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江戸時代の遊郭の楼主に生まれ変わったので遊女の待遇改善に努めつつ吉原遊廓の未来も変えようと思う 作者:水源
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ご注文はもふもふですか、いえ甘いプリンが食べたいです。

 さて、新しくひらいた美人楼の方もなんとかうまく行ってるし、本業の遊郭もなんだかんだで評判は鰻のぼりだ。

「いやいや、お前さんのかいたうちの遊女たちの絵がだいぶ好評みたいだな。
 飛ぶように売れてるし、見世に来る客も増えてる」

「へえ、ありがたいこって」

 菱川師宣も嬉しそうで何よりだ。
今は一枚一枚手で描いてるが、もう木版で印刷するようにしてもいいんじゃないかね。

 まあ、うちの遊女の評判が良いのは食い物と睡眠の改善が大きいと思う。
なんせ、うちに在籍してる遊女はみんなちゃんと栄養も取ってるし、睡眠も十分取ってるから、白粉が剥がれてすっぴんになったら目の下の隈がえらいことになっていて”うぎゃー”なんてこともないし、空腹や睡眠不足でイライラしてて客に当たり散らしたり冷たい態度を取ることもなくなった。

「いや、ほんに、じっくり寝ることができる長さが一刻違うと
 全然気分やら肌艶やらが違いますな。
 うまい飯も食えるようになりはったし」

「まあ、そりゃそうだろ。
 食いもんと睡眠は体調なんかを維持するのにいちばん大切なんだから」

 吉原の初期は営業時間がコロコロ変わった。
元和四年(1618)、元吉原開業のときは連泊禁止だが夜見世も可能だった。
しかし、寛永十八年(1641)頃、町売り禁止徹底と夜見世禁止になった。
そして、明暦三年(1657)、新吉原開業、夜見世再び許可になった。

 浅草千束に移動する前は15年ほどは夜の営業は禁じられていたから、遊女たちは昼見世だけで良いので、睡眠はたっぷり取れた。

 しかし、ここに移転してからは昼見世と夜見世の両方に出なくてはならず、しかも客と同衾してるときは熟睡できない。
定時で上がってゆっくり眠れると思っていたら、突然毎日終電まで残業で、始発の早朝出勤が強制になったようなもんだな。

 俺も睡眠不足で過労死してるから、その辛さはよく分かるぜ。
ろくにねれないとイライラしたり、ミスが多くなったりするのにな。

 江戸で太夫が廃れていくのは京の島原遊郭に比べて、吉原からの外出もできず、睡眠不足で、予約がかち合ったときに、性行為をしてはいけない新造を名代にだしたり、床に入っても癪がといってやらせなかったりするなど、店側の不誠実も理由だと思うんだよな。

 一人の花魁に、馴染み客の指名がかち合ってしまった時は、両者を比較して上で上客や支払いの滞っていない客に花魁は出向いてしまう これを貰い引きという。
座敷に残された客の所には、名代みょうだいとして新造がやってくるが、この新造はあくまでも話をして添い寝するだけで触ってもいけない。
そして、そのまま朝まで過ごしても、花魁を揚げたときと同じ遊興費を支払うことになる。

 これは京や大阪の遊郭ではやってないことで、江戸の吉原だけがやってることだ。

 ここで文句をいうと「野暮だ!」と思われ、江戸っ子の恥とされたが、まあそりゃやりきれんだろ。
高い金をもらうからには、相応のサービスをして客を満足させなくちゃな。

 そして、遊女たちにストレス解消にまた手を打とうと思う。
その第一弾は……。

「なんやこれ、もふもふやー」

「ウサギだー、わーいもふもふー」

「おう、ウサギだ、弱いから丁寧に扱えよ」

「はーい」

「あい、わかってやんすよ」

 うむ、もふもふはどんな時代でも癒やされるよな。
俺はウサギ小屋兼鳥小屋を置屋に作り、たまに土間でうさぎを放し飼いすることにしたのだ。
ウサギは犬猫のように鳴かないし、さほど臭いもきつくない、人間に噛み付いたり引っ掻いたりも基本はしない。
まあ、ネズミと一緒で木なんかはよくかじるし土に穴なんかも掘ったりするけどな。
餌も基本は綺麗な水と干し草を食べさせればいい、たまに小松菜の菜っ葉を食わせてやれば喜ぶけどな。
犬ほど物覚えは良くないが、トイレの躾もできるし、名前を覚えるくらいはできる。

 そしてもう一つが新しい甘味。

「お前ら、これ試食してみてくれ」

 俺は藤乃やその禿である桃香に茶碗に入った黄色い食べ物を差し出した。
藤乃はそれを見て首を傾げた。

「ほう、茶碗蒸しでんな、戒斗坊っちゃんが作ったんで」

 俺は意味ありげな笑みを浮かべて答える。

「ふふふ、茶碗蒸しのようだがちょっと違うんだぜ」

 藤乃が木の匙でそれをすくって口にする。

「甘い!なんどすかこれ?」

「おう、それはな歩鈴プリンといってな。
 南蛮菓子の一つだ」

 桃香や他の禿も一口食べる。

「すっごいー、あっまーい、おいしー」

 禿達はバクバク食べてる。
やっぱ甘いプリンは子供は大好きだよな。

 プリンと茶碗蒸しの最大の違いは砂糖や牛乳の量で製法はほぼ変わらない。
この時代に砂糖や牛乳はかなり高価ではあるが、戦国時代までのように簡単には手に入らないというものではなくなっている。

 同じく高価な緑茶を普通に手に入れられる俺であれば、砂糖を入手するのもそこまでは難しくない。
そして、見世の遊女たちに評判も良かったので美人楼の隣にもふもふ喫茶を建てることにする。
見世は基本土間づくりで、机の上で抹茶や羊羹などとともにぷりんを売り出し、なおかつ膝の上でウサギをもふれるようにする。
ここも前掛けをした、禿や新造などに接客はさせる。

「いらっしゃいませ、ご注文はカイウサギですか?」

「あい、ウサギをもふもふさせてんか」

 基本吉原から出られない遊女にこれは結構うけた。
遊女はネコも好きだが、ネコは基本気まぐれで人間が構ってほしいときには素知らぬ顔をしていたりするからな。

「あー、もふもふやぁ、もっともふもふさせてんか」

 ウサギをネコ可愛がりする遊女がなんだかんだで結構でた。

「わっちには歩鈴プリンを」

「あい、歩鈴プリンですね、少々お待ちください」

 しばらくして茶碗に入ったプリンが運ばれてくる。

「これが噂の歩鈴プリンでっか……では、一口……うまー、あまー」

 なんだかんだで可愛いものと美味いものは若い女性には受けるよな。
ネコと違い今の時代ではカイウサギは高価で珍しいしそれだけでも希少価値が在るんだ。
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