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若き二人

またまた補足的な話ですいません。


まだ若かりし頃のドレイクとカーネルのお話です。


なんか……お気に入りが半端なく増えてる……ドキがムネムネだぜぃ

 ドレイク・フォード公爵――スーヴェン東部のフォード領を治めている公爵である。四十代半ばという年齢のため、まだまだ精力的といえる男性だ。


 領地内にある町村の安全を確保し、魔物の襲撃被害に遭った村の救済、治水の整備や他国との外交――などなど、考えなければならないことは多い。机の上に並べられた書類を眺め、一息つこうかと窓際へと歩み、空を眺めた。


「失礼致します、ドレイク様。書類をお持ちしました。概算の数値はこちらで算出しておきましたので、参考にしていただければと思います」


 ドレイクの執務室に入室してきたのは、ハーフエルフのレヴィである。レヴィは武官であるが、文官としても優秀なため、ドレイクの側近の騎士として、さらには秘書のような役割も担っている。


 上級騎士であるレヴィはこれでも男爵の爵位を有しているが、これは名誉的なものであり、特に領地を拝領するようなことはない。爵位を授けたのは、前皇帝のアイリだ。


 公爵の政務を助け、多くの魔物を討伐した武勇が認められ、上級騎士となったのはもう随分と前の話だ。レヴィの外見は青年なのだが、こう見えてドレイクとさほど変わらぬ年齢なのである。


 ドレイクは休憩中だった旨を告げ、レヴィと対面するかたちでゆったりと椅子に腰かけた。同時に侍女にお茶を用意するように伝える。


「ジークは、やはり優秀だったようだな」

「ええ、それは認めています。ヒュドラについてもあれ以降被害報告もありませんし……何故か大河に出現する魔物の数も減っているようです。もっとも、私は完全に信用したわけではありませんが」

「お前も疑い深いヤツだな」


 ドレイクがやや苦笑する。


「性分ですから。なにぶん主君がこのような方だと、側にいる者が疑り深くなるのは当然かと」

「お前とも、随分と長い付き合いになるな」


 ドレイクがレヴィと出会ったのは、もう二十年と少し前。


 父親が存命だったその頃は、ドレイクもまだ政務に追われる毎日というわけではなく、政治学、商学などを実践的に学んでいた頃だ。政治学は言わずもがな父親が行う政務を手伝うことで学ぶ。そして、東にある隣国ガイラルとの交易が盛んであるリバーブル――ひいてはフォード領の領主は、商学も学ぶ必要性があった。


 バルナ大河を挟んでリバーブルの対岸にある港町――パルムは、ガイラル王国の玄関口の一つである。そのため、ドレイクはリバーブルとパルムを行き来して交易の知識を学んでいったのだ。


 ある日、パルムの宿の一室で横になっていたドレイクは、ある人物の訪問を受けた。


 その相手は――ガイラル王国の第二皇子カーネル・クレイグだった。


 身分としては相手の方が上である。ドレイクは慌てて慇懃な挨拶を述べたが、カーネルは笑いながら言った。


『そんなの必要ねっーって、なあお前、フォード領公爵の息子なんだろ? 俺と友達になってくれよ。そんで、一緒に商売のこと学んでどんっどん交易を拡大しようぜ』


 彼はドレイクよりもわずかに年下であったが、その快活な性格は非常に心地良いものだった。


 ガイラル王国の次期国王は第一皇子に継承権があるため、カーネルは将来、王となることはない。多少性格がヒネてもよさそうな立場であるにも関わらず、カーネルはそういったことを一切気にしてない風であった。


『自分の生まれた順番に文句を言っても仕方ねーよ。それよか、俺は俺にできることをする。今んところは、こういった商売の勉強だな。政務は兄貴に任せて、俺は補佐的な立場で国を支えてやんのさ』


 スーヴェンやそれ以外の国とも、今以上に交流を盛んにさせる。それが彼の口癖だった。彼は王都をしばらく離れて勉学のためにパルムへと来ていたのだ。


 ドレイクはそんな彼とともに勉強をしながら、彼を親友として認識するまでそう時間はかからなかった。


 王族であるのにやや熱くなりやすいところも、愛嬌というものだ。ただ、あの時は少しばかりやりすぎだったなと、ドレイクは思い出しながら頬を緩ませた。



 リバーブルやパルムは大河を通じて――さらには大河と繋がっている海を通じて様々な品物が集まるのだ。食料や装飾品、宝石や武器、珍しい異国の品――そして奴隷も。


 奴隷商人の奴隷への扱い方に憤慨したカーネルは、商人を殴りつけた。当然、それは問題となる。一国の皇子が仮にも商売として認められている商人を殴りつける。扱いに問題があったとはいえ、それは褒められることではない。


 ドレイクは奴隷商人に詫び、酷い扱いを受けていた奴隷を高値で買い取ることで場を収めたのだ。決して安い買い物ではなく、その費用を父親に求めることはできなかったので、完全にドレイクの自腹だった。


 カーネルは奴隷商人に納得していなかったが、ドレイクには謝罪の言葉を述べた。その時に買い取った奴隷というのが、目の前にいるレヴィである。


 きっかけは仕方なく、だったのだが、レヴィにとっては忘れることのできない想い出だった。そこからレヴィはドレイクに命を捧げて仕えると決めたのである。



 そして時は流れ――ドレイクとカーネルは、お互いに同じ女性に恋をした。相手は身分のある女性ではなかったが、とても美しい女性だった。結局のところ、その女性はカーネルと愛し合うことになったのだが、ドレイクは別にそれを恨んでいるわけではない。


 娘が産まれるときに不幸にもその女性が亡くなってしまったのは悲しい出来事だったが、カーネルはその娘にたくさんの愛情を注いでいたと思う。


 しかし、娘が産まれてしばらく、カーネルは王都に呼び戻されることになったのだ。理由はスーヴェン帝国の皇女イルミナとの結婚である。


 市井との子供――ましてや第二皇子の、となれば王都で暮らすよりも町で暮らす方が娘は幸せだろうと考えたカーネルは、娘がパルムで暮らせる環境を整えてから、王都へと戻っていった。ガイラル王族がそういった子供を持つのは、決して珍しいことではない。


 そしてカーネルとイルミナが結婚し、フィリアが産まれた。


 スーヴェンへと赴く際、カーネルは言っていた。


『政略結婚とはいえ、これも第二皇子としての役目だからな。なに、お前と一緒に学んだことは将来かならずどっかで活かせるだろ。今度は嫁と子供まとめて幸せにしてやるさ……まあ、エルナとあいつのことも忘れるわけねーんだけどな。機会があったら、エルナのことも気にかけてやってくれ……じゃあな』


 ドレイクは当時のことを思い出して、少し目頭が熱くなった。

 俯きながら息を吐いて、侍女が用意した紅茶をすする。


 カーネルは結婚後に何度もガイラル王国を訪ねていた。フィリアも連れてだ。それは両国との交流を深めることが目的ではあったのだが、その際にパルムに住むもう一人の自分の娘とも会っていたらしい。


 公爵と皇帝の夫。立場は変わっても、二人は機会がある度にともに酒を飲み交わし、昔の話を肴にして語らいあったものだ。


 ――カーネルが殺されるまでは。


 最後に受け取った文にあった『娘を守ってやってくれ』というのは、フィリアのことを意味しているのだろう。だが、名指しではなく『娘』と書いたのは、もう一つの意味があったのではないかと、ドレイクは思い至ったのだ。


 つまりは……もう一人の娘、エルナのことだ。父親の死に、その娘が悲しんだであろうことは想像に難くない。


 何か力になれればと考え、ドレイクがパルムで娘を探したときには、もうエルナはパルムにはいなかった。かつて自分も愛したあの女性の面影を持つ少女の消息は、結局分からずじまいだったのである。


「どうしましたか? ドレイク様」


 レヴィの声に手を振ることで応え、ドレイクはふたたび窓際へと場所を移動する。空には真っ青な空間が広がり、白く柔らかな雲が流れていくのが見える。


 まだ若い二人がともに学んだ頃に見上げた空も、このように気持ちの良いものだった。それでも、今の自分はあの時のような晴れやかな気分にはなれそうもない。


「……なあ、カーネル。ワシにできることはそう多くないぞ。それでも、娘のことはできる限り守ってやる。だからな……ワシが死んだらまた酒を飲むのに付き合えよ。独りで飲む酒は、寂しいものなんだからな――」


 呟いた声は、後ろに座るレヴィにも届き、すぐに空気に溶ける。

 だがレヴィには、自らの主君が悲しむ姿をただ見つめることしかできなかった。


次回はまたジーク付近に視点が戻ると思います。

お楽しみに。


感想いただければ幸いです。

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