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SOLDIER SIDE
作:奇之助



【Prologue2-2】父の背の向こう側


 ネステが物心のついた頃には既に、故郷イツィオラータは砂に覆われていた。
 二十二年前、エルトニアとドルドアの戦で、最も激しかった緒戦の展開されたこの地は、行き交う騎馬にもともと乾燥していた土壌を踏み荒らされ、僅かに残っていた沃土の全てを、戦乱の風によって飛ばされた。水分を失った地表には無数の亀裂が走り、作物の殆どが死に絶えた。
 戦後、戦死したイツィオラータ領主ルドルフ・シュスター伯爵の嫡子、フロリアンは、荒れた領土に見切りをつけ、父亡きあと世襲をせぬままに、開戦直後に逃げ込んだ王都から戻ろうとしなかった。領民から反感の声が上がったが、敗走後バルバロス領ルフトブルグに駐屯していた東方守衛騎士団を自領へ帰し、表向きの体裁だけは保った。ただしその体裁はあくまで、中央セントラルの王家に対するものであって、領民の苦境を和らげることはなかった。また、辛勝となった戦後の復興から、領主不在のこの地は見放され、流通が途絶え、財を少しでも残していた富のある領民は他領へと移り住んでいった。
 これが、イツィオラータの廃頽の始まりだった。
 領民のシュスター家に対する憤りの声は日増しに高まり、もともとは隣接するルグトブルグ領主バルバロス家の分家であったことも手伝って、各地でシュスター家追放を謳う反乱が起こるようになった。その制圧の任を負わされた東方守衛騎士団もまた、領民の憎悪の矛先となった。
 帰還した東方守衛騎士団の三人の副将のうちの一人、ネステの父、ダヴィディ・カルナディーニは、領内各地で起こる反乱軍の制圧に、東方守衛騎士団が当たることに異を唱えた。かつて、この地の誉れだった騎士団が、領民に苦汁を強いるようなことがあっては本末転倒だと、訴え続けた。失墜した騎士団の誇りを取り戻すには、まず領民の信を得なければと、団員たちの説得に日々奔走した。
 本来の、あるべき姿に戻る。領民の胸中に東方守衛騎士団に対する誉れが戻ってこその騎士団であると、それが本当の意味で、自身にとっても誇りであった騎士団の存続する唯一の道なのだと、ダヴィディは信じて疑わず、愚直なまでに反乱の強行征圧の中止と、中央セントラルに残るフロリアンの帰還を求めた。彼の声はやがて領民の心を惹き、一部の団員たちの間にもその想いは浸透して言った。
 が、ダヴィディの願いは、彼の死と共についえた。
 最初はダヴィディを煙たがっていただけだった団の総将、ニカ・ヒルバートは、ダヴィディの声に団の若い層が呼応し始めると、危機感を募らせた。心中では、彼らの言に正当性があることを認めていただけに、これ以上ダヴィディになびく団員が増えることを恐れて、ダヴィディを謀反者に仕立て上げた。
 逃げようと思えば逃げられたし、反旗を翻そうと思えば出来た。が、ダヴィディはそのどちらもせず、ただ声を高らかに彼の主張を訴えながら捉えられた。逃げれば、強行にでれば、彼の言は力を無くすと言い張り、彼の周りの支援者の助言に耳を傾けることなく、補足され、異端として処刑された。そしてダヴィディの死と共に、彼の想いやそれに同調していた情勢も、力を失った。
 ネステは幼少の頃からその全てを、父の背の向こうに見てきた。父の、騎士団への想いの強さやひたむきさに心を打たれながらも、父の不器用さのほうが、父の死後、歯がゆさと共に胸の中に強く残った。結局、最後に受け入れられるのは権力なのだと、痛感させられた。やり方や手段やその経過が問題ではない。最後に幅を利かせるのは権力なのだと、愚直なだけでは人は決して報われはしないのだと、父の死で思い知らされた。
 父の意志を継ぎたい。故郷イツィオラータの誇りだった、東方守衛騎士団に過去の栄誉を再びもたらしたい。
 その想いは、確かにネステの胸中深くで燻っている。ただ、手段はどうあれ、結果的にそこへ辿り着くには、団に籍を置いては駄目だと、ネステには判っていた。総将ヒルバートの死後、愚将シモン・バティスタが団の長の座を継いだ時、判った。ヒルバートにしろバティスタにしろ、元々シュスター家と同じように、バルバロス領に祖先の起源を持つ、いわゆるゲルグ民族がこの領土の武も官も独占してきた。父ダヴィディのような、この地に起源を持つ郷士が、東方守衛騎士団の副将にまで登りつめるなど、希薄なのだ。ゲルグの血が、この地の全てを牛耳ってきたのだ。
 ―――血に勝る武功が、俺たちには必要なんだ。
 東方守衛騎士団の中であげた武功は、すべてゲルグ民族の武功に書き換えられてしまう。だから、敢えて父と同じ道は歩まず、かつての父の側近の子らと共に、結託した。団の外から、いずれ、団をあるべき姿へと戻すために。
 ネステの率いる傭兵団『赤土の爪』は、こうして生まれた。







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