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江戸時代の遊郭の楼主に生まれ変わったので遊女の待遇改善に努めつつ吉原遊廓の未来も変えようと思う 作者:水源
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妙の評判は遊女にも若い衆にもいいみたいだぜ

 さて、5月半ばに吉原名物の一つである「甘露梅」の仕込みを始め、トマトのタネやサツマイモの種芋を自家菜園に埋めたと思ったらもう月が変わって6月になっていた。
ちなみに甘露梅というのは種を抜いた小梅を紫蘇の葉で巻いて砂糖漬けにしたもので、正月に見世の贔屓客に年賀の進物として配るもので、主に禿や客を取る前の新造が作った。
桃香などがそれを作ってるのを見て俺はしみじみと言った。

「早いものでもう6月か」

 甘露梅を作りながら桃香が答える。

「そうでありんすねぇ」

 俺がここに連れてきた直後は河岸見世の拾われっこと他の禿にいじめられたりしていたが、最近はそういうことはあまりなくなったようだ。
皆それなりに食ったり寝たり出来るようになったのでピリピリしなくなったのもあるし、なんだかんだで桃香は手習いを頑張って結果も出してるからな。

 6月1日は富士山の山開きの日で、浅草の富士浅間社の祭礼に参加する奴も多い。
そしてそういった祭りの日は、吉原もいつもより繁盛する日だ。
富士山は古くから霊峰とされ修験者の修行の場所とされている。
なので、女人禁制の場所でもある。

 富士浅間社の富士権現は戦国末期から江戸初期にかけて角行と言う修験者が広めた富士教と言う宗教の本尊で、富士権現社の社にある富士山を形取った高さ五間(おおよそ10m弱)ほどの富士塚に登ると病気にならないと信じられていたのだな。
これは本物の富士登山と同じ御利益だ。
富士塚は表面を富士山から運んできた溶岩で固め、石の階段で合目を表した参道を作り、頂上に祠をおいて参拝する。
これは女性も参拝できたし富士山へ実際に行くのはものすごく大変だったのでかなり人気があった。

「よしみんなで富士塚に登りに行くか」

「それはいいでんな」

「ぜひ行きたいでありんすよ」

 母さんや妙、藤乃、桃香達禿など早めに起きてくる連中を若い衆と一緒に引き連れて吉原土手の富士塚に登ると女たちはぜえはあ言っていた。

「おいおい、運動不足すぎるだろ」

「いや、結構道が険しくありんせん?」

 ん、まあ女には登りづらいかもな。

 朝起きの連中と富士塚に登って戻ってきた後、妙に西田屋や切見世の連中にも富士塚のぼりをするよう伝えてもらいながら、夜起きの連中とも一緒に出かける。

「どうかどうか、岩が治りますように」

 桜は真剣に拝んでいたな。
その他の女たちも割りと真剣だった。
遊女にとって病気はとても怖いのだ。

 話は戻るが、俺が妙を連れて見世に戻り母さんに紹介した時はびっくりしていたようだが、今ではすっかり店に馴染んでいる。

「まあ、なかなかいい子じゃないの。
 で、祝言はいつあげるんだい?」

「いやあ、とりあえず見世が落ち着いてからかなと思ってるんだが」

「あまり待たせたらあのこが可愛そうだよ」

「ああ、わかってるって」

 妙の年齢は俺より一つ年上の18歳で、町人としてはちょうど結婚適齢期ギリギリだな。
見た目も悪くないし商人の娘だから愛想をふりまくのも得意だ。
太夫になるのは町人の娘が一番多いがやはり愛想を作るのが大事だと小さいころからわかってるのが大きいな。
妙もあと10歳ほど若ければ太夫になれたかもな。

 それに妙は吉原の遊女だからと見下したりせず、ちゃんと普通に一緒に働くものとして扱ってくれてるから遊女からの反発も少ない。
それに竜胆が抜けて負担が増えていた藤乃や桜たち太夫格の客との来店の日付の調整などのスケジュール調整や惣名主の方の秘書たちとの連絡や打ち合わせ、三河屋や西田屋、切見世の遊女の名簿作りや証文と見比べての確認作業などをテキパキこなしてくれている。
俺が連れて帰ったのが美少年だったらやっぱり男色趣味と思われたことだろうし若い女でよかったぜ。

 妙の働きの見返りは新しく立てている切見世の建材を妙の父親の木曽屋から買うこと。
大工の親方に材木の質も確認してもらったが特に問題はないとのことだった。
おおよそ60両ほどの出費だがどうせ切見世の長屋を建てることでかかった金なので問題はない。

 俺は有能なマネージャーを手に入れられたし、木曽屋はその60両でなんとか持ち直したようだ。
今後は少し安めに建材を売ってくれるように言ったが、当面色々施設を建てたり立て直したりするだろうし向こうにもありがたいんじゃないのかね。

 ちなみにこの時代の町人は花見、芝居の観劇、花火見物、月見、祭りなどで男が見初めた女と結婚することも決して少なくない。
見合いもあるが親が花見や観劇の際にある程度近くに行かせて外見を判断させるだけで終わることも多い。
なので結婚したら性格があわずに離婚することも少なくなかった。
しかし、女は圧倒的に少ないので離婚しても再婚できることは多かった。
男の場合は再婚できるかは財力とかによるな。

「いやぁ、お妙さんがきてくれていろいろ助かりましたよ」

 三河屋の番頭の熊もそう言っている。

「そうだろそうだろ、俺も助かってるぜ
 書類に埋もれて死にたくはねえよなぁ」

 俺が頷くと妙は顔を赤くして照れた。

「あはは、そう言われますと照れますね」

 遊郭の番頭は本来楼主に見世の運営一切を任された店長のようなもので番頭の指示でほかの若い衆はそれぞれ仕事をする。
まあ、遊女を買い入れたりするのは楼主や内儀の判断になるんだが。

 番頭の主な役目は他の若い衆への仕事の割り振りや配置の検討、仕事の指示と金勘定の金庫番、帳簿付けなどを行う要は経理担当だな。
禿や遊女への指示はやり手が行うがそれ以外の人間への指示は番頭が行う。

 その他の若い衆としてはまずは物書。

「おめえさんも少しは楽になったか?」

「はは、私はあまり変わりませんね」

「まあ、お前さんの仕事がなくなっても困るだろうしな」

「まあ、そうですなぁ」

 物書は番頭の側に座り、顧客名簿への客の名前や受け取った金額を書いたり、証文を作ったりする役目で、武家の右筆、商家の手代のような立場だな。
実質的な番頭候補だ。
非人で読み書き計算ができる教養持ちは少ないからな。

 若い衆の中で楼主が直接の話をするのはここらへんまでだな。
現代の風俗でいえば店長やマネージャークラスだが現代でもそれはあまり変わらない。

 あとの若い衆としては見世番がいる。
普段は客引きや見世の入り口で出入りする人々を見張って、太夫が揚屋に向かう時は太夫の道中に付き添い、肩貸しや提灯、傘持ちをする用心棒兼見張りでもある。

 それから二階番。
こいつらは見世の二階に詰めていて、夜中に遊女が逃げ出さないように見張ったり、各部屋から呼ばれたりした場合、その部屋に行き用件を聞いて頼まれた飲食物を持っていったり、布団の上げ下げ、客への揚げ代の請求や遊女が来るまでの客の接待も行う。
廻しや振りをしてる見世の場合は客に愚痴られたり怒鳴られて頭を下げたり不貞腐れた遊女をなだめすかしたりもする。
遊女と関係を持っちまって制裁を受けるのは見世番かこいつらが多い。

 それから不寝番。
置屋や揚屋の周囲の夜中の見回りなどが主な仕事でいざという時の荒事の担当でもあるな。
拍子木をならし時刻を知らせて回ったりもする。

 さらに二階廻。
夜の間二階の各部屋を廻って行灯の油を足していく役目で油差しとも呼ばれる。
部屋に入るときは中に声をかけたりせずいきなり入り、油を差して出ていくので、雰囲気をぶち壊されたりするから客からは嫌がられたがな。

 不寝番と二階廻は兼任の場合もあるようだ。

 あとは掛廻。
金の持ち合わせがなかった客と同行して客の家から金を取ってきたり、月末のツケの集金をする。
ただし、ツケは信頼できる常連かよほど名の知れた商家や大名限定だがな。

 あとは中郎。
こいつらは完全な見世の雑用係で一番下っ端の雑用係。
見世前や一階の掃除、書き損じなどのゴミの収集や廃棄などが仕事だ。
吉原の道路の掃除自体は非人溜まりに居る非人の仕事なんであくまでも見世前だけだがな。

最初は中郎から始まって、若い衆が何らかの理由で見世から逃げ出したり病死したりしたら、番頭が配置を変えていくわけだ。

 そのほか料理を作る料理番や風呂の水くみ、沸かし、掃除などをする風呂番もいるがこれは俺の店では男も女もいる。

 女性裏方としてはお針子がいて、この時代着物を洗濯する時は一度糸を抜いて布にして洗ったから着物として仕立て直すのはこいつらがやった。
この時出た端切れなどをとっておいて古着屋のつぎあてや人形用の衣装に売ったりもする。

 遊郭には意外と男もいっぱい働いてる。
まあ、完全に裏方なんで表に出てくることは殆ど無いんだがな。

 しかし、店舗がどんどん増えてるから番頭や物書の育成も急務なんだよな。
なかなか、簡単に楽にはならないものだ。
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