魔法
わたしはちょっと考えてみた。
何って? それは魔法ってものについてだよ。──はいそこ、笑わない! ちゃんと理由があるんだからね。
その理由とは、いや理由というかきっかけだけど、こんな話があるからだ。
──とある日、とある放課後の学校。その学校に通う二人の人間の姿があった。
厳密にはもうちょっと前から二人の物語は始まっているんだけど、まあわたしには必要ないからいいや。それと、設定がアバウトな気がするけどそれも必要なとこだけピックアップした結果ってことで・・・。
「よーく見てろよ。今からこの扉の鍵をあけて見せるからな」
「ふーん・・・。いきなりこんなとこに呼び出してそれだけなの? ドロボウの練習だったら一人でやってよ・・・」
さて、この物語は主要登場人物以外の他に、人影も見られないところでのこんな会話から始まる。
正確な場所は、理科室内の黒板の横にある、理科準備室への扉の前。
そしてここにいるのは男女一人ずつ。見た目が将来有望そうな少年と、平たんな体つきの小柄な女の子だ。
少年のほうはいかにも自信ありげな感じをその態度で示しているが、女の子のほうはちょっと不機嫌そうに腰に手を当てている。でも女の子の態度もうなずける。あえて何がとはいわないけど、女の子としては少し期待はずれだったのだから。もちろん気が有るか無いかは別にしてだ。
少年はそんな女の子の態度に全然気づいていないはず、だと思うよわたしは。男なんてそんなもんだし、次の台詞でわかる様に、実際少年くんだって、女の子の言葉にしか反応してしてないわけだし。
「違うって! 魔法だよ魔法! 今からぼくの魔法でこの鍵を開けようって言ってるの」
・・・ふぅん。そうなんだ。
ということはこの場所を選んだのはきっと、理科準備室には確実に鍵がかかっているからだね。だったら別にほかの場所でもよかったんじゃないか、なんて意見もありそうだけど、それは少年くんにいってね。選んだのは彼なんだから。
ちなみにここでは少し時間が空いている。
その間、無意識のうちに大事な所をスルーしているわたしがいるわけだけど、しょうがないじゃない。だっていうにつけて魔法だよ。女の子だって固まっているんだから。──でも、その理由は実はわたしとは違ったんだよ。
ともかく扉の鍵を少年は魔法で開けてやろうというのだ。魔法はファンタジーな話で、この世界はあくまで平々凡々なところだというのが通説だというのに。言ってしまえば非常識、もしくはまだ子供だってことだろうか、そう考えるのが普通だし、わたしもこれには実際そう思った。
「へー・・・。ほんとに? 普段もだけど一段と面白いこと言うね」
思い出したかのように言葉を発する女の子。このにっこりとした言い方は、本気で言ってるのかとげがあるのか、いまいちわかりにくい。
「いいから見てろ」
「まって、一応・・・」
そう少年を制止させる女の子。いったい何をするのかと思ったら、
カッ。カッ。
ちゃんと鍵がかかっていることを確認。結構楽しんでるね、この子は。
「もういいな・・・」
言うと少年はこぶしを握り締め、おもむろにドアノブを殴り始める。
ゴッ! ゴッ! ゴ!!
うん。結構力入ってる。
「開け! 開け!」
これがいわゆる呪文の詠唱というやつかな・・・? ・・・いや違うか。
ガッ! ガッ! ゴッ! ゴッ!
「まだまだ!!」
ゴッ! ゴッ! ガッ!
扉が軋む。
「くっ! たあ! まだかっ!」
ガッ! ゴッ!
っておい!
「ちょっと、何やってるの! そんなことしたら壊れちゃうじゃない。力ずくと魔法は違うんだよ?」
女の子はここで男を止めにかかるわけだけど、その目は哀れみを感じているような気が・・・。ぶっちゃけ、かわいそうな子だと思っているんだろうな。期待して見ててこれじゃ、しょうがないけど。
でも少年はひるむ様子も見せない。
「これは魔法力を鍵に叩き込んでるんだ!もうすぐ開くからな」
なるほどそういう理屈なんだ!
ゴッ! ガッ! ガッ! ガギョン!
「ほら!」
一応いっとくと最後の変な擬音、鍵開いた音ね。嘘っぽいけどほんとに開いたんだ。
「・・・何かすっきりしないね」
鍵の開いた扉を無意味に開け閉めしながらの女の子の一言。わたしも同感だよ。
あきれているというか、見てはいけないものを見た感じというか、女の子は言葉どおりすっきりしない視線を床板と床板の間の筋に向けている。
魔法というわりに感動がない。正直そう思うよ。そうそう、ちなみに理科室の入り口は木の引き戸で、理科準備室は鍵つきの木製扉、それで床は木の板。これでわかる様にこの学校は少し古めなんだ。・・・何? わたしは何で必要ない説明をしてるんだろう。ははっ・・・、これが少年くんの魔法の効果だったりして・・・。
「何言ってんだよ。魔法ってそういうもんなんだよ。きっと」
なんだか少年も寂しそうに、でも、
「でもすごいだろ! 鍵開いたんだから、少しは驚いてよ! きみだから見せたんだから!」
こぶしを握り締めすぐに息を吹き返した。若いね。
しかし、きみだから見せた、ってのはどういう意味なんだろう。まさか惚れてるとか、いやいやただ親友だから、それとも反応がよさそうだったから、話しやすいやつだから・・・。やっぱり一押しは最初のかな? ・・・やめやめ! 色恋沙汰を混ぜると話が長くなる。おしいけど今は必要のないところだから省こう。
ともかく、こうして少年は鍵を自称魔法で開けたわけだ。それは素直にすごいと思う。でも、と同時にこれが魔法なのだろうかと疑問が残る。ここでほんの少しだけ、わたしは魔法について考えることになったんだよ。
さて、物語を進めよう。机の上には理科準備室から勝手の持ち出したアルコールランプがある。持ってきたのは女の子で、ガラス製のふたを取ると少年のほうを真顔で向く。
「あたしも魔法見せてあげるよ」
はっ?
わたしは一瞬ひるんだけど驚きはしなかった。少年くんが自称魔法を見せた後では、ここまでは許容範囲だったんだから。ここまでは・・・。
思えば、これが少年くんが魔法言い出したときに間を空けた理由だったんだよ。あんたも魔法使えるのかっていう軽い驚きみたいな。でも類は友を呼ぶっていうのは本当なんだね・・・。
女の子はアルコールランプに手をかざす。そして、この流れでいくとおもいっきりひっぱたくかと思ったら、ちょっと違うようで女の子は空中で手を止めた。
「火よ!」
女の子の澄んだ声が心地いい。そして、実に魔法っぽいじゃないか。しかしそう感心したのもつかの間。と共に、わたしの許容範囲を軽く飛び越える、すさまじいエフェクトが巻き起こったのだった。具体的には次のようになった。
ゴゴゴゴロゴロゴロ・・・!
突然にして、空が鳴りはじめ暗雲がたちこめ、
「火よ点け。火よ、火よ・・・」
と同時に空気が震撼し、棚に陳列された薬品類や実験器具がガタガタとゆれ始める。
「火よ・・・、点け、点け点け・・・。火よ・・・」
トランス状態に入ったのか、女の子もぶつぶつと呟きながら小刻みに揺れ始め、見た目ちょっと怖い。
その上、ピカピカと稲光が走り、それが蛍光灯のチカチカとした点滅と合いまり、もう明るいんだか暗いんだか・・・。
ついには窓を閉め切っているのに風を感じる始末だし、いったいどうなってるのよ。
ガタ! ガタガタ・・・。ドドドド・・・。
よくわからない効果音まで聞こえてくるし、周りはどんどん派手に、そして激しくなっていく。
バガッ! バタンッ!
衝撃に耐えられなくなったのか、突然冷蔵庫が開いた音だ。次の瞬間には閉まったけど、人体模型の足が入ってたのがチラッと見えたよ! だれ、そんなの入れたの!
いやいや、女の子を中心に置いたすさまじい音と光の世界じゃないの。むりもないけど少年くんだって肝心のアルコールランプより、ド派手な周りが気になってしょうがない様子だよ。
「火よ・・・」
ボッ。
あっ! 火が点いた。あまりにもさりげなくて、少年くんは見てないけど。
「ふう・・・」
女の子がかわいく息を吐き出すと、嘘のように、静まり返った教室に戻った。
「どう? 点いたでしょ」
こうして何事もなかったかのように、少年に女の子が笑顔を向けたんだよ。
「・・・大丈夫なの? なんか震えてたけど」
そしてこれが少年の第一声。優しい言葉のようで、実は女の子の様子を探っていると見たね、わたしは。
「ん? あたし? 大丈夫だよ。意識はあるし、魔法なんだからあのくらいね・・・」
そう女の子は笑うけど、やっぱり少年くんのときと一緒でなんかね・・・。
「なんかすっきりしないね・・・」
そうなんだよ。わたしの心を代弁したかのように少年くんが言ったわけだけど、それはしょぼいことするわりに効率が悪過ぎるからかな・・・。他の部分のほうが明らかに大量のエネルギー使ってるし、それより何より火が点いたことはすごいにはすごいけど、魔法ってこういうもんなのかって疑問もやっぱり残るし・・・。
結局二人とも毛色が違う感じでさ、しかもわたしの思う魔法とはなんか違うような気がするし、なのにどっちも魔法っていったい魔法って何なんだ、ってこれで思ったんだよ。
それで、
「先生ちょっと違うと思うな。地味な力技も派手なエフェクトも、肝心な部分がおかしいじゃない」
なんて感じで新人の超絶かわいい教師が現れて、魔法部を作ろう、なんておかしな話になっていくんだけど・・・。
──それはそれ!
ともかく、これがわたしが魔法について考えることになった理由なんだよ。
理論的に体系化された学問のようなものを魔法というのか、それとも不思議な理解できないこと全般を魔法というのか。よく考えると、魔法ってものを捉えようとしている時点で何かないとおかしいわけで、そうなると前者に近いような・・・。
でもそう考えていくと、現象そのものじゃなくて現象の捉え方のひとつなのかな、なんてどこまでも答えが出ないような気が・・・。それって結局、言ったもん勝ちなんじゃないかと・・・。
いやあ、考えるだけ無駄だったかな?
ああ、おちがない・・・。
実は最初っからおちだったりして・・・。
了 |