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エルナとマリン

ついにPV100000、ユニークが10000を突破しました。

感慨深いものです。

なんか突然お気に入り数も増えてきました。これがバブルってやつか……


今回は補足的なお話になりますでしょうか。

「やあ、どうしたんだいマリン? やけに上機嫌じゃないか」


 スーヴェン帝都の商業区に存在するギルド――その受付に座っているマリンへと、他の職員の男性がそんな声をかけた。


「あら、私そんな風に見えますか?」

「ああ、マリンは顔に出やすいからね」


 そうだろうか、とマリンは自分の頬をさすってみる。どうやら自分で思う以上に笑みが溢れているようだ。理由は当然あるのだが。


「……きっと今頃は叙任式の真っ最中かな」


 窓から差してくる陽の光がつくりだす陰影は非常に短い。時刻は真昼に至るぐらいだろうと確認し、マリンはそう口にした。


 マリンは童顔のせいもあってか若く見られやすいのだが、もう二十三歳になる。ギルドの受付として働き始めたのが十六歳の頃なので、もう七年になるのか、と少しばかり溜息をついた。


 器量は悪くないと周囲から言われるのだが、今まで仕事一筋で来てしまったせいか、まだ伴侶というものには巡り合っていない。


 十代後半、遅くとも二十歳程度で結婚し、子供を産むというのが一般的であるのだが、マリンはまだ相手を見つけられずにいるのだった。


「エルナだってこの前まで全然そんな気配無かったのになぁ……でもすぐに別れちゃったみたいだし……やっぱり慎重なほうがいいのかしら」


 マリンの場合はもう少し大胆になるべきなのだが、それはまた別の話だ。


 マリンがエルナと最初に出会ったのは、五年前。やっとこギルドでの仕事が板についてきたという頃に、マリンはあの少女に出会ったのだ。


 十四歳という若さ、しかも女の子という珍客がギルドに登録したいと申し出てきた時には、思わず断ろうとしてしまった。当然、特別な理由なく登録拒否することはできないのだが。


 しかし、順当にEランクの依頼を受けてそれを成し遂げてきた姿を、マリンは今でも覚えている。最弱ともいわれるゴブリンの討伐であったが、三匹もの敵を見事に屠り、討伐者として登録されたのだ。あれは印象深いものだった。


 そういえば、あの彼も相当印象に残ったけどね、とマリンは笑みを含む。


 エルナはギルドに登録する前からある程度の剣術技能を有しているとのことだったが、それでも少女が屈強な大人達に混じって仕事をする姿を見て、話しかけてみようと思ったのだ。


 最初は依頼を達成した際の報告時、ちょくちょくと他愛もない会話をしている程度だった。それが月日の経つうちに密度を増していき、エルナがランク昇格していくのと同様に二人の仲は良くなっていったのだ。


 年上であるマリンは当初お姉さん的な立場だったが、そんな垣根は自然と無くなり、親友と呼べる存在となるまでそう時間はかからなかった。


 プライベートでも遊ぶようになり、エルナがランク昇格するとお祝いのパーティーを開いたりもしたのだ。



 またたく間に数年が経ち、少女から女性へと成長したエルナは、容姿と非常に明るい性格も相まってギルド内での人気も高かった。


 何度か求婚されている姿を見たこともあるのだが、エルナが首を縦に振ることはなかった。


 興味本位で理由を聞いても、目的があるといってはぐらかされるだけだったのだ。


 二人で食事をしている際「そんなだと私みたいに独り身のままだぞ」とマリンが脅してみたのだが、エルナは全く堪えていなかったようである。


 しかしながら、そんな心配は杞憂だった。


 もう結構前になるのだが、登録時に無茶なことを言ってきた青年――確かジークだったか、と一緒に依頼を受けたエルナは、間もなくその青年と行動をともにすることになったのである。


 これにはマリンも驚いた。しかも、こっそり教えてくれたのだが、親密なお付き合いを兼ねているというではないか。


 騙されているのではと心配もしたが、幸せそうにしているエルナを見て、マリンは心の底から祝福したのだった。


 だからこそ、しばらく経ってエルナがふたたびギルドに一人で顔を出し始めた時には、何があったのだと問い詰めてしまった。

 が、本人は至って気にしてない風で、本当に平気そうだったためマリンの方が混乱してしまったほどである。


 彼から貰ったという剣を大事そうに抱え、その後もAランクの依頼を次々と達成していく姿は、ふたたびギルド内の男達の目を奪うことになっていた。


 マリンもギルド職員の端くれであり、魔物の素材や武器などには多少見識はある。あまり見慣れない造りの剣だったため、一度見せてもらったことがある。


 だが分かったのは材質はおろか製法すら不明であり、ただ恐ろしい切れ味を誇る業物であるということだけだった。


 エルナ自身も剣術の腕を上げ、新しい剣のおかげもあってかAランクの依頼は余裕でこなせるまでになり、そろそろSランクへの昇格も近いかも――という矢先に、仕官の声がかかったのだ。


 ギルド内で話せる内容ではない。外で二人食事をしながら、エルナからそのことを告げられたのだ。


 断るのだと思っていた。


 だが、エルナはそれを受ける意思を示した。理由は……やはり教えてくれなかった。その代わり――一つ教えてくれたことがある。



 結局、エルナはギルドを自ら辞め、騎士となることを選択した。

 その日はマリンが出世祝いと称して豪華な食事を御馳走し、エルナもまた、今までマリンと過ごした日々に礼を言って彼女にプレゼントを贈ったのだ。


 それを受け取る際、エルナが珍しくシュンとした顔をしていたのだが、それはすぐにいつもの明るい笑顔に戻った。


「もう会えなくなるってわけじゃないのにねぇ」


 あの時も、今と似た台詞を言った気がする。どこか困ったような顔をするエルナが何を思っていたのか。マリンには分からない。


 だが、騎士になることが目的の第一歩というのなら、例えギルドを辞めようと素直に祝福してあげたいものだ。天真爛漫なエルナであれば、騎士の輝く白銀鎧も似合うことだろう。


 そう思い、マリンは上機嫌に受付に座っているのである。



 あの時、彼女がマリンに教えてくれたのは、何故か――名前だった。

 とっくに知っているエルナという名前。ギルドには偽名で登録することも可能だが、別段それが偽名というわけではない。ただ正式名称ではなかったらしい。


 迷惑がかかるかもしれないので、他人には絶対口外しないことを注意され、それでも知っておいてほしいと言われた。その名前に誇りを持っているから、と。



 ――エルナ・クレイグ。


 それが彼女の正式な名前ということだ。


 どこかで聞いたことのあるような、と記憶を探るマリンは、やがて一つ心当たりを思いだした。

 しかし、偶然だろうという思いと、受付の仕事を全うするという状況に、すぐにそんな思考は霧散していく。


 今度、また二人で食事に行こう。騎士の初給料で何か奢らせるのもいい、などと考え、マリンは自分の日常に戻っていった。


断じてこれは死亡フラグというわけではありません。

安心して次回をお待ちください。


感想をいただければ嬉しいです。

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