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江戸時代の遊郭の楼主に生まれ変わったので遊女の待遇改善に努めつつ吉原遊廓の未来も変えようと思う 作者:水源
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三河屋の客達:美人楼編・水戸藩邸奥女中お銀の場合

 私はお銀、中級武士の娘と生まれ、10のときに水戸藩邸の奥向きに奉公に入った奥女中の女で、今年19歳になる。

「はあ、このままだと私は行き遅れ……よね」

 20を過ぎ、結婚していないようでは完全な行き遅れだ。
このままだと不味い、そんなときに耳にしたのが”美人楼”という店の話。
なんでも、そこに行けばとても美しくなれるらしい。
しかし、予約をしないと入ることもできないとも聞く。
私は早速髪洗いの休みの日に予約をとることにした。

 さらさらと文をしたためて、宛先は”吉原京町 美人楼”と示して、端女に町飛脚に渡すように伝える。
すぐに文は戻ってきて予約の日での予約を完了した旨が書かれていた。

「よし」

 そして、その日はお寺参りにゆくということで外出許可を取って準備を整えたのです。
・・・

 そして予約した当日になった。
私はまず浅草の浅草寺にお寺参りに行きました。
浅草寺の雷門の通りにある屋台で天ぷらやそばを売っている様子も見えます。
雷門をくぐって常香炉に線香を上げて煙を浴びてから、浅草の観音さまにお願いをしました。

「どうか、どうか、なにとぞ今年中に結婚できますようにお願いします」

 未婚のままお歯黒をして年増と呼ばれるようにはなりたくないものです。
そして、浅草寺参りを終えたら浅草方面から日本堤を通り、吉原の入り口である「五十間道」から大門へと向かい、吉原の大門をくぐり、入門許可証を貰います。
中には色とりどりのきれいな服を着た女性が忙しそうに歩いていました。

「はあ、すごいですねぇ」

 そして、目的の建物を探します。
たしか一番奥の京町にあったはず。
仲通りをずっとあるいていくとそれらしい店が見つかりました。

「すみません、こちら美人楼さんでよろしゅうございます?」

「はい、本日ご予約のお銀様でございますか?」

「はい、見つかってよかったです」

 店の女中さんだろうか私より年は上だと思うけど、若々しくてきれいな女性だな。

「では、中へどうぞ」

 私は案内されて店の中に入った。

「本日は内湯蒸し風呂入浴、髪洗いと手入れ、全身按摩、全てでよろしかったですか?」

「はい、全部でお願いします」

「では、前金で500文(おおよそ一万円)になります」

 500文は私にとっては小さくない出費だけど…きれいになれるなら。
そう思いながら懐から銭入れを取り出して、500文を支払う。

「はい、ありがとうございます、ではまずは内湯蒸し風呂入浴からですね。
 ご案内いたします」

 私は女性に案内されて建物の中を移動する。

「はい、到着しました。
 手前が脱衣所、奥が洗い場、洗い場の左側がかけ湯桶、
 右側は水風呂、奥に見える引違い戸の入り口は
 右から海藻蒸し風呂、びわの葉蒸し風呂
 よもぎ蒸し風呂、内湯船となっています。
 こちらは体を洗うための固形シャボン袋です。
 ではごゆっくりどうぞ」

 まず、手前の脱衣所で一式衣服を脱いで、かけ湯で埃を落としてから、シャボンの入った袋で体を洗います。

「なんだか不思議な感触」

 ジャボンで体を洗うと糠袋で洗うより、肌がすべすべになった気がします。
垢を洗い流したら、引違い戸を開けて海藻蒸し風呂に入る。
なんでも肌がツヤツヤになるらしいと噂に聞いたのですが……。

「ふう、暑いけど気持ちいいですね」

 海藻の匂いが立ち込める蒸し風呂にしばらくこもって、汗を十分かいたら、一度出て水風呂に入る。

「はあ、これはとても気持ちいいですね」

 火照った体が冷水で引き締まる気がします。
そして、次は内湯船、なんとここでは肩まで浸かることができるお湯が在るのです。

「戸棚風呂では浴槽に膝の高さ程のお湯しか無いのに
 なんて贅沢なのでしょう。
 500文も決して高くない気がしますね」

 肩までお湯に浸かって体を温めたらまた水風呂に入ります。
水風呂からあがって一休みしていたら女性が戻ってきました。

「はい、お時間です。
 髪洗いに移りますよ」

「はーい、お願いします」

 髪洗いは湯船から盥にお湯を入れて持ってきた後、髷を解き解き櫛で髪の毛を解き、ツゲの櫛で髪を丁寧にすいてもらいます。

「はい、頭を洗いますよ。
 痒いところがあったら言ってくださいね」

 液体シャボンで頭の上の部分から髪と頭皮を洗ってもらいます。
普段髪の毛を洗うときはここまで丁寧に行うのは難しいですからとてもいいですね。
たっぷりのお湯でシャボンの泡を流したら、水で薄めたお酢を髪に毛に伸ばすようにつけてもらい、またお湯で十分に流してもらったら、手ぬぐいで優しく髪をはさむようにして水分を取ってくれる。

「はい、では髪を火鉢の熱に当てますね」

「はい、お願いします」

 用意された火鉢の側に髪の毛を垂らして乾かしていると頭に何かをくるんだ布がポンポンと当てられていく。

「これは何をしているのですか?」

「シャボンで頭を洗うと油が落ちすぎるそうですので
 ごま油で油を足してあげるのです。
 こうすると白髪や抜け毛が予防できるそうですよ」

「へえ、そうなのですか」

 髪の毛が乾いたところで今度はお茶で髪の毛を濡らして、手ぐしで髪を梳かれる。

「最後はご自分でも手櫛を通してみてください。
 キシキシする感じがなければ髪のお手入れは完了です」

 自分でも手櫛を通してみたけど、すごいサラサラになってる。

「大丈夫です、髪の毛が見違えるほど綺麗になった気がします。
 手触りもサラサラだしつややかになってて嬉しいです」

「はい、それがこちらの商売ですから。
 では、按摩に移りますので、部屋を移動しましょう。
 襦袢を着て頂いて後はたたんだままお持ちください」

「はい」

 私は内着である襦袢を着て、彼女についていく。
布団が敷かれた座敷に案内された。

「ではその布団へうつ伏せでねてください」

「はい」

 布団も厚くてふかふか。
奥向きの布団よりも厚いんじゃないかしら?

「では、ちょっと痛いですよ」

 女性が油を付けた指で足裏の親指を当ててギュッと押し込みながら擦る。

「あ、いたたたたた」

「うーん大分お疲れのようですね」

 按摩の箇所が足の裏からふくらはぎに移動しても痛みは変わらない。

「いたいいたいいたい」

「こうするとむくみも取れて、足が細く見えるようになりますよ」

「いたいいたいいたいいたいたいた」

 とにかく痛い、足の中に小さな針でも詰まってるのだろうかと思うほど痛い。
でも、段々と痛くなくなってくるから不思議だ。
膝の裏をグリグリ押された後、太ももの内側や外側をギュッと押されるとやっぱり痛い。

「うう……いたい」

 腰の脇やお尻の上くらいをもみほぐされた後、腕から脇の下、耳から首の横の筋へとさがって鎖骨のくぼみなども押されて背中の背骨の脇の筋もグリグリともみほぐされると随分体が軽くなった気がする。

「はい、じゃあ手と足の指を閉じたり開いたりを30回やってください」

 私は言われたとおりにやってみた。

「体の末端である手と足の指を動かすと、血のめぐりが良くなるのですよ。
 では仰向けになってください」

「はい」

 体の中心を、胸の下から下腹部まで、手のひらでさすり下ろされ、みぞおちから、おへその真ん中を通して、左右の脚のつけ根に向かって押される。

「くふ、くすぐったいです」

「はい、結構です。
 起きあがってください」

「よいしょ、あ、体が軽いです」

「はい、それにふくらはぎや腕も細く見えるでしょう」

「本当ですね、うわー凄いです」

 その後、椿油を髪全体に刷り込んだ後、野薔薇の精油で香りを整え、髪を結い上げ、化粧直しをした後衣服を全て身につけ、私は美人楼を後にしました。

「うん、高いけど納得。
 時間とお金があればもっと通いたいけど……」

 奥女中はなかなか外出もままならぬし、色々入用が多くてお金もたまらなかったりするのですよね。

・・・

 そしてその晩のことです。
若様が奥に来られて私を見ていったのです。

「ほう、いい匂いがするな、ふむそなたか。
 うむ、そなた、今宵の夜伽はそなたがせよ」

「は、は、かしこまりてございます」

 私が夜伽の相手に選ばれるなんて思ってもいませんでしたが、これも浅草の観音さまと美人楼に行ったおかげでしょうか。
どうやら年増の行き遅れにならないで済みそうですね。
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