ朝ご飯食べてなかったな。鑑定してもらったら何か食べるか……)

 お姉さんに教えてもらった店の扉を開く。店の中は古ぼけた内装で眼鏡をかけた老人が骨董品に埋もれるようにして椅子に掛けてタバコをふかしていた。まるで店自体が骨董品のようだった。

「いらっしゃい。ゆっくり見ていきな」

 老人は会釈しながら軽く客への挨拶を済ませた。大きな古ぼけた車輪に何の骨かわからない塊、綺麗な紋様が描かれた陶器などがところ狭しと並んでいる。

 骨董品の量や値段を見ているとこの老店主がかなりの目利きではないかと思えてくる。中にはなぜこんなに高価なのかわからない物もちらほらあるが、骨董品なんて得てしてそういうものである。

 もしかしたら何かのマジックアイテムなのかもしれない物もいくつかあるが、使い方も効果も全く分からないので買う気は全く起きない。

 ファイセルはうっかり骨董品に夢中になってしまっていたことに気づき、本題に戻った。

「あの~、鑑定をお願いしたいんですが」

 老人が急に活気づいた。

「お~、いいねェ~。最近はガラクタばっかで飽き飽きしとったんじゃ。その制服、おぬし、リジャントブイルのじゃろ? 鑑定し甲斐がありそうじゃわい。ちなみに鑑定料は一律5000シエール、鑑定したものの価値に合わせてそれに上乗せさせてもらうぞ。よいな?」

 ファイセルはうなづいてウロコをカバンからだし、腰のビンも老人の座っているカウンターに置いた。

 老人は虫眼鏡を使って観察しながら触ったり、柔軟性を確認しながらウロコを鑑定した。ビンの水の色も見本表の色と照らし合わせながらチェックしていく。

 ファイセルには老店主が徐々に震えだしたように見えた。次の瞬間、店主は大きな声を上げた。

「ほぉぉおおおっおっ!! これは、まさか海竜のウロフォッッッッッ!!」

店主の入れ歯が宙高く吹っ飛んだ。そのまま心臓発作でも起こしそうなくらい店主は狼狽した。

 入れ歯を拾うのも忘れ、目を真ん丸にしてカウンターの上の品を見つめている。

「だ……大丈夫ですか?」

 ファイセルが声をかけると、店主は再び騒がしくなった

「ふぉまえ、ふぉのふろふぉふぉのほおひさひゃと……」

 何を言っているのかさっぱりわからない。ようやく店主は自分の入れ歯が吹っ飛んだのに気づいて床に落ちた入れ歯を拾って口にはめてしゃべりだした。

「あ、あ、アンタ。……この大きさのアクアマリーネだと最低価格は……ハァ、ゼェ……」

 かなりの歳なのに興奮したからだろうか、老人は息が上がっているようだった。

「それで……最低価格はいくらなんですか?」

 ファイセルは息をのみながら聞き返した。

「300万シエールじゃ!!」

 これにはさすがにファイセルも度胆を抜かれ、叫んだ。

「さっ、300万!? 50万シエールくらいがいいとこだと思ったんですが……」
「バッカモン!! いいか、最高価格が300万じゃなくて、”最低価格”が300万じゃからな!!」

 老人はすぐに羽ペンを取り、マジカルインクを付け正式な鑑定書の書式で魔紙に鑑定結果を書き綴り始めた。5分としないうちに証明書が完成した。


『このウロコは確かに実物のアクアマリーネである。最低300万シエールの価値を保証する。  鑑定協会認定鑑定店 “ボッカ鑑定屋 ボッカ”』


「いや~、たまげた。まだ心臓がバクバクいっとるわい。鑑定者協会主催の展示市で見たことはあったが、まさかこの店で本物を目にすることになるとは思わなんだ」

 老店主はようやく落ち着きを取り戻して、よろけるようにフラフラと椅子に腰掛けた。

「あの~、それで鑑定料金はいくら上乗せされるんですか?300万だから30万シエールくらいでしょうか?」

 老人は首を横に振って答えた。

「いや、こんなもんを間近で見せてもらえるとはそれだけで価値があったわい。冥土の土産になりそうじゃ。10万ももらえば十分じゃよ」

 ファイセルは荷物の中から小分けにしてあったお金をまとめて、10万シエール分店主に渡した。手持ち金は残り約10万シエールといったところだ。

 ミナレートを出た時は20万シエールだったが予想外の出費で所持金が底をつきそうだ。一応、これが貯金の全額でウロコが売れ無かった場合は今後の旅に不安が残る。

「貴重なアクアマリーネじゃ。うまく捌けよ?」
「わかりました。ありがとうございます」

 そう言ってカウンターの上のウロコをカバンに入れ、ビンを腰に掛けて店主に一礼して鑑定屋を後にした。

「さーて、いよいよウロコ売り本番かぁ。あんま上手くやる自信ないんだけど、やるしかないね。その前にお昼でも食べるか……」

 屋台で痺れバチの幼虫の野菜炒めと、カルツヘビの串焼きを食べて英気を養った。

 あまり商売の経験もなく、ましてやオークションともなれば不安要素でいっぱいだが、ファイセルは腹をくくって市場の貸し売り場を見て回った。

(一番目立つ売り場の場所代は10万シエール、そうでないところは安くて5万かぁ。ここでケチるとウロコの値段が下がる可能性もあるからなぁ。かといってウロコが売れなかった場合、所持金がわずかになるリスクもある。さて、どうしたものかな……)

 さっきの鑑定屋の老人がうまく捌けと言っていたのを思い出す。その期待にこたえねばと思い、ファイセルは気合を入れて10万シエールの貸し売り場を選んだ。

 昼時の市場は活気に満ち溢れている。これはもう今しかないと言った好機だ。

「あんちゃんやけに荷物が少ないじゃねーですかい。お金払ってもらったから場所は貸すけど、売るモンがねぇんじゃなぁ」

 売り場にはテントがあり椅子がついていて、地べたにはマットがしいてある。テントの幅も大きく、多くの通行者の目を引いている。

 ファイセルは海竜のウロコとビンをマットの上に置き、マントを脱いで直にマットの上に腰おろし、腕まくりした。

 鑑定書を手に持ち、目を閉じて深呼吸をする。緊張の瞬間。

「はーい!! みてらっしゃいよっといで!! 海竜のウロコ、アクアマリーネのオークションを行うよ~!!」

 大きな叫び声に通行人が足を止め他の店の店主たちもこちらを見る。

(うわ、すごい気まずい……)

 ファイセルは不安になる自分の気持ちを抑え込んで呼び込みを続けた。

「は~い、こちら今朝とれた海竜のウロコだよ~。鑑定書つきだよ~!!」

 何回か大声で呼びこんでいるとあっという間にテントの周りに人だかりができていた。ガヤガヤザワザワと音は次第に大きくなっている。

「間違いなく本物だよ~。ほ~ら、傾けると虹色に輝きます!!」

 ウロコを手に取って曲げたり、ひねったりして、日に当てて光らせたりしてみるとまるでマジックを見たかのように人だかりが声を上げる。

 テントの周りの人々は感嘆の声や驚きの声にあふれ、もはや本物だと疑う余地なしといった感じだ。

 ファイセルもだんだんこなれてきて、商売人さながらに見ている人を煽るように宣伝文句を謳い続けた。

「ほら、このきれいな色の水! これが海竜の涙の池の水です!! その底からこのウロコはすくいあげました!!」

 ファイセルは集客に見切りをつけてそろそろオークションの段階に移行しようとした。

「おい小僧、これいくらからだ?」

(来た!!)

 どこからともなく質問が飛んできた。いよいよオークションが始まる。
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