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江戸時代の遊郭の楼主に生まれ変わったので遊女の待遇改善に努めつつ吉原遊廓の未来も変えようと思う 作者:水源
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遊女も花見は楽しみだった

 江戸時代の三月といえば何と言っても桜の花見がメインだ。
現代でも隅田川河畔の浅草から向島あたりは桜の花見名所だが、これは江戸時代でもあまり変わらない。
特にこの時代でも人出の多かった墨田堤には、夜になると近くの岡場所の芸者や遊女達、綺麗に化粧し美しく着飾った水茶屋娘が花見に訪れるんだ。

 さらに、3月の一日から月末までの間は、吉原の中央通りには、箕輪や駒込の植木屋から咲きかけた鉢植のサクラを日本堤を通って吉原に運びそれは道の真中に飾られた。
うちの楼では部屋などにも飾っている。
そして通りに面した遊女屋には提灯が飾られ、ライトアップされた夜桜見物に客が集まってきたんだ。

 今日はうちの見世の内証の花見の日。
遊女たちが総出で馴染みの客を呼び、金を払ってもらって一緒に吉原の外の桜を見に出かける日だ。
本来なら昼見世を休まないといけないのでなかなか行われないのだが、うちは昼見世はやめたからな。
まあ、客と遊女が連れ立って逃げないように男も総出で見張るわけだが。

 堤の下に幔幕を張りめぐらせて、その中では、緋色の毛氈の敷かれた上に、晴れ着に着飾った遊女たちが桜を見ながら、客に酒の酌をしたり踊ったり三味線や琴を弾いたりしている。
弁当は揚屋で作らせたのを持ってきている。
そんな中でのんびり桜を見てる遊女が一人。

「いやいや、ほんにきれいでありんすなぁ」

 うちの店の唯一の太夫である藤乃。
当然毎月売り上げトップのお職であり、うちに居る遊女の人気ナンバーワンだ。
太夫には客も命令できない、それがたとえ相手が大名であろうと豪商であろうとだ。

「ああ、本当に綺麗な桜だな。
 まあ、太夫である藤乃には負けるけどな」

「おほほほ、若旦那にそう言われると嬉しおすな」

「おいおい、おれは一応楼主になったんだぜ」

「そうどしたな、禿だった戒斗坊っちゃんも
 大きくなりんしたなあ」

 やれやれ、そりゃあ俺にも下の毛が生えてない小さい頃は有ったけどな。
彼女にはどうも頭が上がらないがこれはしょうがないだろう。
俺が見習いになった頃から藤乃は人気者だったし、なんやかんやで面倒も見てもらった。

 そんなことを話してると桃香が酒の徳利とお猪口を持ってやってきた。

「戒斗様、酒はいかが?」

「ああ、貰おうか」

「あい、どうぞ」

 猪口に注いでもらった清酒をきゅっと飲む。

「ああ、美味い。
 旨い酒にいいおんな、後は美味い肴があれば最高だな」

「ではこれを」

 俺は桃香の差し出したあたりめをくわえてから桃香の頭を撫でる。

「おう、気がきいてるな」

「あい、ありがとうござんす」

 そして俺は藤野に向き直っていった。

「藤乃、もう少ししたらお前も桃香の面倒を見てやってくれ」

「わっちでありんすか?」

「え、太夫様に?」

 藤乃も桃香も驚いているが、別に今思いついたことじゃない。

「客への文への書き方とか枕ごとなんかは俺じゃ教えられないからな」

「それはようござんすが……
 わっちより内儀様に見ていただいたほうがよろしいありんせんか?」

「ああ、母さんは河岸見世の拾いっ子などの
 面倒は私は見ませんと言ってるからな、ちっと難しい」

 まあ大見世と河岸見世ではランクが違いすぎるから気持ちはわからんでもない。

「わかりんした。
 戒斗坊っちゃんがそういうのでありんしたら
 わっちがめんどうをみさせていただきんす」

「ああ、ありがとう、助かるよ」

「あ、ありがとうございます。
 戒斗様、藤乃太夫様」

「そんかわしわっちはきびしいでやんすよ?
 藤乃太夫の育てた妓がこの程度と世間に言われるようでは
 こまりんすからね」

「はい、いっしょうけんめいがんばりんす。
 そして藤乃様のような立派な太夫になりんす」

 うむ、話がまとまったようでよかった。
これで他の禿にいじめられる可能性も減るだろう。

 ちなみにこの時期の夜桜見物と言うのは花のサクラを観賞するのが目的ではなく、遊女遊びの隠語で、花見時に夕方からの夜見世に吉原に出かける時に、仲間に誘いをかけるときの言葉だ。

 江戸の花見は現代と違って、大した娯楽もない時代であればこそ、春の一大行事として盛り上がった。
夏の花火や舟遊び秋の祭などに匹敵するもので、各々の家の経済事情に合わせて楽しむことのできる花見は人々の気持ちを高揚させるものだ。

「あー、それそれそれそれ」

「はいはいはいはい」

 酒が入ってるのも有ってまだ夕方だというのに盛り上がってるな。

 馬や籠、後は船くらいの交通手段しか無いこの時代は基本は徒歩なので、花の名所へ出かけることは一日がかりの遠出だが、特に外に出る機会が少ない女や子供にとって花見は、自分が住んでる町の外に出られる数少ない貴重な機会だったから、みんな楽しみにしてたわけだ。
子供が遠足を楽しみにするようなもんだ。

 さらに花見は女性達のおしゃれ自慢の場でもあるから、武家も町人も身分を問わず皆精一杯に着飾って出かけた。

 町人の娘などが”もしかしたら旗本の若様に身分を乗り越えて、見初められるかも知れない”という白馬の王子様的な期待を胸に、だから花見の日程が決まればそれこそ女たちは何日も前から、晴れ着や髪の準備を必死になってととのえ、持ちものや弁当にも趣向をこらし、できる範囲で最高のファッションを身にまとった女性たちは、男性から注がれる視線を意識しながら桜の下を歩いた。

 この時代は身分の上下が厳しく、住む場所や衣服も階層によってきっちりきまってる。
しかし、花見な場所では、身分や性別の区別なく参加できるからな。
まあ、俺たちには大名でも商人でもただの客であることには変わりないんだが。

 もちろん、そう言って着飾った若い娘を見る機会であるからには男性たちにとってもお花見の季節は特別だ。

「桃香、適当に団子や天麩羅を買ってきてくれ」

 俺は桃香に銅銭を束で渡していった。

「あいわかりんした」

 花見の席では飲み食い自由で、よほどのことがない限りは派手な遊びや振る舞いも許されている。
そして花見客を当て込んだ団子屋や茶店、天麩羅屋、蕎麦屋などの出店や屋台も数多く並んでいる。
花見弁当やお酒を持ちより、出店で団子を買っては食べ、満開の桜の下、飲めや歌えの大騒ぎをするわけだ。

「お待たせしました、戒斗様」

「おう、ありがとな、ほれ、藤乃と桃香も食え」

「ほほ、まさしく花より団子、でありんすな」

「あ、ありがとうござんす」

 桜の花を見ながら食った団子や揚げたての天麩羅はうまかった。
ま、明日からはまたいつもに戻るが今日はみんなも楽しめたろう。
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