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『血鎖の支配』
作:是音



第六章 【呪歌】




 共鳴の器で独り泳ぐ

 狂った蓄音機すら今は無く

 綴った呪歌は夜にうた

 訴えはすれど謳う者は無く

 永遠とわに綴りし呪いの歌は

 愛しこの世を呪いし歌で

 唯、世界の終焉を待ち

 唯、物語の終演を待ち

 終末の風に乗せるが如く

 三千世界で謳い手を求む……

―――【呪歌】

 ◇ ◇ ◇

零、《narration》

 多数の物語が独自に進行し、無意識のうちに絡み合うっつーのは、なかなか面白い話だとは思わねーかい?
 絡み絡み絡み絡み、どんどん捻れ捩れていく。全てが繋がった時、そこには一つの答えと、破滅の物語が立っている筈だ。

 さぁ、さぁさぁ!
 今回のお話の主人公は一体誰なのかな!? 彼かな、彼女かな、それとも主人公なんて居ねーのかな?

 そういえば誰かが言っていたな。この世に生きる全ての物にはそれ自身が主人公である物語が在り、それは人生とも呼ぶと。そしてそれには筋書きがあり、それを運命とも呼ぶ。ってよ。
 更に物語一つ一つは互いに影響し合い、絡み合い、大きな大きな世界の物語を形成しているってわけさ。

……この世界の物語、結構脆いって事知ってたか?

 おっと、まぁいいや。その話はまた後々。
 うん、まぁ今回の主人公は一応決まってはいる。その子は今年の梅雨の時期に起こった、とある事件の中心に居た子だ。
 けれど、あくまで一応……だ。

 今回の舞台は県立恵西高校。地元では有名大学進学者を多数輩出する進学校で名が知れ渡っている。
 全校生徒約五百人のこの学校、実は今年の五月に大事件を起こして世間を騒がせた。
 あれから七ヵ月が経った十二月。再びこの学校で怪事件が起こるんだが、これがまぁた謎が多すぎる事件で、実は事件かどうかも定かではない。 ふっ、謎は謎のまま権力によって揉み消されてしまうのかな?

 それじゃあ、のんびりと読み進めていこうかねぇ……。

 ◇ ◇ ◇

 一、

 いつ雪が降ってもおかしくないような凍てついた空気が身に染みる季節。風の音は低温の世界ではよく響き、その存在を主張するかのように風音は耳にまとわりついてくる。曇った夜空の下、真っ白なコートに身を包んだその男が固い土の上に立っていた。
 水捌けが良いように作られた場所だが、前日の雨が捌ける前に冷たい空気に晒された為、まるでコンクリートのように固く凍り付いてしまったのだ。多目的で使用されるその場所は雨の中使用した為に様々な足跡を残した状態で固まっている。
 暗闇の中、男が立っているのは学校の校庭だった。しかもその中心辺りに意味もなく立ち尽くしているが、その眼は校舎を睨み付けている。
 時刻は深夜だから無論校舎に明かりはなく、校庭から校舎を目視する事は難しい。それでもその男には何かが見えているのか、ひたすらに若者達の学び舎を凝視している。

 月明かりが少しでもあれば彼が異常な事態の中に居ることがわかっただろう。彼の白いコートには、自分の物か他人の物か、大量の血液がべったり付着していた。

 彼の名は[忌部成吉いんべなりよし]。不吉な印象を受ける名字だが現在この名字を持っているのは成吉ただ一人。彼の家族は全員数年前に一晩で死んでしまったのだ。それから忌部という名字はこの男だけの物となった。
 そしてその名字は、昔《純血一族》という組織の中に含まれていたのだが、それを口に出す者はもう居ない。

 男の前髪は目が隠れる程伸びており、後ろ髪も長い。日本人であるのにその色は鮮やかな金色だ。そして彼の白いコートを纏った姿を見れば、誰もが白いイメージを持つだろう。
 無言で一方を睨み続けていた男は突然口を開くと、ぶつぶつ呟き出した。

「……一人……か。今日は」

 するとどこからか、その声に反応したように他人の声が聞こえてきた。

『あら成吉、私達が居るじゃないの。寂しい事言わないで頂戴』

 彼以外に人の姿はない。校庭の中心に立つ成吉以外、誰も居ない。それは端からは異様な光景なのだが、その突然の声に対し、成吉は未だ一点を睨んだまま憮然とした顔で答える。

「……そういう意味ではない」

 その直後、今度は別の声が聞こえてきた。

『わぁかってるって!』

 更にまた違う口調の声が飛び出し、あろうことかその別の声同士で会話を始めた。どうやら声は複数あり、どれも口調が違う。

『そろそろかい?』
『……うむ』
『約束の刻が近い』
『よくやったわよ〈我々〉は』

 多人数で話しているかように聞こえるが、実のところそれらは全て成吉一人の口から発せられている声なのだ。けれどもその言葉一つ一つに成吉の意思は無い。
 異様な会話は続く。

『この地はおかしい。そう思わないか?』
『ヒヒヒ、確かに多いわな』
『ええ。《破滅の物語ザ・ルーインストーリー》が集まり過ぎています』
『うぅむ……これはもしかすると……』
『爺さんもそう思うかい』
『成吉と同じって事かよ!?』

 ここで成吉本人が口を挟んだ。

「まだ私と無関係の話。今はこの学校の件だ」

 彼の意識とは無関係に再び口が動く。

『えっ、今ので終わりじゃないの?』

 男の見た目とは全く不釣り合いな幼い女の子の声を聞いた成吉は、口の端を少し持ち上げた。これはこの男が此処へ来て初めて見せた笑顔だった。

「そういう事だ《小町》。しかし今夜はもう用が済んだ。果たして予想通りに事が運ぶか。いや……」

(それは無いな)

 一度こくりと頷くと視線を校舎から外し、白いコートを翻して何処かへ歩きだす。

 そして二十の人格を内に持つ男、忌部成吉は校庭から姿を消した。












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