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霊夢適性伴侶

作者:
「霊夢ー?どこにいるのー?」
もうすぐ冬という肌寒い空気の中に(たたず)む博麗神社にて。
「んー。紫?私ならここよ」
ふわふわとしたつかみどころのない二人が、暖かなこたつに潜り込む。顔を緩めた紫が切り出した。
「霊夢って、今年で何歳だったかしら?」
霊夢は残り少なくなってきたゴマせんべいを口にくわえる。
「今年で…二十四ねぇ。それがどうかした?」
紫は真剣な顔つきで霊夢を見つめた。
「あなたには、そろそろ伴侶が必要よ」
パリパリせんべいをかじっていた巫女は、急な言葉に目を見開いた。
「え?そんな…私…恋なんてしてないわよ?」
紫は身を乗り出す。
「ならば恋をしなさい。ちょうどいい人を見つけたのよ」
彼女は霊夢の返事も聞かずに指を鳴らした。何も無いはずの空間に裂け目が出来、誰かが放り出された。
「ちょっと、そんな乱暴に落ちてきたら畳が悪くなる……って、霖之助さん!?」
腰をさすりながら起き上がった男性は、香霖堂の店主…森近 霖之助だった。
「ん?ここは…博麗神社か?」
「少なくとも守矢神社じゃないわね」
不機嫌そうな霖之助を見ながら紫がクスクス笑った。そして、さすが適当な妖怪である。
「あとはお二方で楽しんでいて下さいな(笑)」
と言って、顔をしかめた霖之助と開いた口がふさがらない霊夢を置いてどこかに消えてしまった。さっきまでの真面目さが嘘のようだ。
しばらくの沈黙。そして、
「うーん、霊夢…痛み止めをもらっていいか?」
霖之助が畳の上に倒れこんだ。よっぽど衝撃が強かったと見られる。はっとした霊夢は
「あ、えっと、今、きらしちゃってるの… 永遠亭でもらってくるわね」
と言った。霖之助はどうしたのか黙ったままだったので、放っておいて迷いの竹林に向かう。

少女移動中ーーー

「ちょっとー!永琳いるー?」
「あら、霊夢じゃない。何か?」
顔を出したのは、永遠亭の賢者…八意 永琳だった。
「痛み止めをもらいたいのだけど」
永琳は微かに笑った。
「わかったわ。よく効くのを調合してくるわね。その代わり、あなたの数少ないお賽銭を貰うわよ」
霊夢は一瞬で不機嫌になった。
「…そんな冗談はいいから、早くしなさい」
永琳はまだもクスクス笑いながら奥の部屋に消えた。

少女待機中ーーー

「出来たわよー!」
薬を調合することが一番の楽しみらしい永琳が顔を出した。
「ほら、これが使い方を書いた紙。ところで、誰が使うの?」
霊夢は適当に答える。
「紫のいたずらで、霖之助さんが怪我しちゃったの」
永琳は片目を閉じた。
「ああ、そういうこと…関係が上手くいくといいわね」
「はいはい、月の賢者にはかなわないわ」
そう言って立ち去ろうとする霊夢を、永琳が急に引き止めた。
「ちょっと待って。薬に手落ちがあったわ」
霊夢の手から袋をもぎ取ると、彼女はさっきの部屋に消えた。

少女困惑待機中ーーー

「これで大丈夫。ごめんなさいね」
永琳は霊夢に袋を手渡して謝った。
「まったく…勘弁してほしいわ」
ここでぐずぐずしている場合ではない。霊夢は急いで神社の方に飛び立った。あとに残された永琳が、一言つぶやく。
「大丈夫よ、霊夢。天狗は足止めしておくから。面白いことになりそうね」

少女移動中ーーー

「霖之助さん、大丈夫?」
「ああ、なんとかね」
夕暮れに染まった神社の中で。布団を敷いてあげたのは、霊夢なりの優しさである。あたりには、薬の心地よい匂いが漂っている。どうやら永琳は薬の香りにもこだわっているらしい。痛み止めを使ってもなかなか回復しなかった霖之助は、神社に泊まることになった。霊夢は、紫や永琳の言葉を気にしながら
『霖之助さんって結構いい人よね…顔立ちも整っているし…いえ、人に流されちゃいけないわ、博麗の巫女。冷静に考えて…』
などと考えていた。
そして、夜。
「じゃあ、おやすみなさい」
霊夢と霖之助は別々の部屋で寝る。霊夢は挨拶だけ済ますと、自分の布団に潜り込んだ。なかなか寝付けない。
『なんかドキドキする…隣に男性がいるから?』
霖之助が寝返りを打っているからなのか、時々ごそっと音がする。その度に体が震えた。しかし、睡魔には逆らえない。いつしか霊夢は眠りに落ちていた。

少女睡眠中ーーー

「おや、お目覚めかい?」
霊夢はこの声で目を覚ました。真上には、霖之助の顔がある。
「え、え、え、え?なな何で霖之助さんがこの部屋にいるの?」
霖之助はさらりと答えた。
「朝食が用意されていなかったからね。作ってもらおうと思って君を見にきたら気持ち良さそうに寝ていたから起こすのがかわいそうになったよ。あとはご察しの通り、かわいい寝顔の観察」
いつもと様子が違う。それに、霊夢もなぜかドキドキが止まらなくなっていた。緊張でもなくて……
思い当たるのは一つだけ、永琳の薬だ。どうやら、軽い惚れ薬を混ぜられていたらしい。そして、永琳の惚れ薬は並のものではない。これで恋に落ちた者は、本物の恋に発展するという。つまり、偽りの恋は作らず、本物の恋を作るのだ。あの匂いは惚れ薬の匂いだったか。霊夢は覚悟を決めて霖之助に聞いた。
「私のこと、どう思ってる?」
霖之助はまたもやさらりと答える。
「好きだけど?でなけりゃ、ここに泊まってなんかいないよ」
霊夢はものすごいショックを受けた。そりゃあ好きな人がもともといたわけではない。でも、半妖という種族であり、親のような立場である霖之助にここまでさらっと告白されるとは思っても見なかったのである。だが、霊夢は同時に心地よさも感じていた。誰かが自分を望んでくれているという事実。それが例え惚れ薬で作ったものだとしても、霊夢は嬉しかった。
そして…霊夢は霖之助に恋をしていた。ショックよりも心地よさの方が(まさ)ったのである。霊夢は一言ポツリと言った。
「私を…望んでくれますか?」
霖之助の顔が優しく緩んだ。
「もちろん。最後までね」

そんなこんなでお昼時。
霊夢はいつもの二倍の食事を作らなければならず、大わらわだった。
「霖之助さん!少しくらいは運ぶの手伝いなさいよ!」
「ああ、怖い怖い」
にやにやしながら見下ろしてくる男性を、霊夢は別段厄介にも思っていない。どうしてこんな人が好きになったの、と思っても、薬のせいよね、と割り切ってしまい、好きなのだからしょうがない、と感じてしまう。
「やっと終わった。いただきます♩」
たくさん働いたあとの食事は最高だ。一生懸命箸を動かしていた霊夢は、ふと疑問に思って霖之助に聞いた。
「霖之助さんは独り暮らしだったでしょう?食事は作れたの?」
霖之助は小さくため息をついた。
「魔理沙が時々作ってくれたし、外の世界から『レトルト食品』というものが入ってきていたからね。これは温めるだけで美味しいものができるという代物だった。でも、人の作った料理にはかなわないよ」
「…嬉しいことを言ってくれるわね。私のお母さんがすごく料理が上手だったの、思い出すわ」
あまり聞いたことのない霊夢の親の話に、霖之助は目を見開いた。
「霊夢の…お母さん?」
「ええ。お母さんは…私よりもずっと立派な人だったの。異変解決に出かけて妖怪退治をしようとしても、どうしても相手を殺すことは出来なかった。こうして考え出したのがスペルカードルール。誰も命を落とさずに異変解決ができる…これは画期的なものだったわ。この戦い方は幻想郷に広まって、やっと妖怪と人間が共存できるようになったのよ」
(から)になった茶碗を見つめて霊夢は言った。霖之助は尋ねる。
「お母さんは、今どこに住んでいるんだい?」
地雷を踏んでしまった。霊夢が悲しそうにうつむく。今にも泣きそうな表情になって。霖之助は、一瞬前の自分の言葉を取り消したいと思った。しかし、間をおかずに霊夢は答えた。
「スペルカードルールを良く思わない、頭の古い妖怪もいたの。今でも憎らしくてしょうがないわ…少し…ごめんなさいね」
そう言うと、霊夢は縁側から脱兎のごとく走り去り、霖之助は呆然とその後ろ姿を見つめた。

少女困惑中ーーー

「お母さん…どうして…」
霊夢は、博麗神社を取り巻く林の中に隠れて泣いていた。
「霖之助さんにも悪いこと…」
その時、霊夢は思い出した。霖之助の親が妖怪だったということを。
「そう…きっとそういうこと…薬のせいではなかった…」
霊夢の目に、もう涙はたたえられていなかった。向かうのは紅魔館と永遠亭だ。そこですべてわかる。

少女移動中ーーー

「レミリア!レーミーリーアッ‼」
「こんな美しい夜に、騒々しいわね」
妖艶に微笑みながら歩いてきた者は、紅魔館の主…レミリアだった。
「あら、霊夢… これまた夜遅くに出てきたわね。ご苦労様」
霊夢はレミリアの言葉を遮って言った。
「あなたの能力が借りたいの」

少女相談中ーーー

「ふうん…霊夢にも意外と乙女なところがあるのね」
「す、好きになっちゃったんだから仕方ないじゃない!」
「ふふふ、わかったわ。その依頼、受けるわね。運命を操る、私の能力… 意外なことに使うのね」
「ありがとう、レミリア!」
「本当にあの店主のことが好きなのね…少し妬けちゃうわ」
話がまとまったところで、次に向かうのは永遠亭だ。

少女移動中ーーー

「永琳、いる?」
「あら、お客様?…ああ、違うわね。博麗の巫女…だったかしらあなたは…」
しずしずと顔を出したのは月の賢者ではなく、永遠と須臾(しゅゆ)の罪人、蓬莱山 輝夜だった。『姫』と呼ばれるだけあって高貴な雰囲気を醸し出してはいるが、重そうな十二単の袖口で口を抑え、いたずらっぽく笑っているのを見ると、そうそう重苦しい性格の持ち主ではないことがみて取れる。霊夢ははやる気持ちで輝夜に言った。
「永琳はどこにいるの?」
輝夜は可愛らしいまばたきをした。
「永琳…ねぇ。奥の部屋で薬を作っているわ。ええと、確か…解毒剤…だったわね」
「早く呼んで。今すぐ!」
霊夢の言葉に押された輝夜は、訝しみながら永琳の名を口にした。
しばらくして、永琳があきれ顔で歩いてきた。
「なあに、霊夢が来たの… まったく、姫様がそんな大声で叫ぶから、またてゐのいたずらにかかったのかと思ったわ」
霊夢は間髪入れずに言った。
「永琳、二人きりで話したいことがあるの。大急ぎで」

少女相談中ーーー

「ええ、最初は冗談かと思っていたから…」
「それじゃあ、あの薬の効果はもう切れているのね?」
「もちろん。そんな強い薬を、無料で入れるなんてしないわよ」
「じゃあ、あの部屋を…」
「お詫びのつもりよ。開けておくわ」
紅魔館の時と同じように話をまとめると、霊夢は永琳に指示された小部屋に入ってため息をついた。ここは病人用の部屋である。レミリアが本当に力を貸してくれたなら、ここに霖之助が来るはずだ。

少女待機中ーーー

「霊夢!」
突然扉が開き、霖之助が現れた。汗をたくさんかいて、自分を必死で探してくれていたことがわかり、霊夢は嬉しかった。さあ、霖之助に話すべきことを話さなければ… 霊夢は深呼吸をした。
「霖之助さんのお母様は、妖怪だったのよね」
霖之助は不思議そうに答えた。
「そうだが…それが何か?」
「私は博麗の巫女。妖怪退治をたくさんしている者」
「…何が言いたい」
「私には妖怪の面影がすごくあるから…もしかしたら、霖之助さんはそこに惹かれたのかなって思うの。『私に』ではなくて…」
霖之助は一瞬唇を結び、そして一喝した。
「何を言っているんだ!もしも霊夢が妖怪退治をしていなかったとしても、僕は本当に霊夢を望んでいた!君なら…僕を…」
霊夢は安心して、霖之助の言葉を引き継いだ。
「霖之助さんを…守ります」
霊夢がいつか聞いた情報によると、霖之助は誰からも愛されずに育ったらしい。父親は妖怪との間にできてしまった子に絶望して霖之助を手放し、母親は、成長するにつれて元愛人に似てくる子に苦しみを感じて見放したと。
世の中という恐ろしい物の正体はわからないながらも、霖之助は自分を守ってくれる人を探していた。父親より少しは優しかった母親の面影も探していた。そこに当てはまったのが霊夢というわけである。本当の愛情をくれたのも霊夢だった。そして、人に恋をする優しさを教えてくれたのも…

しばらく日がたって。
霖之助は店の商品の整理があるからと言って、博麗神社にはいなかった。霊夢は一人でお茶を飲みながら、まったりと時を過ごしていた。誰か遊びにこないかと思いながら。
「やあ、久しぶりじゃないか。博麗の巫女さんよ」
霊夢の期待に答えてやってきたのは、三途の水先案内人…小野塚 小町だった。
「あら、本当。久しぶり…異変以来だったかしら」
「うーん、そうだね…」
軽く息をついて、小町は霊夢の横に腰をおろした。
「あなたがここの近くにいるなんて珍しいわね。仕事があったの?」
「死神にそれは聞かない方がいいさ」
それっきり小町は黙ってしまったが、またすぐに話をはじめた。
「そういえば、巫女さん、最近すごく幸せそうな表情してるとかみんなが噂してるけど、何かあったのかい?」
霊夢は霖之助のことを思い出し、緩みそうになった顔を慌てて直した。
「香霖堂わかる?そこの店主さんと両思いになってね…」
小町の目が曇ったが、霊夢は気づかない。
「香霖堂の店主って…あの半妖のこと…」
「もちろん」
小町は置いていた鎌を手に持った。
「人間と半妖の恋か… あたい、昔に禁じられた恋を見たことがあるよ」
「…?」
霊夢はまだ温かい湯のみから視線を外した。
「あんたと同じように、人間と半妖の恋でね…」
「…」
「でもさ、あまりにも寿命が違いすぎたんだよ。だから、その人間…女性の方は、映姫様の判断で、あたいの鎌にかかって、天寿を全うしたんだ」
「…!まさか…そのために来たと…」
小町は鎌の柄を持ったまま立ち上がった。
「さあてね。それは映姫様に聞いておくれ。わかってるよ。あの大妖怪さんの決定だろ?でも、本当に従わなけりゃいけない決まりっていうのは、あの世にあるんだ」
お茶を飛び散らせながら、湯のみが地面に落ちて割れた。
「ごめんよ、巫女さん…」
小町の鎌が光った、その時。
「させるかぁぁぁっ!マスタァァァァァスパァァァァァク‼」
「おやめなさい!ぶらり廃駅下車の旅‼」
霊夢と小町の間に魔理沙と紫が飛び込み、スペルカードが発動した。さっき霊夢を襲おうとした鎌は、遠くに飛ばされている。霊夢は縁側から墜落し、目を大きく見開いた。
「魔理沙…紫…!」
魔理沙がウインクをしてみせた。
「お前、香霖に恋してから霊力が落ちたみたいだな。今までのお前だったら小町が動く前に反撃出来ていただろうに」
「…修行不足ね」
紫が魔理沙に調子を合わせて、大げさにため息をつく。小町は慌てて鎌を拾ってくると、臨戦状態に移った。魔理沙と紫も、再度攻撃の構えをする。
「親友と兄貴分の恋路の邪魔なんて、させてたまるか!」
「霊夢、あなたは映姫のところへ行きなさい。この死神は、私たちが片付けるわ」
霊夢は何も言えないまま頷くと、その場を走り去った。自分の無力さを初めて知った瞬間だった。背後から紫の声が聞こえる。
「私は霊夢に幸せになって欲しいの。あの子の母親から注がれた愛情を、もう一度与えてくれる人に会わせたかったの。霊夢にとって大切な時期を作るのが導者である私の勤め。それを邪魔するなら、私は全力で阻止するわ」
霊夢は、自分の走ったあとに何かがこぼれているのを見た。

少女移動中ーーー

裁き所にて。
「映…姫…」
霊夢が小柄な後ろ姿を呼ぶ。映姫は振り向き、冷静沈着に言った。
「博麗の巫女ですね。小町とあなたたちの様子はすべて見させて貰いましたよ。ええ、あなたが本当に霖之助を愛していることはわかります。しかし、それを見逃してしまったら、世の罪人は全員許されてしまうでしょう。黒と白をはっきりつけるのが私の役目。あなたたち二人の関係は『黒』。ああ、理由はわかりますよね?あなたは小町の鎌にかかるべきだった」
「でも…」
「言ってもわからないようなのでしたら、力ずくでも地上に追い返して小町に始末させるしかありません。私のような立場の者、こういうことはあまりしたくないのですよ」
映姫のスペルカードが発動した。

罪符 彷徨える大罪

「霖之助さん…」
目の前に迫ってくる閃光に目を細めながらつぶやく。不思議と力が出なかったが、何も怖くなかった。
「霖之助さんを…愛しています」
霊夢は意識を手放し、地獄の熱い地面に倒れた。

少女意識不明中ーーー

「霊夢?お、目が開いたぞ、紫!」
「ああ、良かった… 本当に死んでしまったのかと… (ちぇん)(らん)も良くやってくれたわ…」
霊夢は自分が畳の上に寝ているのに気づいた。ゆっくり身体を起こそうとすると、全身に激痛が走った。紫がそれを見て、なだめるように言った。
「あら、無理しちゃダメよ。あのあとのことは、私から話すわね」
紫の話によると、さっさと小町を倒した魔理沙と紫は、急いで霊夢を助けに地獄へ向かった。やっと到着したときには、映姫がスペルカードを撃っていた。二人が動けないでいると、なぜか霊夢がそのスペルカードを跳ね返し、それが映姫に当たると、反動で霊夢も結局ダメージを受けて気絶してしまった。映姫のことは、今小町が看病しているらしい。
「ここは私たちの家なんだ。私と橙の妖術で、お前の治療をしてたんだよ」
藍が橙を撫でながら言った。霊夢はお礼を言おうとしたが、口が動かなかったので、そのまま黙っていた。紫がにっこり笑ってみせた。
「しばらくはここで過ごしなさい。霖之助も呼んでおくわ。魔理沙とも遊んでくれるから、ちょうどいいでしょう」
その時、霊夢は無性に霖之助に会いたいと思った。スキマ妖怪が指を鳴らす。
「霊夢…!」
この前よりは優しく、霖之助がスキマから放り出され、霊夢を見て絶句した。
「…その怪我、どうしたんだ?」
紫は少し悲しそうに霖之助の背中に手を当てた。
「霊夢は今、口がきけないの。私から話すわ」

少女説明中ーーー

「…というわけなのよ」
紫が話し終えると、霖之助は魔理沙に言った。
「魔理沙…君は紫と二人で霊夢を助けに行ったんだよな?」
紫が不機嫌そうに言う。
「まあ、私には聞かないの?」
それを無視した魔理沙は一瞬目をつぶった。
「そうだが…」
霖之助が眼鏡を取った。
「しばらく、霊夢と二人きりにしてくれ」

「身体…動かないのかい?」
霊夢は眉をひそめて霖之助を見た。
「そうか。なら、ちょうどいい。いつもの君なら絶対に口出ししていただろうからね」
全く、何を言おうとしているのかわからない。そのまま霊夢は黙っていた。霖之助が彼女の前髪をかきあげる。
「霊夢は独りじゃないだろう」
彼は霊夢の髪から手を離し、語りはじめた。
「僕はずっと独りだった。孤独だった。子どもの頃から、何故(なにゆえ)に孤独死しないのかと思うほどにね。でも、いつまでもそうではなかった。魔理沙の親御さんは、本当に良く僕の面倒を見てくれたよ。半妖という、退(しりぞ)けるべき存在の僕のね。でも、それは親の愛ではなかった。君に出会えて本当に良かった」
霊夢は心の中で言った。
『私の愛だって、親の愛ではないわよ』
しかし、それを口にしようとすると、激痛が走った。痛みで息の荒い彼女を見て、霖之助は優しく言った。
「霊夢は…僕を愛しているかい?」
霊夢は目で頷いた。霖之助には伝わった。
「ありがとう。君の顔には、僕は触ったことがないよね」
そう言って、霖之助はかがみこんで霊夢の顔に自分の顔を近づけた。

数日後。
すっかり体調の回復した霊夢は、紫の指示で修行に励んでいた。霖之助は魔理沙とゆったり話しながらお茶を飲むのが、藍と橙は映姫のスペルカードを跳ね返した力の正体を調べるのが日課になっていた。

ある日、藍と橙が食事をとっていた一同のところへ走ってきた。藍が言う。
「紫様。あの力の正体がわかりました」

少女説明中ーーー

「はい。霊夢の守護霊魂は、霊界にいますから。あと、里の子供たちの人数のことも総合して考えると、こうなります」
「なるほどね…あの人とは長年付き合っていたけれど、そんなに愛情があるとは知らなかったわ。これまた大きな異変ねぇ」
「ねえ、紫…やっぱり霊界には行かなきゃいけないの?」
「そりゃそうよ」
「…今度は霖之助さんも連れて行ってもいい?」
「ええ、もちろん。あの人に会わせてあげなさい」
「私も行くぜ。なんなら咲夜や妖夢の辺りも呼んでおくか?」
「妖夢はダメよ。そうね。幽香とメディスン、それと美鈴を除いた紅魔館組を呼んでおきなさい。出来るだけ辛口の性格の人を」
「わかった。行ってくるぜ!」
「さて…霊夢。あなたは夢想転生を仕上げたばかりよね。少しでも修行を積みましょう」

少女(達)活動中ーーー

「たっだいまー!」
しばらくすると、元気よく魔理沙が帰ってきた。そのときちょうど霊夢は修行の真っ最中、魔理沙の帽子を閃光がかすめた。
魔理沙の後ろには、咲夜、レミリア、フラン、パチュリー、小悪魔、幽香、メディスン、アリスが付き従っていた。
「紫が言ってた条件にピッタリの奴らを見つけて来たぜ」
そうして魔理沙はニッと笑ってみせる。もう、準備は出来た。霊夢が霖之助の手を取って無言で頷くと、他の者も飛び立った。

少女移動中ーーー

「ねえ、四季映姫ヤマなんとかさん」
地獄に着くと、紫が声をかけた。閻魔が振り向くと、彼女は一瞬、まっすぐに映姫の目を見つめた。そのまま何も無かったように続ける。
「さて…霊夢、妖怪退治を始めましょう」
映姫が慌てた。
「いきなり妖怪退治⁉︎何を言っているのですか、あなたたちは!こ、小町…小町を呼びますよ…」
紫は大きなスキマを作って見せた。そのまま妖艶に笑う。
「どうぞ、あの死神を呼びたいのでしたら呼んでくれて構いませんわ。この境界からね。ですけれど、他に呼ぶべき妖怪がいるのではありませんこと?」
馬鹿丁寧な質問に、映姫は憤った。
「…何百年ぶりでしょうか。こんなに怒りを覚えたのは‼︎」
それを狙ったように紫が腕を振ってスキマを動かした。すると驚いたことに、わらわらと里の子供たちが溢れてきた。霊夢の後ろに立っていた咲夜が、みんなをかばうように後ずさった。
「この子たちは…確かに里の人口は減っていたけれど…」
紫が顎をひいて、霊夢に話を促した。
「映姫…あんたは妖怪のくせに妖怪に取り憑かれているのよ」
霊夢はお祓い棒の顔の前に捧げ持った。
「この子供たちの名前は水子。幼い頃に死に、あの世に行っても尚、現在生きている子供の体を借りて母親となる者を探し続ける妖怪よ。全て退治しなければ、あんたの目も覚めないの。生きた人間や妖怪が地獄に近づくと、死者の力は弱まる。そうすると、水子が私たちの邪魔をするのは当然よね。それがうっとおしいから退治しようってわけ」
映姫は小声で、
「いいえ…私は…取り憑かれてなど…」
と言い続けていた。紫がそれを睨む。
「あなたは母親らしすぎるのよ。それに漬け込んで、水子が取り憑くの。さあ、霊夢。さっさと妖怪退治をして、本題を解決しに行きましょう。あの力の…」
その言葉に、霊夢は黙ってスペルカードを発動させた。

霊符 夢想封印 散

「…他の人を呼ぶ必要は無かったみたいね。弱すぎるわ。あ、アリス?この妖怪たちの魂、人形に使ってもいいわよ」
次々と消えていく水子と、倒れている映姫を見遣って紫が言った。アリスが頷く。
「ええ、今日はそのつもりで来たのだから、当然貰っていくわ」
紫は立ち上っていく火の玉を普通につまんでアリスに渡して言った。
「でも、閻魔には起きてもらわないと」
そう言った紫は、映姫を揺り起こした。細く目を開けた映姫がつぶやく。
「私は…何を…あなたたちは…?」
どうやら水子から解放されたことで、少しの間の記憶が飛んでしまったらしい。これなら、簡単に用件も片付きそうだ。紫が言う。
「あなたにしかできないことを頼んでもいいかしら?」

少女説明中ーーー

「そうですね…それは難しい相談ですが…」
話を聞いた映姫は、暗い顔をして考え込んでいた。紫が必死になって頼む。
「お願いよ… 霊夢のためにも…」
この頑固な閻魔は、なかなか首を縦に振ることはしなかった。とうとう、妖怪の賢者は強行突破を試みた。
「あなたは、幻想郷の守護者の願いを無下にするの⁉︎」
映姫は唇を噛み締めて言った。
「わかりました。あなたたちをこの先へ通しましょう。生きとし生きる者の入ることは許されない世界へ」
彼女が軽く手を上げると、霊夢達の姿は地底に消えた。

少女落下中ーーー

「いったあ〜。あの閻魔の奴、なにすんのよ〜」
いつもの陽気な感じを取り戻した紫が、頭を抑えて上部を睨む。霊夢達は、赤茶けた地面に叩きつけられていた。幽香が嫌そうにつぶやいた。
「…こんな殺風景なところに来るより、花がたくさんあるゆうかりんラン…ゲフンゲフン、私の花畑にいる方が良かったわ。そうよね、メディスン?」
ところが、話を振られたメディスンは澄まし顔だ。
「あら、そう?ここには毒を含んだ蒸気がいっぱい出てるもの。とても楽しいわ」
幽香が舌打ちをしたのに、メディスンは気づかなかった。
その時、急に彼女たちを不思議な声が包んだ。
「ようこそ、あの世へ。映姫から色々と聞いているわ。ちょうど、私もお話をしたかったところなの。友達のたくさん増えた、我が子とね」
紫の目に、うっすらと涙が滲んだ。そのまま虚空へ話しかける。
「…ああ、あなたなのね?本当にあなたなのね?…霊夢。きっと今日は、人間のあなたの短い一生の中で、いっちばん素敵な日よ‼︎」
彼女が手を差し伸べると、暗闇の向こうに、赤い服が浮かんだ。
「あらあら、霊夢ったら、こんなに大きくなっちゃって…友達もいっぱいいるのね…」
子よりも長い、まっすぐな黒髪、赤みがかった目。霊夢は今までにないくらいに笑顔を浮かべると、わけのわからない叫びを上げて、彼女に飛びついた。
「お母さん‼︎」
霊夢を抱きとめて一緒に笑っているのは、霊夢の母…先代の巫女だった。霊夢は泣いているのか笑っているのかわからない表情で、ただただ母親の名前を連呼していた。
その騒ぎがひと段落すると、藍が声をかけた。
「霊夢のお母様…お聞きしたいことがあるのですが…」
我が子を抱いてくるくる回っていた先代の巫女は「あら、何かしら」と動きを止めた。
「あの、映姫が霊夢に攻撃をした時、守ったのはあなたですよね…?」
巫女は顔を上に向けて微笑んだ。
「ああ、わかっちゃったのね。もちろん、あの世に行っても子供のことは気になるもの… 霊夢にはきっと、楽しい未来があるからね。ほら、もうすぐお婿さんもできるんじゃないかしら」
霊夢と霖之助が真っ赤になった。
「え、ちょっと、そんなこと…」
「いや、別にそんな関係では…」
先代の巫女はくすくす笑ってみせた。
「嘘はいけないわ。我が子が恋をしているなんてこと、お見通しよ。精一杯お祝いしてあげるわ」
薄暗いこの場所で、みんなの笑顔が輝いた。

数日後。
「あれ、咲夜?ここに用意してあったお酒は?」
「お嬢様、先ほどご自分が持って行かれたではないですか。霊夢を喜ばせたい…とお言いになって」
「ああ、そういえばそうだったわね」

「これでよし…と。こっちの花の準備は終わったわよ。私の能力でとても元気」
「え、速すぎるよ幽香… こっちのスズランの手伝い、してくれる?」
「もちろん。あら、こんな生け方ではすぐにしおれちゃうわよ。ほら、ここをこうして立ててあげるの」

「うわあ、妖夢さんって私よりも庭仕事上手いですね〜」
「私こそ、あなたみたいにしっかりとした門番はできませんよ」
「まあ、人にはそれぞれ一長一短ありますからね」

霊夢と霖之助の結婚が決まり、式場に決まった紅魔館では、幻想郷の住民たちがそれぞれ自分の能力を生かしながら準備を進めていた。霊夢の着物を着つけさせているのは紫だ。
「霊夢、その帯はそう締めるんじゃないの。あなたのお母さんの方が上手だったわよ」
「人には向き不向きがあるんだから、関係ないわ」
「もう…」

色々あって式本番。
館に用意されたホールには、幻想郷の管理者の祝姿を一目見ようと、大勢の人間や妖怪が集まっていた。紫が代表として式を進めていく。
そして、新婦の挨拶になると、霊夢は自信に満ちた声で、言葉を述べた。
「私は、この世界の管理者です。今まで紫を始め、たくさんの人が私の手助けをしてくれました。そして、ここに今、新たな助っ人が登場しました。でも、この人には、ただ私を助けたいと思う気持ちだけではなくて、愛しているという気持ちもあります。博麗の巫女ではなく、一人の女性として… 私はこうした見られ方をされることを望んでいました。ですから、今日だけ…今日だけでいいのです。私が博麗の巫女であることを忘れてください。私を、一人の幸せな女性として祝ってください。私のわがままは、これだけです」
彼女がお辞儀をすると、大きな拍手がわいた。かの映姫や小町でさえ、満面の笑みで手を鳴らしていた。
各々が席を立って食事を始めると、霊夢と霖之助は二人で小さな席に座り、静かに乾杯をした。

「霖之助さん、愛しています」
「もちろん、僕も愛しているよ」
恋愛もので、キャラのリクエストを募集中です。東方プロジェクトに限定、霊夢、魔理沙、霖之助以外でお願いします!

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