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江戸時代の遊郭の楼主に生まれ変わったので遊女の待遇改善に努めつつ吉原遊廓の未来も変えようと思う 作者:水源
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せっかくなんで固形と液体の石鹸を作ろうか

 さてさて、そろそろ石鹸でも作ってみようかと思う。
石鹸は日本には安土桃山時代に南蛮人により伝えられ、1596年(慶長元年)、石田三成が博多の豪商神屋宗湛に送ったシャボンの礼状が残っている、だが一般に使われるようになるのは明治以降だ。

 この頃の洗濯はどうしていたのかというとまず上方の皇族や上級貴族は着物を何度か来た後、洗濯などしないで下のものに下賜していた。

 要するに皇族や上級貴族にとって衣装は献上されるものであり、故に服はある程度着まわしたら身分が下のものに与えるため、洗濯などしないで使い捨てるものというわけだ、だが下賜された中級貴族はそういう訳にはいかないので、着物をいったんほどいて川などで洗い張りし、再度染めなおしたり縫い直しして着まわしたりした、この頃のお公家さんは困窮していたからなおさらな。
無論だんだんと傷んでくるからそれは古着屋に売ったりする。
金がある大名や上級武士、商人は呉服屋で反物を買って、それを仕立てさせた。
しかし、この時代はオーダーメイドで作るため衣服はとても高価なものだ。

 なので、下級貴族や下級武士、街の庶民などは古着屋で着物を買うこともある、擦り切れたら継ぎ接ぎをしたり、ぼろぼろすぎてきれなくなったらあて布や雑巾にするわけだ。

 遊郭の遊女には見世から小袖などが与えられるが、太夫などは毎日衣装を変えたりするためそれも自腹で買ったりする。
遊郭では洗濯や縫直しはそれを専門にする下女がいる。
買われてきたがいろいろな理由で、例えば読み書きが覚えられなかったなどで、遊女になれなかった女などは飯炊きや風呂焚き、洗濯などの雑事を行うことで生計を立てるわけだ。

 洗顔には糠や米のとぎ汁、うぐいすの糞を垂らした水、豆の煮汁などを使う。
洗髪にはうどん粉やツバキの油粕を使い、髪の手入れには椿油を使う、椿油は今で言うリンスとかみたいなもんだな。
食器を洗う場合、ぬるま湯でさっと流す、油を用いた料理の場合は油が落ちないので、灰または灰を水に溶かし上澄みを集めた灰汁を用いて油を溶かしてからぬるま湯で流して洗った。

 衣服を洗う場合はムクロジやエゴノキ、サイカチの果皮やサヤ、実をお湯に入れて煮詰め使う。
ムクロジやエゴノキ、サイカチに含まれるサポニンや豆に含まれるレシチンは天然の界面活性剤として使えるからな。
こういったものは葦の茎を浸してシャボン玉遊びにも使われる。

 そんなわけで石鹸があれば洗濯や食器洗い、手洗いや体洗いが楽になる。
また、石鹸は細菌の細胞膜やウイルスのエンベロープを破壊するため、一部の病原体に対して消毒効果を発揮する、アルコールもそうだがすべての細菌やウイルスに効果があるわけではないがな。

 でだが、石鹸は動物性もしくは植物性の油と強いアルカリを混ぜて作る。
鉱物油ではできないが石油は日本では越後(新潟県)や出羽(秋田県)くらいでしか取れないしこの際は関係ないな。
幸いうちには明かり用の菜種油もたくさんある。

 石鹸を作るのに必要なアルカリは現代では苛性ソーダを、エジプトや中近東のように天然ソーダがある場所では天然ソーダを使って石鹸が作れるが、日本には天然ソーダはないので灰を水に溶かし上澄みを集めた灰汁を使うことになる。

 この際に普通の木灰だと主成分が炭酸カリウムであるため石鹸は液状になり、海藻を燃やして炭酸ナトリウムを主成分とすると固形の石鹸が作れる。
石灰岩を精製して最終的に水酸化カリウムを生成し、カリウム石鹸を作る事もできるが、海の近い江戸の街では海藻や薪のほうが簡単だしカルシウムを除去するのも面倒だ。

「固形の物は着物の洗濯などに、液体のものは体を洗うのに作ればいいんじゃないかね」

 なので俺は両方の灰汁を作ることにする。

「その前に固形石鹸用に木枠とかを作らんとな」

 固形石鹸を固めるときに使う木枠の型を職人に作らせ、油は明かりに使うアブラナを使う。
鯨油や魚油などでも石鹸は作れるがそれらの油だとどうしても匂いがつきやすい。
この時代は牛や馬、豚などの肉は食べられていないのでそれらも無理だ。
もちろん鯨油や魚油も細々と油を精製すれば匂いも取れるがこれも面倒だ。

 とりあえず薪と海藻をそれぞれ分けて多量に燃やしてそれぞれ灰にし、その灰を別々に瓶に入れて水と柑橘の皮を加え、それを布でこして上澄みにしてアルカリ性の灰汁を作る。

「ふむ、まあ、こんなもんかな」

 菜種油に、海藻や薪を焼いて作った灰汁と流し込み、均一になるように全体が白濁するまでかき混ぜる。
そして塩水を入れて液体のグリセリンを分離させ、石鹸と分離させる。
全体が白濁しカスタードクリームのようにとろとろになった状態になったら固形石鹸は石鹸の成形用の型に注ぎ込み粗熱が取れた頃を見計らって型の上に木で蓋をし埃が入らないようにする。
あとは型に入れたまま1週間ほど放置し乾燥させ、一度ひっくり返してもう1週間ほど乾燥させれば石鹸の完成だ。
液体石鹸はツボに入れて冷めるのを待てばいい。

 型から出来上がった石鹸を外し眺める。

「よし、うまく白い石鹸ができたな」

 匂いを嗅げばうっすら柑橘の香りがする。

 これでできた石鹸はいろいろなことに使えるはずだ。

「おーい、藤乃、今度客と一緒に内湯に入るときは
 これを使って体を手で洗ってやってくれ」

「まあ、わっちはかまいまへんが、なんですのんそれ?

「これは南蛮渡来のシャボンだ。
 これを使って体を洗うと
 ヌルヌルして気持ちいうえに匂いなども落とせるんだ」

「なるほどシャボンでありんすか。
 それはええですな。
 喜んで使わさせていただきますわ」

 うむ、ソープランドでも最初に手で体全体を洗ってもらうのは気持ちいいからな。
客もさっぱりするし、殺菌もできて、客の体臭もある程度は消せるだろう。
まあ、作るのに手間や金はかかるがもとは取れるんじゃないかな。
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