〜灼眼のシャナ〜外伝<バベルの塔>(9/14)縦書き表示RDF


書く事ないです(笑)
〜灼眼のシャナ〜外伝<バベルの塔>
作:アテナ



第七話【ロスト・パーソン】



「警察……ですか?」

予想が出来ない訳ではなかった。
正体不明の怪物の襲来、大型船の半壊。果ては死傷者も出ている。
これらは到底、無視できる内容ではないからだ。
しかし、シリウスつい今し方意識が回復したばかりで、思考が追い付かないのも無理らしからぬことと言えるかもしれない。
いずれにしても、シリウスは警察という機関の出現にただただ混乱していた。
そんな少年の心中を察してか、マーカス捜査官は人当たりのいい笑みを浮かべ、ベッドの傍らに置いてあった丸椅子を引き寄せ腰掛ける。
そうして、スーツの懐から手帳を取り出すとペンを片手に膝の上で開いた。

「ええ。私はある事件の捜査をしていて、それについて少しお話を伺いに来ました」

そこまで言って、ふっと肩を竦める。

「まぁ、今日は様子を確認させていただくつもりだったんですが」

シリウスはようやくガラジャの襲来と警察の来た理由を結び付ける。
やや慌てながら居住まいを正し、シーツの中で神器カラドボルグを強く握る。ラフィールは口を挟まず、会話を傍受していた。

シリウスは改めて目の前の女性を仰ぎ見る。
警察……信用できる?

「あの……すみません、俺状況が……」

とりあえずシリウスは、混乱に混乱を重ねられた自分には状況を説明出来ず、なぜ自分が病院にいるのかも判らないと告げる。
その旨を聞いたマーカス捜査官は少し考える素振りを見せて、やがて得心が言ったように頷く。

「わかりました、ではそれも含めてお話しします」

そう言ってマーカス捜査官は手帳のページを指で繰る。

「まず、一〇月八日午前十一時アレクサンドリア港第三船舶場からフランスのポールへ綿花の貿易船ガルデアが出航しましたが、その二時間後、寄港しました」

「……壊れたからですか?」

マーカス捜査官は頷く。

「はい、ガルデアは半壊。竜骨は軋み、もはや廃船扱いにするしかなかったそうです。もっとも、今は私たちが差押えていますが」

ズキリと、シリウスの胸が痛んだ。船乗りとしての経験が浅くとも、ガルデアはシリウスの大切な場所だったから。

「帰港したガルデアにはすぐさま水産自治会の救助隊が向かい乗組員であったブロム・カーティス、モーガン・シェバイエ、ジョーン・バーテがショック状態で発見されました。彼らもこの病院に収容されています」

三人……。それだけしか生き残っていない事実に苦悩する半面、シリウスは妙な引っ掛かりを感じた。

「待って下さい、俺は?」

「今のは乗組員に関する情報です。あなたは乗組員ではないでしょう?」

……嫌な予感が胸をかすめる。

「い…え…俺もクルーです……」

声が震える。

「ですが、記録にはありません。はっきりと言いますが、あなたに関する資料を我々は持ち合わせていません」

マーカス捜査官は手帳から顔を上げれば目付きを強めて、シリウスを見つめる


「あなたは、誰ですか?」

一瞬世界が歪んだ。脳天を叩かれたように、感覚が希薄になる。
名前が、ない?馬鹿な!

「俺もクルーです!」

ベッドから身を乗り出し、食ってかかるような剣幕のシリウスに対して、マーカス捜査官はなぜか侮蔑の表情を浮かべる。

「記録にはありません、三人の乗組員に聞いてもあなたはなぜか乗っていたと言っています。失礼ですが、お名前を」

「………シリウス・ベックマン」

マーカス捜査官は口許を歪め、その名前を手帳に書き記す。悪意を隠そうともしていない。

「燃える(シリウス)、ですか?エジプト語ですよね、地元の方ですか?」

マーカス捜査官の瞳がシリウスの青い瞳や黄昏色の髪を無遠慮に捉える。
それは昔から浴びてきた、奇異の視線だった。

「一応、生まれも育ちもアレクサンドリアです、父が英国人、母がエジプト人ですけど」

適当に頷きながら、マーカス捜査官は手帳にそれらを書き込む。
当時のアレクサンドリアは西欧からの独立革命があった直後で、外来人に対しての風当たりが強かった。
だから奇異の視線にはなれていたのだが、この女性の視線には不快感が掻き立てられる。

「話しを戻しましょうか?シリウスさんはガルデアの記録には残っていません。これは事実です。ブロム氏に確認しても、シリウスさんとは過去一度も面識がない──」

「そんなはずはないっ!ブロムさんとは二年以上……」

再び身を乗り出すシリウス。
混乱が正確な思考を妨げる。自分の存在が忘れられるなんて…そんなことが……。

存在…の…力。

シリウスはハッとしてシーツの下のラフィールを思う。
彼女に聞くしかないのか?
フレイムヘイズと何か関係が?
シリウスははやる気持ちを押さえて、俯きながら声を絞り出す。

「すみません、今日は……」
マーカス捜査官はそれを聞くと、気を悪くした風でもなく、手帳をしまいながら立上がり椅子を片付けて、シリウスにまた人当たりの良い笑みを浮かべる。

「わかりますよ、病み上がりですから。こちらでもやることが出来ましたから、三日後の同じ時間に来ます」

つまり、彼女は自分に待っていろと言っていた。
ようやくシリウスは不快感の正体に気付く。
マーカス捜査官のシリウスに対する敵愾心、詮議まがいの口調の意図…彼女はシリウスがガルデアを襲撃したと確信していた。


ふと気がつけば、マーカス捜査官は当に姿を消していて、辺りには夜の帳が降りていた。清閑とした世界。

シリウスは、鉄格子のはめられた窓から、悲しい光を放つ月を見上げる。
一片の温もりもない、凍りついた半月。

「覚悟を、しなさい」

口を噤んで以来ラフィールが初めて唇を開いたが、シリウス物憂げな顔のまま身動ぎ一つしなかった。

そうしていつしか朝日が昇っても、シリウスは一抹の睡魔も感じることが出来ずに一夜を明かす。



その後、言葉の通りにやってきたマーカス捜査官の報告により、シリウスは絶望に愕然とすることになる。


予想の通りシリウスには“ガルデア損壊”の罪がかかっていること。

そして、シリウス・ベックマンという人間はアレクサンドリア貿易商会はおろか、市役所の戸籍、エジプトデータバンクにすら登録されておらず、その痕跡もない。

シリウスは、自分の存在の証をすべて奪われていた。
それだけではない、喰われたクルー全員も同様だった。
まるで最初から、何もなかったように。


間違えて前回の後書きに、今回の後書き書いてました(苦笑)
ネタバレしてましたよ……











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