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一応家族

作者:文月みつか
 ようこそ、まとまりのない我が家へ。今日から君も、晴れて一応家族の一員です。初めてだから緊張しているようですね。大丈夫、うちは大抵のことには寛容なので、そんなに肩に力を入れる必要はありません。リラックス、リラックス。

 申し遅れましたが私、一応家長の一応人間です。そう、あなたと同じ一応人間なんですよ。もう長いこと普通の人間を目指してやってきているのですが、いまだ努力が足りないようでして。人間のみなさんとも仲良くやっているつもりですが、ときどきうっかり尻尾を出してしまったりして、知人には普通の人間だと思われていないのです。一応家族に迎え入れられてからもう何年も経つというのに、情けない話です。とうとう家長にまでのぼりつめてしまいました。しかし、それもまた私の業なのでしょう。このうえは、しっかり家長としての役割を果たさせていただきますよ。

 自己紹介が思いのほか長くなってしまいました。今度は家族について紹介します。たくさんいるので、一度に覚えようとしなくてもけっこうですよ。私も、家族についていまだに把握しきれていないことなんてザラにありますから。

 まずはだれからにしましょう……おや、君が来たのに気づいて一応ウサギさんが出迎えに来ましたよ。それじゃ、彼からいってみましょう。
 耳が短いですが、本人がウサギだと言い張っているので一応ウサギです。耳はそのうち長くなってくるのだと信じています。私も、そうなることを願ってやみません。ですが、手触りなんかはふさふさでウサギとよく似ていますし、長くて丈夫な前歯もなかなかいい線をいっています。ほっぺたに食べ物をつめこむところと、サイズが小さすぎるのが惜しい。先ごろ、本物のカメさんと競走をしたそうですが、こっそりカメさんの甲羅の上に乗っていき、ゴール直前に飛び出して勝ったそうです。だめでしょ、勝っちゃったら。先回りして途中で昼寝でもしていればよかったんです。なかなか頭は回るんですがね。仲良くなりたければ、ヒマワリの種や新鮮なタンポポを与えてください。慣れないうちは指をかまれるかもしれませんから、覚悟してくださいね。

 続いて、こちらのお風呂場にいる一応ダチョウさんを紹介します。空は飛べません、ダチョウだから。水風呂が大好きで、我が家の風呂はほとんど彼の遊び場となっています。冷たいのが苦手でなければ、一緒に入って友情を深めるのもいいでしょう。残念ながら、足はあまり速くありません。毎日公園の周りを全力疾走していますが、はた目にはよちよちとお散歩しているようにしか見えません。その姿が愛らしく、ご近所では大の人気者です。本人は、一生懸命走っているつもりなのになぜ笑うんだと、いささか複雑な心境だそうですが。彼の努力がいつか実を結ぶことを願ってやみません。
 でも正直、私はダチョウよりも一応ダチョウの彼のほうがかわいいし親しみやすくて好きです。

 はい、次はこっちですよ。クローゼットを開けてみてください。
 ……見つけました?いや、そんなに怖がらなくても。ただの一応マフラーですよ。あ、違う。今の季節なら一応スカーフか一応ネクタイですかね?季節や用途に応じて名前を変えるのが彼の趣向なんです。君も巻いてみますか?……遠慮しなくてもいいのに。
 彼もまた修行中の身ですから、完璧ではないのですがね。この前、一応就活中の一応大学生が彼をネクタイに指名したのですが、危うく途中で絞め殺されそうになったと青ざめた顔で話していました。原因は彼らが2人ともネクタイの結び方をよく知らなかったことにあります。何となくこう?と2人で適当に進めたのがいけなかったのです。そんなことでは、一応ネクタイも一応就活中の一応大学生も務まらないぞ、と家長として叱責しました、私。残念ながら一応大学生のほうは爬虫類系にトラウマができてしまい、家を出てしまいましたが。どこかでちゃんと大学生になっていることを願ってやみません。
 ちなみに、一応ネクタイの彼は一応ウサギが食べちゃいたいくらい大好きなので、クローゼットに隔離してあります。決して開けっ放しにしないように。

 そろそろ、お腹が空いてきたんじゃないですか?今日は新しい家族が増えると聞いていましたからね、バームクーヘンを買っておいたんですよ。我が家では、歓迎会といったらこれなんです。なんとなく、輪になってつながっている気分を演出してくれます。まあ、君も薄々感づいているとおり、実際はてんでバラバラな家族なんですけどね。一応、形だけでもということです。キッチンへご案内します。

 あ、ダメ、そっちは私の書斎です。無断で入ったら墓石に化けてぶっ潰しますよ?……ハハ、冗談ですよ。そんなにおびえないでください。親しき中にも礼儀ありというのが私の好きな言葉だということを肝に銘じていただければ、よいのです。

 さあ、ここが台所です。ダイニングテーブル、大きいでしょう?一応大家族と呼べる人数になってきたころ、先代の家長が設置を決めたのです。
 さ、バームクーヘンです。どうぞ。
 外見も目指しているものも見事にバラバラな私たちですが、食事のときぐらいはここに集まって絆を深めあえるようにという心遣いから、先代はこのテーブルを買ったそうです。最初の3日くらいはそこそこ集まりもよかったんですがね。もともと自由人が多いのと、食事の回数やタイミング、メニュー、すべてが異なっていますから、先代も早々に限界を感じて、食事は各自好きなときにとることを推奨しました。
 えっ、先代の家長がどうしているのか?それが、私にもよくわからないのですよ。ある日忽然と姿を消したきり、戻って来なかったんです。なんのことづてもなく。まあ、うちでは珍しいことではありませんが、面倒見がいいタイプの方だっただけに、少しひっかかりましたね。どこかで元気にやっていればいいのですが。

 ああ、皿の片づけは大丈夫です。一応家政婦がいますから。ほら、流しのほうから出てきましたよ。食器洗いも洗濯物も、彼女に任せておけば万事オーケーです。掃除や料理に関しては目下修行中ですが。なにかと衝撃的な場面を目撃する資質は持っていますから、一応家政婦から家政婦への昇格もそう遠くはないでしょう。
 あー、こらこら、それは洗い物じゃありませんよ。バームクーヘンの残りは、みなさんが自由に食べられるように冷蔵庫にしまっておいてください。まったく、目を離すとすぐにこれです……やはり家政婦への道のりは遠いかもしれません。

 台所のお隣はリビングです。ご覧のとおり、みんな自由にくつろいでいます。少々面倒になってきたので一気にいきましょう。

 あそこのソファーで爪を磨いている妖艶な女性が、一応恋人です。不特定多数の男性と友達以上恋人未満の関係にありますが、まだ誰のものでもないので一応恋人。いらぬお世話とは思いますが、一生あのまま終わりはしないかと心配です。あ、恋人になろうなどと考えてはいけませんよ。血のつながりはないといっても、一応家族ですからね。そういうメロドラマみたいなことは、ここを出ていく覚悟でやってください。なぜか必ず一応家政婦にバレます。

 窓辺でゆらゆら揺れているのは、一応ダンサー。本人は立派にステップを踏めるようになってきたから、そろそろ本物のダンサーとして認めてくれというのですが、いかんせん足がないものですから、本当に華麗なステップを踏んでいるのかどうか、だれにも判断できないのです。今はムーンウォークを習得中。とっても滑らかに動いているように見えますね、足から上に関しては。

 寝そべってテレビを見ているのが一応ドライバー。飲酒運転で捕まり、60日間免許停止中です。仕事をクビになり、橋の欄干から河へ飛びこもうとしているところを保護しました。免停期間が終わって、再就職することができるまではここにいていいと伝えてあります。お酒は大好きですが、酔っぱらうと河に飛びこもうとする修正があるので、くれぐれも安易に飲みに誘ったりしないように。

 さて、だいたいの雰囲気はつかんでいただけたでしょうか?実はまだ家族の半分も紹介できていないのですが、恥ずかしがり屋だったり、今は不在だったりで。まあ、そのうち顔を合わせることになるでしょうから、あとは自分たちで探りあってください。正直、私も疲れたので。

 あ、荷物ですか?たしか君のルームメイトが運んでおいてくれたと思いますよ。すみませんね、一人一部屋あてがいたいのはやまやまなんですが、人数が多いので相部屋になっているんですよ。君の部屋は2階です。ついて来てください。
 あ、そこの段は気をつけて!板が腐りかけているんですよ。ああっ、そっちもダメ!……遅かったですか。すみません、先日修理してもらおうと業者の方を呼んだのですが、仕事の途中で帰ってしまわれたようでして。工具も替えの資材も置きっぱなしですよ。いったいどんな急ぎの庸司ができたのか知りませんが、一言ぐらい断ってからにしてほしいものです。おっと、すみません、一応家長ともなるとこういう雑務もこなさなければならず、つい愚痴をこぼしてしまいました。君はまだ来たばっかりだというのに、なんだか話しやすくていらないことまでしゃべってしまいそうです。あ、そこは釘がとび出てるので踏むと痛いですよ……ああ、遅かったですか。

 ほら、この扉の向こうがあなたの部屋です。コンコン、おーい一応子羊さん、お待ちかねの新しいルームメイトですよ!……返事がありませんねえ。待ちくたびれて寝ているのかもしれません。勝手に入るとしましょう。
 どうぞ。なんだか散らかっていますが。あとで一応家政婦に掃除をたのんでおきましょう。あ、そこの柵、気をつけてください!一応子羊さんが、毎日跳び越える練習をしているんですよ。夜寝つけないときには、一応子羊さんが喜んで君が羊を数えるのを手伝ってくれますよ。実際にこの柵を跳び越えてね。ただし、ちょうどこの下が一応ニワトリさんの部屋になっていますので、あちらさんが寝不足にならない程度にお願いします。朝一に起きて啼くのが彼女の日課ですので。

 あった、ありましたよ。君の荷物です。なかなかコンパクトにまとめましたね。まあ、住み慣れればだんだんと持ち物も増えていくのでしょうが。ひとつアドバイスをするとしたら、本や新聞紙は一応子羊さんの手の届かないところに保管することですね。ちょうど、二段ベッドは上の方が君のものになりますから、布団の中に隠しておけば安全だと……え、もう被害に遭っているですって?まさか、床に散らばっているこの紙くずは……君の本の残骸でしたか。まさか、張り切って君の荷運び役を申し出たのはこのためだったのでしょうか?……いや、憶測でものを言うのはよくありませんね。よりによってこれから仲良くやっていくべきルームメイトですし。

 ああ、そんな悲しそうな目で本の切れ端を拾い集めないでください。彼に任せた私にも責任がありますから、弁償します……おや?このふわふわした綿毛は本の一部ではなさそうですね。ええっと、なんだかすごく見覚えがあるのですが。なんでしたかねぇ?
 えっ、廊下にも落ちていた?……おや、本当だ。しかも、点々と続いているじゃないですか!ここにも、そこにも、あそこにも。まったく、ただでさえ広い家の掃除は大変だっていうのに。一応家政婦さんが掃除を苦手と知っての狼藉ですね。一応家長として文句を言ってやらねば!君も証人としてついて来てください。大事な本を食い荒らされたことについて、問い詰めてやりましょう!さっきは憶測はよくないと言いましたがね、私が許可します!

 この部屋、じゃない……ここか?違う……一応子羊さん!あれ、いない……出てきなさいったら!もう、また違う……
 ん?なんでこんなに空き部屋があるのかって?いえいえ、空き部屋じゃないですよ。どの部屋も荷物が置いてあったでしょう?みなさん、たまたま外出中なだけですよ。たしかに、こんなに静かすぎるのは珍しいことですが。しかし、どこにもいませんねえ。

 ああ、あの奥の部屋ですか?あそこは違うと思いますよ。だってほら、鎖が何重にもまかれて、錠がかかっているでしょう?家長が持っている鍵でないと開かないんですよ。ほら、ここに……

 ない!?なぜだ!?……うーんと、どこかで落としたんでしょうかねぇ……え、足元?なあんだ、おどかさないでくださいよ。君も人が悪い。……ふ、ふーん、私がここを通る前から落ちていたと。まさか、まさか……

 開いてる……開いてるみたいです、この錠前。うわあ、どうしよう。私の家長の座もおしまいだ……いや、それどころかこの家も……
 誰が入っていたか、ですって?ハハハ、知らないほうがいいですよ……ごめんなさい、私、気が動転していて。隠しても仕方ないですね。君も、一応家族なのですから。
 この部屋には、一応狼という方が暮らしていたのですが、あるとき、彼が一応子ヤギさんを丸のみにするという事件が起きてしまいまして。以来、一応狼さんの部屋には厳重に鍵をかけ、わざわざ作った小窓から食事の膳の上げ下げだけをするというやり方でやってきたんです。有無を言わさず追い出すこともできたんですが、先代の家長は責任感の強い方で、そんな危険な人物を野放しにしたら近所中パニックになるだろうと言いまして。何より、一応狼さん自身がものすごく反省していて、二度とこんなことしないように閉じこめてほしいと言うので、このような運びになったのですよ。だから……ね、わかるでしょう?今、どんなまずい状況になっているのか。
 そうか、やっと思い出しましたよ。そこらじゅうに落ちている綿毛みたいなものは、きっと一応子羊が愛用していた毛糸のセーターです。これを着ているといかにも羊らしい気分になれるのだと、季節に関係なく身に着けているんですよ。こんなにズタズタの毛になっては、もう原型はとどめていないでしょうが。
 ……あの、気のせいでなければ、今後ろでミシッという音がしませんでした?そう、君の後ろですよ……

 ああっ、危ない!!避けてっ!!



 なーんちゃって。あはは、ドッキリ大成功です!
 みなさーん、もう出てきていいですよー!ここに、私たちの新しい家族、一応人間さんの歓迎パーティーを開催します!

 いやあ、実に見事な横っ飛びでしたね。私の予想をはるかにしのぐ敏捷さです。ええ、そうです。一応狼なんて家族は存在しません。先代の家長や修理に来た業者がいなくなったという話も、一応子羊さんのセーターのバラバラの綿毛も、この鎖をまいた扉も、すべてはドッキリのために準備された仕掛けです。不気味な扉を開けたら素敵な宴会場だったなんて、面白いかなと思ったんです。だから、そんなにこわばった表情をしないでください。すみません……もっと笑い飛ばしていただけるかと思ったのですが、やりすぎてしまいましたかね……

 我が家では新しい家族を迎え入れるときはこうしてドッキリを仕掛けることにしているのですよ。種明かしをしたところで、みんなで飲み食いする。距離を縮めるにはぴったりな方法でしょう?でも行き過ぎたホラー系のはよくないですね。今回君の反応を見て反省しました。さあさあ、君の歓迎会なんですから、遠慮せずにググッと飲んでくださいよ。あ、これは一応ビールです。アルコールは入っていないのでどなたでも飲めます。一応ドライバーさんはこれでも酔っぱらうんですが、なぜでしょうね。

 それではみなさん、グラスをお取りください。
 一応人間さんに乾杯!一応家族に乾杯!

 実に喜ばしいものです、この瞬間は。
 そういえば君は私と同じ一応人間ということになっていますが、ここまではまったく完璧と言っていいほど、自然な人間っぷりでしたねえ。私などよりよほど。迎え入れておいてなんですが、もう人間として認められてもいいんじゃないかという気もしますね。いったいどうして「一応」がついているのか、教えてくださいよ。家族なんですから。


 は、はあ、なるほど、狼人間ですか。それで一応人間だと。日も暮れてそろそろ牙がうずいてきたですって?

 ……あのう、一応聞いておきますけど

 冗談ですよね?



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